仮想空間

趣味の変体仮名

隅田川両岸一覧

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2533332

 

 

3

隅田川両岸一覧

是レ(これ)葛飾北斎壮年ノ画ナリ 予(よ) 七金ヲ抛(なげうっ)テ之(これ)ヲ得タリ

目今(もっこん)彩色本 頻(しき)リニ欧州ニ輸出ス 故ヲ以テ 師宣(菱川師宣) 春信(鈴木春信)等

ノ画本ハ頗ル稀有トナリ 其価格 非常ナリ 左ニ時価数種ヲ

記シ 他年ノ参考ニ供ス

 

春信  青楼美人合            百円ニ近シ

師宣(歌麿に修正)  芳原年中行事  三十円内外

豊国  時世籹(粧)               同

重政  春章青楼美人合姿鏡      五十円前後

政演  青楼?(自に修正)筆鏡     五十円乃至七十円

 

于時明治二十七年五月  青萍識

 

 

4

一段風光画不成とは 山水の美景を賞る

に似たりといへとも もとより筆不性のいひ

出する成へし こゝに北斎ぬし図画に工にし

て しかも心筆とるわさのまめ/\敷あまり

此頃墨田両岸の勝地を模写せり 其図

中 微細にして たゝちに景地に至れる事な

し 実に東都の風光正写しといはまし?

納涼のかた出る處をみれは 忽ち両風薫り

 

 

5

三伏のあつさをわすれ雪のあした

の気色には爐に榾くべて酒あたゝ

めむ事を?りす 鳴呼亭に此筆を

もて?つさは萬物みなまさに心なさら

めやはと しきりに感賞す折から仙鶉堂

のあるし来りて是に戟顕をそへたらん

と いかにとそゝのかす儘 やかて酒友と会して

談し侍 若はわらひ上戸のあらはあれ

 

酔狂仲間の座ぬけ同士 玉の妙画に

砂利の歌 千代口取にそ遊るになむ 猶

味酒の名によりて 隅田川両岸一覧と

号して 酔さめのひや水もひさくといふて

ことほきて書林のもとめにしろ?成鳥

しらを ひとひら染るになむ

   當十楼   成安

 

 

6

「高嶋の暁烏」

不峯の積雪

 

佐保姫の

めした

霜の

袖の

うら

一はん

からす

墨を

つけ

たり

 

壷墨楼

奈良輔

 

 

 歌船亭 千綱

不二山のおろし

だいこに

さゝ波のさしみ

作れる

海の大鉢

 

 

7

「旭 元船乗初」

房総 春暁

 

  遊友館 春道

見渡せば

霞の 網の

ひきはへて

千万艘の

けさの

乗物

 

 

 壷玄楼 万盃

遠つふ帆は

蝶とも見えて

うつ浪の

はなの中ゆく

千ふね百船

 

 

8

 甲羅千人

船つくた

てうと

恵方

真住よし

巳午の 間

よろつ

藤棚

 

 

 巌 亀子

春風に

入来る

帆とも

見ゆる なり

築地の

沖に

あくる

袖凧

 

築地の凧

「佃住吉恵方

 

(挿絵内)「綿ばうし」

 

 

9

 竹女

波風の

なかすの

かたは

からみにも

手伝はせ

たるはるの

細引

 

 

やよ親の

音を

まなへかし

ニしうと

なかすの

かたへ行

ほとゝきす

 壷鶯楼 可知輔

 

柳橋の 子規

「大橋の 綱引」

 

 

10

 京 俵 藤子

水うちて

涼しき門へ

笛売の

船を

告たる

日くらし

のこえ

 

 貢計舎 升盛

両国の

橋の たもとの

夕風は

そてから 袖へ

ぬける

すゝしさ

 

広小路の 群集

「御船蔵の𧊓(ちょう)

 

 

11

「其ニ」

 三巴園 蓬室

おしあふて

足さへ地には

つかぬ ほと

身も かるわさの

芝居

にきはふ

 

 貢光軒 宇壽喜

立かはり

茶見せに

人のよふ

まても

きせん

群集を

なす

広小路

 

 

 六月庵 峯雪

川の面は

玉や 鎰屋を

漕 よせて

夜るの

錦を

なす

花見船

 

(挿絵内)「靎」「そく力」「水」「大坂下り女かるわ(ざ)」

 

 

13

「両国 納涼」

一の橋 弁天

 

 半月楼 鹿毛麿

不二の雪

筑波の しけみ

両かけに

荷なふて

すゝし

力国の橋

 

 松斎 千代佳

たのしさの

此うへは

なし

かたひらの

呂を

おし通す

夕涼舟

 

 嘘言 皮成

江のしまを

こゝに

うつせし

貝屏風

宮の 扉を

つたふ

でゞ むし

 

(挿絵内)「奉納大山石大権現・・・」「江戸しまん」

 

 

14

 無心亭

生滅の

時はわかたし

人の花

さく 両こくの

日中の 鐘

 

無縁の日中

 

 

15

 梅子

袖笠を

かふる

間もなく

柳はし

みとりの 髪も

ふるゝ 夕たち

 

 壷山楼 高喜

竹蔵の 堀にも

虹の 影見えて

はや 両こくの

橋かとそ おもふ

 

16(裏)

 

 

17

「首尾松の釣舟」

椎木の 夕蝉

 

 千歌園 序文

美しさ

松は 千とせを

述あかり

述あかり 見る

舟の たをやめ

 

 仝詠

時またき

見あくる

椎の青

空に

ところ

定めす

蝉の しくるゝ

 

 

18

「榧寺の高灯篭」

御馬屋川岸乗合

 

 嘘言 皮成

しけり あふ

冬も 萌黄の

かや寺に 火燭と 見ゆる

燈籠 の影

 

 

 蜀錦園 蔓人

ろのおとに

雁こき ませて

わたし船

あとのか 先へ

あかる のり合

 

 

19

「駒形の夕日栄

多田薬師の行雁

 

 歌子

むら しくれ

はれ行

あとは

夕はへに

いさむ

月毛の

駒かたの舟

 

 

 貢船窓 春風

ものゝふの

多田の

本尊の

名にめてて

つらをみたさに

わたる

かりかね

 

(挿絵内)「山ふき」

 

 

20

 延齢堂 愛人

香に

匂ふ

小梅の

里の

名にめてゝ

はしの

たもとに

とまる

苫舟

 

 

 霞楽亭 花鳥

三谷 ほり

さして

こく らし

月の船

大川 はしの

秋の

よな/\

 

小梅の 泊船

「大川橋の 月」

 

(挿絵内)「御休處」「御?すみ所」

 

 

21(空白)

 

 

22

浅草寺の入相」

 蜀鶏園 広道

よしはらの

里の わかれの

はしめ そと

つく 浅くさの

入あひの 鐘

 

 

23

向島の時雨」

花川戸の冬篭

 

 松斎 千代佳

村時雨

雫を 木々に

つたはせて

秋葉の 槇は

簑 ほしけ なり

 

 壺鶯楼 可知輔

鶯も

花かと 雪の

冬こもり

江戸 ふし うたふ

助六か 家

 

 

 貢筆庵 都世喜

真乳山

紅葉屋の

日和見定めて

居続は せぬ

朝かへり ふね

 

紅葉はの

あかりを

たてゝ

夕くれた

客を mつちの

山の 下茶屋

 貢章庵 穴丸

 

 

24

待乳山の紅葉」

 

 

25

「白鬚の翟松」

今戸の 夕烟

 

 瑞籬 久世

十かへりと

うち 詠め ても

十八の

君とは 見えぬ

しら 髭の松

 

 

 壺琴楼 道成

たえまなき

瓦煙に

淋しさも

しらぬ 

今戸の

秋の 夕くれ

 

 

26

「橋場の田家」

隅田の都鳥

 

 青々園

すめは また

都鳥 とて

竹の 戸も

春秋を 見る

月花 の門

 

 

夜な/\に

なれてや

ともに

すみた河

隅なき

月を

みやこ

鳥まて

 緑 亀年

 

 

27

「真崎の神燈」

木母寺の鉦鼓

 

小夜 しくれ

ふり さけ 見れば

神垣の

ほの かに

もれる

みつ の

ともし 火

 和歌 浦汐

 

 

音も氷る

はかりに けふは

すみた川

雪に うつみし

木母寺 のかね

 遊友館春道

 

 

28

はや春へ

ひとたまき

なる 大鳥居

しり くめ縄の

見ゆる 神垣

京 一瀬亭平丸

 

春を知る

三谷の 賎か 梅こよみ

雪に 封して

置とし のくれ

 壺琴楼道成

 

「三谷の田家」

 

 

29

「吉原の終年」

 京 壽の のふ子

たをやめも

めて たく 越る

年の 夜に

かしくと

いけし

梅の 一とえた

 

太神楽

笛や 太鼓の 音を そえて

豆まく 声の

よし はらの 里

 壺山楼 高喜