読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710
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「つゞき」かゝる所へ犬ぶち藤内
くみこ引つれ道芝を
からめんと此所へつけ
来り母をとらへて
せんぎのさいちう
雪平めが此あたりへ
きたるよしけらいが
しらせにそこきみ
わるく「ヤイばゝめ
のちほどみちしば
うけとるいひのこして
出て行
さて母おやはおらいに
むかひ「おなじへだては
ないが若様のおたねを
やどした妹の身がはりに
死でくれよとなみだに
くれてたのむにぞ
お来はをつとの
たねをやどせし
身それのみ
ならず母のため
大いそへ
身うり
のやく
そく
どちらを
どうと身ひとつに
妹が命もたすけたし
しあんにくれて
おくへ行
眼兵衛はとぼ/\と
わがやの門もはいり
かねたゝずむ内に
つまがなきごえ「親の
身でわが子をころす
とはトいふこえむねに
がん兵衛がすつといり
「そりやたれが事と
きゝとがむれば「うと/\と
ゆめみてうはことゝいひ
まぎらしホンニいもとがきて
今あねとはなししているト
きくがん兵衛がむねのうち
どりやかんきんをぶつだんに
むかふねふつも心のたむけ
うちきるかねも四つのこくげん
なむさんじこくとはゝおやは
ひきぬくやいばかくごのおらい
「のうあね様はころさせぬト
おほひになる道芝をなき人
なりともしらはの下大事の
妹けがするなとあらそふ内に
ばゝがかたながん兵衛とつていもとを
すつぱりやいばの下にかたちはきえ
くびのあり/\ぶつだんのまへに
のこりてあはれなりける折から
くつわやがかごをつかせておらいを
むりやり金をわたしてくれて行
ふうふはさらにがてん
ゆかずがん兵衛は立
あがり「ぬしある
女をうらせては
いひわけなし金を
もどしおらいをとり
かへさんと出ゆかんとする
おくのまより「ヤレまてがん兵衛
いひきかすことこそあれ
トいつのまにかは
立出る
紙崎古膳
「わが
けらいを
くつわやになし
身のしろをあたへ
おらいをめしとりしはしさいあり
あねがをつとの名みやうしをきくに
わがすいりやうにたがはずせんぎの
たねのあねが身の上おつてかたらん
それはさておきそのかたなは
よもつねならぬきたいのめい
けんたゞ今死りやうのきえ
うせしはまさしく武将の
ちやうほう牛王丸
先年赤松まん
ゆう此太刀を
うばひ
むほん
ならずして
ほろびその
ゆくへしれ
ざりしが
これをしよぢする
なんぢこそまんゆうが
よるいならんかれが
一子赤松三郎といふもの
あしかゞけへあだをふくみ
ざんとうをより/\あつむ
「あつぱれ
をしき
なんぢがきしん
こゝろのこさす
いさぎよく
さいこをとげよ
此三郎が行衛
なんぢならで
しるものなし
サアまづ
すぐに
はく
じやう
いたせ
トきくより
がん兵衛は
刀をはらに
つきたて
「いかにも
むほん人
赤松が
けらい
嘉じま
ごん平
といふ
もの
足利
家へ
あたせんと
心を
つく
せし
此年
月
むすめがくわい
たいあし
かゞのたね
いつとり
にきり
ころし
主人へ
立る寸志
の忠義
今小膳殿
に見あらは
されさむらひ
のかずに
いりはら
かつさばく
わがほん
もうもの
いふこと
これかぎりト
きり/\と
ひきまはす
「ヤレまたれよ
嘉じま此小身に
にぬういたましひ
そのしやう
ねでは「次へ」
斯かる所へ犬渕藤内、組子引連れ道芝を絡めんとこの所へ付け来たり。母を捕らえて詮議の最中、「雪平めがこの辺りへ来たる由」家来が知らせに底気味悪く、「やい婆め、後ほど道芝受け取る」言い残して出て行く。さて母親はお来に向い、「同じ隔ては無いが若殿のお胤を宿した妹の身替りに死んでくれよ」と涙に暮れて頼むにぞ、お来は夫の胤を宿せし身、それのみならず母の為、大礒へ身売りの約束、どちらをどうと身一つに、妹が命も助けたし、思案に暮れて奥へ行く。
眼兵衛はとぼとぼと我が家の門も這入りかね、佇む内に妻が泣き声、「親の身で我が子を殺すとは」という声胸に眼兵衛がずっと入り、「そりゃ誰が事」と聞き咎むれば、「うとうとと夢見たうわ言」と言い紛らし、「ほんに妹が来て、今姉と話ししている。」と聞く眼兵衛が胸の内、「どりゃ官金をお仏壇に」向う念仏も心の手向け、打ちきる鐘も四つの刻限、「南無三時刻」と母親は、引抜く刃、覚悟のお来、「のう、姉様は殺させぬ。」と、覆いになる道芝を亡き人なりとも白刃の下、大事の妹怪我するなと、争う内に婆が刀、眼兵衛取って妹をすっぱり刃の下に形は消え、首はアリアリ仏壇の前に残りて哀れなり。斯かる折から轡屋が籠を着かせてお来を無理矢理、金を渡して連れて行く。夫婦は更に合点ゆかず、眼兵衛は立ち上がり、「主ある女を売らせては言い訳無し。鐘を戻し、お来を取り返さん」と出で行かんとする奥の間より、「やれ待て眼兵衛、言い聞かす事こそあれ」といつの間にかは立ち出る紙崎古膳。「我が家来を轡屋に為し、身の代を与え、お来を召捕りしは子細あり。姉が夫の名苗字を聞くに、我が推量に違わず詮議の種の姉が身の上、追って語らん。それはさておき、その刀は世の常ならぬ希代の名剣、只今死霊の消え失せしは将しく武将の重宝牛王丸。先年、赤松満佑この太刀を奪い、謀反ならずして滅び、その行方知れざりしが、これを所持する汝こそ満佑が余類ならん。彼が一子赤松三郎という者、足利家へ仇を含み、残党を寄り寄り集む。
「天晴れ惜しき汝が義心、心残さず最期を遂げよ」
「この三郎が行衛(行方)汝ならで知る者無し。さあ、真っ直ぐに白状いたせ」と聞くより眼兵衛は刀を腹に突き立て「如何にも謀反人赤松が家来、嘉島権平という者、足利家へ仇せんと心を尽せしこの年月、娘が懐胎足利の胤、一刀に斬り殺し主人へ立つる寸志の忠義。今に小膳殿に見顕され侍の数に入り、腹かっさばく我が本望、もう物言う事これ切り」と、きりきりと引き回す。「やれ待たれよ嘉島、この小身に似ぬうい(愛い?)魂、その性根では「次へ」