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古今名婦伝 加賀の千代

 

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古今名婦伝  楳()素亭 玄魚記

  加賀の千代
千代は加賀国松任(まっとう)なる福増屋(ふくますや)六兵衛といへる
旅店(はたごや)の女なりいとけなき時より風雅の
志ふかく行脚の俳人を家に止宿させて
俳諧をたしむ廿三才の時京にのぼり
勢州にいたり麦林舎乙由の門人となり
廿七才のとき再(ふたゝび)上京すそのゝち
雉髪(ちはつ)して千代尼(ちよに)又素園(そえん)といふ 容㒵(ようぼう)
美にして常に閑静を好む 画(え)を北越
呉俊明(ごしゆんめい)に学びて草画(さうくわ)をよくす
広く俳士に因(ちなみ)てその名海内(かいだい)に芳(かうば)し
于時(ときに)安永四年九月八日寂(じやく)す年七十四
金沢専光寺(せんくわうじ)に葬す松任の駅
聖興寺(しやうこうじ)に脾(ひ)あり 辞世の句に

月も見て我は
  此世をかしくよな

 

  加賀の千代
千代は加賀国松任なる福増屋六兵衛といえる旅籠屋の女なり。
幼き時より風雅のこころざし深く、行脚の俳人を家に止宿させて俳諧を嗜む。
二十三歳の時、京に上り、勢州に至り、麦林舎乙由の門人となり、
二十七歳の時、再び上京す。その後、薙髪して千代尼、また、素園と言う。
容貌美にして常に閑静を好む。絵を北越の呉俊明に学びて、草画をよくす。
広く俳士に因みて、その名、海内に芳し。
時に安永四年九月八日寂す。年七十四。金沢専光寺に葬す。
松任の駅、聖興寺に碑あり。辞世の句に、
 月も見て我は此世をかしくよな

 

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