読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1919909
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百(もゝ)たらうばなし
むかし/\。しん/\゛のぢゝは。せきぜんの。
たかきやまへ。ぼんほうの。くさかりに。しんじつ
のばゝは。いんとくの。ふかきかはへ。こゝろの
あかを。せんたくに。ゆきけるに。やうはうの
たねとなる。百(もゝ)が一つ。ながれてきたを。ひろひ
とりて。くふたれば。百たらうといふ。子がうま
れた。ちじんぶい/\。ごよのおんたからと。
百太郎噺(ももたろうばなし)
昔々、信心の爺は積善の高き山へ煩悩の草刈りに、真実の婆は隠匿の深き川へ心の垢を洗濯に行きけるに、鷹揚(ようおう?)の種となる桃が一つ流れて来たを拾い取りて喰うたれば、桃太郎という子が産まれた。いじんぶいぶい御代(ごよ)の御(おん)宝と、
3
なでそだつれば。あつい。さむい。つらい。
いたい。にもなかずにそだち。日本一の。き
みだんごを。もちて。をにがしまへ。たからを
とりに。ゆくみちへ。しやうぢきの。きじがでゝ
きて。きみだんご。ひとつたまはれ。おとも
せんといへば。また。あしき。こゝろを。さると。
かげふを。はげみて。すはつて。いぬとが。おと
もをなし。かうまんの。たかね。じやちの。ふか
だに。なぞは。りちぎの。一ぽんばしに。とり
ついて。としのさかをこえ。しきよくの
かみかは。おごり。のぞみの。ふちせ。なぞは
しん/\゛けんごの。ふねをつくり。わたりて
みれば。をにがしろには。とんよく。しんい。
ぐち。がまん。の四大わうあり。これにしたがふ
いかり。うらみ。をしみ。そねみ。いつはり。
ぬすみ。なぞといふ。さま/\゛の。あくきども
撫で育つれば、暑い、寒い、辛い、痛いにも泣かずに育ち、日本一の吉備団子を持ちて、鬼ヶ島へ宝を取りに行く道へ、正直の雉が出て来て「吉備団子一つ賜われ、御伴せん」と言えば、又、悪しき心を去る(猿)と稼業を励みて、座って居ぬ(犬)とが御伴を成し、高慢の高嶺、邪智の深田になぞ(等)は、律儀の一本橋に取り付いて、年の坂を越え、色欲の海川、奢り、望みの淵瀬なぞは、信心堅固の舟を造り渡りてみれば、鬼ヶ城には貪欲、瞋恚(しんい)、愚癡、我慢の四大王有り。これに随う怒り、恨み、惜しみ、嫉み、偽り、盗みなぞと言う、様々の悪鬼共
4
みやうもんを。ひらいて。とびいだし。みやうりの
つるぎを。うちふりて。はむかへば。こなたは
ちゆうかうの。ゆみや。しんばうの。やり
さきにて。つきたて。いたて。みなこと/\゛
く。なさげの。つなにて。からめとれば。
あくきども。かうくわいし。おごりを。はぶく
かくれみの。うへをみぬ。かくれがさ。こゝろの
たからを。うちでのつち。ゆだんをせぬ。むねの
かぎ。かんふんの。つるぎ。じひのたま。しやうぢきの
かゞみ。をはじめ。てんち五ぎやうの。七はうまで
かず/\。さゝぐるを。うけおさめ。なんぢら。かゝる
たからを。もちながら。をしみかくして。おく
ゆへに。とくを。たにんに。とらるゝおり。ふるき
うたに〽みたからの。かず/\おほき。その
なかに。いのちにまさる。ものはあらじな
とあるからに。いのちばあkりは。たすくべし
妙門を開いて飛い出し、冥利の劔を打ち振りて歯向かえば、此方は忠孝の弓矢、辛抱の鑓先にて突き立て、射立て、皆悉く情けの綱にて絡め捕れば、悪鬼共後悔し、奢りを省く隠れ蓑、上を見ぬ隠れ笠、心の宝を打ち出の小槌、油断をせぬ胸の鍵、堪忍の劔、慈悲の玉、正直の鏡を始め、天地五行の七法迄、数々捧ぐるを受け納め、汝等かかる宝を持ちながら、惜しみ隠して置く故に、徳を他人に取らるる也。古き歌に「御宝の数々多きその中に命に勝る物はあらじ などと有るからに、命ばかりは助くべし
5
いまより。こゝろを。あらためて。よのひと
/\゛を。そこなふこと。なかれと。をしへさとして
かへりしのち。さて。かげふをはげむ。いとま
には。せんぞを。まつり。いんとくを。ほどこし
みのやうじやうを。なしければ。ことぶき。ながく
いへとみ。けるとぞ。百(もゝ)たらうのはなし。そこで
いちご。さかえた。なんとみなさま。きこえ
ましたか皆さま
それほんしんの主(あるじ)なきときは。めみゝはな
したみおもわく。これにつくべからず この六しんのけん
ぞくどもきやくじんをおこして。わが身を
ほとぼすなり。たとはゞめによろしきもの
を見て。すくにめのこゝろほしくおもひ。わが
こゝろをよくしんにする。又はみゝにあしき
ことをきゝて。それがみかつてにならば。また
みゝのこゝろ。われをあくにする。右ゆへ六つの
今より心を改めて世の人々を損なう事無かれと、教え諭して帰りし後、さて、稼業を励む暇には先祖を祀り、陰徳を施し、身の養生を成しければ、寿永く家富みけるとぞ。桃太郎の話、そこで一期栄えた。なんと皆様聞こえましたか。皆様、それ本心の主無き時は、目、耳、鼻、舌、身、思惑(これに尽くべからず)この六身の眷属共、逆心(客人?)を起こして我が身を滅ぼす也。例はば、目に宜しきものを見てすぐに目の心欲しく思い、我が心を欲心にする。又、耳に悪しき事を聞きて、それが身勝手にならば、また耳の心、我を悪にする。右故六つの
6
しなども。めん/\に見きゝするほどのことを
おもひて。われをよくしんにして。あくとふに
おとす。ゆへに日々にあらたにして。またひゞに
あらためるときは。身こゝろともけんごなり。
かへす/\゛もわがほんしんを。あるじとして。
一寸(いっすん)のまも。ゆだんなくこゝろをたいせつに。
いたしおき。かの六つのしなに。こゝろをとられ
さるやうに。たしかにほんしんをあさおきるより
ゆふべにいたるまで。一日のつとめをおわるまで。
よく/\これへ。わきまへていたす時は。せい
けんのみちに。たがわぬちかみちなり。これを
一すじに。しやうがいのあいだ。まつすぐにゆく
べし。しかるときは。しそんてうきう。うた
がひなし。なほまた御せんぞがた。御あんしん
にてまもり給ふがゆへに。かないわしゆんして。
いつさいあんしんなるべし。
品共、面々に見聞きする程の事を
思いて。我を欲心にして悪道に堕とす。故に日々に新たにして。また日々に
改める時は、身、心とも堅固也。返す返すも我が本心を主として、一寸の間も油断無く心を大切に致し置き、彼の六つの品に心を取られざる様に、確かに本心を朝起きるより夕べに至るまで、一日の勤めを終るまで、よくよくこれへ弁えて致す時は、聖賢の道に違(たが)わぬ近道也。これを一筋に生涯の間、真っ直ぐに行くべし。然る時は子孫長久疑い無し。尚又御先祖方御安心にて守り給うが故に、家内和順して一切安心成るべし。
7
明治十八年八月八日御届
著述兼
出版人 八十六翁 根本八五郎
ちはやふる 空に
月日のあれはこそ
神とひとゝのもとを
たつねん
千早ふる空に月日の有ればこそ
神と人との元を尋ねん