仮想空間

趣味の変体仮名

両黒塚秋夜凩 3巻  紫竹堂

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2532333/1/2

 

2

癸酉 夏 稿成  奥州白川 紫竹堂戯作

武州足立ヶ原(ぶしゅうあだちかはら)

奥州安達ヶ原(おうしうあだちかはら) 両黒塚秋夜凩(ふたつくろづかしうやのこがらし)

                       全三冊物 巻之一

 甲戌春

 新鐫(しんせん) 馬喰町二丁目 西村屋興八版

 

 

3

紫竹堂主人作 画

ふたつくろづか秋夜凩

 文化甲戌春発売

 永寿堂西村屋版

 

(上段挿絵内)

(上右から読み)奥州安達原之図(みちのくあたちかはらのづ)

(右下)二本松 御城

黒つか に

 いまも こもるや

   きり/\ す  涼佐      

 

 黒塚址 柚井村 福岡村

 

(下段本文)

夫(それ)あだちがはら黒塚の奇談は両所に

ありて。いまたその実(じつ)をたゞさす。しかあれ共。

武州足立郡(こほり)大宮山東光寺は熊

那智山(なちさん)東光房(とうくはうぼう)草創にて則ち

黒塚の悪鬼を法力もて退散せしとは

寺説(じせつ)に見へたり又奥州安達原黒塚に

鬼こもりしとは平の兼盛(たいらのかねもり)が歌を根として

宥慶(ゆうけい)が事を作りし謡曲は。奥州と武

州と混合せしものか。それはともあれ。こゝに編(へん)

ずる処ははじめに土偏(とへん)の口碑(こうひ)奇話を

元(もと)とし終(おはり)に往昔(むかし)弘仁(こうにん)の東夷征伐を編

術し鸚鵡(おうむ)の鳥の人真似こまねも茲年(ことし)

新作の数に備へて四方(よも)の御子

息(おこさま)がたに御ひいきをねかふのみ

 甲戌春正月 紫竹堂主人誌

 

それ安達原黒塚の奇談は両所にありて、未だその実(じつ)を糺さず。然あれども武州足立郡(あだちごおり)大宮山東光寺(とうこうじ)は熊野那智山(なちさん)東光房(とうこうぼう)草創にて則ち黒塚の悪鬼を法力以て退散せしとは寺説(じせつ)に見えたり。又奥州安達原黒塚に鬼籠りしとは平兼盛(たいらのかねもり)が歌を根として宥慶(ゆうけい)が事を作りし謡曲は、奥州と武州と混合せしものか。それはともあれ、ここに編(へん)ずる所は初めに土偏(どへん)の口碑(こうひ)奇話を元(もと)とし、終りに往昔(むかし)弘仁(こうにん)の東夷征伐を編術し、鸚鵡(おうむ)の鳥の人真似小真似も茲年(ことし)新作の数に備えて四方(よも)のご子息(おこさま)がたに尾贔屓を願うのみ
甲戌春正月 紫竹堂主人誌(しるす)

 

 

4

(上段本文)

▲大和物語に平の兼盛

みちのくにてかんいんの

三のみこのむすめにあ

りける人くろつかといふ

処に住けりその女とも

におこせたりける

 ○みちのくのあたちか

  原の黒つかに鬼こ

  もれりといふはまこ

  とか

といひたりけりかくてそ

の女をえんといひけれ

ばおやまたいとわかくなん

あるいまさるべからずおり

にをといひけれは原

にいくとて山吹につけて

 ○花さかり過もやする

  とかはづなくいての

  山ふきうしろめだ

  しも

 

といひけり

大和物語に、平兼盛陸奥(みちのく)にて官人の三の御子の娘にありける人、黒塚という所に住みけり。その女ともにおこせたりける。
陸奥の安達原の黒塚に鬼籠れりというは誠か
といいたりけり。かくてその女を「えん」といいければ、親又いと若くなんある。今去るべからず折にを問いければ、原に行くとて山吹につけて
○花盛り過ぎもやすると蛙(かわず)鳴く井手の山吹うしろめたしも
と言いけり。

 

▲又拾遺集陸奥国

名取郡黒塚といふ処に

重之が妹あまたありと

きゝていひつかはしける

     平かねもり

 ○みちのくのあたちか原

  の黒つかに鬼こもれり

  ときくはまことか

とありおにこもるとは女のおほ

くある事なりとなん

作者曰名取郡に黒塚

ありといふ事きかすあや

まれりか今いづあだちか原

は二本松のきんへんなり

則あだち郡にてくろづかの

あとは二本松と八丁の目との

間にて右の方に向てあり

草むらの中にかしは木む

ら立中に巌(いはほ)のこれり

 

▲又拾遺集陸奥国名取郡黒塚という所に重之が妹数多ありと聞きて、言い遣わしける。
   平兼盛
陸奥の安達原の黒塚に鬼籠れりと聞くは誠か
とあり、鬼籠るとは女の多くある事なりとなん
作者曰く名取郡に黒塚ありという事聞かす謝れりが、今言う安達原は二本松の近辺なり。則ち安達郡にて黒塚の跡は二本松と八丁の目との
間にて右の方に向かってあり。草むらの中に柏木むら立つ中に巌(いわお)残れり。

 

(右頁下段挿絵内)

黒塚鬼太郎が母邪心婆(じやしんばゝ)は

後に安達原の妖婦転下姥(てんかうば)

 

(左頁)

坂上田村丸息女

   玉菊姫

 

 

5

奥州征夷将軍 文屋綿丸(ぶんやわたまる)

 

古今集

みちのくの

 あたちの

   真弓われひかば

 末さへ よりこ 

忍び/\に


古今集
陸奥の安達の真弓我引かば末さえ寄り来忍び忍びに

 

(下)東光房

   阿闍梨

   宥慶

 

武州足立原盗賊魁首(くはいしゆ)

黒塚鬼太郎

実は

奥州夷賊(いぞくの)

張本(ちやうぼん)悪路王(あくろわう)

高丸(たかまる)の一子(いっし)

  鬼夜叉丸(おにやしゃまる)

武州足立ヶ原盗賊魁首(かいしゅ)黒塚鬼太郎、実は奥州夷賊(いぞく)の張本(ちょうぼん)悪路王高丸(あくろおうたかまる)の一子、鬼夜叉丸(おにやしゃまる)

 

6

菊姫

婢女(こしもと)柴垣(しばがき)

 

てんか

 うば

巡村(しゆんそん)

の ところ

  したに/\

ヘイ/\

おはよう

ござり ます

 

(下段本文)

「ほつたん」 むかし/\坂上田村丸奥州ほしが城にて薨(かう)せ

られしをゆへありてしばらく御病気とのみ申ふかくつゝみける

そのきよをかゝかひいづくともなくひとりのらう女きたりて村人

をたぶらかしぬるは田村丸の?????またゟのつかひにて此たび

たむら丸ごびやうきにつきごいんきよをねがひ給ひみやこへ

のぼられんずる処わかきみ富士若丸七才にしてとみに

やみうせ?させ給ひけれは此事を大とのに深くかくし

かのわかきみに似よりたるかほかたちのものあらはなんによ

にかきらずめしいだし若君となしおきなば大とのゝ

願ひもすみやかにすみかつはおくがたのおんなけきも

やむべきてだてなりされはかくみつ/\のおんつかひよ

じんならねば年ごろかしづきぬるわらはにおゝせ

つけられかくはる/\゛下りぬるとあればおろかなる百

姓どもみなそんきやうあさからびしておのこおんな

のわかちなく五六才より七八才まての子ども

をひきつれ/\きたりて此うばかまへにて

みせけれは其うち十人にまさりたる

うるはしき生れの子供はみな手帳

にしるしおつてごさたああるべけれはそれまで

大せつにあづかるべしと申つけでぞたち

さり又つきのむらさとにいたる此らう女つね

に魚鳥(きよてう)をこのみ犬猫(いぬねこ)のごとき見るもきらひ

なりとて先だつてふれいだしおきぬればみ

ないぬねこをしばりおきぬ扨又馬かごののり

ものもきらひ村/\にてたつしやなる若ものゝ

せにおふておくりしとなり此ばゞア何事によ

らずよく古今の事をしり口まめに「次へツゝク」

 

天下乳母、巡村(じゅんそん)のところ。
下ァに下ァに。
ヘイヘイお早う御座います。

「発端」昔々坂上田村丸、奥州星ヶ城にて薨(こう)せ
られしを、故ありて暫く御病気とのみ申し、深く包みける。
その「きよをかゝかひ」何所ともなく一人の老女来たりて、村人
を誑かしぬるは、田村丸の????の方よりの使いにて、この度
田村丸御病気につき御隠居を願い給い、都へ
上られんずる所、我が君富士若丸(ふじわかまる)七才にして頓に
病み失せさせ給いければ、この事を大殿に深く隠し、
かの若君に似よりたる顔貌(かおかたち)の者在らば、男女(なんにょ)
に限らず召し出だし、若君と為し置きなば大殿の
願いも速やかに済み、且つは奥方の御嘆きも
止むべき術(てだて)也。されば各密々の御使い、余
人ならねば、年頃傅きぬる童に仰せ
付けられ、各はるばる下りぬるとあれば、愚かなる百
姓共皆尊敬(そんきょう)浅からずして男(おのこ)女(おんな)
の分かち無く、五、六才より七、八才迄の子供
を引き連れ/\来たりて、この乳母が前にて
見せければ、そのうち十人に勝りたる
麗しき生れの子供は皆手帳
に記し、「追って御沙汰あるべければ、それまで
大切に預かるべし」と申し付けてぞ立ち
去り、又次の村里に到る。この老女常に
魚鳥(ぎょちょう)を好み犬猫の如きは見るも嫌い
なりとて、先立って触れ出だし置きぬれば、み
な犬猫を縛り置きぬ。扨又馬籠の乗り
物も嫌い、村々にて達者なる若者の
背に負ぶって送りしと也。この婆ア何事に依
らず、よく古今の事を知り、口まめに「次へ続く」

 

 

7

「ツゝキ」いろ/\の事をかたる百姓ども

しゆ/\゛の事をとふに一ツとしてしら

ざる事なくとう/\と水のなかるゝ

ごとくこたひけるはふしぎなる

女なり  〽わたくしには どふぞ女のほれる ほうをおしへ 申され

〽此おばァ さんは おもの しりじや からどうぞ 

   わたしにて よいおとこのかねを うんともつてしいとのない 

    らくなところへよめ入する 

ような事をおしへ下さんせ其かわり

  かたを たんと もん で あけ やす

 

「続き」色々の事を語る。百姓共
種々の事を問うに、一つとして知ら
ざる事無く、滔々と水の流るる
如く答えけるは不思議なる
女也。

〽私には どうぞ女の惚れる 法を教え下され
〽このお婆さんは お物知りじゃから どうぞ私には良い男の金をたんと持って姑の無い楽な所へ嫁入りするような事を教えて下さんせ。その代わり肩を揉んであげやす

「よみはしめ」

其のちくろづかおにたらうといふ

さむらひおゝくのともまわり

をつれきたりてせんだつて

てんかうばかめにとまりし

「読み始め」
その後、黒塚鬼太郎という侍、多くの供回り
を連れ来たりて、先達て
天下乳母が目に留まりし

 

子どもをめしつれみやこにのぼるとげんぢうに申つけけれは

むらおさはじめおそれおのゝきつれきたる此とき鬼太郎いふ

此たびのぎはごくみつ/\の御用なれは世上にさたする事なかれ

ごぜんのぎよいにかなひしをえらひ給ひかなはざるは

さつそくおくりかすべしかならずおそきを

あんづるなかれそのども用意ののり

ものもちきたれと

せきたつれ ば▲


子供を召し連れ都に上ると厳重に申し付ければ、
村長(むらおさ)始め恐れ慄き連れ来る。この時鬼太郎言う。
「此の度の義は極密々の御用なれば世上に沙汰する事なかれ。
又、御用に立つ子供は一人なれども大勢連れ上るは
御前の御意に叶いしを選び給い、叶わざるは
早速送り帰すべし。必ず遅きを
案ずる事なかれ。その共、用意の乗り
物持ち来たれ」と
急き立つれば▲

 

(右頁下)

▲ちゝはゝ子どものそばによりきのふけふまてそへちしてひるね

のゆめをむすばせてまだひとときもちゝはゝのそばをは

なれし事なきをとをきみやこにたゞひとりしらぬおかたに

つれらるとは上意なればこそぜひもなしとなみだにくれて

わかれをおしめばこどもは何心なくかゝさま何をなかしやんすぼ

んはあのおぢさんととをいところへいておかいべゝたんともらひ

くるほどになかずとまつてといふをきけばなをいやましぬ

なみたをぬくひよふいふたかあいやといだきあけかほつく

/\と打なかめごぜんのご用にたつならはこれか一世の

わかれなりこれこのようにうつくしううまれついたる

此子のしあはせろはいふものゝ此おや/\はいかなる

うすひえんなるぞそれとひはうれしひやらかな

しいやらでわかれかつらきとはなさねば鬼太郎

見ぐるし/\子どもの出世をよろこびはせでかゝる

びらうのふるまひのきおらうとしかりつけ/\

かごにいりれはあはれをしらぬ下らう

どもはなうたなからにいそきゆく

▲父母(ちちはは)子供の側に寄り、昨日今日まで添え乳して、昼寝
の夢を結ばせて、まだ一時(ひととき)も父母の側を離
れし事無きを、遠き都に只一人、知らぬお方に
連れらるとは、年なればこそ是非も無しと、涙に暮れて
別れを惜しめば、子供は何心無く「かかさま何を泣かしゃんす、坊(ぼ
ん)はあのおじさんと遠い所へ往て、赤いべべ、たんと貰い
来る程に、泣かずと待って」と言うを聞けば、尚いや増しぬ
涙を拭い「よう言うた、可哀や」と抱き上げ、顔つく
づくと打ち眺め、「御前の御用に立つなら、これが一世の
別れ也。これこの様に美しゅう生まれついたる
この子の幸せ、とは言うものの、この親々は如何なる
薄い縁なるぞ。それ思いは嬉しいやら悲
しいやらで、別れが辛き」と離さねば、鬼太郎
「見苦し見苦し。子供の出世を喜びはせで、かかる
尾籠の振る舞い、退きおろう」と叱りつけ叱りつけ
籠に入りれば、哀れを知らぬ下郎
共、鼻歌ながらに急ぎ行く。

○さて又黒塚鬼太郎といふは先の?

田むら丸におゝしうかくらがおかにて

ほろぼされし夷そくの張本悪路

王たか丸の一子にして鬼夜刃丸と

?????あだちかはらにかくれ

がをかまひいたりしが田村丸のいに

おそれしばし身をかくしむさしの

くに大みやといる処にかくれいたり此処もみちのくと

同名にてあだちかはらといふ処なればかくれ

 

がをかまひ大せいの

下賊をともなひ

いたりしかみちの

くあだちかはら

には鬼太郎か母の

邪心ばゞ申一人い

たりしか

鬼太郎と

しめし あはせ

てんかばゞアといつはりて

子どもをかどひきたりて

いまようおどりをおしへ

とをきくに

にいざなひくるはにうり

おゝくの金

ぎんを

むさぼり

けるがこの

鬼太郎おやのかたき

田むら丸をねろふか

故にぐん用金とたくはひ

かつ一くせあるものをたつね

むほんの用いぞなしける

○扨又黒塚鬼太郎というは、先の?(氏?)
田村丸に奥州神楽岡(かぐらがおか)にて
滅ぼされし夷賊の張本、悪路
王高丸の一子にして、鬼夜刃丸と
????安達ヶ原に隠れ
家を構え居たりしが、田村丸の威に
恐れ暫し身を隠し、武蔵の
国大宮という所に隠れ居たり。この所に陸奥
同名にて、足立ヶ原という所なれば、隠れ

家を構え大勢の
下賊を伴い
居たりしが、陸奥
安達ヶ原
には鬼太郎が母の
邪心婆ア一人居
たりしが、
鬼太郎と
示し合わせ
天下婆アと偽りて
子供を門引きたりて
今様踊りを教え
遠き国
に誘い
廓に売り
多くの金
銀を
貪り
けるが、この
鬼太郎、親の仇
田村丸を狙うが
故に軍用金も蓄え
且つ一癖ある者を訪ね
謀反の用意ぞ為しける。

 

(上)

おや/\

わかれをおしみ

みおくる

 

鬼太郎か

下賊

ども

子ども

をいさなひ行

親々、別れを惜しみ見送る。
鬼太郎が下賊共、子供を誘い行く。

 

 

8(重複)

 

 

9

扨又みやこにては田村将ぐんおもきいたづきになやみ給ふとのみ聞へければ

北のかたのおんあんじ大かたならすわけてはことし十六才にならせ給ふ

玉きくひめことのほかのかう/\にてしんしよくもわすれあんじわづ

らはせ給ひなにとぞ父君のおはしますみちのくとやらんに下りて

ごかんびやういたしたやと母きみに願ひ給ひひそかに玉きくひめに男ま

さりのこしもとしばがきといふをそへしのびすがた

に身をやつしはる/\のみちのくにこそく

だり給ふ日あらずしてしら川のせきに

つき給ふ此せきもりは鬼太郎がみか

たにてありけれは玉きく姫しう

/\のすがたを見あやしみこれ

田むら将くんの姫ならんかねて鬼

太郎みぬ恋にこかれ給ふもの

なれはいざからめとりて

おんしやうにあづからん

ととりかこみひめを

いだき引たてゆか

んとするときに

こしもとしばかき

はいろ/\といゝわけ

ひめをたすけのかれんとすれ

とも中/\きかぬあら男ふたりをおさへて

はなさねは柴かきはこゝぞ一大事五人七人の男は

ことともおもはねども姫の身のうへけがありてはいかゝは

せんとあんじられとやせんかくやときをもます△


扨又都にては村将軍重き病(いたつ)きに悩み給うとのみ聞こえければ、

北の方の御案じ大方ならず、わけては今年十六才にならせ給う
菊姫、殊の外の孝行にて、寝食も忘れ案じ煩
わせ給い「何卒父君のおわします陸奥とやらんに下りて
御看病致したや」と母君に願い給えば母君も「共に東(あづま)に下りて」
とは思し召せども世の聞こえを憚り給い、密かに玉菊姫に男勝
りの腰元「柴垣」というを添え、忍び姿
に身を窶し、遥々の陸奥にこそ下
り給う。日あらずして白河の関
着き給う。この関守は鬼太郎が味
方にてありければ、玉菊姫
従の姿を見、怪しみ、「これ
田村将軍の姫ならん、兼ねて鬼
太郎、見ぬ恋に焦がれ給う者
なれば、いざ絡め捕りて
恩賞に預からん」
と取り囲み、姫を
抱き引き立て行か
んとする時に、
腰元柴垣
は色々と言い訳、
姫を助け逃れんとすれ
ども中々聞かぬ荒男二人を押さえて
離さねば、柴垣はここぞと一大事、五人七人の男は
事とも思わねども、姫の身の上、怪我ありては如何は

せんと案じられ、とやせん、かくや、と気を揉ます△

 

 

(下)

△はやさるくつわに口ふさ

がれいふべき事もならざ

ればむねん/\と

しう/\゛はなみだにむせ

びひかれゆくおりしもき

かゝるたびのさむらいこれ

と見るよりかけきたり

す十人をかたひしきに

ばら/\/\となけ

のけてひめをたす

けあらあやうかりし

はや/\此ばは

おち給ひあとに

それかしあるからは

おきづかひ あられ

ますなといさき

よきたすけに

あひ大きによろこ

び給ひたれかは

しらねと此ばのな

んぎたすけし そちが

心ざしわすれはせじ

まんぞくなりと一

れいのべ

給へは

△早猿轡に口塞
がれ、言うべき事もならざ
れば、「無念、無念」と
主従は涙に噎
び引かれ行く。折しも来
かかる旅の侍、これ
と見るより駆け来たり、
数十人を肩拉ぎに
バラバラバラと投げ
退けて姫を助
け、「あら危うかりし、早々この場は
落ち給い、後に
其あるからは
お気遣いあられ
ますな」と潔
き助けに
合い、大きに喜
び給い、「誰かは
知らねどこの場の難
儀助けしそちが
志、忘れはせじ、
満足なり」と一礼
述べ給えば「」

 

 

(上左隅)

しら かわ の せき

 

 

10

 紫竹堂戯作

武州足立ヶ原

奥州安達ヶ原 両黒塚秌夜凩 巻之二

           西與板

 

 

11

玉きくひめ

こしもと 柴がき

 

(中)

アイタゝゝゝ

こゝいちばん

まつてもらおふ

 

(下段9頁からの続き)

「 」アゝもつたいなき

おんことばわたくし事は

ほしか城のきんしんく

ろいは八郎と申もの

ひめのおげかうとし

らするものありおんむ

かひにまいりしなり

お心やすく思し

めしはやおんい

そき給ひしと

いふを聞て

   ふたりは

よろこびかぎ

りなくいそき

てこそはおち 給ふ

「」「アア勿体無き
御言葉。私事は
星ヶ城の近臣、黒
岩八郎と申す者、
姫の御下向と知
らす者あり、御迎
えに参りし也。
御心安く思し
召し、早御
急ぎ給いかし」と
言うを聞いて、二人は
喜び限
り無く、急ぎ
てこそは落ち給う

 

(上段)

さきにわけちり

しあらしことも

又もや大ぜいきたりて八ほう

よりおつとりまき切てかゝれど

ことともせずまちうけたりぐつむしめら

めんどうなりと諸はだぬきあたるを

さいはい切はらへなきたつれば何かは

もつてたまるべき風にこのはのちる

ごとくみなかなわしとわけゆ

きける

先に分け散り
荒子(あらしこ)共
又もや大勢来たりて八方
より追っ取り巻き切って掛かれど
事ともせず待ちかけたり。「ぐつむし(屑虫?)めら
面倒なり」と諸肌脱いで抜き当たるを
幸い、切り腹へ薙ぎ立つれば、何かは
以て堪るべき、風に木の葉の散る
如く皆「敵わじ」と逃げ行
きける。

○さてまたひめはしばかき

にひきたてられよ

ふ/\とおちのび

給ひて名にし

あふ大くま川のほとりにつき給ふおりふし水かさまさりてこすべきたよりも

なかりけれはこゝかしことわたしの舟をたつねとふべき人もあらざれは

河原をこなたかなたとあるきめぐるときにゆふ日はにしの山のはに入

とうさいすりにじんかはなしねくらにかへるからすありかうとはなけどいづれとも

ぜんすべもなくて両人はいとゞあはれをもよほしぬこのときかはらやなきの

下なる石にこし打かけたばこずは/\くゆらせし七十あまりの老女居たり「次ツゝク」


扨又姫は、柴垣
に引き立てられ、漸
と落ち延び
給いて、名にし
負う大熊川(阿武隈川)のほとりに着き給う。折節水嵩増さりて越すべき頼りも
無かりければ、此所彼処と渡しの舟を訪ね問うべき人も在らざれば、
河原を此方彼方と歩き巡る。時に夕日は西の山の端に入り、
当囀りに人家は無し、塒に帰って烏あり、カアとは啼けど何れとも、
善すべくも無くて、両人はいとど哀れを催しぬ。この時、河原柳の
下なる石に腰打ち掛け、煙草ズハズハ燻らせし七十余りの老女居たり「次続く」

 

(下セリフ)

コフ

ふまれては

うんどんに なる

こう踏まれては饂飩になる

 

 

12

「ツゝキ」柴かきはやくもこれを見つけ

はしりよりてこしかゝめアばゞさま

われ/\は此わたりへはじめてのものふ

ねやあるかはしやあらんかとさきほど

よりたづねたどひぬれども道のあないは

しらずひはくるゝいかんともたよりなきおりから

おんみにあひぬる事のうれしや名にとぞわた

しのあるところおしへてたべといゝはばゞアは

うちわらひヲゝせんこくよりさうだらうと

思ふてこゝにまちうけたコフ見うけたところは

いなかにみなれぬそのなりふりみやこかたの女中

だナ此ばゞアおたのみとあればわたりのふね出して

しんぜんたとひおたのみなくとてもおくるとりのかゝ

らんかとわたしのふねをおしかくしまい

ばんまちか此かいどうサアふねにのらつ

せいと川そへのやなきの下よりひき

 

いたすにふねに

両人をのせ川の

中ほとにい

たりいゝけるは

いかに女中

わたしせん

をもらひませう

 

ヲゝなるほど/\おとしよりの

ごくらうわたしちんしんせま

しよといふものゝせんこくの

ろうぜきにあひしおりから

つゝみも懐中もみなう

しなひやう/\此ばに

おちのびて一せんのたく

わひなくいかゝはせんと心の

うち柴垣しあんにこま

ともしろしめさぬ姫

きみははやくとらせい

ちんせんをとおゝせにしばかきは

つとこたゆれとかくとは打あけ申

されずとやかくいゝてかしこのきし

につきいかにもせんと心ししりよす

それと見てとる此ばゞア舟ちんなく

ば舟かへるもとのきしへあかりやがれさなくばふたりが衣裳を

ぬき通れヤアと大声出してのゝしりけるそのがん色やしやのごとく見へ

けれはひめはおそれいかに柴かきたくはへはいかにしつるととはれてしばがき

おそれいりせんこっくのきなんにてつゝみもうしなひぬるもいかなるいんくわのめくり

あひぞかんにんあそばせおひめさまとなみだながらにいゝけれはひめもおな

じくなみたくみアゝぜひもなやしばがきわかみもそちも此ばにて丸の

はだかにむかれなばいかにしてか父きみのおはしますうづしかみねのぼしか城

ほどちかきとはいゝなからゆくべきたよりもなかるべしさりとてはまたいかゝせん

みやこを出るそのときに母きみのおてづからわらはがはたにつけ給ひしまもり

ふくろの黄金いかゝるうきなんすくひとの御心かやいざこれとらせてやりばゞが△

「続き」柴垣早くもこれを見付け、
走り寄りて腰屈め「ア、婆様、
我々はこの渡りへ初めての者、
舟や有るか、橋や有らんかと先程
より尋ね辿いぬれども、道の案内は
知らず、日は暮るる。如何んとも頼り無き折から
御身に会いぬる事の嬉しや、何卒渡
しの在る所、教えてたべ」と言えば、婆アは
打ち笑い、「おお、先刻よりそうだろうと
思うて此所に待ち受けた。こう見受けや所は
田舎に見慣れぬその形振り、都方の女中
だな。この婆アお頼みとあれば、渡りの舟出して
進ぜん。譬えお頼み無くとても送る鳥の掛か
らんかと、渡しの舟を押し隠し、毎
晩待つが此街道、サア舟に乗らっ
せい」と川沿の柳の下より曳き
出だす。小舟に
両人を乗せ、川の
中程に至
り言いけるは、
「如何に女中、
渡し銭
を貰いましょう」

「オオ成程成程、お年寄りの
御苦労、渡し賃進ぜま
しょ」と言うものの、先刻の
狼藉に会いし折りから
包みも懐中の皆失
ない、漸うこの場に
落ち延びて、一銭の蓄
え無く、如何はせんと心の
内、柴垣思案に細
とも知ろしめさぬ姫
君は「早く取らせい
賃銭を」と仰せに柴垣「は
っ」と答ゆれど、斯くとは打ち明け申
されず、とやかく言いて彼処の岸
に着き、如何にもせんと心に思慮す。
それと見て取るこの婆ア、舟賃無く
ば、舟返す。元の岸へ上がりやがれ。然も無くば二人が衣裳を
脱ぎ通れヤア!」と大声出して罵りける。その顔色夜叉の如く見え
ければ、姫は恐れ入り、「先刻の危難にて包みも失い今は身に一銭の蓄え
無く、かかる憂き目を陸奥に負う熊川に遭いぬるも、如何なる因果の巡り
遭いぞ、堪忍あそばせお姫様」と涙ながらに言いければ、姫も同
じく涙ぐみ、「嗚呼是非もなや柴垣、我が身もそちもこの場にて、丸の
裸に剥かれなば、如何にしてか父君のおわします宇津峰の星ヶ城、
程近きとは言いながら、行くべき頼りも無かるべし。さりとては又如何せん、
都を出るその時に母君の御手ずから、わらわが端に付け給いし守り
袋の黄金は、かかる憂き難救えとの御心かや。いざこれ取らせてやり、婆が△

 

(右頁下)

△いかりをやめよと仰にしばかきうちよろこびしからば

てうだいいたさすべしヤヨろう女せんこくよりのお

はらたちもつともしごくなり此一ひらのこがねふな

ちんにとらすなりはや/\かしこに

舟つけよといふを聞(○に―)

 

(○にー)かうよく無道の

じやしんばゞア〽コレ

女中これしきのめくされ

かねに心かけるばゞア

じやナイはやくはだ

かになりおりやうと

なをもまなこを

いからかしふねを

少しもうごかさねば

ふたりはとほうに

くれはてゝかほ見あはせ

にくさもにくし此ばゞア

 

打はたして舟つけん

とは思ひとも行さき

しれぬ此かいどう

????か

わざわいに

あふ事も

はかられすと

又もしあんの

おりしもあれ

にはかに吹

くる山あら

しに

川べのや

なき

ざは/\/\

「次へ ツゝク」

(右頁下)
△怒りを止めよ」と仰せに柴垣打ち喜び、「しからば
頂戴致さすべし。ヤヨ老女、先刻よりの御
腹立ち、尤も至極なり。この一枚の黄金、舟
賃に取らす也、早く早く、かしこに
舟着けよ」と言うを聞き(○にー)

(○にー)強欲無道の
邪心婆ア「これ
女中、これしきの目腐れ
金に心掛ける婆ア
じゃ無い、早く裸
になりおりょう」と
尚も眼を
怒らかし、舟を
少しも動かさねば、
二人は途方に
暮れ果てて顔見合わせ、
「憎さも憎し、この婆ア

討ち果たして舟着けん、
とは思えども、行き先
知れぬこの街道、
???如何なる
禍、舟
遭う事も
図られず」と、
又も思案の
折りしもあれ、
俄にに吹き
来る山
嵐に
川辺の

ザワザワザワ
「次へ続く」

 

 

13

(下)

「ツゞキ」水上おしくる大なみにふねはおのづときしにつくこれさいはいと

両人はひらりと河原にとびあかれはつゞいておあがるじやしん

ばゞアにぐるをやらしとひめきみのうしろかみひきつかみ

ひきとゞむれはしばかきさいていとみあふおりからかけ

くる黒いわ八郎かようの事もあらんかとおんあと

したひきたりしなりとばゞアとつとづてんどう△

「続き」水上押し来る大波に舟は自ずと岸に着く。これ幸いと
両人はひらりと河原に飛び上がれば、続いて上がる邪心
婆アに来るをやらじと姫君の後ろ髪引き掴み、
引き留むれば、柴垣割いて挑み合う。折から駆け
来る黒岩八郎「斯様の事も有らんかと、御後
慕い来たりし也」と婆アとっと頭転倒△

 

(上)

(挿絵中)

しのぶのそうだ

たゝすみて

ようす

うか かふ

忍聡太、佇みて様子を伺う

 

△さてひとつのつゝみ

を柴かきにわたし

これはせんこくとりおと

されし品なりうけとり

ありてはやく此ばをのき

給ひばゞアはわたしかあひてなりとあた

りになけあふほう?じぐいひきたつれはばゞアは

 まなこをいからしてなかれくあんじやうの大

そとはもちうつてかゝる八郎は

 

ことともせずあいしらいそのうちひめは

しばがきに身をひかれこけつまろひつ

  やう/\とほしか城へといそき給ふ

△扨、一つの包み
を柴垣に渡し、
「これは先刻取り落と
されし品也。受け取り
有りて早くこの場を退き
給え、婆アは私が相手也」と辺
りに有り合う傍示杭、引き立つれば、婆ア
眼を怒らせて、流れ灌頂の大
卒塔婆持ち打って掛かる。八郎は

事ともせずあいしらい、その内姫は
柴垣に手を引かれ、転けつ転びつ
漸うと星ヶ城へと急ぎ給う。

 

○さて又じや心ばゞアは八郎とかゝかひぬれとも

何ぞてきすべきうで?うちころさるべきいき

ほひなればいのちから/\にけ行しか相手にたらぬ

おいぼればゞア打ころすはやすけれどせんなき

事にひまどりせんよりいざひめろしゆごせんと

あとをしたひゆく○ばゞアはあしにまかせてにけ

行しか此とき月かげほのくらく

ゆくさきみへぬがけ道を

ふみはづしてまつさかさまに

どうとおつる川水にたゞ

よふてあがるべきてだて

なくがぶ/\むせぶそのときに

せんこくよりよふす

うかゝひいたる

しのぶの宗太

はしりきたり

柳かぶらに

とりつきて

ばゞアを たすけ

ばさすれば

ばゞアよふ/\

たすけ給ひ/\と(○に十)

○扨又、邪心婆アは八郎と掛かかい(戦い?)ぬれども
「何ぞ敵すべき腕?かれ」打ち殺さるべき勢
いなれば、命辛々逃げ行きしが、「相手に足らぬ
老耄婆ア打ち殺すは易けれど、詮無き
事に暇取りせんより、いざ姫を守護せん」と、
後を慕い行く。○婆アは足に任せて逃げ
行きしが、この時月影仄暗く、
行く先見えぬ崖道を
踏み外して真っ逆様に、
どう!と落つる。川水に漂
うて、上がるべき手立て
無く、ガブガブ咽ぶその時に、
先刻より様子
窺い居たる
忍宗太
走り来たり。
柳株らに
取り付いて
婆アを助け
後擦れば、
婆ア漸う
「助け給い、助け給い」と(○に十)

 

(右頁左下)

(○に十)身をふるはしてなきわびる此とき月かけ

はれわたりつら/\見ればせんこくの侍(さむらひ)に

あらすして山だちすがたヤアこなたはいか

なる人われをたすけ下さるごおんは

 

ありそうみよりも

ふかきちなみをむすぶべき

わらはかすみかはあだちかはら

すなはち一子はおに太郎

今はむさしにゆかりある

くろづかにみをかくす

さればばゞアはたゞひとり

すみあらしたる

くさのいほ

おたづね

あらはかた

しけなし

〽しからは

われもそのほ

とりしのぶ山に

身をかくす小

ぬす人ひとかとひ

の宗太とは

わか事なり

おみしり下され

これをごえ

んにつてあらばおたづね

申さんさらはといゝて わかれける

(○に十)
身を震わして泣き詫びる。この時月影
晴れ渡り、つらつら見れば、先刻の侍に
非ずして山立姿。「ヤア、こなたは如何
なる人、我を助け下さる御恩は

有り。総身よりも
深き因みを結ぶべき、
わらわが住家は安達ヶ原、
則ち一子は鬼太郎。
今は武蔵に縁ある
黒塚に身を隠す。
されば、婆アは只一人
住み荒したる 草の庵、
お訪ねあらば、忝なし」
「然らば吾もその
辺、信夫山に
身を隠す小
盗人、人拐い
の宗太とは
我が名なり
お見知り下され。
これを御縁
に伝手在らばお訪ね
申さん。さらば」と言って 別れける。

 

 

14

○或とき鬼太郎がてした

とんだりはね太おつとあぶ内と

いふふたりのぞくおゝくの子どもを

かどひとづなのはしをわたりしに

おりふしはしのかたはらにやすらひ

いたりしはしのぶの宗太此頃のふしあわせ

いたまひとりにもありつかぬにかの二人きやつ

もたしかにせさ??ひみめよきめのわら

はをあまたともなひきたるはわれにるい

せるしれものと?ためはひがめかどりや

よう?みんとあと?のさ/\としたひゆく

おりからくれかゝる山じにいたりぬればめの

わらはあゆみつかれあしなやみあるき

 

もやらぬをよう/\ずかし此かけこそ

こよひのやどりいそきまいらんと手とり

あしひきつれた?るふたりのおのこあつかひ

にほとんとこまりしようすなれはおりこそ

よしと宗太がむねのさん用はふたりのやつを

ぶつぱなしかのしろものはかう/\とひとり

うなづきかつて覚し此かいどうをみちぬけて

さきへまはり松のこかけにかくろひいてさきに

すゝみしあぶ内にものおもいわび切付れば

おつとあぶないしさつてかたなをぬきあはせ

ヤア何やつぞあしよはをともなひ道に

なやむをみこみてのらうぜきごさ

んなれ山だちめと手まへをあかして

切むすぶこれをみてわらんべはおそれて

あつとなきいだせばおくればせなるとんだり

はねたいだてんはしりにはしりきてま一文じに

切かゝるはねたはあぶ内にまさりし打もの早わざ

のたつ人なればあぶ内はしりぞきなきいるわらべ

を引つれて人さとをくとにけゆけば

しのぶの宗太?たゝかひなからしのび

めにこれを見てかれをにがして

たまるものかたゝんでしもうまち

ヤアがれとこへはかけれどはね

たか手づよき太刀かせにきり

たてられてせんすへなし△

○或る時、鬼太郎が手下、
飛んだり跳太、おっとあぶ内、と
いう二人の賊、多くの子供を
拐い、十綱の橋を渡りしに、
折節橋の傍らに安らい
居たりしは忍の宗太、「この頃の不幸せ、
未だ一人にもありつかぬに、かの二人、きゃつ
も確か贋侍、見目良き女童(めのわらわ)
を数多伴い来たるは、吾に類
せる痴れ者と、見た目は僻目か、どりゃ
様子見ん」と後のさのさと慕い行く。
折から暮れかかる山路に至りぬれば、女
童は歩み疲れ、足悩み歩き

もやらぬを漸うずかし、「この山陰こそ
今宵の宿り、急ぎ参らん」と手取り
足引き連れ立つる。二人の男子、扱い
に殆ど困りし様子なれば、折りこそ
良しと、宗太が胸の算用は、「二人の奴を
ぶっ放し、かの代物は、こう、こう」と、一人
頷き、甞て覚えしこの街道、近道抜けて
先へ周り、松の木陰に隠ろい居て、先に
進みしあぶ内に、物をも言わず切り付くれば、
「おっと危ない!」しさって刀抜き合わせ、
「ヤア、何奴ぞ、足弱を伴い道に
悩むを見込みての狼藉、ござ
んなれ山立め」と手前を明かして
切り結ぶ。これを見て童は恐れて
「あっ」と泣き出だせば、遅れ馳せなる飛んだり
跳ね太、韋駄天走りに走り来て、真一文字に
切り掛かる。跳ね太はあぶ内に勝りし打ちもの早業
の達人なれば、あぶ内は退き、泣き居る童
を引き連れて人里近くと逃げ行けば、
忍宗太戦いながら忍び、
目にこれを見て「彼を逃して
堪るものか、畳んでしまう、待ち
やがれ」と声は掛けれど、跳ね
太が手強き太刀かせ(風?)に斬り
立てられて詮(戦)術無し△

 

 

(左頁下)

△しばらくたゝかひ

ぬれども宗太はね

太にはおよばざりしや

からりとたちうちす

てゝはるかしさつてあや

まり入おどろき入しきでん

のてのうち扨はいかなる

お人かたにて候や御名ゆかしく

候なり〽はねたから/\と打笑ひ

なんぢしらずやこの国にかくれなき

あだちかはらの黒塚組いまはむさしにみを

かくす鬼太郎がこゝうのものとんだりはねた

とはわが事なり〽さてはかねてしる人なるぢや

しんばアさんの一とうにてましますかわれも

組に入鬼太郎さまにずいしんせんたのみ入といふをきゝ

「なんぢかく心をよするうへは手なみはみたり幸ひ魁首(くはいしゆ)

にも此せつ人じゆおんかゝひなされたきおぼしめしのおりにてあれば

これよりすぐにあだちかはらにともなひ魁首にげんざんさせんと

うちつれていそきゆきかくとかたれば太郎よろこびそば近く

まねぎよせさけくみかはし臣下のやくをなす時に太郎宗太にいゝ

けるは何かなよき者の興(けう)やあらんといふに宗太かねて幻

術を学ひ好しかはこゝぞ一術を以て鬼太郎がめをおとろかし

見せんと思ひ仰にしたかひ一きやうごらんに入べしとてふところでして(○に|)

△暫く戦い
ぬれども、宗太、跳ね
太には及ばざりしや、
カラリと太刀打ち捨
てて、遥かしさって謝
り入り、「驚き入りし貴殿
の手の内、扨は如何なる
お人方にて候や、御名床しく
候也」。跳ね太、カラカラと打ち笑い、
「汝知らずや、この国に隠れ無き
安達ヶ原の黒塚組、今は武蔵に身を
隠す鬼太郎が孤高の者、飛んだり跳ね太
とは吾が事なり」「扨は兼ねて知る人なる、邪
心婆さんの一統にてましますか。吾
はこの忍の里の小盗人、宗太と申す。以来は君の
組に入り、鬼太郎様に随臣せん、頼み入る」と言うを聞き、
「汝、斯く心を寄する上は、手並みは見たり。幸い魁首(かいしゅ)
にも、この節人数御抱いなされたき思し召しの折にてあれば、
これより直ぐに安達ヶ原に伴い、魁首に見参させん」と、
打ち連れて急ぎ行き、斯くと語れば太郎喜び、側近く
招き寄せ、酒酌み交わし、臣下の役を為す時に太郎、宗太に言い
けるは、「何かな、良き者の興やあらんと言うに、宗太」宗太兼ねて幻
術を学び好みしかば、「ここぞ一術を以て鬼太郎が目を驚かし
見せん」と思い、「仰せに従い一興御覧に入れるべし」とて、懐手して(○に|)

 

(右頁下)

(○に|)手をうてば俄に天地しんどうしてしゆ

/\のようくはいあらはれいて鬼太郎を

なやませんとすれとも太郎が

そばにぢやしんばゞアいて此

じゆつをくぢきぬればあえて

おどろくけしきなしたゞかぞく

どもはおそれおのゝくばかりなり

宗太あんに相いしおもしろからぬ

みじゆくの一げいおんめにかけ

おそれ入

候なり とて

やめに

 けり

それより

名たかき

下賊をあ

つめ

むほん

のそうだん

にとき

うつり ける

 

(○に|)
手を打てば、俄に天地振動して、種
々の妖怪現れ出で、鬼太郎を
悩ませんとすれども、太郎が
側に邪心婆ア居て、この
術を挫きぬれば、敢えて
驚く気色為し、只が賊
共に恐れ慄くばかり也。
宗太、案に相違し「面白からぬ
未熟の一芸御目に掛け
恐れ入り
候也」とて
やめにけり。
それより
名高き
下賊を集
め、謀反
の相談
に時移りける

 

 

15

安達ヶ原黒塚(あだちかはらくろづか)の

隠塞(かくれがに)参(さん)

会(くはい)の

図(づ)

 

「邪心婆ゝ」

「乙戸安武内」

「熊手ノ手次郎」

 

(左頁)

「黒塚鬼太郎」

「忍之宗太」

「煩多利列太」

「百足の足介」

 

 

16

扨もじやしんばゞはわらんべを二三人づゝわがかくれかにおきていろ/\の

ゆうげいをおしへいづれのさとにうり代なしんふるかそこばくのこがねにかへて

おに太郎かかたへおくりまたつれきたりかくすること月よ両三度

づゝにおよびぬ●爰に紀の国なら山の東光

ぼうにあじやりゆうけいといふものあり諸国

あんきやして此あたちかはらににてひくれ

ちすしのみちにふみまよひこんやしらず

いづれのところにかしゆくせんへいしやまん

り人?ふりたへしとのからうたにわか

身のうへを引くらへ林(枝?)によりとほふにくれて

いたりしかはるか向に燈し火のひかり見へけるゆへ

あらうれしや人さとのあるかさらばかしこに

いたりこよひの宿をからんと

からうして其処にいたり

みれはくづれかゝりし

はら中のひとつや人

すむべうともみへぬありさ

月かけくらきあきのすへ

まつふくかせもすさましく

いかゝはせんと思ひしかよしや

たびねのくさまくらこよひばかりの

かりねせんとかどにたゞずみこえ高ら

かに行くれしたびのそう一夜をあかさせ

たび給ひとあなひせば内より七十あまり

の老母出きたりいたはしやたひの御そう

此原道にまよひ給ひわらはかいほに一よを

あかせよとの御事やよるのふすまは□

扨も邪心婆は童を二、三人で我が隠れ家に置きて、色々の
遊芸を教え、何れの里に売り代為しぬるが、幾許の黄金に替えて
鬼太郎が方へ送り、又連れ来たる。こうする事、月に両三度
ずつに及びぬ●爰に紀の国那智山の東光
坊に阿闍梨祐慶という者在り。諸国
行脚して、この安達ヶ原ににて日暮れ、
千条の道に踏み迷い、今夜知らず
何れの所に仮宿せん。「平沙万
里人煙絶えし」との漢詩(からうた)に、我が
身の上を引き比べ、林に寄り途方に暮れて
居たりしが、遥か向こうに燈火の光見えける故、
「あら嬉しや、人里の在るか、さらば、彼処に
至り、今宵の宿を借らん」と
か、労して其所に至り。
見れば崩れかかりし
原中の一つ家。人
住むべうとも見えぬ有様。
月影暗き秋の末、
松吹く風に凄まじく、
「如何はせん」と思いしが、「よしや
旅寝の草枕、今宵ばかりの
仮寝せん」と、門に佇み声高ら
かに「行き暮れし旅の僧、一夜を明かさせ
たび給い」と案内せば、内より七十余り
の老母出できたり、「労しや旅の御僧、
この原道に迷い給い、わらわが庵に一夜を
明かさせよとの御事、夜の襖は□

 

(中段)

□あらねとも雨

かぜいとふ此いほりくるし

からずは入給ひととぼそを

ひらき入にけるそだおりくべて

もてなすにゆうけいよろこび

かゝるなさけもつゆ深き此はら中

にあるものをとまらでわたる

かりねの雲居をなくぞおろかなる

〽いかにごらうぼあれに見ゆるはひなにめなれぬ

琴瑟(きんひつ)のたくひならずやかゝる露けき原中に

うき世はなれし住いしてかゝるうつわ

を左とし給ふはむかしゆかしき

御かたなり何とぞ旅のうさは

らし此うへの御なさけに一曲

を労したび給ひ〽らうぼ

はづるかんばせににさのいふ

な御そうよ●

□あらねども、雨
風厭うこの庵、苦し
からずは入り給い」と枢を
開き入りにける。粗朶折り焚べて
饗すに、祐慶喜び、
「かかる情けも露深きこの原中
にあるものを、泊まらで渡る
雁金の、雲井を鳴くぞ愚かなる。
「如何に御老母、あれに見ゆるは鄙に目慣れぬ
琴瑟の類ならずや。かかる露けき原中に
浮世離れし住まいして、かかる器
を左とし給うは、昔床しき
御方也。何卒旅の憂さ晴
らし、この上の御情けに一曲
を労したび給い」老母
恥ずる顔(かんばせ)にて、「然宣う
な御僧よ、●

 

(下段)

  • 木石とひとしく此原にとし月

をふるくもすごす老のうば

みやこ人のもてあそぶ品いかて

がげんじ申べきこは

ほか人よりあづかり

ぬ品なりといふ

ものこしにいみ

あれば祐けいな

を/\おくゆかしく

しからは其きにかゝ

わらずと田舎

にはいあるうたなり

とくるし

 からず「次ヘ ツゞク」

●木石と等しく、この原に年月
を古くも過ごす老いの姥、
都人の弄ぶ品如何で
か現じ申すべき。こは
他人より預かり
ぬ品也」と言う
物腰に意味
あれば、祐慶尚
尚奥床しく
「然らばその気に係
わらずと田舎に
流行唄なり
と苦しからず「次へ続く」

 

 

17

     作者紫竹堂白

     画工

武州足立ヶ原

奥州安達ヶ原 両黒塚秌夜凩 巻之三

  甲戌孟春

  新鐫叢賣 西與板

 

 

18

「ツゞキ」うきをわするゝたねなると

ぜひにたのめばらうぼはしぶ/\??つてしから

ばぜひなしおんわらひ下されとて琴ひき

よせてたんじめる○琴ノウタ〽人めしのぶ

の中なれば思ひをむねに

みちのくのちかのしほかま

なのみにてへだてゝ身

をぞこがるゝ○こえはり上て かき

ならしてぞとゝめけるそのさま

みやこ人にもまれなる上手

なれば祐けいしばしかんじかつおどろき

かつあやしみいたりけるばゞいふ〽ひなびたる

おもしろからぬわざなしてよふけわけてさむ

さもまさりたればかしこにいたりたきゝとりき

たりたきひしてあて申さんさるからにかしこ

なる閨(ねや)の中は見給ふなといゝつゝ外(と)のかたへ出行

祐けいあまり老女がていたらくいぶかしくことにかし

このねやのうちを見まじとかたくふせぎいきしは

なを/\もつてふしんなりとしばらく心をらうしいか

にもあやしきねやのうちとかべのくずれよりのぞき

見れば十才ばかりの童女の見めかたちうるはしきをあか

はだかにし口にさるくつわをふくめ手をしばりし死がいなり

あしの見へぬはいかにとみれは両あしをふうともゝより切おとしかた

はらに酒樽をおきしはこれをさかなに酒のみしありさまなり

かくと見るより祐けいおそれこれぞおとにきくあだちかはらの

くろづかにて此家のあるじこそ鬼にていあるあらおそろしの

やどりせしと心もまどひきもきへゆべきかたもしらざれとあし

にまかせてにけ出ぬ○ばゞアはかくと見るよりはしり来りて(○に✕)


「続き」憂きを忘るる種なる」と
是非に頼めば老母は渋々??って「然ら
ば是非無し、御笑い下され」とて、琴引き
寄せて弾じける。 琴の歌「人目忍ぶ
の中なれば、思いを胸に
陸奥の、千賀の塩釜
名のみにて、隔てて身
をぞ焦がるる」と声張り上げて、掻き
鳴らしてぞ、留めける、その様
都人にも稀なる上手
なれば、祐慶暫し感じ、且つ驚き、
且つ怪しみ至りける。婆言う「鄙びた
面白からぬ業為して、夜更け分けても寒
さも勝りたれば、彼処に至り薪取り来
たり、焚き火して当て申さん。然るからに、彼処
なる閨の中は見給うな」と言いつつ外の方へ出で行く。
祐慶、あまり老女が体たらく訝しく、殊に、「彼処
の閨の内を見まじ」と固く防ぎ行きしは、
尚々以て不審なり、と暫く心を労し、「如何
にも怪しき閨の内」と壁の崩れより覗き
見れば、十才ばかりの童女の見目形麗しきを赤
裸にし、口に猿轡を含め、手を縛りし死骸也。
「足の見えぬは如何に」と見れば、両足を太腿より切り落とし、傍
らに酒樽を置きしは、これを肴に酒呑みし有様なり。
斯くと見るより祐慶恐れ、「これぞ音に聞く安達ヶ原の
黒塚にて、この家の主こそ鬼にてある。あら恐ろしの
宿りせし」と心も惑い肝消え、行きべき方も知らざれど、足
に任せて逃げ出でぬ。婆アは斯くと見るより走り来て(○に✕)

 

 

(下)

(○に✕)いかにたびそうかく

せしねやを見ら

れしぞうらみなり

とて追かけきたるは

今まで見し老女の

すかたはおそろしき

鬼女となり のかせ

山かせふき

 おこし

なるかみいなづま

てんちにみち

鬼ひとくち に

 くはんとす

  と

はしり くる

此とき祐

けい心も心ならず

これぞがうまのてつじやうともちたるてつ杖

うちふりて東方にかうさんせ

めうわうなんほうに「ツキへ」

(○に✕)「如何に旅僧、隠
せし閨を見ら
れしぞ、恨みなり」
とて追い駆け来たるは
今迄見し老女の
姿は恐ろしき
鬼女となり、野風
山風吹き
発し、
鳴神、稲妻、
天地に満ち、
鬼「一口に
食わんず」

走り来る。
この時祐
慶心も心ならず
「これぞ強魔の
鉄杖」と持ちたる鉄杖
打ち振りて、東方に降三世
明王、南方に「次へ」

 

 

19

「ツゞキ」くんだりやしや明王西(さい)方に大いとく明王北(ほく)方に

こんかうやしや明王ちうおうに大日大しやうふどう明王

けんがしんしやほつぼだいしんぶんがめうしや

だんあくしゆぜんと

明王のけはくにかけ

てせめかけ/\い

のりければ其法力

にやなんなく

鬼女もにけさり

あめ風やみて夜は

ほのぼのとあくる

ころ人心地

にぞなりに ける

「続き」軍荼利夜叉明王、西方に大威徳明王、北方に
金剛夜叉明王、中央に大日大聖不動明王
見我身者発菩
提心、聞我名者
断悪修善、と
明王の気魄に掛け
て攻め掛け、攻め掛け、祈
りければ、その法力
にや、なんなく
鬼女も逃げ去り、
雨風止みて夜は
仄々と明くる
頃、人心地
にぞなりにける。

○玉きくひめはゆう

ずがみねのしろに

つき給ふとき

におん父田むら

将くんにはひそかに みやこ

へのぼり給ふ

あとにてあり

しかばひめ

大きにな

げき給ひ

これまて くらう

して???しも

父君のおん

かほばせを

はいし何か

の事をも

おんものかたり

せばやとそれ

をたのしみ はる/\

下りしかいなくして引かへし

てみやこにかへらんさりなから△



菊姫は宇
津ヶ峰の城に
着き給う。時に
御父田村
将軍には密かに都
へ上り給う
後にてあり
しかば、姫
大きに嘆
き給い、
「これまで苦労
して???しも
父君の御
顔ばせを
排し、何か
の事をも
御物語
せばや、と、それ
を楽しみ、遥々
下りし甲斐無くして、引き返し
て都に帰らん。さりながら△

 

(中段)

〽しばかき

あら

しこ

どもを

ふせきて

ひめを

おとす

柴垣、荒子共を防ぎて姫を落とす。

 

(下段)

△おんなやみへいゆを

いのり候とてはだの守り

のこくうぞうを出し給ひてこしもと

しばかきと同しくしばしきねんを

こめ給ふ時しもあれぢんがねせめ

たいこらんじやうに打ならし大てき

四方にじうまんすこれ餘人にあらす

くろづか鬼太郎田村将ぐんにうらみをほうぜんとかねて

たくみいたりしに将軍びやうきときゝよきさいはいと大せい

からたひほしがぜうをせめおとし将軍をうちて旧

こんをさんぜんとなりしかるに将ぐんみやこにのぼり給ふ

につきて名あるゆうしはみなつきしたかひ城中無人のおりから

なればふせくべきてだてなく黒岩八郎玉きく姫を

しゆごして一方をきりぬけおとしまいらせあとふりかへり

見れははやしろはてき入こみしと見へて火のてあがりしは

ざんねんなりとたつたるおりからふせせいどつとおどりいで

三人をとりかこみける故八郎柴がき両人にてはたらき

大ぜいをおつちらしひめをおとし奉るときに日くれ

ことにぬばたまのやみのよなればひめの行衛を見うし

ないぬるこそぜひなけれ○扨も玉菊ひめは八郎柴垣か「ツキヘ」

△御悩み平癒を
祈り候」とて、肌の守り
の虚空蔵を出し給いて、腰元
柴垣と同じく暫し祈念を
込め給う。時しもあれ、陣鐘攻め
太鼓、乱声に打ち鳴らして大敵
四方に充満す。これ余人にあらず、
黒塚鬼太郎、田村将軍に恨みを報ぜんと兼ねて
巧み居たりしに、将軍病気と聞き良き幸いと大勢
騙らい星ヶ城を攻め落とし、将軍を討ちて因(遺の間違え?)
恨を参ざんとなり。然るに将軍都に上り給う
に付きて名ある有志は皆付き従い、城中無人の折から
なれば防ぐべき手立て無く、黒岩八郎、玉菊姫
守護して一方を切り抜け落とし参らせ、後振り返り
見れば「早(はや)城は敵入り込みしと見えて火の手上がりしは
残念なり」と発ったる折から伏せ勢どっと踊り出で
三人を取り囲みける故、八郎、柴垣両人にて働き、
大勢を追っ散らし、姫を落とし奉る。時に日暮れ
殊に「ぬばたま」の闇の夜なれば、姫の行衛(ゆくえ)を見失
いぬるこそ是非無けれ。扨も玉菊姫は八郎、柴垣が「次へ」

 

 

20

「ツゝキ」はたらきにてあやう

きばをにけのび玉ひ

しが日くれてやみのよなれは

行べき道をうしなひ八郎

しば垣にもはぐれたづねある

き給ふにとある山かげに火

のひかりみへければあれにも

やとたとりより見たまひ

けれは左はなくて鬼太郎

かてしたのぞくむかでの

あしたくまでの手次郎といふ

両人先ほと八郎らに切たてられて

此処ににけきたりしばしいこひて

いたりしなりひめは八郎と

思ひのほかむくつけ男に

ありけれはにげんとする

を引とゞめヤアそこに

きたるはさいせんのひめ一

人してかよう○

○きて下さつたのふこなたが事はかねて

きゝ見ぬ恋にこがれし候とていだきつき

きゝしにまさる其かほつきどふこらへて

おらりやうがたとへしぬともこなた

ゆへならおしみはせぬとしたひよる

ほどみをちゞめ〽マゝゝゝマアまつて下

されかづならぬみづからをそれほど

までに思ふてくださる心ざしはうれしい

けれとしさいありてあら神に願かけ

おのことはだをふれられぬ身なれば

なにとそなたにしたかはれふぞ

こゝのどうりを聞わけて思ひきつて

かへしてといふかほじろりとうちながめ

 

〽思ひきれとはどうよくじやこなたゆへに

みぬさきから死ぬほどまでにこがれいて

とうからこゝにまちうけしそこれよの

中にわれ/\がのぞみといふはそなた

ばつかりじひでござるなさけ

となきつくどいつ身をもがき思ひ

こんだるいつしんのものくるはしきあり

さまにひめは心もきえいるばかりいき

た心はせざりけり〽エゝおれにばつかりもの

いわせなにがこはふてふるへるのじやしたかもつとも

はやしもおつるきしうのよはさむさをしのく此かゞり

ほばくべてまいらせんといゝつゝおちばかきあつめサアこゝへサア

こゝへとなさけあるほとなほうるさく又もにげゆかんとする

くびもとわしづかみ女めこりやいづくへゆくにけるとてにかさふか

大の男かふたりにてさいぜんよりわけつくどいついふことがうぬが耳

へははいらぬかもふ此うへはいやてもならぬだいてねるとひめをむり

やりおしころばしどうだ/\とのりかゝるひめはなみだに

むねふさがりどくじやの口のうきなんきよその見るめも

いたはしくおりからはせくる八郎とびかゝつてふたりをとらへ

ぢてんどう〽ヤアそなたは八郎あやうい所へようきてたも

つたそなたにわかれしばかきを見うしなひ此ところへ

まよひきてかゝるなんぎにあつたはのふ〽ホゝ此八郎か

まいるからはきづかひはござりませぬイサおん

ともと立いづるひめのたもとを引とゝめイヤこん

りんざいかへしはせぬいらざるなんぢが忠きだて

いのちにかへての恋ひめそこつちへかふとひく手

もとひつぱなして又もづてんどうとけたをせば

むつくとおきてイヤ/\/\ころさはころせとふで此世で

そはれぬ女ならくのそこまてつれてゆくとこしかたな

すらりとぬきすでにかうよと見へければ八郎こらへかね(□に/)

「続き」働きにて危う
き場を逃げ延び給い
しが、日暮れて闇夜なれば
行くべき道を失い、八郎
柴垣にも逸れ尋ね歩き
給うに、とある山陰に火の
光見えければ、「あれにも
や」と辿り寄り見給い
ければ、左(さ)は無くて、鬼太郎
が手下の賊、百足の
足太、熊手の手次郎という
両人先程八郎らに切り立てられて
この所に逃げ来たり、暫し憩いて
居たりしなり。姫は八郎と
思いの他むくつけ男に
ありければ、逃げんとする
を引き留め、「ヤアそこに
来たるは最前の姫一
人してか、よう○
○来て下さったのう。こなたが事は兼ねて
聞き、見ぬ恋に焦がれし候」とて抱き付き、
「聞きしに勝るその顔付き、どう堪えて
居らりょうが、譬え死ぬとも、こなた
故なら惜しみはせぬ」と慕い寄る
程身を縮め、「マゝゝゝマア待って下
され、数ならぬ自らを、それ程
迄に思うて下さる志は嬉しい
けれど、仔細有りて荒神に願掛け、
男(おのこ)と肌を触れられぬ身なれば、
何卒そなたに従はりょうぞ、
ここの道理を聞き分けて、思い待って
帰して」と言う顔ジロリと打ち眺め、
「思い切れとは同欲じゃ。こなた故に
見ぬ先から死ぬ程迄に焦がれ居て、
疾うからここに待ち受けしぞ。これ世の
中に我々が望みと言うは、そなた
ばっかり。慈悲でござる、情けじゃ」
と泣きつ口説いつ身をもがき、思い
込んだる一心のもの狂わしき有
様に、姫は心も消え入るばかり、生き
た心地はせざりけり。「エエ、俺にばっかり物
言わせ、何が怖うて震えるのじゃ。したが尤も
早霜落つる季秋の夜は、寒さを凌ぐこの篝り
榾(ほだ)焚べて参らせん」と言いつつ落ち葉かき集め、「サアここへ、サア
ここへ」と情けある程尚うるさく、又も逃げ行かんとする
首元鷲掴み、「女め、こりゃ何処(いずく)へ行く、逃げるとて逃そうか、
大の男が二人居(し)て、最前より訳つ口説いつ言う事が、うぬが耳
へは入らぬか、もうこの上は嫌でもならぬ、抱いて寝る」と姫を無理
矢理押し転ばし、「どうだ、どうだ」と乗り掛かる。姫は涙に
労しく、折から馳せ来る八郎、跳び付いて二人を捕え
頭転倒、「ヤアそなたは八郎、危うい所へよう来てたも
った。そなたに別れ、柴垣を見失い、この所へ
迷い来て、かかる難儀に遭ったわのう。」「ホホ、この八郎が
参るからは気遣いはござりませぬ。イザ御
供!」と立ち出ずる。姫の袂を引き留め、「イヤ金
輪際帰しはせぬ、いらざる汝が忠義立て、
命に代えての恋姫ぞ、こっちへ、こう」と引く手
元引っ離して、又も頭転倒と蹴倒せば、
むっくと起きて、「イヤイヤイヤ、殺さば殺せ!どうでこの世で
添われぬ女、奈落の底まで連れて行く」と腰刀
すらりと抜き、「既にこうよ」と見えければ、八郎堪え兼ね(□に/)

 

 

(右頁中段)

おひめさま

のおみのうへきづ

かはしいあのようす何

にもせよいそけ/\

お姫様
の御身の上、気
遣わしいあの様子、何
にもせよ、急げ急げ

 

八郎

 

(下段)

(□に/)のつかゝつてぬくても見せず手次郎はけさにきら

れてたふれけりこれを見てあし八はいつあしいだして

にげゆきぬ玉きくひめこれをみていやらしいおとこ

なれとみつからゆへにころされしはあんまりむごいととう

ぞくのてきとはしらずなげかるゝ〽八郎いふせつしやもさ

やうぞんづれど大事のおん身にはかへられぬいざ/\おたちとせな

かにおひ立いでんとしたる処へこしもと柴がきはあらしこどもをおつち

らし八郎が跡をしたつて此ところへきたり此ていをみておどろき

しがひめのつゝがなき

をよろこびつゝ

しう/\三人

うちつれて

みやこに

 こそは

  いそき ける

(□に/)乗っかかって抜く手も見せず、手次郎は袈裟に斬ら
れて倒れけり。これを見て足八は逸足出だして
逃げ行きぬ。玉菊姫これを見て「いやらしい男
なれ」と「自ら故に殺されしは、あんまり酷い」と盗
賊の敵とは知らず嘆かるる。八郎言う、「拙者も左
様存ずれど、大事の御身には代えられぬ。いざいざ、お立ち」と背
中に負い「立出でん」としたる所へ、腰元柴垣は荒子(あらしこ)どもを追っ散
らし、八郎が後を慕ってこの所へ来たり。この体を見て驚き
しが、姫の恙無き
を喜びつつ、
主従三人
打ち連れて、
都にこそは、急ぎける。

 

(下)

「ツギノエノ ワケ」

これはさておき祐けいあじや

りはさつそくみやこにのぼり

あだちかはらのありししだい

をくわしくうつたへければ此

とき奥州の征夷将くん田村

丸ひやう中にてみやこにのぼ

りいたるかゆへにかゝるよう

くはいもありぬらんほとなく全快を

なけば打ほろぼさんに

何のしさいかあらんと思し

めすときにむさしのくに

あだちかはらくろづかといふ処に

鬼太郎といふかうぞく住て人民を

なやまし近国これかためにほと

んどなんきのよしうつたへ来り

また おう しう

 

にも

くろづか

鬼太郎と

いふもの

むほん

をおこし

田村丸の居

城をせめおとし

国中に

はびこりて

人民のなけき

大かたならす早

く大将くんを

下し鬼ぞく

たいぢなし

給へと口々の

ちうしん

くしのはを

ひくか ことし

かゝる処へ黒いわ

八郎玉菊

姫をいざなひ

のぼり事のよう

すくわしく言上

「ツキヘツゝク」

「次の絵の訳」
これは扨置き、祐慶阿闍
梨は早速都に上り、
安達ヶ原の有りし次第
を詳しく訴えければ、この
時奥州の征夷将軍田村
丸病中にて都に上
り居たるが故に、「かかる妖
怪も在りぬらん、程なく全快を
無けば討ち滅ぼさんに、
何の仔細があらん」と思し
召す時に、武蔵国
足立ヶ原黒塚という所に
鬼太郎という強賊住みて、人民を
悩まし、近国これが為に殆
ど難儀の由訴え来たり。
 また、奥州

にも
黒塚
鬼太郎と
いう者、
謀反
を起こし
田村丸の居
城を攻め落と
し、国中に
蔓延りて
人民の嘆き
大方ならず。「早
く大将軍を
下し、鬼族
退治為し
給え」と日々の
注進
櫛の歯を
挽く如し。
かかる所へ黒岩
八郎、玉菊
姫を誘い
上り、事の様
子、詳しく言上
「次へ続く」

 

 

21

「ツゝキ」なしける故これによつて打すておくべからずとて武勇の聞へある文室(や)の

わた丸をせい夷将くんいえらまれむさしみちのくにいたりかの鬼太郎をばしめあだち

かはらのようくはいまて打ほろぼし人民のくるしみをすくふべしと仰付られ

けれはわた丸かしこまつて即日大ぐんを引率し坂上の忠臣くろ岩八郎

をあん内者としてみやこをほつそくいたしける扨又祐けいをめして

此度の免賊さつそく退治のためなんぢごんぎやうつとむべしとの

事故さつそく御うけ申上くまのなら山にこもりたいまんなくそおこ

ないけるこれによつてせいひつののちむさしの国あだちかはらに一

宇たて大文字東光寺これなりとかや

〽文やのわた丸ひならずしてむさしの国につきくろづかの四方を

とりまきどつと一せめせめけれは何のくもなく打やぶり大将

らしきもの二人をいけとりなんぢ鬼太郎なるやさきに

きゝしにおとりしよはものなりとあざけりわ

らひは賊のいふわか大将鬼太郎はおうに下り候へは此さん

ざいかくのことく無人にてあさましくもいけどられぬ

われ/\はこゝうのしんにしてくまての手次郎むかでの

あし八といふものなりとかたりける二人のくびを打

おとしいさみすゝんで下りける

〽ほとなくおうしうに下りあだちか原

の四方をかこみ征夷大将軍ふんやの

わた丸とかきし大はたをのかせ

山かせにへんぽんとひるがへしかいかね

をうちならしときをどつと

つくつてせめ給ふそのおと天に

わたりちにひゞき百せん

のいかづちいちどにおつるごとく

にてすさましかりける


「続き」為しける故、これに依って「打ち捨て置くべからず」とて武勇の聞こえ有る、文室(ぶんや)の
綿丸を征夷将軍に選まれ、「武蔵、陸奥に至り、かの鬼太郎をば締め、安達
ヶ原の妖怪まで討ち滅ぼし、人民の苦しみを救うべし」と仰せ付けられ
ければ、綿丸畏まって即日大軍を引率し、坂上の忠臣黒岩八郎
を案内者として都を発足致しける。扨又、祐慶召して、
「この度の免賊、早速退治の為、汝勤行勤むべし」との
事故、早速御受け申し上げ、熊野平城山に籠り、怠慢無くぞ行
いける。これに依って静謐の後、武蔵国足立ヶ原に一
宇建て、大文字東光寺これなりとかや。
〽文室綿丸、日ならずして武蔵国に着き、黒塚の四方を
取り巻き、どっと一攻め攻めければ、何の苦も無く打ち破り、大将
らしき者二人を生け捕り、「汝鬼太郎なるや、先
聞きしに劣りし弱者なり」と嘲り笑
いは(えば)、賊の言う「若大将鬼太郎は王に下り候えば、この散
財斯くの如く無人にて、浅ましくも生け捕られぬ。
我々は股肱の臣にして、熊手の手次郎、百足の
足八という者なり」と語りける。二人の首を討ち
落とし、勇み進んで下りける。
〽程なく奥州に下り、安達ヶ原
の四方を囲み、征夷大将軍文室の
綿丸と書きし大旗を野風
山風に翩翻と翻し、貝鉦
を打ち鳴らし、鬨をドッと
作って攻め給う。その音天に
渡り地に響き、百千
の雷一度に落つる如く
にて、凄まじかりける

ありさまなり鬼太郎は

思ひよらぬ打手を得て

あはてふためき同るいを

あつめふせきたゝかひける

しかれども官軍の大ぜい

あらてを入かへ/\せめ

たゝかふか故に鬼太

郎かかくれが今に

打やぶられん

ありさま なり ○

有様也。鬼太郎は
思い寄らぬ討手を得て、
慌てふためき同類を
集め、防ぎ戦いける。
然れども、官軍の大勢
新手を入れ替え入れ替え攻め
戦うが故に、鬼太
郎が隠れ家、今に
打ち破られん
有様也○

 

(左頁上段)

○しか其ときに七十あまりの老女まつさきにすゝみいて

官軍何ほどの事かあらんかゝれやものどもとげぢをなし

何やらんひもんをとなふと見へしかにわかに大風雨おこり

どせきをとばしくはんぐんをよるべきやうなく吹つく

れはせんかたつきて引しりぞくかゝるきじゆつを

もつて官軍を少しくくじきける故に大将

わた丸下知していわく○かのばゞアこそ祐

けいがうつたへし鬼ばゞアならんかれつね

にいぬをきらふよしなればいかなる故か

こゝろみに犬をはなち見よとて其手くば

りなしてせめけれは又もばゞアかすゝみ

いで左右にふたりの大おとこをしたかひ下ぢ

によつてにはかにふきくる大風雨官軍の弓矢を

とばしはたをおえいたてをひるかへし砂石をとばせば

おもてむくべうもならず又も利を失なはんとするときに

用意強犬(かうけん)す十疋つなきをきつてはなせばいぬは

たちまちばゞアをめがけはしり行かくと見るより

ばゞア逸足いたしてくると見へしかす十のいぬにおひ

つかれたちまちすがたは小うしのごときむじなとなり

てかの犬と咬(かみ)あひ四五ひき犬をかみころしぬれども

その身おゝくきづうけついにのこれる犬にかみふせ

られぬされば此ありさまを見ててきもみかたも

きやうてんしさんじいくさもなかりけるかゝる

へんげのばゞアとはさすがの鬼太郎も思は

ざれはいはんや官軍をや

○かくてじやしんばゞアほろびぬれば鬼

太郎は宗太はねたあぶないの両人をし

たかひひつしになりてたゝかひしかみかた

大はんうたれあるはにけさりけれは「ツキへ」

然、その時に七十余りの老女、真っ先に進み出で、
「官軍何程の事かあらん、掛かれや者共!」と下知を為し、
何やらん秘文を唱うと見えしが、俄に大風雨起こり、
土石を飛ばし、官軍を寄るべき様無く吹き付く
れば、詮方尽きて引き退く。かかる奇術を
以て官軍を少し挫きける故に、大将
綿丸下知して曰く、「かの婆アこそ祐
慶が訴えし鬼婆アならん、彼常
に犬を嫌う由なれば、如何なる故か
試みに犬を放ち見よ」とて、その手配
り為して攻めければ、又も婆アが進み
出で、左右に二人の大男を従い、下知
に依って俄に吹き来る大風雨、官軍の弓矢を
飛ばし、旗を折り、盾を翻し、砂石を飛ばせば、
面向くべうもならず、又も利を失わんとする時に、
用意強犬数疋、繋ぎと切って放せば、犬は
忽ち婆アを目掛け走り行くと見るより、
婆ア逸足いたして逃ぐると見えしが数十疋の犬に追い
付かれ、忽ち姿は子牛の如き貉と成り
て、かの犬と咬み合い、四、五疋犬を咬み殺しぬれども、
その身多く傷受け、終に残れる犬に咬み伏せ
られぬ。されば、この有様を見て敵も味方も
仰天し、暫時戦も無かりける。かかる
变化の婆アは流石の鬼太郎も思わ
ざれば、況や官軍をや。
○かくて邪心婆ア滅びぬれば、鬼
太郎は宗太、跳ね太、あぶ内の三人を従
い、必死になり戦いしが、味方
大半討たれあるは、逃げ去りければ「次へ」

 

 

22

「ツゝキ」ひとまづ山さいに引さり申けるはわれ/\ぶうんつたなくして

かくうちまけしうへはいさぎよく三人一処にせつふくせん

さればこれまでたくわひしぐん用きんも何にかはせん

此こかねをしき此うへにてはらきらばごくらくと

やらんの花のうてなにまさるべしとて多くのはこを

取いだしひらきてみれはこかねならでこのは也

三人あきれてかほ見あはせよう婆かたぶらかしに

あひぬるぞざんねんなりかのむじな鬼太郎が母

のひとりすみをとりくらひおのれ鬼太郎か母と

なり此年月おゝくの小児をとりくらひ木の葉

をもつてこかねと見せしぞにくむべし

しからは此処にてはらきらんよりわた丸が

ぢんにはしり入

はな/\゛しく打

しにせんこそ

ものゝふのなす

べきところき

たれや

両人と

左右に

したかひ

はしりいて

高らかによばはり

けるは黒塚鬼太郎とは

かりの名今は何おかつゝまんいにしえは

東夷将くんとよばれし悪路王たか丸か

一子鬼夜刃丸とはおれがおれが事だはヤアイ

「続き」「一先ず山際に引き去り申しけるは、我々武運の拙くして、
斯く打ち負けし上は潔く三人一所に切腹せん。
さればこれまで蓄えし軍用金も何にかはせん。
この黄金惜しきこの上にて腹切らば、極楽と
やらんの国の臺に勝るべし」とて多くの箱を
取入出だし、開きて見れば黄金ならで、木の葉也。
三人呆れて顔見合わせ、「よう婆が誑かしに
合いぬるぞ、残念なり。かの貉鬼太郎が母
の一人住みを取り喰らい、おのれ鬼太郎が
母となり、この年月多くの小児を取り喰らい、木の葉
を以て黄金と見せしぞ憎むべし。
然らばこの所にて腹切らんより綿丸が
陣に走り入り、
華々しく討ち
死にせんこそ
武士の為す
べきところ、来
たれや
両人」と
左右に
従え
走り出で、
高らかに呼ばわり
けるは、「黒塚鬼太郎とは
仮の名、今は何をか包まん、古は
東夷将軍と呼ばれし悪路王たる丸が
一子鬼夜刃丸とは俺が、俺が事だワヤァイ!

 

さまのと?(ことく?)我父当国

かくらおかにて田むら丸

にうたれぬれはそのうら

みをさんぜんとかねていんぼう

くはだてみかたをあつめときを

得て田村丸を打ほろぼしきうこん

をさんじではおうしうを掌握せん

と思ひの外かの妖婆(ようば)か為にろけん

し今此ところに打しにすわか

くびとりてかう名せよと云まゝに

大てきの中に十往むじんに

切こんだりかくと見るゟ

くはんぐん大せいひし/\と

とりかこみなんなく三人

ほろびかちどき

どつと

あけ

たり けり

さまの如く(とし?)我父当国
神楽岡にて田村丸
に討たれぬれば、その恨
みを散ぜんと兼ねて陰謀
企て、味方を集め、時を
得て田村丸を討ち滅ぼし仇恨
を散じ、出羽奥州を掌握せん
と、思いの外の妖婆が為に露見
し、今この所に討ち死にす。吾が
首捕りて高名せよ」と言う儘に
大敵の中に縦横無尽に
斬り込んだり。斯くと見るより
官軍大勢、ひし、ひし、ひし、と
取り囲み、なんなく三人
滅び、勝鬨
ドッと
上げ
たりけり

 

(右頁下)

「くろいわ八郎」

「頓田利はね太」

こふふまれては

とんだりはね

され

せぬ

 

ざん ねん

/\

「頓田利はね太」
こう踏まれては飛んだり跳ね出されもせぬ
残念、残念

 

「乙戸あぶ内」

 もふこふなつては

 いのちはおつと

 あぶないだ

 いま/\ しい

「乙戸危内」
もうこうなっては命はオット危ないだ、忌々しい

 

○夫よりなをもようくはいやあると

さんざいをこと/\くあらため見るに

一間のうちに二三十人の女童をおし

こめおきぬをたすけいだし子さいを

きくにてんかうばがじゆんけんし百姓どもをたぶ

らかしつれきたりてこどもなればこと/\゛くおや元へ

かへしつかはしける又あたちかはらのばゞアが住家

をこと/\くやきはらひければえんしたにす十

丈深きから井ありその中に人の古骨おびたゝ

 

しくあり思ふにこれ妖婆か夜にくらひ

し人のほねを此処にかくせしと見へゆ

さればこれまで此古むしなの

ためにおゝくの人命をうしなひし

ぞむざん

なり とて

寛仁たいと

のわた丸

其井を

うつめ

させ

一つのつか

をきつく

これなん

こうせい

あたちがはらのくろ

づかと

いふなる

べし

○それより尚も妖怪や在ると
散財を悉く改め見るに、
一間の内に二、三十人の女童を押し
込め置きぬを助け出だし、仔細を
聞くに、天下姥が巡見し、百姓共を誑
かし連れ来たりて、子供なれば悉く親元へ
帰し遣わしける。又、安達ヶ原の婆アが住家
を悉く焼き払いければ、縁下に数十
丈深き空井戸あり。その中に人の古骨夥

しく有り。思うに、これ妖婆が夜な夜な喰らい
し人の骨をこの所に隠せしと見ゆ。
されば、これ迄この古貉の
為に多くの人命を失いし
ぞ、無残
なりとて寛仁大度
の綿丸、
その井を
埋めさせ
一つの塚
を築く。
これなん
後世
安達ヶ
原の黒
塚と
言うなるべし

 

 

 

23

○かくて東国こと/\゛くへいきんなしがいかをそうし

みやこにのぼり右のおもむきそうもんありければ

わた丸が此たびのくんこうをしやうし給ひ従

三位を授けられ田村麻呂かあとをつきて奥州

征夷大将ぐんに任し給ひ田村麻呂のそく女玉き

く姫を室にいたすべきよし仰出されてさつ

そくこんいん

とゝのひ

いへとみ

かひ

まで たき

はるを

かさね けるぞ

 めてたし

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○斯くて当国悉く平均為し、凱歌を奏し
都に上り、右の趣き奏聞ありければ、
綿丸が此の度の勲功を賞し給い、従
三位を授けられ、田村麻呂が後を継ぎて奥州
征夷大将軍に任じ給い、田村麻呂の息女、玉菊
姫を室に致すべき由仰せ出されて、早
速婚姻
整い、
家富み
栄え、
めでたき春を重ねけるぞ
目出度し、目出度し、目出度し

 

(下)

○さて又黒いわ八郎か忠きんをかんし

おゝくのろくをたまひ又きくひめの

こしもと柴かきとめあわせ給ひ

玉きくひめのさとづきとなり

ふんやけへつきいたりおゝくの

しよくろくを たまはり

 いえとみ さかひ

  けるぞ

   めでたし  

    /\ /\

○扨又、黒岩八郎が忠勤を感じ、
多くの禄を賜い、又、玉菊姫
腰元柴垣と娶せ給い、
菊姫の里付きとなり、
文室家へ付き至り、多くの
職禄を賜り、
家富み栄え
けるぞ
目出度し、目出度し、目出度し