仮想空間

趣味の変体仮名

絵本 妹背山婦女庭訓

 

文楽公演のプログラムに絵尽し「妹背山」の画像が載っていたので読みたくなりました。プログラム掲載のものはネットで閲覧できないようなので、他を探してこちらにしました。


読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/884070

 

 

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2
宝祚つたへて三十九
天智天皇の御悩(のう)
もうもくと成給へばせいむ
をあづかる曽我のえみし
安倍中納言行主を始めと
して公卿残らず烈座ある

えみしはかねて
不和なる中臣の
鎌足をしりぞ
けて

かを
うは
わんとお
もひむじつ
のつみを
いひかけ
てつひに
「つぎへ」

 

 

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3
「つゞき」
鎌足
ちつきよさせけり
さてもえみじかむほん

えいぶんに達し
ければちよくしとして
中納言行主大
判事清澄の両
人入きたり え
みじにつめ
腹をきらせ
首を打
おとす
折り
から

(右頁下)
矢ひと




て行
ぬしが
むな
板を
いぬき
入鹿
大じん

(左頁下)
おくには
より
しづ/\
と出き
たり
父の
むほ
んを
受つ

大判
じを
「つぎへ」

 

 

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4
「つゞき」
みか
たに付けて

内を
せめ
天下を
うばふ こゝ
にりやうし芝

六はせが
れ三作をつれ
なにとぞ
白き
女鹿


らんと三かさ
山あるひはつゞら
山の谷々を
うかゞひ
なんなく白き鹿を

(右頁下)
打とり親子
とも大
きによ
ろこびいさんて
住家へたちかへ
りける 君が御
遊の御車(みくるま)
はこの
あば


にとら

(左頁下)
まりて

六天


かくまひ奉りてたんかい
のはからひにて此家(や)を
大内といつわり
伜三作に万
歳をまはし此場をまぎら
す 折しも鹿ころしのせんぎき
びしく父のかはりにせがれ三作「つぎへ」

 

 

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5
「つゞき」
名のつ

(左頁)
て出る
あとにて
芝六は鎌
足公にうた
がはれ弟(おと)の子杉
松をさし殺しけつぱく
を立る 折しも鎌
足公は三作の命ごひにほりだせし
み鏡たづさへ入給へばみかどのおんめ
たちまちひらけしゆへ芝六の忠臣
あらはれ元のことく玄上太郎となる 扨もいるか
大臣天下をうばひ太ざいの館へ大判事をよび


よせ釆
女の局を両
けにかくま
ひおきたるに
違ひなしと
いふを両人さ
ま/\゛とちんず
れども入鹿大臣ぎねんはれ
ず両人ともぎねんを立んと
おもはゞひなどり久が之介両
人をさし上よとのなんだいを
いひさくらの枝をわたしける

(左頁下)
頃はやよひ
のはしめつかた太ざ
いの娘ひなどり病気と
いひ立此所へで養生も
川向ひ成久
がの介に
恋こがれ
境の川
にへだて
られま
まな
らぬ
「つぎへ」

 

 

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6
「つゞき」
よをうら
みける又(まゝ)くが之介はわび
住居に父の行末身のゆくへ
を心にねんじうつ/\としていたりける
扨も大判じ定高の両人は我子/\
の庵に入大判しは清舟に入鹿の

(左頁)
なんだいをいひ聞せせつ腹をすゝめ
天皇に忠義を立る こなたの亭に
も皇室定高むすめをいるか
より入内させよ
とある※

(左下)
※有難い仰なりと
うはべにいへど心には娘の心をよふ
悟りまこっとは殺しに来たりしと聞てよろこぶ△

(右頁下)
△娘よりよはる心を取なほしついに首
をぞ打
たりける た
がひい
親々顔
を見あ
わせ□

(左頁下)
□子
をさ
きだ
て力無く
うきみ吉
のゝ山桜を
捨ててこそは
かへりける

 

 

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7
「つゞき」爰も都
にほどちかき
三輪の
さと


も文月七夕祭り
杉酒屋の井戸がへ
とて丁稚祢(ね)
太郎始とし
て村の若い者

(左頁)
庄屋

(右頁下)
諸ともにう
かれおどりける
早たそがれの戸さ
し時うす
衣姿の
一人女隣
の門口打
たゝけば
主が伴ひ入跡にね太郎ふしん
顔 立聞折から戻る娘のおみ
わ祢太郎
見るより

となりへ
女のきた
ることきい
ておみわ
は祢太




を×
(上)
×よ
ばせて
うらみ
こと 求馬も
さま/\゛にすかしなだめ「つぎへ」

 

 

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8
「つゞき」娘ぎ
早とけかゝ
る おだ巻を取かはす
折しもいぜんの女出で来たり
恋をあらそふ姫百
合の出でゆくたも
とにおだまきの
糸に引れて
もとめがあ
とをしたひ行 扨も恋する
身ぞつらや露ふみ分けて
橘姫帰る道すじの

跡をもとめがしたひ
来て星のひかりにか
ほみ合せヤア恋人
かといふ顔 求馬は打
詠め入鹿の妹橘姫
なれど入鹿がうばひ
取たる十づかの
御釼

ばひ
かへさば夫
婦とならんと

(右頁下)
つがひし
詞もお
し鳥の
思ひみ
だるゝ薄かげ
をこに取虎と
はしりより

手を引あふて
あらそふ折からはや暁の
横雲におとろく橘付けゆ
く求馬見るもりんきの
いとすじをしたひてこそ
ははしりゆく さかへるは
なのみかさ山あらたに
つかへるみたどころ入鹿のい
せいぞさかんなる かゝる
ところへ浪花のうらのりやう
しふか七 鎌足の使者と
いひたて入来るを玄番「つゞき」

 

 

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9
「つゞき」

藤次
くせ
者なり
とひしめく
をふか
七は
びく
とも
せず入鹿
のまへにうち

通り鎌足にたの
まれかうさんのつかひ
に来たりし口上をのべり
ける 入鹿うたがふて悪口(あくこう)
いふをいち/\へんとうして
いひこめける さてもおみわ
は求馬を道より見うしなひ
此御てんへ入来るをあまたの
つぼねに見とがめられそのうへ
にいろ/\となぶられ竹にすゝ
めの馬子うたもなみだにしぼ
るふりそでのわきあけより「つぎへ」

 

 

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10
「つゞき」手を
さしいれて
こそぐるやら
つねるやらよつ
てかゝつてうち
たゝき あげ
くのはてに
つきたをし

みな/\
おくへにげ
いれば おみわ
はやう/\をき上り
おくを見ゆれば
祝言のうたひ
の声もねた
ましく くち
をしなみだ
に姿こゝろ
もあら/\しくおく
をめかけてかけいり

(右頁下)
けり おみわゝ
おくへかけゆく
むかふへ ふか七出
ておみわをひ
とかたなさしと
ふし なんじがかた
らひしおんかたこそ中
臣のたんかい公といひ
きかせ ぎじやくの相あ
るなんじが血しほと
しば六がうつたる
しか

の血
とあは
せて

ふへにそゝぎかけ
てしらふるといる
かをほろぼす手
だてなりと「つぎへ」

 

 

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11
(右頁左上)
「つづき」
いゝきかす
れは おみわ
はよろこびてはひ

まはり てに
おだまきの
おもひのいと
のたまのをも
きれてはかな
くなり
にける
たちはな
ひめはおつと
のためみつる
きをうづん
とせしを☆

(右頁右上)
☆兄の入鹿に見つけられ庭のせんすいへとひこめば御釼は
たちまち龍とけすをなんなくうはひかへすお
りしもかま
たりはじ
めみな/\
「つぎへ」


ふか七
実(まこと)は

足の
けらい
金輪
五郎


のる

 

 

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12
「つゞき」
この
とこ
ろへ

めき
たり入鹿
をほろぼし十つかの
ぎよけんもうばひかへし
御代太平におさまりしは
かまたり公中臣たんかい公は
じめ大判事定高玄上太郎

金輪五郎その他
人々のいさほ
しなりと


の世ま
でもい
ひつたへ
ける め
でたし
/\/\/\

 

  おしまい。

 

いやしかし。通し狂言はおもしろかったです。 挿絵を見るにつけ文楽の名場面がフラッシュバックします。大序で心を整え、玄番と腰元たちに笑い、蝦夷子とめどの方の二人舞台の緊張感にいよいよ芝居に引き込まれ、簑二郎さんはお腹を痛めて子供を産んだことがあるに違いなく、お雉の激しい慟哭に貰い泣き、健気な三作がこれまた涙を誘い、はたまたその行動とは裏腹に胸の内でむせび泣いている芝六の心の機微を刻々と顕わされる玉也さんにダメ押しされて更に泣き、泣きながら鎌足の微細な動きに勘十郎さんスゲーと息を呑み、定高と大判事の盤石の頼もしさに、存在感てこゆことだ!と胸躍り、簑紫郎さんが火の見櫓でしなを作りながら雪を片手いっぱいにがばっと掴んで上品に思いっきり投げつけてた時もおもしろくて好きだけどやはり鉄板の赤姫上手だし、可憐な雛鳥と美貌の久我之助の最期に涙し、活き活きと子太郎うまいなあ、ああなんてことだ簑一郎さんは別人だ!簑一郎さんの戸無瀬の続きを見られますように!そしてお三輪は滅多やたらにかわいく、豆腐の御用も古典的にかわいらしく、思惑を押し隠した色気にやばいよやばいよ求馬さんついて行っちゃうよ!橘姫の抑制されたウルトラ技巧に感涙を禁じ得ず、道行の三味線にまんまと踊らされ、鱶七と入鹿のスリリングな攻防にわくわくし、お三輪の末路がせつなく悲しくお三輪ちゃぁぁぁ~ん!あたしゃまるで情緒不安定。交互に押し寄せる躁と鬱の波に揉まれ泣いたり笑ったり怒ったり喜んだり。傍から見たら気持ち悪いヘンな人。ああ恥しい。4月大阪の「金閣寺」で年甲斐も無くはしゃいでしまい大いに恥じて反省したのに、そんなこたあすっかり忘れて道行と鱶七入鹿で又燥ぐ。なんですか。わたしは何を聞くにしろ見るにつけ、伝統や古くからのメソッドに則り、演じる方の長年の精進に培われた卓越した技術も見聞きしたいので、あんまり上手いとそれだけで感動し泣けてしまいますが、簑助さんの雛鳥が「ゆっくり円運動」と「ノーモーション直線運動」の完璧な組み合わせで雛鳥の直向きな乙女心を見せて下さった時には感激のあまり立ち上がってワオーン!と叫びたいのをぐっと堪え感涙にむせび泣きました。簑助さんの抽斗は底なしなのだ。そしてお三輪のルーティーンと言ったら怒られるかもしれないけど、あのお三輪が登場してから果てるまでのお芝居の流れが見たくて楽しみにしていたから。今も可愛いお三輪がくるくると表情を変えながらわたしの目の前にあらわれる。邪気のないお三輪、素朴なお三輪、焼き餅やいて、くやしくて、恋しくて、我を忘れ、大胆で、不安で、恐れ、傷つき、怒り狂い、深く悲しみ、痛くて、苦しくて、嬉しくて、諦めて、辛いなあ。官女たちに出くわさなければ求馬のもとへ辿り着けたかもしれないのに。虐められながらも奥の間が気になってしかたのないお三輪が堪らなくいじらしい。なんですか。近頃思うんだけど勘十郎さんの人形が本気出すとその人形の世界にぐいっと引きずり込まれるような妖しい魔力を発揮するよね。ええするんです。つい現実を忘れてしまいます。純朴な少女が惚れた腫れたと身を焦がし異性への執着から精神も女として熟してゆく過程が凄いんです。いや心は娘のまま恋人を夢見て死んでゆくのかな。どっちにしても凄いんです。両翼配置も凄かった。床だけ見て聴いて感動して泣いたのは初めてかも。太夫さんも三味線さんもかっこよくて痺れました。妹山のきっぱりとした実直さと背山の圧倒的なド迫力。プログラムに書いてあった竹本座の染太夫風が妹山で、背山が豊竹座の春太夫風なんだろうな。つまり妹山が西風で背山が東風ってことでいいのかな?違ってたらごめんなさいだけど、西風東風の実技が今に伝わって劇場で見聞できるなんて!伝統芸能素晴らし!山の段をオペラかバレエか幻想劇かアニメに変換するとしたら、大判事と定高を美しく彫刻の施されたどっしりと揺るぎない二本のイオニア式柱として据え、それぞれに雛鳥と久我之助がアラベスクになってエキゾチックに絡みつき、恋する若き情熱を上へ上へと昇華させ、行き場を断たれた蔓は花一輪咲かせ、ポットリと頭を落とす、というシーンを妄想した時点で頭おかしくなってる。と申しますかお芝居見ながらそんなイメージがぼんやりと。やっぱりおかしいや。あと久我之助が切腹に及んだ時、父親が「ヤレ暫く引くな」って言うのも大分おかしい。久我之助も「わかってます、お家の為、また雛鳥に気取られない為にもこのまま静かにしています」と答えて腹に刃を突き立てたまま「待つ」。何を。雛鳥の首が刎ねられるのを。その意気凄まじくて泣けてくる。そして対岸から流れ着いた雛鳥の生首をかき抱き愛しそうに頬ずりを、刃を腹に刺したまま、右、左、優しく、頬と、頬。泣くでしょそんなの!もう泣いてばっかし!と書いていて又取り乱してしまった。玉助さんの久我之助がひたすら美青年だった。ゆっくりだった。久我之助に魂移してらした。いつもダイナミックで「かっこいい」が宿命の玉助さんが一転「静」に身を置くとこんなにも際立つとは。久我之助はぼうっと白い光を放っているのでした。そういえば休憩中に御婦人方が数人立ち話。「お名前は何、玉助さんだったかしら、久我之助の、いいわね、ハンサムボーイね」と盛り上がっていました。そうだろう?ハンサムだろう?文楽にはイケメンしかいないのさ。