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浄瑠璃本データベース イ14-00002-603
61(左頁)
道行ふたつあみ笠
名にしおはゞ いざこととはん都鳥 我をかくまふ人ありや なき名を呼で都鳥 /\/\と
ぞ売ありく いわう細工で飛ぶ鳥も風に任する扇やの 其夕霧にまとはれてとけぬ藤
やの伊左衛門供に人目のせきやぶり はしりくるわをぬけ出て しるへの方に一夜二夜 明か
せど胸は明けぬ間と うきき長堀を 跡になし きのふにかはる京橋を たどり行身はもへ堤 とが有
身には恐ろしく こちへ/\と道いそぐ 笠もまぶかく いもとせの縁につなぎの糸付けしおわらへすかし
の都鳥 売とはいへどやりてさへ連ぬ所体のほら/\/\とつゝめど よそに鳥口を はや過行ば程
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もなく 佐太の天神かう/\と 森の木立も上久(かみざび)て 思ふ願ひはたゞ一つふたりが 身の上しられじと姿
もやつす売こえに ナアかふたりや/\ 是が仕出しの上細工 りう/\なるのが都鳥 我思ふ
のをより取と五つ六つ四つうない子が まはらぬ舌のしどけなく 三万石大庄屋の娘よいナ
道は四十五里浪の上サアサまことにサおらが在所にやナほんにへんべこさがはやる
はいナ おせんしやふせんひきや 久へむさん望わいナ アイノおあいとが出て笑ふ よや誠にナ
おさな遊びのたはむれを 見るに心もくれはどりあやなく国のふぃい様の 連れてお帰りなされたる 此
伊之助はいかぞとうきに 数そふ物あんじ ヲゝ道理/\去ながら 伊之助は苦にしやんな まだ
此すがたになりはてゝも二人一所に暮すのが せめてもそれがたがひのたのしみ
サア/\おじやとちからを付け 小づまひきあげかゝへおび じつとしめのゝ里もすぎ もし
やおつてにあはんかと出口を よけて大川や我もうき身の 川竹と流れよるべに
うきくさのいなん便りの根をたへし思ひに 思ひはてしなき ひらかた五里もやう/\この
ほりや船ひく下りやサツサと楫びやうしに のぼりくだrちのにぎはひを 見れば
あれ/\のりあひが 色があじやらか手をとりて思ひなき身の高笑ひ アレ又向ふ
一行ふねは嶋か新地の女郎しゆ供 目にはさやかに見へね共風がもてくる一ふし
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や 雪のはだへをこちやうに残し 程時しらぬふじのみね あたら月日を只一(ひと)よさの枕に
のこす里げしき なりひらふうのはでなおとこの二人づれ かけて思ひはむさしのあぶ
み とはぬもつらしとふも又 たれをしるべの橋本や やはたにたのみかけおびの むすぼ
れとけぬ身の上を たがいにいさめいさめられ いそげどあしはよどつゝみ 大橋小橋打
渡り ふし見といへど ぬる夜さへながの道のりたどりきて やがてみやことほどちかく
行さきあてはいづく共 すへは五でうのはしばしら日もはや いりてたそ
かれや ならはぬみちにあしよはのしばし とてこそ「やすらひぬ