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趣味の変体仮名

松殿松姫(武者かゞ美 一名人相合 南伝二)


https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1312411

 松殿松姫
姫は関白基通(もとみち)の女(むすめ)なり 容顔艶麗なることたとふる
にものなし 義仲此縡(こと)を聞(きゝ)て押(おし)て聟となり姫と配偶
せんといふ 姫は義仲を鬼神(おにかみ)の如く思ひ 怕(おそ)れ居給ふ
所なれば 大に哀(かな)しみ自害して死せんとし給へど
左(さ)すれば父君の如何なる憂目(うきめ)をや視(み)
給ふらん 自(みづから)さへ是を忍べば父君の
安穏なるものをとて 不思男(おもはざるをとこ)に
婚(こん)えお許し給ふ程の孝子(かうし)
なれど 人は相にもよるもの歟(か)
如斯(かくのごとき)の美人なれと 髪の
生際(はへぎは)左右に出つ入(いり)にして不定(さだまらず)
耳の色青白かりしは不思良人(おもはざるおつと)に嫁(か)すの
相といへり 孝子にも又かくの如きの相ありとは悼(いた)むにたへたり