仮想空間

趣味の変体仮名

桃太郎一代記

 

「有吉のカネオくん」の国会図書館の回で、おもしろ蔵書の一つとして紹介されていました。桃を食べた爺さん婆さんが若返って子作り再チャレンジの結果生れたのが桃太郎、というバージョン違いの説がミソです。お伴にして欲しい犬猿雉の自己プレゼンも面白かったです。

 

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8929834

参考 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053551/

 

 

2

見那无登(みなも〔む〕と)

 

桃太郎一代記

 

 

3

せんさい/\

われはこれ桃山も

せいわうぼなり なんし一子

なきゆへ一子をさつくる なり

 

かならすうたかふこと

なかれとのたまふと

みてゆめは さめにけり

 

こゝに正しきふく

えもんといふもの

あり日こと一子な

きことをなけき

くらしけるか

ひるねし

てせいわ

うほう

よりもゝ

一えた

さつか

りし  ゆめ をる

 

此とし

まて

子と

いふも

なし

すへか

こゝろ

ほそい

 

千歳千歳。我は、これ桃山の西王母なり。汝一子無き故、一子を授くる也。必ず疑う事なかれ、と宣うと見て、夢は覚めにけり。

ここに正しき福右衛門という者あり。日頃一子無き事を歎き暮らしけるが、昼寝して西王母より桃一枝授かりし夢を(見)る。

この年迄子というも無し。末が心細い。

 

 

4 

正しきふく

えもんは

山へし

はかりに山

より川を

見おろせは

はゝは

川へせ

んたく

にいて

ける

 

はゝはなにか

川にてひろい

しとおもひ

はやくしば

かつてうちへ

 

はやくかへり

  ませう

 

さて/\ふしきな

せいわうほさまの

おさつけのもゝはおう

かたこれて

 

あろふ

はやくうちへ

かへりぢゝい

とのよみせ

てよろこば

しやう

 

正しき福右衛門は山へ芝刈りに。山より川を見下ろせば、婆は川へ洗濯に行てける。

婆は何か川にて拾いしと思い、早く芝刈って家へ早く帰りましょう。

さてさて不思議な西王母様のお授けの桃は、大方これであろう。早く家へ帰り爺殿よ(に)見せて喜ばしょう。

 

 

5

まことに

もゝ山のもゝ

とはこれて

あろふなん

とばゞそう

ではないか

うまみか

かくへつ

じや

のきんむら

のもゝにこの

ようなもゝは

おほへぬ

(下)

そうて

こさる一たいた

ねも大きし

あちもよし

大きなもゝ

て御ざる

 

誠に桃山の桃とはこれであろう。なんと婆、そうではないか。旨味が格別じや。この近村の桃に、このような桃は覚えぬ。

そうでござる。一体種も大きし、味も良し。大きな桃でござる。

 

(左頁)

これは/\ふし

きなもゝしや

しらかゝさつ

はりとなくなつ

てしわかのひ

てとほうも

なくわかくなつった

 

わしもこの

やうにわか

やきました

これては子も

てきそうな

ものた

 

なんときし

もしんさま

へまいり

御ねか

い申ま

しやう

 

いかさま

それか

よか

ろう

とかく かみ

ほとけさま

の御りしやう だ

 

これはこれは不思議な桃じゃ。白髪がさっぱりと無くなって皺が伸びて、途方もなく若くなった。

わしもこの様に若やぎました。これでは子も出来そうなものだ。

なんと鬼子母神様へ参り、お願い申しましょう。

如何様それがよかろう。兎角神仏様の御利生だ。

 

 

6

きつい御さんけいしや

御ほうしや/\

 

ばゝすいふん御だい

もくをとなへやれ

たちはなやて一はい

のみかけやまと

てましやう

 

しゆんしやうか

きたをか

かいたの

てあろ う

 

かは口川やのあめを

おみやにかいま

しやう

ほりのうち様へ

みちはとでほと

あるかすくに

まいりませう

 

きつい御参詣じゃ。御報謝、御報謝。

婆、随分御題目を唱えやれ。橘屋で一杯呑み、かけ山と出ましょう。(一杯呑みかけ、山と出ましょう?)

良い絵馬が上がりました。誰が絵でござりましょう。

春章か北尾が描いたのであろう。

川口川屋の飴をおみや(土産)に買いましょう。

堀之内様へ道はどれ程有るか。すぐに参りましょう。

 

 

さて/\ありかたい御さん

かあつたそうにこさり

ますさてみなさまも御

よろこひて御さりま せう

 

きつい御り

やくさむ

けづくと

ついふたりに

なられま

した

しかもよい

おとこの子よ

 

おとこか

女子かへ

 

おきやあ/\

 

よいお子をおもちなされた

しかもじやうふなよくふとつて しや

おとこも/\

すいふんたつしや

なおこしや

 

さてさて、有り難い御産が有ったそうにござります。さて皆様も喜びて御座りましょう。

きつい御利益。産気づくと、つい二人になられました。しかも男の子よ。

男か、女子(おなご)かえ?

おぎゃあ、おぎゃあ

良いお子をお持ちなされた。しかも丈夫な良く太ってじゃ。男も男、随分達者なお子じゃ。

 

 

8

ともたちの子ともあつ

まりあそぶ

 

ふくへもん一子

をもゝのえんをとりもゝ

太郎と名をつけたん/\

せいしんしてちからもつよ

くなかむしなとをとらへ

ともたちにみせるこれ/\

おもしろいやつかでたやろ う か

(下)

もゝ太郎さんよしなへ

おらは

きらいた

 

せみをとる

じやまに なる

こいつとう

して

やろうか

 

友達の子供集まり遊ぶ。

福右衛門、一子を桃の縁を取り、桃太郎と名を付け、だんだん成人して力も強く、長虫等を捕え、友達に見せる。「これこれ面白い奴が出た。やろうか。」

「桃太郎さん、よしなえ。おらは嫌いだ。」

「蝉を取る邪魔になる。こいつ、どうしてやろうか。」

 

(左頁)

これはきつ

いものじや

きんたろう

かといふ

ものじや

もちつ

としを

とつ たら

せき とりと

いふもの さ

 

されは子ともに

このや

なとい うはめつらしい

 

おぢさま四斗

びやうもそ

のやう

におも い

ものではない

もう一ひやう

よこしなひや

うしぎに

して

みよう

 

これはきつい者じゃ。金太郎かと言う者じや。もちっと年を取ったら関取という者じゃ。

されば子供にこの様なと言うは珍しい。

小父様、四斗俵もその様に重い物では無い。もう一俵よこしな。拍子木にしてみよう。

 

 

9

もゝ太郎むらの

百しやうを

あつめすも

ふをとる

 

おぢさんたち

ほんにとつて

くんなわざ

とまけるか

してたは

いかない

(下)

たにかぜととらせてみたい

 

よいやさ

 

なんばん

とつても

かなはぬ

もふ

おれはよしに

しよう

 

桃太郎、村の百姓を集め、相撲をとる。

小父さん達、ほんに取ってくんな。わざと負けるかして他愛が無い(他は行かない)。

谷風ととらせてみたい。

よいやさ。

何番取っても叶わぬ。もう俺は、よしにしよう。

 

(左頁)

まだきさま

じやとお

もつたか

それでは

もふほか

にはない

ぞや

 

こふき

れいに

なげ

られた

ところを

どつとほ

めたり

子どもとおもつ

ておもひのほ

かなめにあつ た

 

まだ貴様じゃと思ったか。それではもう他には無いぞや。

こう綺麗に投げられた所を、どっと誉めたり。子供と思って思いの他な目に合った。

 

 

10

もゝ太郎おにか

しまへわたりたからものをとりて

かへらんと二

おやたちへ

ねかふ

 

この子はとほうも

ないことをいやる

どふしておにかしまへ

ゆかるゝもの しや

 

きみだんこを

こしらへて下

されまし

 

ともゝ道

/\よいよ

うにして

まいります

 

桃太郎、鬼ヶ島へ渡り宝物を取りて帰らんと、二親達へ願う。

この子は途方も無い事を言やる。どうして鬼ヶ島へ行かるるものじゃ。

吉備団子を拵えて下されまし。伴も道々良い様にして参ります。

 

(左頁)

みちのりがしれ

ぬからともの

たのみようも

ない

それとも

ひきやくで

たのんでみたら

あろふかしらぬ

 

いや/\そう

いやるな

のぞみにし

たかえい

 

たんごをこしらへて

やりませうしかし

人たびかこゝろ

もとないおに

かしまへゆくとも

もあるまいし

 

道程(みちのり)が知れぬから伴の頼みも無い。それとも飛脚で頼んでみたら有ろうか知らぬ。

いやいや、そう言やるな。望みにしたがよい(従えい?)。

団子を拵えてやりましょう。然し一人旅が心許無い。鬼ヶ島へ行く伴も有るまい。

 

 

11

もゝ太郎

おにかしまへ

ゆくしたく

にきみ

だんごを

こしらへ

ゆく

 

ゆがおゝかた

よかろふ

 

かゝあどのこもよくこまかにでき

ました でりちを

よく

せねば

うま

みか

でぬ

 

桃太郎、鬼ヶ島へ行く支度に吉備団子を拵え行く。

湯が大方よかろう。

嬶殿、粉も良く細かに出来ました。練り地(?)を良くせねば旨味が出ぬ。

 

(左頁)

あすははやく

たちましやう

日よりも

よさそうたに

 

それほどあつたら

もふよう御ざり

ましやう

 

明日は早く発ちましょう。日和も良さそうだに。

それ程有ったらもうよう御座りましょう。

 

 

12

もゝ 太郎

おにかしまへ

ゆくみち

にていぬ

きじいてゝ

ともをする

 

きじはともを

してもなにそ

げいかある か

 

これは日本一の

きみだんこ一つ

つゝやらうかはり

におにかしまへ

ともをしろあん

ないかしれぬ

「かしこまりました

これから山みちへ

おかゝりなされます

ときつねむしな

まてわたくしを

みると にけ

ます

 

桃太郎、鬼ヶ島へ行く道にて、犬、雉、出でて伴をする。雉は伴をしても何ぞ芸が有るか。

これは日本一の吉備団子。一つずつやろう代わりに鬼ヶ島へ伴をしろ。案内が知れぬ。

畏まりました。これから山道へお掛かりなされますと、狐、貉まで、私を見ると逃げます。

 

(左頁)

もゝ太郎さまおまへのこし

につけてあるはなにで

ござりますうまそふな

ものじや一つくたされ

おとも申ませう

 

わたくしは此へんの

さきぶれをいたし

ておりますから

山でもさとでも

よくしつて

おります

 

桃太郎様、お前の腰に付けて有るは何でござります。美味そうな物じゃ、一つ下され。御伴申しましょう。

私はこの辺の先触れを致しておりますから、山でも里でも良く知っております。

 

 

13

もゝ太郎

だん/\

とやま

みちへ

かゝり

けれは

大き

いで

を 

せんと

いふ

これさる

あまり

しやれるな

一つやるから

よくとも

をしろ

 

われはやまが

にはとんだ

しやれもの

わたくしか

むすめは江戸へ

げいしゃにでゝ

おりますたわら

ころびかじよう

すさ

 

もし/\おまへ

のこしのは

大かた日本一

のきみだんご

で御さりま せう

一つおくれ御とも

申やん しやう

 

なかて大きそう

なを下さりませ

 

桃太郎だんだんと山道へ掛かりければ、大きなる猿出(い)で、伴をせんと言う。

これ、猿。あまり邪魔するな。一つやるから良く伴をしろ。

我は山家(やまが)には、どんだ邪魔者だ。

私が娘は江戸へ芸者に出ております。俵転びが上手さ。

もしもし、お前の腰のは大方日本一の吉備団子で御座りましょう。一つおくれ。御伴申しやんしょう。

中で大きそうなを下さりませ。

 

(左頁)

もゝ太郎

おにかしまへ

わたりおに

がじやうを

みわたせは

いわをがゞ

たりまこ

とにせんでう

がみねとも

いゝつへし

もはやいわやも

ほとちかく見ゆ

るみな/\一いき

ついでふみつふ

さん

 

おにがじやうのもん

はんはるかにもゝ太郎

をみつけふしきに

おもふとをめ

かねをかり

てきてよ

くみとゝけよう

 

みちの

御あんない

はわたくし

いたしませう

 

此くらいの所はきのほりよりこゝろ

やすい

 

おれは

はねはあれとも

たかあかりかこゝと

もとない

 

ところ/\

にへんを

しかけ

ておき

しやう

 

桃太郎、鬼ヶ島へ渡り鬼ヶ城を見渡せば巌峨々たり。誠に千丈ヶ峰とも言いつべし。

最早岩屋へも程近く見ゆる。皆々一息継いで踏み潰さん。

鬼ヶ城の門番、遥かに桃太郎を見付け不思議に思う。遠眼鏡を借りて来て良く見届けよう。

この位の所は木登りより心安い。

俺は羽は有れども高上がりが心許無い。

所々、小片(?)を仕掛けて置きましょう。

 

 

14

もゝ太郎

いわやの もん

をしやふり

うちへ

いる

 

もろこしの

はんくわい

わかてうの

あさいな三郎

それにこの

もゝ太郎か

おとるへ

きか

 

なにほと

のことあ

らんこの

もんおし

やふつて

くれん

いてものみ

せんんといふ

まゝに

 

こりや/\/\

 

桃太郎、岩屋の門を押し破り、内へ入る。

唐土(もろこし)の樊噲(はんかい)、我が朝(ちょう)の朝比奈三郎、それにこの桃太郎が劣るべきか。

何程の事有らん。この門押し破ってくれん。いで物見せんと言うままに。

こりゃ、こりゃ、こりゃ。

 

(左頁)

もんは

んの おにひと

しちにとられる

おのれらはつのか一ほん

つゝだいやといふ

とつのをもい

てきくすり

やへやるが

なんとた

きやつとも

いつて

みろ

おにこほるの

つのはどく

けしに

なろう

 

かしこまり

ました

 

さきへたつて此

うちのあんない

をしろおのれ

ら二ひきのいの

ちはた すけ

てくれん

 

ありかたふ

そんし

まする

 

あかぼう

もんをあけ

てあけやれ

 

門番の鬼、人質に取らるる。

おのれらは角が一本ずつだ。いやと言うと角をもいで生薬屋へやるが、なんとだ。キャッとも言ってみろ。

鬼毀る(?)の角は毒消しになろう。

畏まりました。

先へ行ってこの内の案内をしろ。おのれ等二匹の命は助けてくれん。

有難う存じます。

赤棒(?)門を明けてあげやれ。

 

 

15

やりやほこは

えさしざを

ともおもはぬ

おれかはぶしの

つよいことを

よくみて

おけ

 

どこへにけてもおれ

がかきだす

おのれらひと

かみたぞ

 

さるとは

にけあしのはや

いやつた

 

槍や鉾は餌刺棹とも思わぬ。俺が端武士(折れるは武士?)の強い事を良く見ておけ。

どこへ逃げても俺が掻き出す。己等一噛みだぞ。

去る(猿)とは逃げ足の速い奴だ。

 

(左頁)

このほこはなが

すきてつかい

にくいおにみそ

をつけたとは

このこと た

 

おにゝかなぼうといふはつよい

ことたとおもつたか

かついて

にけるの

はよほと

たいぎ だ

 

かさねて

こんなお

もいもの

はこしらへ

ぬかよい

人ミセ

はかり て

 

ついに

やくに

たつた

ことか

ない

 

もんばんば

わりたけか

かるくてよい

 

この鉾は長過ぎて使い難い。鬼味噌を付けたとは、この事だ。

鬼に金棒と言うは強い事だと思ったが、担いで逃げるのは余程大義だ。

重ねてこんな重い物は拵えぬが良い。人見せばかりで終に役に立った事が無い。

門番は割竹が軽くて良い。

 

 

16

もゝ太郎さまよく

tるかまいてこさ

りませあたま

はかたそう だから

はらか らいもさし

にしてやろふ

 

おにかしまの大しやういけとられる

たからものはなににてもみなあげ

ませういのちはおたすけくた

さりませいのちか ものたね

てこさ

ます

 

きじん

におう

とうな

しと

 

ます

はさ

うそは

 

申ま せぬ

 

桃太郎様、良く捕まえて御座りませ。頭は固そうだから腹から芋刺しにしてやろう。

鬼ヶ島の大将生け捕られる。

宝物は何にても皆あげましょう。命はお助け下さりませ。命が物種で御座ります。

鬼神に応答無しと申しますわさ。嘘は申しませぬ。

 

(左頁)

じつとしていろ

うこくとしやつ

つらをひつ

かくそ

 

きしはほろゝを

うつていかる

げとうめら

てなみを

みたか

あゝつかもない

 

むかしとちかつて

ちかいころはおに

といふとむこめに

あう

 

あいた/\けふこふは

かみなりのたいこ

うちに

はかりて

ましやう

 

こめん

/\

 

いきか

はつむ

 

じっとして居ろ。動くと、しやっ面(つら)を引っ掻くぞ。

雉はほろろ(羽を打つ音)を打って怒る。

外道めら、手並みを見たか。ああ、つがもない(しょうもない)。

昔と違って近い頃は、鬼と言うとむこめ(惨い目?)に合う。

あいた、あ痛、今日こう(後?請う?)は雷の太鼓打ちにばかり出ましょう。

ごめん、ごめん。

息が弾む。

 

 

17

もゝ太郎

おにかしまを

たいしたから

ものをのこらす

とる

かくれかさかくれみの

ほうしゆのたまあや

のまきものもはや

ほかにはないか

 

しかしとらのかは

はおれはすか

ない

 

とらのかはか

あありそふな

ものたみな

おんとくに

まてして

いるたく

さんあらは

だせ

 

桃太郎、鬼ヶ島を退治、宝物を残らず取る。

隠れ笠、隠れ蓑、宝珠の玉、綾の巻物。最早他には無いか。

然し虎の皮は俺は好かない。

虎の皮が有りそうなものだ。皆隠匿にまでしている。沢山有らば出せ。

 

(左頁)

とらのかはゝまへから

ふんとしにいたします

はいぬさまにねら

つてくいつかれぬよう

じんばかりて外に

よふは

ないこ

とまつたく

おごりては

御さり

ませぬ

 

此しま

にもあ

そひ所か

てきまして

とらのかはゝ

からし

につかはし

われ/\は

あぶらかみ

にとらふの

もやうを

つけます

 

わたくしとものふんとし

にきはまつたようて

あけにくい

 

きんねんは

ふつていて

御さります

 

虎の皮は前から褌に致しますは、犬様に狙って食い付かれぬ用心ばかりで、

他に用は無い事、全く奢りては御座りませぬ。

私共の褌に極まった用で、あげにくい。

近年は払底で御座ります。

 

 

18

よいなきじやえびを

つつたらおにがらやき

にしようしやちほこ

なとか

かゝり

そふな

ものたか

おこぜやあ

んこうは

よほとつらか

こわ い

 

またひくか

なにかかゝつた

そふた

 

良い凪じゃ。海老を釣ったら鬼殻焼きにしよう。鯱等が掛かりそうなものだが、虎魚や鮟鱇は余程面が怖い。

又引くか、何か掛かったそうな。

 

(左頁)

きのふ大ふんつれ

たこんとは

なはにしよう

もつとおきへ

でるか

よかろう

 

さるとはよいなくさみ

わしかつりをする

ところはよくやき

ものにして

すりばちの

せんすいに

をきます

これをしつ

たらえん

かうを二三ひ

きつれてきて

まつのきからさげ

れはよかつた

 

もゝ太郎さま

きのふは大ふ

んりやうか

あつたと申こ

とて御さりま

すちかいうちに

あみかよう

こさりませふ

あすはふね

でけいしや

を入ませう

おにむすめ

かきついも の さ

 

昨日は大分釣れた。今度は縄にしよう。もっと沖へ出るが良かろう。

さる(去り、猿)とは良い慰み。儂が釣りをする所は、よく焼物にして、擂鉢の泉水(?)に置き、これを摺ったら猿公を二三匹連れて来て、松の木から提げれば良かった。

桃太郎様、昨日は大分漁が有ったと申す事で御座ります。近い内に網が良う御座りましょう。明日は舟で芸者を入れましょう。鬼娘がきついものさ。

 

 

19

もゝ太郎舟ゆさんにいて

江戸からおにむすめと

いふけいしやきたりしよし

きゝてふねへつれゆく

おにむすめ三みせん

いわすかたらぬわかこゝみたれ

しかみのみたるゝもつれないkは

たゝうつりきのとうてもおとこは

あくしやうものツゝテン/\

わついてゃりやうこくてけいすあ

しうかうたいなんすに

よつてよくおほへ

やした

一はいのみかけやま

とでたい

 

おらかわかいときせつ

ぶんにおとしこしだと

いつてこのうたをよ

くうたつたをき

いたがしかしおらをば

そとへおいだしてから

じやによつておほへ ない

 

やんや/\

たんば

はみや

こぢ

かくじや

から

あいsま

のけい

しや

より

かく

へつ

 

桃太郎、舟遊山に出で、江戸から鬼娘と言う芸者来りし由聞きて、舟へ連れ行く。鬼娘、三味線言わず語らぬ。

我が心 乱れし髪の乱るるも つれないは只移り気の どうでも男は悪性者 ツツテンツツテン

わっちは両国で芸者衆が歌いなんすによって、よく覚えやした。

一杯呑みかけ、山と出たい。

おらが若い時、節分に御年越しだと言って、この歌をよく歌ったを聞いたが、然し、おら(俺)をば外へ追い出してからじゃによって、覚え無い。

やんや、やんや。丹波は都近くじゃから、島の芸者より格別だ。

 

(左頁)

おそくなつた

いそけ/\

 

遅くなった、急げ、急げ。

 

 

20

もゝ太郎おにかしま

のいろさとけんふつ

にゆくこゝはなにと

いふところた

 

こゝは八丁なはてと

申ますおにかしまは

うしとらにあたり

ますからほくしう

ともほつこくとも

申ます此さとの入口の

もんをきもんと 申ます

 

おやのるすにいのちの

せんたくに まいります

 

桃太郎、鬼ヶ島の色里見物に行く。ここは何と言う所だ。

ここは八丁畷と申します。鬼ヶ島は艮に当たりますから、北洲、北国とも申します。この里の入り口の門を鬼門と申します。

親の留守に命の洗濯に参ります。

 

(左頁)

めつらしいおきやく しや

 

むかふからくるは

此しまにみなれぬ

ふうぞくなおとこた

つのもみえすがつてん

のゆかぬきみのわるい

なまよいかしらぬ

しやうきて

なけれは よい

 

つのめたゝぬ

ようにどて

したを

ゆかうか

 

珍しいお客じゃ。

向こうから来るは、この島に見慣れぬ風俗な男だ。角も見えず、合点の行かぬ気味の悪い。生酔いか知らぬ。鍾馗でなければ良い。

角目立たぬ様に土手下を行こうか。

 

 

21

なにと

うつく

しい

のかおり

ます

 

おにも

十八と

申て

とかく

この

ことさ

 

かんさしか

つのか

わからぬ

あたまの

によき

/\のうち

に二本は

つのた

そうな

 

(提燈)ぢこくや

 

きのしやと

申ますわ

きのしは

おにと申

じて

こさります

 

何と美しいのが居ります。

鬼も十八と申して、兎角、この事さ。

簪か角かわからぬ。頭のニョキニョキ

の内に、二本は角だそうな。

(提灯)地獄屋

「きのし(喜熨斗)屋」と申しますわ(は)、「き」の字は「鬼」と申じて御座ります。

 

(左頁)

よいわか

さんじや の

 

かはつたふうのおきやく

さんかみへる

 

良い若さんじゃの。

変わった風のお客さんが見える。

 

 

22

もゝ太郎おに

かしまにわたり

いろ/\たからもの

をとりその

うへしま/\けん

ふつしても

はや日本

へかへら

んと

おにか

しまを

たつ

 

もはやおかへり

なされますか

さとまておくり

申ませう御に

もつは人そくに

御もたせあそば

しませ

 

桃太郎、鬼ヶ島に渡り、色々宝物を取り、その上島々見物して、最早日本へ帰らんと鬼ヶ島を発つ。

最早お帰りなされますか、里迄送り申しましょう。御荷物は人足に御持たせ遊ばしませ。

 

(左頁)

しはらくおせわに

なりましたまた

せつぶんのころ御

ざつたらおらか

山へたつねて御さ

れどふでやとをかす

人はないからおらかいる

山かよい

 

みちかしれ

すはおれか

おしへて

ろふ

しかし

おれかおし

えたら

ほへてくいつく

かと

おもは

しやろ うか

そうては

ない

 

さらは/\

みなたいき じや

 

まいとしのことじや

からじやうやと

かあらふすゝか山

大江山

 

暫くお世話になりました。又節分の頃御座ったら、おらが山へ尋ねて御座れ。どうで宿を貸す人は無いから、おらが居る山が良い。

道が知れずば、おれが教えてやろう。然し、おれが教えたら吠えて食いつくかと思わしゃろうが、そうでは無い。

さらば、さらば。皆大義じゃ。

毎年の事じやから、定宿が有ろう。鈴鹿山か、大江山か。

 

 

23

もゝ太郎おにかしまより

かへるよしをきゝむら

のものみな/\むかひ

にいてるいろ/\のたから

ものとももちむかひの

ものはやすよい/\

/\みやうじ

んまつりのは

なだしてこの

ようなものを えた

 

てんきは

よくて

御たかひ

にし

やはせ た

 

きんざい

のもの

けん

ふつ

する

これは

めつらし

いこと

じや

 

桃太郎、鬼ヶ島より帰る由を聞き、村の者皆々迎いに出でる。色々の宝物ども持ち、迎いの者、囃す。よいよい、よいよい、明神祭りの花出して(?)、この様な物を見た。

天気は良くて、御互いに幸せだ。

近在の者、見物する。これは珍しい事じゃ。

 

(左頁)

もゝ太郎おにか

しまより

かへる

むらの

ものども

大ぜい

むかひに

いでる

 

めづらしいことだ

此ようなむかひに

はでたはよいひよつt

とあやかるまひ

ものではない

 

「若者中」

 

わかいものども大せい

めじるしにのほり

にてでる

 

御二人かまち

かねてゝ御さり

ましよ

 

おにもつは

もふさきへとゝ

いたあ らう

 

桃太郎、鬼ヶ島より帰る。村の者供大勢迎いに出でる。

珍しい事だ。この様な迎いには出たが良い。ひょっと肖るまいものではない。

若い者共大勢目印に幟にて出る。

御二人が待ち兼ねて御座りましょ。

お荷物は、もう先へ届いた有ろう。

 

 

24

もゝ太郎は

おにかしま

よりとり

てかへりし

たからもの

どもとり

いだし

りやう

しんに

ひろう

する

 

こえはいろ/\

けつ こうな

ものども

じや

 

やれ/\るすぢうは

あんじたか此ような

うれしいことはない

 

まづ/\そく才で

かへつ てめでたい

あすはもちをつい

て むらのしうへ

しんじやう

むかいのしうへは

すいものでさけ

かよかろう

 

ぬしさまとし

よりしうへ

もれいに

ゆかしやれ

 

桃太郎は鬼ヶ島より取りて帰りし宝物共い出し、両親に披露する。

これは色々結構な物共じゃ。

やれやれ、留守中は案じたが、この様な嬉しい事は無い。

まずまず息災で帰って目出度い。明日は餅を搗いて村の衆へ進じょう。迎いの衆へは吸物で酒が良かろう。

名主様、年寄衆へも礼に行かしゃれ。

 

(左頁)

いやはやおもしろい

ことでこさり

ました

きいた

より

おにど

もはよはひもの

で御さります

ともにつれましたいぬ

さるきじどもへなに

そみやけをつかはし

たいがなにもおもひ

つきかないさるにそ

でなしはをりいぬに

くひたまとおもひつ

 

きましたがきじに

なにもやるものが御ざりませぬから

やつはりきびたんごを一重つゝて

よふ御さりましやう

 

いやはや面白い事で御座りました。聞いたより鬼どもは弱い者で御座ります。

伴に連れました犬、猿、雉共へ、何ぞ土産を遣わしたいが、何も思い付きが無い。猿に袖無し羽織、犬に食い玉と思い付きましたが、雉に何もやる物が御座りませぬから、矢張り吉備団子を一重づつで良う御座りましょう。

 

 

25

もゝ太郎むらの

なぬしとしより

そのほかわかひ

ものむかいのもの

どもをよびたから

ものをひろうし

ていろ/\ち

そうをする

なにぞめづ

らしいもの

をみなさ

まへもみや

げにいたそ

うとぞんし

たがなに

もこざら

ぬ火うち

いしをだへ

るとぞんじ

た所が正

月のかたい

もちをひつ

かいてすい

ものにいた

します

 

まつまめて

かへつて

わしらも

うれしう

ごさり

ます

 

たから

ものを

いろ/\

とさが

しまし

たがも

ふこれ

ぎりてご

さります

 

みなさまるす

のうちはお

せわてこさ

りました

 

これを

とつて

まいつたれ

ばあと

には

なに

もこさらぬ

 

桃太郎、村の名主、年寄、その他若い者、迎いの者共を呼び、宝物を披露して、色々馳走をする。何ぞ珍しい物を皆様へも土産に致そうと存じたが、何も御座らぬ。火打ち石を食べると存じた所が正月の硬い餅を引っ掻いて吸物にします。

先ず健で帰って儂等も嬉しゅう御座ります。

宝物を色々と捜しましたが、もう、これ切りで御座ります。

皆様、留守の内は御世話で御座いました。

これを取って参ったれば、あとには何も御座らぬ。

 

(左頁)

めづらしいもの

をみますどれ

もけつこうな

ものじや此やう

なものは大こく

さまかもつて御さ

るとおもつて

ばかりいました

どうしておにがしま

に御ざつたことやら

これからまいばんきて

ちやのみはなしに

おにかしまのめ

づらしい

ことを

きゝ

まし やう

此としま

でみたことも

ない

 

しまには

めつらしい

うまいもの

かたくさん

ある かな

 

なぬ

つれた

ちくる

 

さけは

よいかなしかし

おにころしと

いふからよく も

ある

まい

 

おとこ

山けんびしなととはいく まい

 

珍しい物を見ます。どれも結構な物じゃ。この様な物は大黒様が持って御座ると思ってばかりいました。どうして鬼ヶ島に御座った事やら。これから毎晩来て茶飲み話に鬼ヶ島の珍しい事を聞きましょう。この年迄見た事も無い。

島には珍しい美味いものが沢山有るかな。

名主、連れ立ち来る。

酒は良いかな。然し、「鬼殺し」と言うから、良くも有るまい。

「男山」「剣菱」などとは行くまい。

 

 

26

もゝ太郎

おにかし

まより

たから

ものを

ぢさんして

さしあけ

いろ/\しま

ものかたり申あげる

 

ありがたい

しやわせ

にこさり

ます

 

桃太郎、鬼ヶ島より宝物を持参して差し上げ、色々島物語申し上げる。

有り難い幸せに御座ります。

 

(左頁)

これは/\

めつらしい

ものしや

 

これはこれは珍しい物じゃ。

 

 

27

もゝ太郎様

たんしやう

のころ八十

よとぞん し

たか

 

めてたうそんし

ますおしう

と御ふう

ふはもふ

御年は

いくつ

で御さ

りま

 

よいとのこて

うれしかろふ

 

さて/\おはかいこと

だまだ五十にはお

みへなされぬ

 

桃太郎様誕生の頃、八十余と存じたが。

目出度う存じます。お舅御御夫婦は、もう御年は幾つで御座ります?

良い殿御で御嬉しかろう。

さてさて、お若い事だ。まだ五十にはお見えなされぬ。

 

(左頁)

もゝ太郎は御ほうひ

十万石いんきよ

地を下され

めでたく

さかへこんれい

するかやうにめて

たいことはないと

かくながいきいた

すがたい一のた

からて御さ

ります

 

わたくし百七つ

で御さちま

すばゝか

九十九か

てうど

で御さりましやうもゝをたべて

からそのゝちはまだとしよつ

たようにはおぼへませぬ

 

なかふ 人

 

しうとどのは ばけもの

じやわいあふうふもあ やからしやろ

 

桃太郎は御褒美十万石、隠居地を下され、目出度く栄え、婚礼する。斯様に目出度い事は無いと、斯く長生き致すのが第一の宝で御座ります。

私、百七つで御座ります。婆が九十九か丁度で御座りましょう。桃を食べてから、その後はまだ年寄った様には覚えませぬ。

 

仲人

 

舅殿は化け物じゃ。若い夫婦も肖らしゃろ。

 

 

28

ふくは

うち/\

 

もゝ太郎せつふんを いわふ

おにがしまよりたからもの

をとりさたりしより

ふつきとさかへかゝれは

あまたのくら の

 

むねにお

にかはら

をく

こと

この

とき

よりはしまりぬ

「北尾政美画(花押)」

 

福は内、福は内。

桃太郎、節分を祝う。

鬼ヶ島より宝物を取りさたり(去たり?)しより、富貴と栄え掛かれば、数多の蔵の棟に鬼瓦置く事、この時より始まりぬ。

「北尾政美画(花押)」