仮想空間

趣味の変体仮名

双蝶々曲輪日記 第三

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html

      浄瑠璃本データベース  ニ10-02245

 

 

25(左頁)

   第三  揚屋待ちのいきづくに小指の身がはり

寂光の都は爰ぞ 四筋町九軒常夜の闇をてらす 井筒がもとの賑しさ 数

の菩薩の来迎と五百羅漢の末社共 しま黄金の肌(はだへ)をめがけ 我も/\と入くれば

客は即身成仏の帯紐解て大さはぎ 呑やうたへの音念仏願以此功徳(ぐはんいしくどく)酔(えい)つ

ぶれ 屏風の涅槃に入るも有 げに新町を西々と弥陀の 御国をいふごとく 救ひとら

れて粋(すい)と成悟りひらかぬ人もなし 騒ぎの内にあつまと都 うなふき合て座敷を抜

出 コレあづま様 わしが身には難儀がかゝつた せつない事が出来たはいな アノいやな権九郎

 

 

26

が 請出すといふて親方と相談 年(ねん)も僅か一年たらず 談合しめて二百両 今宵持

て来たといな マアどふしたらよからふぞ 思案して下さんせ 思案といふて急な事 与

二兵衛様はしつてかへ サアきのふ八幡へ飛脚をやつてけふ見へる筈 用が出来たか今に見へぬ スリヤ

差詰め欠落じやはいな 何いはんすやら おまへ程欠落々と 欠落して跡がつまるかいな サアつまら

ぬからの欠落 わしも郷左衛門が放駒を連て来て 百両手附を渡そといふ 是も与五郎

様から 今夜手附の渡るを聞て 僅か渡して邪魔する思案 ひよつと山崎から今宵中に

見へさ とふせうぞいな都様 ヲゝあの様は わしが事を相談すりや おまへの事をまんがちな ハテ

 

悲しければ身一しん 余所の事には手がとゞかぬ 此与五郎様は遅い事 此まあ与二兵衛様は何し

てぞと 同じ思ひも限り前 たいこ仲間に大事(ごと)と廓中は上を下 騒ぐ中よりかけ戻る亭

主利八 コレ/\太夫様方 大きな事が出来た 大門口でたいこの佐渡七が切れた そりや誰にへ

 

誰をしつてよい物か 遉の我抔も存ぜぬ/\ 去ながら 追付とらへるよい手がゝり おまへ方

にもいふておこ 佐渡七めは大掴 死るといふてもたゞは死ぬ 相手の小指を一寸程喰切てくは

へておる 検使のお役人の仰には 是は大抵の悪者でない 相手は殺すまいと思ふてか いづれ

もかすり疵 指にくひつかれた故是非なう殺した物と それは/\こまかい見やう 兎角指

 

 

27

のない者が殺人(ころして)と くるわ中を指改め こちの客も何時詮議に見やうも知れぬ ヤアそれに

付て都様 奥にござる権九郎様のお頼で お前の身請さつばりと埒明て置ました 今夜

でも 手を引合てお出なされ 祝ふて一つたべましよかい ヲゝ利八様のいやらしい事いはんす アノ権九郎

のどぶつに 請出される事いやじやぞへ イヤ夫では済ぬ じたい権九郎様といふお方は あつま様

のお客の 与五郎様のお手代 親方とちがふて大ねだり者 いつぞや浮瀬で 何やらもや/\した

事も有たげな それからめつたに請出す相談 それは格別 今いやとおつしやつてもいはしては

置まい かふなされぬか 幸あづま様の事に付て 郷左衛門様や放駒殿が 親方を呼にやつ

 

ておかれた 密かに親方に逢て 一年たらずの年と 二年にもしませう程に 請出さして下さるなと

頼んだら 呑込まい物でもない ついいやと斗では済ぬぞへ/\ いか様そふじやわいな そんならいて

頼ふかい 一時も早ふお出 我抔も傍から相槌 サアごんせと引連る コレ都様 次手にわしが事

も頼むぞへ ヲゝそれも合点と行跡に 同じ思ひのあづまが案じ あの身に成たらどふせうと 思ひ

なやみている所へ 頬かぶりにて顔隠し かけ来る男はなん与兵衛 息を切て コレそこなあつま殿で

はないか 誰じや与兵衛様か テモよい所へござんした 都様が待兼て イヤコレそこ所でない たいこ持の佐

渡七めが 大勢の非人を頼待ぶせ 取ておさへる拍子 小指をくはれて是非なふ手にかけ 逃出

 

 

28

よふも門はしめたり どふぞ暫く忍ばせやうは有まいか ヤレ声が高い 奥へ郷左衛門や放駒もき

ている おまへと敵同士の権九郎 皆佐渡七贔屓の悪者 とはいへ気遣ひさんすな 清水で

の恩も有 わしがかくまふて上ませう 市弥こいよ あいと返事も長々と 走りくれば コレつい爰

へ床(とこ)とりや エはてあなたと二人ねるはいの あいとはいへど子供気に ふしぎ立てぞ入にける イヤ

あつま殿 そふゆるかせな事じやない じやら/\とおなぶりなされず共ちやつと/\ ハテ女郎のねま

は お侍様の城屋敷も同じ事 屏風一重が 鉄(くろがね)の楯とやらじやわいな 女郎の手くだはこん

な時と いふ間に禿が夜着蒲団 枕二つにたばこ盆 是でよいかへ ヲゝ三味線おこし奥へ

 

いきや あいと指出すからくはの 胴のよいのを頼みにて 与兵衛は暫しの隠れ家と 夜着引かづき

身を隠す 吾妻はしやんと腰打かけ調子合して引かける 三筋の糸は細けれど 心はふとき一(ひと)

ふしに 身を捨る里あればこそ浮瀬の 三味線半ばへかけくる都 コレあつま殿 今市弥が咄で

聞た そなたは与兵衛様を色にして 与五郎様やわしが手前 顔の皮が千枚有か あるを頼の浮勤

コレ三味線引てぬからぬ顔おきやいの/\ 引出して赤恥かゝそと ずつと寄て寝所を 引まくらん

とする所を ちやつと押へて渡りくらべて名を流す ヲゝ其名を廓中へ流さふと 又取かゝるをコレ都

さん そふせかんしては何にもいはれぬ こりや与兵衛様じやない外の色 顔見せる事マアならぬ ハゝゝ

 

 

29

隠した迚隠さふか 外の色なら猶の事 見かゝつた顔見ずにおこふか そこのきやらぬと是

じやがと きせうと取てふり上る アゝこれ是非見たか是見やと 与兵衛が片手の切た指 引出し

見せれば都は恟り アノ此指は コレ大門口で是程に 心中立てて下さんした与兵衛様 色にしたが誤り

か 但は突出し世間へ見せうか サア/\どふじや都さん コレ/\誤つた大事の/\男故 気が廻つてうた

がふた よう色にして下んした コレ手を合す何事も堪忍してと詫言の 声が洩たか権

九郎 都そこにか手が悪いと 云つゝ出て コレあつま殿聞て下され わしがよく/\に思へばこそ

今親方の手前ぶ首尾で居ても 二百両といふ金を出す 亭主を頼んでさらり

 

と埒明た跡で 女房に成事はならぬ いやじやとはねきられ お乳(ち)の人の乳(ちゝ)ふつつりに

あふて手も足もない どふぞ其元のお世話で コレ得心させて下され 一生の御恩忘れ

は置かぬと 三拝九拝其間に与兵衛がふとんの下より 吹込む品をあづまは呑込 イヤ権九郎

様 都様の合点のないは 是迄お前の仕様が悪いでかなあろ イヤもふよいも悪いもついに/\

あんまとろより外 手をさいた事もない イヤイナ 悪いといふはうは気斗で真実かはいといふ

心中が 見へぬによつてゞかな御さんしよ ヲゝあのあづま様のいはんす事はい 其心中立が猶いや

じやはいな コレ/\都様悪い合点 あなたが心中に 指でも切てくれる気ならナ これな 女夫に

 

 

30

ならふといはしやんせ じやが それ程には有まい/\ いやそりやはや女房にさへ成てくれるなら 腕

なりと股(もゝ)なりと 望次第に指でも切ふ アレ聞んせ 指でもきろといな サそれが猶 コレ指がな

いと 可愛かはりに成ぞへ ハアゝそふじや コレ権九郎様 わしをほん/\゛に思ふて下んすなら心中に指ナ あ

づま様 ソレ/\ そりや安い事 二百両棒にふろより指一本望次第きらいでならふが イテ目

の前でと 枕を台に脇指を 当てごとは当てながら 迷惑そふにもぢ/\うぢ/\ どうやら今

夜は切とむない 胸がおとる虫がさはぐ エ卑怯なおさんと二人して 手取足取枕を槌 ばつ

しりいはせばあいたしこと こける間に指ひらい 其血をすぐに脇指へ押ぬり/\ 鞘に写して

 

出来た/\忝い 爰な心中男めと しとゝ打れてにつこりと いたい笑顔に二人共たまらずどつと

打笑ふ 折から来る所の役人 亭主は居ぬか 亭主/\と呼声に利八はかけ出 はつと斗にうづく

まる 大門口にて人を殺した相手の詮議 客共へ云聞せよ 先あれ成は何者 則ちあなたもお

客でござります ムゝ町人そふなと傍へ寄り サア其方両手を出した エ 指を吟味する両

手を出したさ ハイ 利八何の事じや 成程おまへは合点のいかぬ筈 今宵大門口で たいこの佐

渡七が殺され 口に指をくはへて居る 指のない者が相手と有て御詮議 何の事はない

手をひろげてお目にかけられませ 何じや そりやどの指が 改た所が慥に小指 エゝあの小

 

 

31

指が ハテ扨こいつきつい仰天 ソレ家来共吟味せい 畏つたと引とらへ かゞめる腕や指先を引

出し見るより 扨こそこいつに小指がない そいつくゝれの下知の下 とつたと投てかける縄 アゝ申

是には段々申訳 私は山崎与次兵衛が手代 権九郎と申者 此里へ通ひたつた今 あの女

郎に何がなんと ハイ/\ あんまりあほうらしうて申兼ます コレ二人の衆 爰へ出て言訳して

下され アノまあいはんすことわいの わしらが言訳で済ふ共思はぬナ利八様 ハテ相方の女郎は

女房同前 縁者の証拠で役に立ぬ どふぞわたしが言訳して上ましたい ヲゝそれ/\ 思ひ

付たことか有 人切た脇指と 指切た脇指は血のしたひで忽ち知る 是が証拠と脇

 

指を 抜かけ見るよりなむ三宝 さやの内迄血(のり)だらけ 是ではどふも言訳立ぬと 聞て役人

イヤそれ迄に及ばぬ 山崎与次兵衛が手代権九郎なれば 外に御詮議の筋も有 屋敷へ引け

とひつ立る 小事は大事の元と成 蟻の穴から堤とは後にぞ思ひしられたり 蒲団引のけ

なん与兵衛 扨あつま殿のお働 お礼の申様もない仕合せ 今思へばたいこ持ふぜいを 相手にして

逃隠れ 嘸ふがいない卑怯な者と 思召も蟻ふが 年寄た母持てはどこ共なしに後ろ髪

思はず未練に成ましたと 語ればあるまも サアわしも ほんのとゝ様が有げなけれど ついに

逢た事もござんせぬ 腹の立時は思ひ出すがよい薬 マア都様一間へ連立 身が儘に

 

 

32

成たこそ幸い 打とけてナ 打とけていかんせのふ そんなら何かの礼は後にへ 先ず人の見ぬ内と

与兵衛も挨拶そこ/\に 伴ひ一間へ立信夫 あづまは人の世話斗我待つ人はと立たち居

たり こがるゝ念の通してや 山崎より与五郎 濡髪引連たいこ過ぎ 足をはやめて入くれば ヤレ

待兼たおまへも気がせこ長五郎様 よう連ましてと挨拶も 心一ぱい礼ならん イヤモウ若

旦那の足元きつい物 かごでは遅いといふて飛れた/\ サア其飛跡から濡髪がいそぐ

足音 どうづさするやうで一ばい飛ねばならぬ 扨まあ聞ふ 郷左衛門が手附を渡すと いふてお

こしやつたがそふか サア文でいふてやつた通り おまへの方から手附打と聞て 放駒を頼で

 

金の才覚 漸と長吉が 百両調へて持て来て 多い少いと親方と詰ひらき あの百両

が渡らぬ内に こちの手附が渡したいと それでいかふ待兼た もふさつきにからせいふも済で 金

渡したかそこが気づかひ フウ長五郎どふせうの 大事ごんせぬ/\ 今夜の夜明迄に此方から

の手附を渡そ 夫迄外の手附をとりやんなと 親方に底入て置た わづかあつちは百両 こ

つちは三百両 高が長吉つれを頼んで 金拵へ貰ふやうな侍 跡金の五百両がどこから

出る物 イヤそふもいはれぬ あの郷左衛門めは大工面仕 お国から米が登ると それを売払ふて

すぐに請出す手筈じやげな アゝ夫では首が飛ますはいの イヤそれでも気づかひな

 

 

33

よごんす それ程気遣なら此三百両渡してこふ 幸親方もきている 又長吉かきて

いると聞ば 渡すにも張合が有て面白い あづま様ちつとの間 休まして置て下さんせ 遠道

の草臥 ようさすつて上ましてと 恋の訳しり色しりて 濡髪とこそいふやらん あづまは傍(あたり)

見廻して二つ枕の敷蒲団 是幸いとコレ与五郎様 あしこへいてねよちゆおつとごんせと 手を取れば

おかしやれ 此間は揚詰め 帯解くに飽いてゞあろ 明日からは我抔が買分(ぶん)先ず奥へお出なさ

れ 侍の余り物たべぬ/\ コレそりや何の事 郷左衛門とお前といつぞやのもめ合から 十日づゝ

わけての揚詰 それでも物二日 逢ぬ夜はないぞへ あの客も今夜切 明日からはおまへ

 

の日柄一時と二時と早ふねたれば罰(ばち)が当るか わしや勤の始から外の客の肌しらず お

前とねれば心とけ肌着の袖の手をぬいて 肌と肌とを合さねば ねた様にないわしが気を 知

て居ながら悪口にも 帯解くに飽かふとは そりやあんまりなおしやんしやう 外の客に帯

解そ おまへの心は済かいなァ 済なら済ましておかんせねて貰いでも大事ないと ひぞりけられ

むつと顔 そふいふからはこつちも意路 なんぼでも寝所へいてねてくれうとふとんの上 ころ

りとこければ エゝ其口が猶憎い ねさしはせぬと引まくり 供に添寝の木枕は よい媒と

見へにける 居つゞけの郷左衛門 始終を見すまし 何でもこいつよい料理と 飛かゝつてはつたと

 

 

34

蹴飛し 是はと起る与五郎を 取て捻すへなふこれと すがるあづまをはね飛し ヤイ爰な大

ずりめ 身が揚詰の女郎 一夜妻とは云ながら 女房同前 めそ盗むは密夫(まおとこ) 不義者

め盗人めと 腕(かいな)の骨のつゞくたけ 引廻し/\ね捻付ればあつまは悲しく コレ郷左衛門様 おまへの揚

詰もけふ切 明日からは与五郎様の日柄限りの太鼓打たれば あすの客を勤るが此里のなら

ひ 元よりかしかりといふ事も有ぞへ 無体な事を云かけて跡で難義をさんすなへ ヤアぬかすな

此郷左衛門田舎者 此里のならひはしらぬ あたまで十日の約束なれば 夜明のたいこ打までは

身が女房 借(かっ)た事なければ借す理屈ない 真二つと思へ共 場所を思ふて了簡する 其

 

かはりに此うは草履儕が頬(つら)の皮けづる やすりおろしじや是こらへと 打付け/\迚もの事にふし

/\゛の砕けて落るをこたへておれと 蹴たりふんだりたゝいたり 兼ての意根を一時に爰ではらする

無得心 有にあられぬあづまが思ひ なふコレそれはあんまりと すがり付を引とらへ 与五郎めが

鼻の先で 抱てねるのがせめての腹いせ ふり詰られた其かはり 見せておいての存分と 引だかへ寝

所へコレなふ誰ぞ人はないか コレ与五郎様構まいぞ 濡髪様長五郎様と呼べど騒ぎがかせと成り猶も

紛れる時だいこ 夜番の役のどん/\/\ 明の六つもどんくさい 無体をするかむりするかと 噛めどつめ

れど女業(わざ) 与五郎もこたへ兼飛かゝらんとする所へ 濡髪の長五郎夜叉のごろくかけ来り 引

 

 

35

放して郷左衛門が 首筋掴んでぐつと指し上 踊り拍子に頭転倒(づでんだう) 起るをすかさずたぶさ髪 掴で

引寄せ コリヤ侍 最前こちの若旦那が 八里の道の草臥てねていられたを立蹴にけやり よう打

擲ひろいだな 限りからはあすの日柄と 訳をいへ共聞入ず 夜の内は十日の内と むりをぬかせど刀だけ

宿のなんぎとこたへていた 今打た明六つが耳へ入らぬか たいこ打と此方の買分 儕がむりを理にして

おいたは 存分仕返しさそふ為 六つのたいこを打たに寝所に何しておる あの爰な大ずりめ ふぎ者

めと 捻付け/\畳に摺付け コレ与五郎様 こはい事も何にもない 踏れた程存分に踏返して腹いた

く おつとかけ寄与五郎が 細い足でも恨みの胴骨おづ/\せずとふんだ/\ よう最前うは草履

 

で 男の面(つら)そぶつたなァ 今ぶちかへす受取れと 目鼻をかけて丁/\/\ ふんだはこふか蹴たはこふか

と ふんづけつつの腹いせに あつまは嬉しさぞく/\踊り わしも是迄いぢりおつた 覚ているかとき

せるの焼鉄(やきがね)ぴつしやり当てられ身はちり/\ ふまるゝよりもつらかりし モウよごんす/\ のいた/\ 是

から又 此長五郎がお相伴に小鯛の焼物 頤かけていがめてくれふと 引起して頬(つら)引上 草履片手に

ふり上る 見付て飛出る放駒 ぶつ腕先をしつかと取 コリヤ何とする長五郎 ハテ知れた事 何の横面はり

いあめるが何とぞしたか ヤそふは成まい ナゼ 与五郎殿はぶたれたかはり ふちかやさるゝは了簡も成が わが相

伴の草履の焼物箸かけさする事マアならぬ ハゝゝわれがきている事聞ていた故 もふ出るか/\と

 

 

36

待ていたれど あんまり遅さに呼出しの草履 此焼物はわれに振廻(ふるまを)かい ハゝゝ 其焼物より此かたし

のつくり身 薄身なれ共相伴さそかい ホウ大坂でも隠れのない濡髪と放駒 念の入た料理の

出合 辞儀なしにすはろかいと 立身をじつと居合腰 傍にハア/\与五郎あづま 侍は腰刀 反り打かけ

て コリヤ放駒 後ろには郷左衛門 鍔元くつろげひかへいる 百万の加勢と思ひ 気遣ひなしにふんご

め/\ アゝ邪魔な事いふわろじやわい 濡髪是で出入はならぬわいやい 長吉が出入に 侍を後ろ楯

にしたといはれては 仲間の者へ顔が立たぬ 今夜の出入をのばそかい ホウおれもこちの若旦那が 箒

持てびこしやこしらるゝが 目にかゝつてどふやらわるい いつそあすの晩の事にせう どこがよからふ ハテ

 

お定まりの新町橋か四つ橋 其時に此うは草履をまつかうと 互にふり上 ハゝゝゝ是で虫がやすま

つたと 二人の荒者につtこりほやり にがい顔する郷左衛門あつまとられて仏頂顔 あたどんくさい

今夜程夜の短い事はない 馬鹿な頬(つら)共見るもむやくし 長吉来れと引連る よはみをくは

ぬ放駒たるみを見せぬ長五郎 門口迄伴ひ出 あすの晩に四つ橋で逢ませふ ハテどふで通る道

遅か待て居ませふ 必 ヲゝ必と 見合す顔は蝶ゝの花は茨か鬼薊 引別れてぞ立

帰る 与五郎あづまは濡髪をあをぎ立/\ そなたのかけて仕返しして 胸がさつぱり夜が明た ヤア明

た次手に最前の 六つのたいこは七つに成まい あれ/\又六つのたいこを打てくる 時しらぬ夜番のねと

 

 

37(裏)

 

 

38

ぼけ なぶつてあそぼとかけよれば わしじや/\と頬かぶり 取をすかして都さんか こりやどう

じや 最前与兵衛様の身の難義 救ふて貰ふた其かはり 六つの太鼓をはやう

打 仕返しさせよとぬしの言付 さつきに打たもわしじやわいな 出来た/\ 道理でけう

とうはやいと思ふた そしておまへはどうするのじや ハテ身請は済だれど跡の程

が気遣ひな 時打ちがへた誤りで 此夜番は欠落/\ 出来た智恵者めぬし

めはどこに 辻の番部やに隠しておいた ホゝ/\/\跡は長五郎呑込だ 頼ぞ いけと女郎の袖

なし羽織頬かぶり 夜番出立をさいはひに 跡も見ずして 〽行空の