仮想空間

趣味の変体仮名

殺生石水晶物語

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301825

 

 

3

  明和七庚寅年 殺生石水晶物語

 

(左頁)

こゝに人王七十四代のみかど

とばのいん御ほつたいまし/\

ほうわうと申奉る

第八のわうじとしひと

しん王に御くらい

ゆづらせ給ふ

としひとしん王を

こんえのいんと申 たてまつる

 

そのころ平のたゝもりは

はなはだ御かんにいりて

なにかにつけて御そう

だんありけりしかるに

こんえのいんいまだ

御きさきましまさねは

此こといかゞすべしと

御ひやうぎまち/\

なりけり

 

たいらの

たゞもり

 

 

4

かくて左大べんよりながぐわこうに申つけて

三十二さうにかなへる女のすかたをかゝせ

えいらんにそなへしにみかどのたまはく

此えすがたにあふたる女あらばたづねもとめ

よとある

 

こんえのいん

 

さだいべんよりながの

兄たゞみちせんじを

かふ む る

 

たゞみちも此事せんしをかふむり

たつねけるしかるにたゞみち

兄弟の中つねにふわなりしが

これゟしてなをはらあしく成けり

 

まことやえのことはしろきをのちにすか?さ

こゝにも有此えすがたににたる女

あらばさう/\つれてまいれ

 

それがしてんちをうかつてなりと

かくのことき女をめし

つれまいらん

 

しんさんを

やすんじ

させ給へ

 

より なが

 

 

5

さるほどによりなかは

とくだいじきんよしがむすめたじと うへるを

みかどへたてまつる

又たゞみちはふぢはら

よしみちが むすめ

ていしと申を

たてまつる

 

たゞ みち

 

兄のたゞみちは

きさきを

さしあげ

 

いやすいさんなり

いまいちごん

かへして

みよ

 

そのざを

さらせぬ

 

(左頁)

しかるに

みかどつねに

ていしを

御てうあい

有てたじをば

うとかりけり

よりなが此こと

やすからす思ひ何とぞしてと

はかりことをめぐらす

 

おとゝの

よりながは

中ぐうを

さし上る

 

よし

なが

 

あにき/\

きでんのちうしん 

だて

よしに

して

もらひ

たい

ずんと

いけぬ

わいの

 

 

6

又そのころながらのさとよりえかきの

めいじんさし上たるえすかたことに

うるわしけれは

 

このえを

おゝちに

かけおき

ぎんみせよと

あるゆへ

そのことく

はからひ

みする

 

きせんくんじゆして

すがたえを見る

 

いかさま

うつくしくやう

かいたえじや

 

さて/\ ふゝう

 

とし

よつても

ほのじ

 

(左頁)

さて/\

みかどさま も

 

きつい

くのいちが

御すきでは

あるそ

 

さればいな

 

ばんの

さむらいなみいる

 

わしがむすめもなりはにたが

かほがしやくしで

ちがふた

 

あのすがたえにあふたる女は

かねのわらぢてたつねても此よ

にはあるまいいたづらに心を

うごかしたまふ事あゝ

しやうし

 

すかたえけんぶつの

なんによひやうばん

とり/\なり

 

 

7

あの女が

おらかだんなを

あたなす

そふな

 

そんなら

かくすけ

まゆ

げを

ぬら

 

これさ

だんな

 

よりながの

けらいながいでく左衛門と

いふものとりべ

のゝへんを

とをりしに

 

小きつねを

みつけやにわに

ころさんとする

かゝる所へ二八ばかりの

 

こいつ

さわぐ な

 

さても/\

いまのよの

ひじんといふは

これなん めり

 

なるほど たすけ申さん

 

(左頁)

いとあでやかなる女きたり

でく左衛門をいろ/\と

なぶりければくだんの

きつねをるゆす此女を

よく/\見るに

 

三十二さうとやいはん

ひとめみるより

たましいをうし なふ

はかりなりでく左衛門

此女をだましつれきたり

しゆじん

よりなかへ

見する

 

もうしおさmぬらいさんそのきつねは

おたすけなされませ

そのおれいには

なあ

 

 

8

よりながたまもを みて

よろこびやかて

みかどへさしあぐる

 

なふそちがなはなにともうすそ

おやきやうだいもありやいなや

いかに/\

 

もしとのさま

みつからがやうないやしいもの

よるのおとゞへめし ませふかへ

いかにも/\

 

でく左衛門

てがら/\

 

(左頁)

みな /\

うらやみ

給ふ

 

うぢ

なふてたまものまへしや

 

それゟよりながいかの女に

十二ひとへをきせさんだい有

みいかどひとめ

御らんありて御えつき

かぎりなく

 

なをばたまものまへとめされけり

三千のによくはんの内だい一にすぐれ

ふようのまなじりたん色のくち

びるとはこれをゆいけん

これまで有つるによくはんたちも

いかでか玉もがうつくしきにおよ ばん

 

 

9

ちんも

うたのみちを

さらりと やめて

めりやすを

けいこ

しやう かの

 

(左頁)

さる程にこんえのいんひるはひめもす

よもすがら玉もを御てうあいありて

あるときたまもが

ちえをはからんとて

五しき五行さうじやう

さうこくをとかせ給ふに

ひとつとしてちかふことなくおよそ

てんちのあいだにあることこと/\ぐ

こたへ申にければみかどかゝる女も

あるものかなといやましに御ふびんをくわへ給ひけり

 

 

10

みかうしまいらすとはしも/\゛に申す

あまどしやうじなどたりる事なり

だいりにて日くるればながらうかには

いくつとも

なくともし

火たてける

しかるに

その頃

御てん

さわ

がしく

 

(下)

あれはまあなんじやいのい

 

ちやつと

にげ

さんせ

 

(上左端)

八尺はかりのきりかふろいでゝ

あぶらさらをなめほすこれを見し

 

(左頁)

によくはんたちはきも

たましいを

うし なふ

 

おば たん

ばあ

 

此事

みかどには

かつてしろし

めされ

ずと

かや

 

なふ

かな しや

 

くわん女たち

たをれふす

 

 

11

くげてんじやう人

くわ

けん

 

ほう ひは

 

ころは

八月十五やの

ことなりしにくげ

 

(左頁)

てんじやう人しいかくわんけんの

  御ゆうのおりから

いかゞ

してか

ともしび一とにきへぬかゝる折づしふしぎや

玉もの前がひたいより

ひかりさしてだいりをてらしけれ ば

人々あやしみにそれゟして

みかど御なふもつての

ほかにておわし ます

 

玉もさんのひたいから

ひかりがさす

あゝこわ

 

 

12

さる程に玉ものまへ

一丈ばかりのきつねと

正たいをあらはし

九つのしりをゝ

ふりたて

さけび

しは

おそろし

かりけり

 

われは

これ

三国でんらいの古きつね也

 

あべの

やす な

 

い のる

 

両人たちより

ないしどころの

(左頁下)

かゞみに

うつす

 

あべのせいめい

 

いで/\

正たいを

あらはせ

 

さだいべんたゞみち

 

(左頁上)

てんぢくにて

はんそく太子を

まどわし

大とうにては

いんのちう

わうを

たぶら

かし

 

いま此どにわたつて

玉もの前とへんげて

みかどをうし

なわんと

はかりしに

 

しんかくのいとく

いちじるく正たいを

あらはしたりなをも

かさねてわう いを

かたむく

べしといふてうせにけり

 

 

13

たゞみち

 

玉もとばけしきつね

しもつめの国なすのゝ

はらにかくれすむこれに

よつて両介にたいぢの

りやうしをくださる

 

三浦の介

よしあきら

 

かづさの介

ひろかね

 

両すけさんだいしてきつねたいじの

仰をかふむる

 

いえのめんぼく

ありがたふぞんし

奉り

ます

 

(左頁)

かづさの

すけ

 

みうらの

すけ

 

きつねは

ようくわいの物なれば

たやすくたいぢせん事

おぼつかなく思ひければ

両介おもふやうやかんは

いぬににたればいぬにてけいこすべしとて

 

(下)

百日

いぬとそ

さだめける

 

(中)

これ

いぬおふものゝ

はじめと

かや

 

やいいぬぼね

おつておいらが

てがらに

くろ

ぶち

 

 

14

それよりも両すけは

みかどのせんじを

かふむり下つけのくになすのゝはらへ

たち

こへ

この

もの

 

す百人に

申つけて

かり

いだし

ける

すせん疋の

のぎつねは

あまた

とびかけりしか

 

(左頁上)

たまものまへとへんげ たる

きつねは

さらに

みへ

 

こゝへも でおつた

 

すこん

くわい/\/\

 

(右頁中)

すこん/\ くわい/\

 

くわい/\

すこん

 

さて/\

すさ

まじいきつねだ

かうじまちへ

うつてやりたい

 

(下)

たまものきつね

なすのゝむらへ

にげしゆへ

大せいのせこのもの

きつねども を

かりいだす

 

(左頁中)

それ

より

三 

三や くま/\゛やま/\

かりいだしけるに

きつねやむこと を

えず

とびいで

たり

 

やらぬぞ

おのれめ

 

 

15

三うらの介よしあきら

 

さん /\゛に

いる

 

(下)

さばかりの

きつねなれば

大ぜいのものを

くひころす

 

(中)

三うらの介かつさのすけ

やまのうへよりこぶしをかため

はなつやについにきつねはいころ

されたりなをも

此きつねのしうしんひとつの

いしとなつて

のこりけり

 

(左頁)

このいしにふるゝものにんげんは

いふに

およ

ばす

 

とりけだものまで

ちか

よれば

たち

まち

いのちをうしなふよつて

たれいふとも

なく

せつ

しやう

せき

とは

なつけ

たり

 

(上)

かづさの介

ひろつね

 

(下)

きつねに

こつめる(?)

から

るゝ は

 

これはたまらぬ

にげるがてがらじや

 

 

16

それよりす百年をへて

ほうでう時よりのころ

かまくらあふぎがやつに

一うのてらあり

せんこくざん

かいぞうじと申

このてらの

ぢうそうを

 

(左頁)

げんおふおしやうと申て

きはめてどうとくふかゝりしが

 

しよこくあんぎやにいで給ひ

あしかゞの

へんを

とをり

給ひ

とき

みづちや屋

こしかけ

やすみ

給ふが

 

たび人の

せつ生石のはなしを

きゝそれより

しもつけへ

たちこへ

給ふ

 

このころちやのみ

はなし に

 

もつ

はら

きゝ

ます

 

いかにもし

おそうさま

つたへきくなすのゝ

はらの

せつしやう

せきと

申す石は人の

いのちをとる と

申 ま す

おきゝ

なされ

た か

 

(右頁中)

ほゝ

もふ

一りじや そ

 

(下)

きつうくたびれた

いつはいもりを

してやらふ ぞ

 

これ/\なすのゝへんを

とをらしやらばかほをよこ にして

まゆげを 

かくさしやれ

 

 

17

ひとへにぜんじの

どうとく

??

?りかた や

 

あじなまじ ないで

いしか われた 

 

もはや

いわうつしでもさかぬ

 

ところの人々よろ こぶ

 

なんぢくはんらい

せつしやうせき

によせちく しやう

ほつぼだい しん

くわつ/\

 

かくて

げんのう

ぜんじは

なす

のゝはらにいたりくだんの

いしのほとりへ立よりじゆかいをさりけ

 

(左頁)

しゆじやうにて

うち給へば

たちまちかの

せつしやうせき

ふたつにわれ

きつねの

しがい出ると

みへ

しが

 

どくき

そらへあがり

それよりして

いまにいたるまでてうるいにくるい

人げんまで

どくに

あたること

なしと ぞ

 

いまも

いしをくだく

つちを

げんのうといふは

此いわれ

なり

 

やかんの

かたち

 

殺生石

 

 

18

ときのみかどふかくさのいん

此事をきこしめされげんのうを

めされ尾きえあつてせんこくざんみな/\

尾こんりうありしとぞ

げんおうぜんじはえちぜんのくに

はぎむらの人也がさんぜんじのでし なり

 

かまくら一けんの人は今も見給ふらん

此寺はあふぎかやつかいそうじと申て

ぜつけいの所也