仮想空間

趣味の変体仮名

歌川豊国筆「四世芝翫襲名口上」 1860(万延元)

 

 

東西/\御免被り奉り升て
乍恐口上ヲ以申上奉候 先以御町中様益々
御機嫌能被為遊御座恐悦至極奉存候
此度何れも様に父の年忌に相當り候に付
せめて父の俳名なりと改名いたし様と
御贔屓様方より御引立に被仰付候処実以
難有仕合奉存候芝翫之名改相つぎ候は何
とも恐入候と地体仕候へども御贔屓様よりたつて
御すゝめにまかせ憚り多くも改名仕候何卒
大江戸八百八丁の角からすみまでちゝの
おもかげと思召御引立御贔屓至極偏奉希候

 

とざいとーざい。御免被り奉りまして、
恐れながら口上を申し上げ奉り候。まずもって御町中様、ますます
ご機嫌良く御座あそばされ、恐悦至極に存じ奉り候。
このたび、いずれも様に父の年忌に相当たり候に付き、
せめて父の俳名なりと改名致すよう、と
ご贔屓様方より御引き立てに仰せ付けられ候ところ、まことにもって
有難きしあわせと存じ奉り候。芝翫の名、改め相継ぎ候は、何
とも恐れ入り候と辞退仕り候えども、御贔屓様より達て
御勧めに任せ、はばかり多くも改名仕り候。なにとぞ
大江戸八百八町のすみからすみまで、父の
面影と思し召し御引き立て御贔屓至極、ひとえに希(こいねがい)奉り候