仮想空間

趣味の変体仮名

二代尾上忠義伝 五段目つづき(その1)

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710

 

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 20
「つゞき」かゝる所へ犬ぶち藤内
くみこ引つれ道芝を
からめんと此所へつけ
来り母をとらへて
せんぎのさいちう
雪平めが此あたりへ
きたるよしけらいが
しらせにそこきみ
わるく「ヤイばゝめ
のちほどみちしば
うけとるいひのこして
出て行
さて母おやはおらいに
むかひ「おなじへだては
ないが若様のおたねを
やどした妹の身がはりに
死でくれよとなみだに
くれてたのむにぞ
お来はをつとの
たねをやどせし
身それのみ
ならず母のため
大いそへ
身うり
のやく
そく
どちらを

 

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 どうと身ひとつに
妹が命もたすけたし
しあんにくれて
おくへ行
眼兵衛はとぼ/\と
わがやの門もはいり
かねたゝずむ内に
つまがなきごえ「親の
身でわが子をころす
とはトいふこえむねに
がん兵衛がすつといり
「そりやたれが事と
きゝとがむれば「うと/\と
ゆめみてうはことゝいひ
まぎらしホンニいもとがきて
今あねとはなししているト
きくがん兵衛がむねのうち
どりやかんきんをぶつだんに
むかふねふつも心のたむけ
うちきるかねも四つのこくげん
なむさんじこくとはゝおやは
ひきぬくやいばかくごのおらい
「のうあね様はころさせぬト
おほひになる道芝をなき人
なりともしらはの下大事の
妹けがするなとあらそふ内に
ばゝがかたながん兵衛とつていもとを
すつぱりやいばの下にかたちはきえ

 

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 くびのあり/\ぶつだんのまへに
のこりてあはれなりける折から
くつわやがかごをつかせておらいを
むりやり金をわたしてくれて行
ふうふはさらにがてん
ゆかずがん兵衛は立
あがり「ぬしある
女をうらせては
いひわけなし金を
もどしおらいをとり
かへさんと出ゆかんとする
おくのまより「ヤレまてがん兵衛
いひきかすことこそあれ
トいつのまにかは
立出る
紙崎古膳

 

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 「わが
けらいを
くつわやになし
身のしろをあたへ
おらいをめしとりしはしさいあり
あねがをつとの名みやうしをきくに
わがすいりやうにたがはずせんぎの
たねのあねが身の上おつてかたらん
それはさておきそのかたなは
よもつねならぬきたいのめい
けんたゞ今死りやうのきえ
うせしはまさしく武将の
ちやうほう牛王丸
先年赤松まん
ゆう此太刀を
うばひ
むほん
ならずして
ほろびその
ゆくへしれ
ざりしが
これをしよぢする
なんぢこそまんゆうが
よるいならんかれが
一子赤松三郎といふもの
あしかゞけへあだをふくみ
ざんとうをより/\あつむ

 

 「あつぱれ
をしき
なんぢがきしん
こゝろのこさす
いさぎよく
さいこをとげよ

 

 

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 此三郎が行衛
なんぢならで
しるものなし
サアまづ
すぐに
はく
じやう
いたせ
トきくより
がん兵衛は
刀をはらに
つきたて
「いかにも
むほん人
赤松が
けらい
嘉じま
ごん平
といふ
もの
足利
家へ
あたせんと
心を
つく
せし
此年

 

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 むすめがくわい
たいあし
かゞのたね
いつとり
にきり
ころし
主人へ
立る寸志
の忠義
今小膳殿
に見あらは
されさむらひ
のかずに
いりはら
かつさばく
わがほん
もうもの
いふこと
これかぎりト
きり/\と
ひきまはす
「ヤレまたれよ
嘉じま此小身に
にぬういたましひ
そのしやう
ねでは「次へ」

 

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斯かる所へ犬渕藤内、組子引連れ道芝を絡めんとこの所へ付け来たり。母を捕らえて詮議の最中、「雪平めがこの辺りへ来たる由」家来が知らせに底気味悪く、「やい婆め、後ほど道芝受け取る」言い残して出て行く。さて母親はお来に向い、「同じ隔ては無いが若殿のお胤を宿した妹の身替りに死んでくれよ」と涙に暮れて頼むにぞ、お来は夫の胤を宿せし身、それのみならず母の為、大礒へ身売りの約束、どちらをどうと身一つに、妹が命も助けたし、思案に暮れて奥へ行く。


眼兵衛はとぼとぼと我が家の門も這入りかね、佇む内に妻が泣き声、「親の身で我が子を殺すとは」という声胸に眼兵衛がずっと入り、「そりゃ誰が事」と聞き咎むれば、「うとうとと夢見たうわ言」と言い紛らし、「ほんに妹が来て、今姉と話ししている。」と聞く眼兵衛が胸の内、「どりゃ官金をお仏壇に」向う念仏も心の手向け、打ちきる鐘も四つの刻限、「南無三時刻」と母親は、引抜く刃、覚悟のお来、「のう、姉様は殺させぬ。」と、覆いになる道芝を亡き人なりとも白刃の下、大事の妹怪我するなと、争う内に婆が刀、眼兵衛取って妹をすっぱり刃の下に形は消え、首はアリアリ仏壇の前に残りて哀れなり。斯かる折から轡屋が籠を着かせてお来を無理矢理、金を渡して連れて行く。夫婦は更に合点ゆかず、眼兵衛は立ち上がり、「主ある女を売らせては言い訳無し。鐘を戻し、お来を取り返さん」と出で行かんとする奥の間より、「やれ待て眼兵衛、言い聞かす事こそあれ」といつの間にかは立ち出る紙崎古膳。「我が家来を轡屋に為し、身の代を与え、お来を召捕りしは子細あり。姉が夫の名苗字を聞くに、我が推量に違わず詮議の種の姉が身の上、追って語らん。それはさておき、その刀は世の常ならぬ希代の名剣、只今死霊の消え失せしは将しく武将の重宝牛王丸。先年、赤松満佑この太刀を奪い、謀反ならずして滅び、その行方知れざりしが、これを所持する汝こそ満佑が余類ならん。彼が一子赤松三郎という者、足利家へ仇を含み、残党を寄り寄り集む。

 

 「天晴れ惜しき汝が義心、心残さず最期を遂げよ」

 

 「この三郎が行衛(行方)汝ならで知る者無し。さあ、真っ直ぐに白状いたせ」と聞くより眼兵衛は刀を腹に突き立て「如何にも謀反人赤松が家来、嘉島権平という者、足利家へ仇せんと心を尽せしこの年月、娘が懐胎足利の胤、一刀に斬り殺し主人へ立つる寸志の忠義。今に小膳殿に見顕され侍の数に入り、腹かっさばく我が本望、もう物言う事これ切り」と、きりきりと引き回す。「やれ待たれよ嘉島、この小身に似ぬうい(愛い?)魂、その性根では「次へ」