仮想空間

趣味の変体仮名

乙夜之書物より 道三油売り

 

一 美濃国ノ太守斎藤山城守入道は真元来
城州山崎ノ油屋ナリ濃州エ下リ土岐
殿ニ奉公シテ山之頭シ後ムホンシテ土岐殿
ヲ亡シ美濃ノ国ヲ取タリ其時節土岐
殿テウアイノ女房ヲ取テ山城守妻
トス土岐殿ノ子ヲ腹ニ持テ来ル然乍
土岐殿ノ子カ山城守子カウタカハシキ
古トナリ此子吉辰ナリ山城守心ニサワ
リ在故カキヤクシン在テ国ヲ二番目ニ
渡サントス是ニ依テ父子不和ニナリ合戦
ニ及吉辰良将其上土岐殿実子ニマギレ
ナキ事日コソ在ツラン美濃先方大形ニ
吉辰ニ付ク竹中半兵衛稲葉ニテ吉辰
ノ舎弟両人一度に切コロス扨山城守ハ文ヲ
出ス明日合戦ト云時吉辰ノ臣下ニ玉木
源太永井次右衛門ト云両出頭人ニ申付ル
ハ明日ノ合戦ニ道三ヲ必不可奉詞
生取可仕ト吉辰堅ク被申付ル

 

美濃国の太守、斎藤山城守入道は まこと元来

城州山崎の油屋なり。濃州へ下り、土岐殿に

奉公して、山の頭し後、謀反して、土岐殿

を亡ぼし、美濃国を取りたり。その時節、土岐殿

寵愛の女房を取って、山城守の妻とす。
土岐殿の子を腹に持って来たる。然ながら

土岐殿の子か、山城守の子か疑わしき

事なり。この子、吉辰(義龍)なり。山城守、心に障り

ある故か 逆心ありて、国を二番目に

渡さんとす。これに依って父子不和になり、合戦

に及ぶ。義龍良将、その上、土岐殿実子に紛れ

なき事、日こそ有りつらん。美濃先鋒大方に

義龍に付く。竹中半兵衛、稲葉にて義龍

の舎弟、両人一度に斬り殺す。さて、山城守は、文を

出す。明日合戦という時、義龍の臣下に、玉木

源太、永井次右衛門という、両出頭人に申し付ける

は、明日の合戦に、道三を必ず 不可奉詞(?)

生け捕りつかまつるべし と義龍固く申し付ける