仮想空間

趣味の変体仮名

出世鯉四方瀧水

 

こどもの日なので鯉に纏わるおはなしを探し求めたところ、吉原通いをする鯉之助の物語しかありませんでした。鰻太夫を身請けして蒲焼きにし、自身は鯉の洗いになるところを助かるも不思議の国のアリス宜しく漁師が目覚めれば嘗て無いほどの大漁。敵(かたき)役に人も魚(うを)もおなじこと。めでたしめでたしのファンタジー十返舎一九なかなかぶっ飛んでいます。

 

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9893119


2
出世鯉四方瀧水(しゅっせごいよものたきみず)


3
能ひ中へさす水と。寝耳の水は水臭き水にして。
竪板(たていた)に流るゝ水道の水にはあらず。方円の器に
入れぬ水の。清(すめ)るに遊ぶ魚(うを)あれば。濁るに踊る
鱗(うろくず)あり。此世界の水かけ論に尾鰭を附け
て。まな板の如き机の上に。
  包丁をとるものは

申孟陽  十返舎一九


4

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こゝにりやうし
かま又といふもの
ありいつも
?りであみを
とせいとして
ちうやわづかの
ふねのうへにくらし
けるがけふも
のりいだして
いつものあぢを
しめるどてぎはの
おちこみへあみ
をおろしおき
まづこゝでいち
ごうとびん
ぼうとくりを
だしていき
なしにひつかけ
ほや/\とするこゝち
よきについとなくと
まどろみしゆめのうち
何かひそ/\とはなしごへ
がするゆへそこらあたりを
みまはせば水のなかに
いしがめとすつぽんと
はなをつきやはして
いしがめがいふかねて
いゝやはせしとふり
しゆじんとね川はいの

すけにほうらつを
すゝめかれがりう
もんのたきのぼり
をさまたげつみに
おとしてわれこの川
すじのあるじと
ならばそのほう
とてもせんすは
いけのあるじとなし
ともにえいぐわを
きはめんねんぐわん
それにつきたのみおきし
たきのぼりでんじゆの
いちくはんはすつぽん「おき
づかいなされますな
まんまとしゆびよく
てにいれしこのまきもの
「ホウでかしたばんじは
みどもがやしきにて
「しからば石がめこう「コリヤ
こへがたかいシイつと
あたりを見まはし川の
ものうちへこそ/\と
もぐりければかま又こいつは
おもしろいといつしん
ふらんに水のそこをのぞき
みればいろ/\のいさくさが見へる

(右頁下)
「しゆびは
「上しゆび
まんまと
このいち くはん
「コリヤ シイ


5

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この川すじのおかしらは
とね川こいのすけといふ
何ひとつふそくなくくらし
けるがねいじん石がめぢだんは
すつぽんのつちえもんに
そゝのかされてよし
わるがよひをはじ
めけるこのせかいの
よしはらといふは
ほんとうのよしはら
にてよしばかりはへ
てあるぬまなりこゝに
けいせいのうをあり
こいのすけはなりも
いきにほそづくりすつ
ぱりとあらいごいに
きれいいつしきよといふ
つくりにてぬらくらやの
うなぎといふおいらんに
打こみかよひける
このうなぎはふなの
源五郎といふまぶが
あるゆへとかくぬらり
くらりとこいのすけに
したがわずこいの
すけくびすじを
おさへてもへんじ
さするこゝろなれ共
どふしてもぬらくらと
てにいあらねば
いつそこのまゝに
みうりして
はなしうな
ぎにするも
どうはらひき
さいてかばやきに
せんとおどし
かけても
しヤア/\と
している

「かにの女郎は
とんだてのある
やつにてきやくを
申たりまたぐらへ
ひつぱさみて
かにはこうらに
にせてよく
きやくにあなを
ほらせける
ゆへきやくも
たくさんにて
おちやうゆへ
そこでめうだいの
ざしきへよこに行と
いふはこのかにが
はじまり也

(右頁二段目)
「そなたが
えどまへの
きりすい
なればおいらは
とね川のたて
ものだあん
まりふそく
でもあるめへ

「ぬしヤア
いかな
とね川だ
とつてしを
ヤばかりいゝなんすが
こいに上下のへだては
おつせんわつちらア
えどまへでも
かはいゝおとこゆへ
なかたびや
いなかの
くらうな
すまいも
いとひや せん

(右頁三段目)
「てめへは
あをか
しろふ人か
しらべへが
さりとはすじの
わからねへもんだ

「いしかけのあいだは
かはいしおと
こをまたし
ておいたが
人につりだ
されねば
いゝがいつ そ
きづ かい で おつす


6

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こゝにふなの
源五郎といふもの
もとはあふみのくに
みづかみにて
なたかきもの
ものゝすへなり
けるがあづまへ
くだりてぬら
くらやのうなぎが
えどまへのあぢ
はひにくらひてえ
ついにしやつきんの
ふちにしづみ今は
すこしの水たまり
にくらしてうなぎが
かたより
すこしづゝ
のえさを
みつぎて
もらひいの
ちをつなぎ
いたりけるが
こいのすけうなぎを
うけだす
ときゝて
けちをつけ
てやらんと
まちふせし
て川のふちを

のめくり
まはん?こみ
をかじちて
しのびいたる
ゆへこのふな
大きに
ごみに
よりて
こいの
すけへ
けんくはを
しかけ
くだを まく

(右頁下)
「こいつ ふな なま すに
 して く りやう か

(左頁中)
「おのれ
こぶ まきに して
川へしづ めに
かけるが どふだ

(下)
「ごみによつて
こしはふな /\しても
をひ れの
あるおとこだ

ふきながしの
こいのすけひきおろし
てかみくずかごすつ
ぽんごくがよつて
きてもびくとも
するのじやアねへ
いち/\ど
じやう ぼね を
たゝき
おるがどふだ エゝ


7

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こいのすけはふなに
けんくはをしかけられ
やう/\といゝまぎら
かしてそう/\に
そのばをのがれ
いそいでやしきへ
かへりたまひけるに
やしきにはこいのすけ
このほどよりみもち
ほうらつとなりまい
よ/\よしはらへ
かよひけるゆへ
からう川えび
ひげ太夫こよひ
おもてもんをかため
うらもんをかため
うらもんのひのくちへ
もよくいゝつけおきし
ゆへこいのすけかへりて
もんをたゝけども
いれずもんばんの
うをども申けるは
こよいはかろう川
えびどのゝいゝつけにてどなたにても
やちうのつうろは
はつとなり 一ばん
どりかうたわぬ
うちはこのもん
あけることなりがた
しと

といふすつぽん
にはとりのまね
をすることが
えてものゆへ
こゝでこそと
こへをいだして
とつけこう/\と
にはとりのまね
をしけれは
もんばんのうを
どもまことの
とりと
こゝろへもん
をあけける
ゆへこいのす
けみな/\
よろこび
はいりける
すつぽんの
ときをつ
くるといふ
事はこのと
きよりぞ
はじめり けるは
なんと
どふれ
ごぜへす

(右頁下)
えび どの と
きいては
あなへ でも
はいり てへ
こまつた
もの だ

(左頁下)
ごもんたのむ/\
とん/\/\
はやのかん平といふ
ところ だ


8

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石がめすつぽんがあくじ
からうの川えびさとりて
何かにこゝろをつけていたり
けるにあるとき川えびが
はなさきへいぬのしがひな
がれてきたりけるがこのいぬ
のしがいむく/\とうごくと
見へしがどじやうとなりて
およぎ行川えびさては
このどじやういぬとなつて
石がめかたへないつうする
とおぼへたりにくき
どじやうがふるまひ
也とかたなのこじりにて
どじやうのかしらを
うちければきもを
つぶしてどろのうちへ
にげこみける

いぬねこの
しんだやつが
どじやうに
なることは
川えび
しらぬと
見へたり

「ひつとらへ
ごぼう
さゝがきか
ねぎの しろ ねに
たまご とじは
こいつには
しよく すぎる

(右下)
「さゝのはが
どじやうに
なるとはきい
タレともいぬが
どじやうとは
イヤどじやう
とてつも
ないこと だ


10

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こいのすけか一子
きんきよはうばの
おあゆもろともあ
そひいたるところに
すつぽんさいもくの
うへにかくれいてつり
ばりにいろ/\
こどものもらあ
そひをはりの
さきにつけて
きんぎよを
つりあげて
なきものに
せんとのたくみ
きんぎよはこども
ごゝろにもちあ
そびを見てほし
がるはりにかゝる
事もしらす
とりにかゝるを
うばのあゆ
いろ/\に
とゞめて
きを もむ

「わかあゆの
じぶんは
人にもしられ
しも今は
こもちと
なりてさび
あゆとなりたれば
おうばどのゝ
やくわり也

「このもちや
そびの
えばにかけて此
お子をうしな
わんといしがめ
どのゝたくみ
はておっそろしい
こゝろじや のふ

うば や
あの だる まが
ほしい わい のふ


11

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こいのすけは
うなぎがみ
うけをして
いかだのうへゝ
さそいいだし
おどしつ
すかしつ
くどけども
こゝろにした
がはぬゆへ大
きにいかりて
このうへはわが
てりやうりに
してかば
やきにせん
とうなぎか
くびすじを
つかんでひき
こかしぬき
みをもりて
えりもと
よりいかた
のうへゝさし
とふして
てりやうり
にしける
うばぎは
さすか
えとまへの
はりつよく
そのみをす

てゝもいゝ
かはせし
おとこに
たてひき
するはこれ
えどまへの
ありがたき
ところなり
されども
くやしいと
おもふいち
ねんひの
たまと
なりて
いづくとも
なくとびさる
これよりまい
ばんこのとこ
ろにうま
くさいにほいが
してかば
やきの
ゆふれい
いづる

(右頁下)
「あんまり
ぬらりくらり
とだんなを
はぐらかした
むくひだ
それでうなぎ
つめつて人の
いたさを
しつたが いゝ
アゝなん まみだ

「ひごろから
にくい/\と
おもいしこの
おれがこいの
いしゆだ
だまつて
くたばれ
なむあみ
じやこ /\

ウタイ
「うなぎは
みどり
ふなは
つれない
ハテ 
こゝち
よやなァ

ヒヨウ
どろ/\ /\/\


12

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さてもうなぎは
しうねんふかく
こいのすけにつき
まとひこれを
しりそけんと
するにぬらり
くらりたれが
てにもつかまへ
られずみな/\
これはうなんぎ
なことだとこまり
はてけるこゝに
あるほかのかち
にすむなまず
ぼうすとらふ
たりときしゆつ
けありての事
をきのどくに
おもいさつそく
きたりてうなぎが
もうねんにたい
して申けるは
なんぢぐはんらい山の
いもにしてとろゝじると
なりてむきめしにえん
あるべきいわれにてとね
川かこいをふりつけたり
むぎめしにてこいをつると
いふことへのとふりむきめしに
えんある山のいものしゆうをえたる

なんどにつられしこい
すればこれぜんしやうよりの
やくそく也こいをつりたるむくひ
にてまぶとのなかをさかるゝは
これこそうなぎのしやうなる
ゆへ也そのほうがもうれんを
おさまるになまずとちがへは
ひやうたんをもつておさゆること
なりがたし山のいもをすり
つぶしたるすりこ木を
もつておさへてみせん
なんじぬらくらと
ぬけまはるともゆるさじ
とすりこ木をふり
まはしてかのうなぎを
とつておさへけれは
どうりにきふくして
うなぎはひとかたまりに
なりてあやまりいりたる
よふす也なまづぼうず
かのうなぎをとつてはなし
ければこれじやうふつして
うせにけるこのすりこぎは
さんしやうの木にてこしらへ
たるゆへさてこそいまに
かばやきにさんしやうを
つけるはこのいんえんと
しられたり

(右頁下)
千客万来 大叶
えどまへ 大蒲焼 附めし

「しばやのなまづぼうずと
ちがつてなるほどおめへは
はつめいなごじゆつけさま
さらばあさつき
なまがでおさらば/\

「おまへは
なまぐさ
ぼうずだ
からさだ
めてうない
ぎざんが
あるだろふ

「なまが/\と
やすくするな
おれもかばやきに
しちやァ
まんざらでも ねへ

「とんだ
ちやがまは
やくはんと
ばけ 山の
いもは
うなぎ
となる
どふりで
かぼちや
がとう なす
じやよ なア


13

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川えひはいしがめがあくしんを
こいのすけへるげくちすれども
こいのすけもちひに川えひ
しれつたがりてこいのすけがまへ
にたいけつしていしかめにたづね
けるはそこもとやしんのきざし
あるせうこはしゆじんこいのすけ
どのをあらひごいにしたい
といやりたけるこのいゝわけは
なんと/\「イヤそれはこいの
すけさまはしきよくにふけり
ぼんのふのおかによごれたもふ
こゝろをあらひごいにしたい
と申たはせつしやちうぎともふすものさ「しからばこく
せうにしこらよかろふと
いはれたはとふしたもの
でござる「そのぎ
もかやうさちかごろ
はおくさまとの
おんなかよから
ぬ事をうけた
まはつて何とぞ
ごふうふの御中
こくせうにいたし
たいと申たので
こさるてや
「はてくちがしこくも
いはれたりいかぞやそれがし

うけたまはればしゆじんを
ふきながしのこいたとなぜわか
くちをいゝめされた「これはえ
どのゝことばともおほへぬ
たきのほりはおいへのきち
ずいそれゆへのぼりのえん
によりふきながしのこい
と御しゆつせをいわい
たるをわるくちとは
なんの事「ハテそふ
ならそれにもいた
そふがいゝわけたゝぬは
しゆ人の事をかさいの
こいてくさい/\といはれし
はくそともおもはぬといふそこもとのぞんしんか
「イヤまつたくさふでは
こさらぬかさいのこいはこいの
めいぶつそれゆへかさいのこいと
申たはとのをしやうびのこゝろ
もうした「ムウなぜさやうなら
くさい/\とはいゝめされた
「イヤそのきはなにさものでござる
かさいと申をついくさい/\と申たはせつしや
めがふてうをついほう「ヤアいゝわけはくらい/\いしがめの
大あた人そろ/\たゝみのくちかあいたまだ
たづねたきしさいありかた/\゛石がめをとり
すきめされと川えびいだけだかにきめつける

(右頁下)
「えびで
たいをつる
よふに
そふ
うまくは
まひらぬ

「石がめが
しだんだ
ふんでも
もふ
かなはぬ


14

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川えびついに
いしがめが
あくしんを
見あらはし
くはいちうに
かくしもつ
たるたきの
ほりてんじゆ
の一くはんを
うばひかへし
てこいのすけへ
さし
だし
ければこい
のすけは大き
によろこび
われひごろ
よりたきへ
のぼりて
しゆつせごいと
ならんとおもへ共
でんじゆの
いちくはん
ふんじつして
たきへのぼる
べきやうなし
今こそねん
くはんしやう
しゆせりとかの
でんじゆのいち

くはんを
ひらきみれば
たきへのぼる
にははしご
をかけてのぼるべしと
かいてあるゆへさて
こそとさるそく
はしごをかけて
なんのくもなくたき
のぼりするなるほどゝ
ひじはまつげものゝ
でんじゆといふは
なんでもなき
事なり

「いしかめ
せなかの上へ
こんなものを
のせられ
よんどころ
なくめでたい
どうぐに
つかはれる

(右頁下)
「イヨ
どつと
ほめ たり

「めでたい/\

「あく人
たいじ
だんなは
しゆつ せの
たきの ぼり
しゆ び よくま
はれば
此本のおいと まごい


15

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りやうしは
かます
いつすいの
ゆめの
うちに
水の中の
いさくさを
ひとめにみて
きいのおもい
をなし
めさめて
あみをひき
あげけれは
ついにないかめに
すつぽんうなぎ
どじやうおびたゞ
しくかゝりたり
さてはゆめにみし
こいつらはみな
かたきやく也
人もうをもおなじこと
わるいことしたやつは
ほんのこれがてんの
あみこれほどのむ
くひはありそうなもの
りやうしはひとあみに
とほうもなくもふ
けてこれもめでたく
みへにけり

  一九作 自画