仮想空間

趣味の変体仮名

てんぐのだいり 上

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2533223/1/3

 

 

3

  てんぐのだいり 上

さるほどにほうぐはん殿は。七つのとしよりくらまの寺にのぼらせ

給ひて。御がくもんをめされつるかもとより此きみは。びしやもんの

御さいたんのわかぎみにてましませば。七つの御としほけきやう

一ぶ八くはん八つのとし大はんにやぎやう六百くはん。くしやきやう三

十くわん。ふんすいきやう十四くはん。さうしにとりては。げんじさごろもふち

うえい。ひちやうたはたまきすゞり。ふらうえんしゆ。こきん。まんよ

う。いせものがたり。百よでうのくさづくし。八十二でうのむしづくし。おにがよ

みけるちしまのふみ。すきのみやきりせがつぼなんとゝて。さうしにと

りても二千四百廿四くはんをよみあかし。みなもと心におぼしけるはさと

りとやらんいふ事を。すこし見ばやとおほしめし。十さいのときよりも。さ

んがくにあがらせ給ひて。十三と申に。一千七百そくをあかし給ふ。ある日

のうちうのつれ/\に。みなみのつぼに立出て。はなをながめておは

 

 

4

せしが。すこしなかばもすぎぬればげにやまことにはなもさかりは

つとすくなし。にんげんもかくのごとし。われはいとけなきときちゝをう

たせ。おやのかたきをうたずして。くれなん事はいとくちおし。まことやわれ

らがせんぞの。八まん太郎よしいえは。十五の御としかど出し。なを天かに

あげ給ふとうけ給る。おほそれおほきことなから。せんぞをついで

十五にならはかと出すべし。されば十三のとしまで此山にていたづら

に日をなくりけるこそむねんあれ まことやらんこのやまにてんぐの

だいりと申をは。おとこにはきけとめには見ず。いかにもして此だいりを

みばやなんどおぼしめし あめのふるよもふらぬ日もかせのたつ日も

たゝぬよも。かなたこなたとくさ木をわけ。たづねめぐらせ給へども

天ぐはもとよりじんづうじざいのものなれば。天ぐのだいりはみえざ

りけり。みなもと心におほしめすは。われいとけなかりしころより

も。びしやもんにふかくたのみをかけ申す。だいりをもびしやもんへ。

きせい申てたづねんとて。三十三どのこりをとり。びしやもんだうへ

 

(挿絵)

 

 

5

入給ひわにぐちちやうどうちならし。なむや大じ大ひのたもん天

われらとし月あゆみをはこびし御りしやうに。天ぐにあはせてたび

給へと。かんたんをくだきていのられける。よもやう/\ふけゆけば すこし

まどろみ給ひしに。ありがたやびしやもんは。八しゆんばかりのらうそう

と。げんじ給ひて。うしわかぎみのまくらかみにたゝせ給ひ。いかにうし

わか。天ぐのだいりがのぞみならは五かうのてんもあけゆかは。みさか口に

まち給へ。かならずをしへ申さんとの給ひて。ゆめはそのまゝさめにけり。

みなもといよ/\しんをとり。かずのらいはいまいらせて。よもほの/\と

あけゆけば。みさか口にたち出て。御りしやうはいまやをそしとまち

給ふ。かたじけなくもびしやもんは。はたちばかりのほうしとげんじ。そけんの

ころもにもんしやのけさ。みなすいしやうのじゆずつまぐりげんしゆし

やうのくつをはき。うしわかぎみのさきに立。いかにうしわか聞給へ。天

ぐのだいりののぞみならば。これよりさんかいにのぼりつゝ。たづね給ふこと

ならば。五しきのついぢがあるべし。しろきついぢをばゆんでになし。あかき

 

ついぢをめてになし。あをきついぢ。くろきついぢ。きなるついぢを三が

いむあんのちりとさだめて。たゝ一どうにふみならしてゆかば。かならずだい

りにゆきつくべしとをしへ給ひてかきけすやうにうせ給ふ。みなもとあり

がたく思召。けはしき山のうへづたひ。たづね給へばほどもなく。五しき

のついぢみえたり。うしわかうれしく思召。われこのほど心をつくしかな

たこなたとせしかども。たづねあふ琴あらなくに。かゝるきどくのあり

がたさよと思召をしへのごとくいそがせ給ひ。まつそとのついぢを御らん

するに石のついぢを八十よぢやうにつきあげて。石の大もんをたて

それよりうちには。くろがねのついぢを六十よぢやうにつきあげて

くろかねのもんをたて。それよりうちにはしろかねのついぢを四十

ぢやうにつき。しろかねのもんには夕日を出してたて給ふ。それよりうち

にはこがねのついぢを。三十よぢやうにつかせ。こかねのもんにはあさ日を出

して立給ふ。しらすにはこがねのいさごをしきたり。御ざうしはをめずう

 

 

6

ちに入給ひ。やかたのやうを御らんずるに。七ほうをのべたるごとくにて。お

とに聞へしこくらくせかいといふともこれにはまさらじとぞ見侍る。御ざう

しはから木のきざはしを六七けんあからせ給ひ。うちのていをつく/\と

御らんずれば。なごんさいしやういげほくめんのものどもがいくはんけたかく

ひきつくろひ。ひつしといながれなみいたり。みなもとを見たてまつり

。いかにかた/\゛じやうこにもまつだいにも此だいりへにんげんのまいることあ

らす。ふしぎなりとぞひしめきける。さていかなる人ぞとたづねける。み

なもと此由きこし召。われらと申は此山にて。がくもんいたせし少人なるが

たうざんにて七十五人のちごの中より。けふそれがしはなのばんにさゝれ

申て。はなをたづねて出ければかゝるだいりへまいりたり。とうばうな

らばやくしのじやうど。なんばうならばくはんおんのむくせいかいかなんどゝ

ぞんし候。とてもこれまでまいりてあれば。みかどに御めにかゝりたきよし

そうもんありてたび給へとおほせければ。此由人々うけ給り。たゞ人と

はみえ給はず。いかさまそうもん申せとて。しゝんでんにまいり。大てんぐ

 

に此よしかくと申ければ。大天ぐはもとよりじんつうの事なれば。よし

/\くるしうなき人ぞ。げんじのわすれがたみにうしわか殿と申そや。いか

にも御ちそう申せとて。たゝみにはへりがねわたし。だん/\むらくもに

しかせばしらをばこんきんどんきんにてまき天じやうをばきんやからにし

きにてはり。しやうざには。たゝみ七でうかさねてしき。しろかねぶんと

うたてらるゝ。さて大天ぐはあひのしやうじをさつとあけ。みなもと様の

御入は。ゆめかうつゝかまほろしか。こなたへ御入候へとてしやうざなる七えづ

のたゝみへしやうじたてまつり。わが身はたゝみ三でうひきさがり。てを

あはせがつしやうし。三どらいしたてまつる。さて小天ぐ一人ちかづけて。

あたごの山の太郎ばうひらの山の二郎ばう。かうやさんの三郎はう。な

ちのお山の四郎ばうかんのくらのぶせんばう。かれら五人の天ぐたりに。め

づらしき御きやくまうけてありつるに。御まいりありてなぐさめ給

ひてたび候へと申せといふ。うけ給ると申もあへずざしきをたち。せつ

ながあひだにはしりかへりたゝいま五人の天ぐたちおまいりあると申

 

 

7

もあへぬに五人の天ぐは。ともの天くあまた引ぐしておもてのえん

にぞまいられける大てんぐみるよりも。いかにをの/\きゝ給へ。みなも

とさまの御入なれば。をの/\をも申うけて候也。これへ/\としやうじける

かしこまり候とてざしきに入手をあはせ。みな一どうにらいしけり。五人の

中よりこがね三千りやう。こがねのぼんにたちはなかたにつませ。き上

にさゝげたてまつる。御さかづきと有ければ。さんかいのちんぶつをとゝ

のへ。いつきかしづきたてまつる。しゆもはやなかばとみえければ。又大

天ぐ。小天く一人ちかづけてたいたうのほうこうばう。天ぢくのにちりん

はう。これら二人の天くたちにめつらしき御きやくしやうだい申たり

御いてあれと申せといふ。承ると申て。しらすゆらりとおりけるが

へんしがあひだにはしりかへり。たゞいま二人の天ぐたち。つくしのひこ

さんにすご六うつておはしますが。いまこれへと申もあへぬに。二人の天

ぐどもの天ぐをす百人うちつれて。おりてのえんにまいられける。大て

んぐは見るよりも。いかに二人の天ぐたち。いmなもと様の御入なされ候

 

ぞ。これへ御とをりまし/\て。御げんざんに入かへ。二人の天ぐ承ると申

て。わかぎみの御まへにまいり。よろこぶことはかぎりなし。めん/\われも

/\としゆえんをなしてそふけうにぞぜうじける。御さかづきも取/\

なれば。大天ぐはいたるざしきをゆらりとたち。いかに二人の天ぐたち

。あまりにけうも候はぬに。御身たちのせんぞよりつたはるじんづうを

御もてなしにひとつとこのまれけり。二人の天ぐはやすきほどの事な

りとて。なかざをさしてはしり出。たいたうのほうこうばう。あひのしや

うじをさらりとあけて。御らんあれと申されけり。みなもとつく/\と

御らんずればたいたうのきんざんじを。めのまへにうつし。とうしんにてかねを

つり。かうらいこくのしゆもくにて。つきて御めにかけ。又なんかいだうにひを

かけて一どにかきはらひ。御なぐさみにみせらるゝ。さて天ぢくのに

ちちんばうも。あひのしやうじをさつとあけ。御らんあれとぞ申さるゝ。み

なもと御らんずれば。かすみにつなをわたし。くもにはしをかけて。とを山

にふねをうかへてじゆうじざいにのぼりつゝ。いとふしぎさぞかぎりなし

 

 

8

又大てんぐ五人の天ぐたちにこのまれけるは。御身たちの御もてなし

には。ひやうほうひとつとこのまれけり。うけ給るといひもあへず。しらす

にとんでおり。ひじゆつをつくして見せ申す。みなもとはもとよりも。兵

ほうのぞみの事なれば。ひろえんにゆるき出させ給ひ。まぢかくより

て御らんじけるに。心ことばもをよばず。よろこび給ふはかぎりなし

。さて大天ぐ申されけるは。二人のじんづう五人のひやうほうも御めに

かけ申す。われらが御もてなしにないをがなとはぞんずれども。めづらし

き事候はねば。五天ぢくを御めにかけたてまつるべし。こなたへいらせ候へ

とて。玊のざしきへしやうじ申まづひがしのしやうじをさらりとあけ

て見させ給へば。とうじやうこく七百六十よしうを一めに御らんじて。たう

し百でうにうつし給ひける。みなみのしやうじをあけければ。なん天ぢく

七百六十よしうのたみのすみかのこりなくみえければ。これも百でう

ばかりにあおsばしける。にしのしやじをあくればさいてんぢく七百よしう

の山のすがた。木のこだちまのあたりあきらかにみえけり。ゆめま

 

(挿絵)

「くらまの大天く」

「うしわか御よろこひ」

「あたこ山の太郎坊」

「たいとうのほうこばう」

「天ぢく日りんはうなくさめ給ふ」

 

 

9

ぼろしともおぼえず。をよばずながらかきうつし給ふ也。ほくてんぢくの水

のながれ。ちう天ぢくすべて五天ぢくのやうだいを。5百よでうに

うつさせ給ひ。まつだいのたからにせんとよろこび給ふはかぎりなし。その

のちみだひところより大天ぐのもとへ御つかひありけるは。ちと申上

たきことあり。何ごとやらんとてれんちうへ入給へば。みだい大天ぐのた

もとにすがりつゝ。まことやらんしやばよりも。わかぎみの御出あり

てさふらふよし承りて候。みづからもしやばのものにて候へばこひし

く思ひ動労。みづからしやばよりまいりて。御身とちふぃりをなせしも

。きのふけふとはおもへども。はや七千ねんになるぞかし。その年月の

御なさけに。へんしのいとまを給れかし。出て御めにかゝりたくこそおはし

ませと。かきくどきの給へば。つまのてんぐいかゞあるへきとはおもへども。さ

すがいは木ならねば。げにもまことにたうど天ちくわがてうに。なら

ぶかたなきわか君なれば。御めにかゝりたきはことはり也。とく/\出て

たいめんあれとゆるされければ。みだいなのめによろこびて。十二ひとへ

 

をひきちがへひのはかまをふみしたき。あんぜんわうのけせうのまほ

りをかけ。口にぶつごをとなへ。われにおとらぬにようばうたちあまた

引ぐして。たち出たるそのすがた。玊のびんづらはあんおかほばせいろ

やかに。あきの月のえんざんに出。ちすいをてらすごとく也。みなもとは御ら

んじて。あはやこれこそ大天ぐのみだいどころと思召。けにやによう

ばうは。くはしよくにあまりしものぞとよ。これへ/\と御しやじあ

る。みだいざしきになをりつゝ。わかぎみをつく/\とおがみ申。やゝあ

りてみだい申けるは。かくと申さんもはぢがはし。さりながらみつからが

。せんぞをかたり申べし。かく申みづからも。しやばのものにて候ぞ。くにを

申せばかひの国。ところを申せばふたつばし。こきん長じやと申ておは

せしが。其こきん長ぢやがひとりむすめの。きぬひきひめとはみつ

からなり。われ十七さいのはるのころ。はなぞの山に立出て。くはんげん

をしてあそびしに。みつからはことのやくにて。その日のつまおといる

にすぐれていみしかりしを。みづから心に思ひけるは。をそらくは日の

 

 

10

もとにならぶかやもあるまじな。けづのつまおとたれかまさらじと

かうまんせり。其おりかみかぜざつとふきゝたり。そのまゝ天ぐに

さそはれ。かゝるだいりにまいりつゝ。きのふけふとはおもひしかども。とし

月をかぞふれば。七千よねんいなるぞかし。此年月をゝくりても

。ことにしたのしみ候はねども。ひとつのおよろこびにはしゝてめいどにおはし

ます。ふたりのおやに月に一どもまたは二たび三たびもおがみ申

。これぞひとつのたのしみ也。わか君も二さいの御としちゝにをくれさせ

給ひぬれば。さこそこひしくおおすらん。わがつまの大天ぐは。一百三千

六ぢごくに。又は九ほんのじやうとにも。日々にひぎやうし給ふ也。御身の

ちゝよしともは。九ほんのじやうどに大にちにそなはりておはします。か

まへてみづからが申とはおほせ候はずとも。大てんぐをわりなく

たのませ給ひなば。ついにはあはせ申さるべしと。うけよろこばせ。う

ちとけがほにかたりければ。みなもとなのめに思召。さはありながら

ふしぎさよとぞおほせける。かくうちものかたらひて。めでたくみ

 

きをまいらせよ。承ると申てわかきにようばうおしやくにたち。と

り/\みきをぞすゝめけり。わが身もくはへにまいりつゝ。なにのけう

も候はねども。此さけのゆらいをかたり申べし。そも/\此酒と申は。かたし

けなくもめうほうれんげきやうの。六万九千三百八十四じのもんをも

つてえかうし。らうやくにつくりしくすりの酒にておはします。ひとつ

まいればしゆにんあいけう。ふたつまいれは人にうらやまれ。三つは思ふ

ことかなひ。四つのめはしんだいさだまる。五つは五たい五りんとあらはれ

。六つは六だうのさたをひようす。七つのめばぶつみやうにかなひ。九つ

のめばくにのぬしとなるとかや。ことにいはひの御しゆなれば九こ

んまいれとすゝめられ。いはひのこんもとをりければ。わかぎみの

御さかづきみだい給りいくとし月のめでたさよと。又御ざうしにさし

まいらせ。いとま申てさらばとて。れんちうふかく入にけり。かくて御

ざうし大てんぐにおほせけるは。さても此たびの御もてなし申もなか

/\おろか也。ことばにもおよばれず。ふでにもいかでつくしがたし。御お

 

 

11

んのほど。山ならばしゆみせん。うみならばさうかいとてもいひがたし。い

つのよにかはわするべき。とてもの御事に。こゝにひとつののぞみあり

。まことやらんしやばにて承り候。御身は一百三十六ぢごく。又は八十はう

じやうどにもひぎやうし給ふときゝてあり。われがちゝよしともには。

二さいのときをくれ候へば。いかにもして一めおがみ申たく候。ひたすらに

たのみ申とおほせければ。大天ぐおほせはさにて候へども。これにおひ

てはかなふまじ。さりながら此たびの御出。返々もかたじけなく候。われと

/\のやいだんを御ぞんじなされて候か。御かたり候へちやうもん申さん

。御ざうしは聞召。われらと申は。七つのとしよりくらまへのほり。きや

うろんしやうげうわかんの才。しいかくはんげんに心をつくし。さんがく

なども一千七百どくをまなびしが。其中に天もこつへきちもて

つへき。四はうてつのきなるときは。これがわれとのたいだんぞ。まんぼ

う一によときくときは。さて三がいにかきもなし。六だうにほとりなし。ほ

うに二ほうなし。ほとけに二ぶつましまさず。これはわれとのたいだん也

 

(挿絵)

「ひのちこく」

「しゆらたう」

 

 

12

との給へば。そのとき天ぐあらありがたや。さらば御とも申べしこなた

へいらせ給へとて。れんちうふかくしやうしられけり。御ざうしを玊のうてな

にをき申。しやばよりめされし御こそでひたゝれをばぬがせ申。たい

たうのあけのいと。わがてうのはすのいとにてをりたるきぬをめしかへ

させ申御ぐしもくゝしのもとゆひにてゆはせ申。しやうねん十三のわか

ぎみをいだき申。めいどをさしてぞいそがれける。山ぢにかゝるおりも

あり。はまべにくだるときもあり。一百三十六ぢごくを。めぐりておめに

かけらるゝ。さづほのほのぢごくとをしへは。げにもまことにおそろし

や。たかあさ百よちやうばかりの山なるが。ほのほのたつと見しよりも。せつ

ながあひだにやけくだけ。みぢんとあんりこはいとなり。四はうへばつ

とたちにけり。又かしこをみればひろさ八まんゆじゆんふかさも八万

ゆじゆんのちのいけあり。これはいかにとゝひければ。ここそ女人のおつ

る。ちのぢごくと申ける。されは女人と申は。しやばにありしとき月に(一?)

どのぐはつすい。又はさんのひもとくとき。いしゃうyいるいをぬぎすてゝう

 

みにてすゝげばりうじんのとがめあり。いけにてすゝげばいけのかみ

のふかくいましめ給ふ也。水のくみあげてすゝぎつゝ。その水をすつ

れば。ちじんくはうしんの御身につるきとなるて身をとをす。かはにて

すゝげばいちさいしゆじやうがこれをばしらで此水くみてほとけにた

むけ。しゆつけをくやうし申せば。すなはちこれをふじやうじきとめさ

るゝ也。さて此くけんと申は。ちのいけのおもてに。くろがねのつなをはり

五人のおにが五しきにへんじいけのおもてにおつたてゝ。このつなわた

れとかしやくする中ほどまてもわたりえず。ふみはづしかつはとお

ち。五しやくの身はしづみ。たけなるかみはたゞうきくさのごろくなり。

うきあがらんとせしときは。てつちやうをもつて又おし入。あらかなしや

といふこえは。さゝがにのいとよりほそきこえぞするこれこそなん

ぢかしやばにてなしけるつみとがよ。われをうらみと思ふなと。こく

そつどものいかるこえは。なるかみよりもおおろしや。かゝるくけんはい

かにしてかはのがるべきとゝひ給へば。さん候。しやばにて百三十三ほん

 

 

13

のけつほんきゃうをもたものち。又は御ねんぶつをも申て。ごしやうぜ

むしよといのれば。すぐにじやうどへまいる也。しやばにてぜんはなさず

して。あくをこのみじやけんのこゝろのみにて。ぶつともほうともしら

ずしてしするをんなのざいごうなりとぞかたりける。それをばす

きてがきたうにつき給ふ。立よりみなもと御らんずれば。うさいがき

むざいがき。ちくれんがきと申て。かずかぎりはなかりけり。石をかさ

ぬるところもあり。はなをつみしものもあり。その中にがき一人。をど

りはねてわらひよろこぶ。みなもとふしぎに思召。なんぢが身にも

おかしきことがあるよなとの給へば。かのがきこたへてさん候われらが

身にうれしき事の候。それがしが七世のまご一人。いましやばに有ける

が。しゆつけになり候が。やがてうかまんうれしさに。これのみわらひ候と

申ける。みなもときこし召。げにやほとけのとき給ひし。一人しゆつけすれ

は。きうぞく天上するととかせ給ふ。いまこそおもひしられたれ。しん

るいのなかにしゅつけ一人あれば。そのるいかのうちのうしむまゝで。じ

 

やうぶつ申ときく。これまうごならじやうぶつもまうごなる

べしと。いまこそ思ひあたれり。われものゝふのこゝろざしなりしかと

。かやうの事をおもへば。とやせんかくやあらんと。思ひわきまふかたぞ

なき。ほうげんへいぢのらんに。一もんみなうたれぬれば。ぼだいをとふらふ

ためならば。しゆつけもめでたかるべし。又おやのかたきをうち。ほんい

をとげんためならばゆみやをとりてけうやうにほうぜんと思へば

。しのびのなみだせきあへず。さてしもあるべきことならねば。うちす

ぎとをらせ給ひしかば。しゆらだうにつき給ふ。立よりつく/\御らん

ずれば。まづしやばにてちゝを人にうたせ。其かたきをうたずしてしゝ

たるものとみえつるが。われとわが身をきりつつきつ。一かたならぬ

くげん也。こゝかしこをみ給へば。みだれきりむすぶ。まけたるかたはにげて

ゆき。かちたるかたはかちどきつくり。ときのこえやさけびのおと。天ち

もひゞくばかり也。さて此くげんはなにとして。野がる壁ぞとの給へば。し

 

 

14

やばのいくさ其ときに。うつかたきをばかねとなし。つるきをしゆもくとく

はんねんし。ぐはこのいんぐははかくのごとし。みらいはともにじやうぶつと

おもへばすなはちげだつなるべしとぞ申されける。それをもうちすぎ

ぢごくのかず/\いづれおろかもなく。かしやくのせめひまあし。ざいにん

のさけぶこえおそろしきとも中/\に。ふでにかくともをよひ

がたし