仮想空間

趣味の変体仮名

源氏物語(三十八)鈴虫

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2567596

 

1

鈴虫

 

2

夏ごろはちすの花のさかりに。入道の姫宮(女三)

の御持仏どもあはらし給へる供養せさせた

まふ。此たびはおとゞの君のみ心ざしにて。御

ねんず裳のぐども。こまかにとゝのへさせ給へる

を。やがてしつらはせ給ふ。はたのさまなどなつ

かしう。こゝろことなるからのにしきを。えら

びぬはせ給へり。むらさきのうへぞいそぎせさせ

給ひける。花づくえのおほひ(覆い)など。おかしき

めぞめもなつかしうきよらなるにほひ。そめ

つけられたる心ばへ。めなれぬ様なり。よるの

御帳のかたびらを。よおもて(四面)ながらあげて。うし

 

 

3

ろの方に法花のまだら(曼荼羅)かけ奉りて。しろかね

のはながめ(花瓶)にたかく。こと/\しき花のいろを

とゝのへてたてまつれり。名香にはから(唐)の百歩

のくぬえかう(薫衣香)をたき給へり。阿弥陀仏。けうじ(脇士)

のぼさつ(菩薩)。をの/\びやくだん(白檀)してつくりたてま

つりたる。こまかにうつくしげなり。あかのぐ(閼伽の具)は。

れいのきはやかにちいさくて。あをきしろき

むらさきのはちすをとゝのへて。かえう(荷葉:かよう)のほ

う(方)をあはせたるみやうがう(名香)。みつ(蜜)をかくし

ほゝろげて(ぼろぼろに崩して)。たゝきにほはしたる。ひとつかほりに

匂ひあひて。いとなつかし。経は六道の衆生

 

ために六部かゝせ給ひて。みづからの御ぢ経は

院ぞ御てづからかゝせ給ひける。是をだにこの

世のけちえんにて。かたみにみちびきかはし

給べき心を願文にうtくらせ給へり。さては阿弥

陀経。から(唐)のかみはもろくてあさゆふの御手な

らしにもいかゞとて。かんや(紙屋)の人をめして。ことに

おほせ事給ひて。心ことにきよらにすかせ

給へるに。この春のころほひより御心とゞめて

いそぎかゝせ給へる。かひありてはしをみ給ふ

人々。めもかゞやきまどひ給ふ。けがけたるかね

のすぢよりも。すみつきのうへにかゝやくさま

 

 

4

などもいとなんめづらかなりける。ぢく(軸)へうし(表紙)

はこ(筥)のさまなどいへばさらなり。是はことにぢん(沈)

のけそく(花足)のつくえにす(据)へて。仏のおなじち

やう(帳台)のうへに。かざられ給へり。だう(堂)かさ(佐)りはてゝ。

講師まう(参)のぼり。きやうがう(行道)の人々まい

りつどひ給へば。院もあなたにいで給ふとて。

宮のおはしますにしのひさしにさしのぞき

給へれば。せばき心ちする。かりの御しつらひ

に所せく。あつげなるまでこと/\しく。さう

ぞきたる女房五六十人ばかりつどひたり。北

のひさしのすのこまでわらはべなどはさま

 

よふ。火とりどもあまたしてけふたきまで

あふぎちらせば。さしより給て空にたくは。い

づくのけふりぞと思ひわかれぬこそよけれ。ふ

じのみねよりもげにくゆりみち出たるは。ほ

いなきわざなり。かうぜち(講説)のおりは。おほかたの

なりをしづめでのどかに物の心もきゝわく

べき事なれば。はゞかりなききぬの音なひ。人

のけはひしづめてなんよかるべきなど。れいの

物ふかゝらぬわか人ともの。よういをしへ給。宮は

人げにをされ給て。いとちいさくをかしげにて

ひれふし給へり。わか君らうがはしからん。いだ

 

 

5

きかくし奉れ。などの給ふ。北のみさうじ(御障子)もとり

はなちて。みすかけたり。そなたに人々はいれ

給しづめて。宮にも物の心しり給べきしたかた

を聞えしらせ給いと哀にみゆ。おましをゆづ

り給へる仏の御しつらひみやり給ふもさま/\゛

に。かゝるかたの御いとなみをも。もろともにいそ

がん物とは思ひよらざりしことなり。よし

のちの世にだにかの花のなかのやどりにへだて

なくとおもほせとて。うちなき給ぬ。

 (源氏)はちすばをおなじうてなとちぎり置て

露のわかるゝけふぞかなしきと御すゞりに

 

さしぬらして。かうぞめなる御あふぎにかきつ

け給へり。宮

 (女三)へだてなくはちすの宿を契りてもきみ

が心やすまじとすらんとかき給へれば。いふか

ひなくもおもほしくだすかなと打わらひな

がら。なをあはれとものをおもほしたる御けしきなり。

例のみこたちなどもいとあまたま

いり給へり。御かた/\゛よりわれもをもといどみ

いて給へる。ほうもち(棒持)のありさま心ことに所せ

きまでみゆ。七僧の法服などすべておほかたの

事どもは。みなむらさきのうへをさせ給へり。あ

 

 

6

やのよそひにて。けさのぬいめまで。見しる人は

世になべてならずとめてけりとや。むつかしう

こまかなる事どもかな。かうじ(講師)のいちたうとく。

事のこゝろを申て。このよにすぐれ給へるさかり

をいとひはなれ給て。ながき世々にたゆまじ

き御ちぎりを。法華経にむすび給ふ。たう

とくふかきさまをあらはして。たゞいまの世に

さえ(才)もすぐれ。ゆた(豊)けきさきら(才気ら)を。いとゞ心し

てゆ(言)ひつゞけたる。いとたうとければ。みな人しほ

たれ給ふ。これはたゞ忍びて御ねんず裳のは

じめとおぼしたることなれど。うちにも山の

 

みかどもきこしめして。みな御使どもあり。御ず

経のふせなど。いと所せきまで。にはかになん

ことひろごりける。院にまうけせさせ給へりけ

る事どもゝ。そ(削)ぐとおぼしかど。よのつねなら

ざりけるを。まいて(まして)。今めかしき事ども。くはゝり

たれば。ゆふべの寺にをき所なげなるまで。所

せ(狭)きいきほひになりてなん。僧どもはかへりける。

いましも心ぐるしき御心そひて。はかりもなく

かしづき聞え給。院のみかどは此御そうぶん(処分)の

宮にすみはなれ給なんも。ついのことにてめ

やすかりぬべく聞え給へど。よそ/\にては

 

 

7

おぼつかなかるべし。あけくれみたてまつり聞え

うけ給はらむ事。をこたらんに。ほい(本意)たがひぬべし。

げにありはてぬ世いくばく有ましけれど。なを

いけるかぎりの心ざしをだにうしなひはてじと

きこえ給つゝ。かの宮をもいとこまかにきよらに

つくらせ給ひ。みふ(御符)の物共こまかに。(国々の)みさう(御荘)。みま

き(御牧)などより奉る物ども。はか/\゛しきさまのは。

みなかの三条の宮のみくらにおさめさせ給ふ。

又もたてそへ給て。さま/\゛御たから物ども。院の

御そうぶんにかずもなく給はり給へるなど。あ

なたざまのものは。みなかの宮にはこびわたしこ

 

まかにいかめしうしをかせ給。明暮の御かしづき

そこらの女房の事ども。かみしものはぐゝみは

をしなべて。わが御あつかひにてなんいそぎつかう

まつらせ給ける。秋頃西のわたどのゝまへなかのへい

のひんがしのきはををしなべて野につくらせ給

へり。あかのたななどして。そのかたにしなさせ

給へる御しつらひなどいとなまめきたり。御でし

にしたひきこえたるあまども。御めのと。ふる人

どもはさる物にて。世をつくしつべきかぎりはえ

てなんなさせ給ける。さるきほひにはわれも/\と

きしろひけれど。おとゞの君きこしめして。有

 

 

8

まじき事也。心ならに人すこしもまじりぬれ

ば。かたへの人くるしうあは/\しききこえいで

くるわざなりといさめ給て。十よ人ばかりのほど

ぞ。かたちこと(異)にてはさふらふ。此野にむし(虫)どもは

なたせ給て。風すこしすゞしくなりゆくゆふ

ぐれにわたり給つゝ。虫のねをきゝ給やうにて。猶

思ひはなれぬさまを聞えなやまし給へば。れ

いの御心は有まじき事にこそあなれと。ひとへに

むつかしきことに思ひ聞え給へり。人めにこそ

かはることなくもてなし給しが。うちにはう

きをしり給ふけしきしるく。こよなうかはり

 

にし御心をいかでみえたてまつらじの御心にて。

おほ(多)うは思ひなり給にし。御よのそむきなれば。

いまはもてはなれて心やすきに。なをかやうに

など聞え給ぞくるしうて。人はなれたらん御す

まいにもがなとおぼしなれど。およすけてえさも

しい申給はず。十五夜の月のまだかげかくし

たるゆふぐれ。仏の御前に宮おはして。はしちかう

ながめ給つ。ねんずし給ふ。わかきあま君たち

二三人はな(花)たてまつるとて。ならすあかずき(閼伽坏)のをと(音)。

水のけはひなど聞ゆる。さまかはりたるいとな

みにそゝきあへるいとあはれなるに。れいのわたり

 

 

9

給て。むしのねいとしげう(繁く)みだるゝ夕べかなとて。わ

れもしのびてうちずんじ給ふ。あみだのだいす

いとたうとくほの/\゛聞ゆ。げに声々きこえたる

なかに。すゞむしのふりいでたるほどはなやかに

おかし。秋の虫のこえいづれとなきなかに。松虫なん

すぐれたるとて。中宮のはるけき野べをわけて。

いとわざとたづねとりつゝはなたせ給へる。しるく

なきつたふこそすくなかなれ(よく鳴くのは少ない)。心にはたがひて

命のほどはかなきむしにぞあるべき。心にまか

せて人きかぬおく山。はるけき野の松ばらに。こえ

おしまぬもいとへだて心ある虫になんありける。

 

すゞむしは心やすくいまめいたるこそらうたけれ

などの給へば。みや

 (女三)おほかたの秋をばうしとしりにしをふりす

てがたきすゞむしの声としのびやかにの給ふ。い

とあてになまめいておほとかなり。いかにとかや。い

で思ひのほかなる御事にこそとて

 (源氏)心もて草のやどりをいとへどもなをすゞ虫の

こえぞふりせぬなど聞え給て。きんの御ことめし

てめづらしくひき給ふ。みやの御すゝ(数珠)ひきおこた

り給て。御ことに猶心いれ給へり。月さし出ていと

花やかなるほどもあはれなるに。空をうちながめ

 

 

10

て。世中さま/\゛につけてはかなくうつりかはる

有さまもおぼしつゞけられて。れいよりもあ

はれなるねにあきならし給。こよひはあの御あ

そびにやあらんとをしはかりて。兵部卿宮わたり

給へり。大将君殿上人のさるべきなどぐしまいり

給へれば。こなたにおはしますと御ことの音を

たづねてやがて参り給。いとつれ/\゛にてわざとあ

そびとはなくとも。ひさしくたえにたるめづらしき

物のねなどきかまほしかりつるひとりごとを。いと

ようたづね給けるとて。宮もこなたにおましよ

そひていれたてまつり給。うちの御まへにこよ

 

ひは月のえんあるべかりつるを。とまりてさう/\゛し

かりつるに。この院に人々まいり給ときゝつたへ

て。これかれかんだちめなどもまいり給へり。むしの

ねさだめをし給ふ。御ことゞものこえ/\゛かきあは

せておもしろきほどに。月みるよひのいつとても。

ものあはれならぬおりはなき中に。こよひのあら

たなる月の色には。げに猶わが世のほかまでこそ

よろづ思ひながさるれ。故権大納言(柏木)なにのおり/\

にもなきにつけて。いとゞしのばるゝ事おほく。

おほやけわたくし物のりふしのにほひうせ

たる心ちこそすれ。花鳥の色にもねにも思わき

 

 

11

まへ。いふかひあるかたの。いとうるさかりしものを

などの給。いでゝみづからもかきあはせ給。御こと

のねにも袖ぬらし給つ。みすの内にもみゝとゞめ

てや。きゝ給はんと。かたつかたの御心にはおぼしな

がら。かゝる御あそびのほどには。まづこひしう内な

どにもおぼしいでける。こよひはすゞむしのえん

にてあかしてんとおぼしの給ふ。御かはらけふた

わたりばかりまいる程に。冷泉院より御せうそこ

あり。御前の御あそび俄にとまりぬるをくち

おしがりて。左大弁。式部太輔。又人々ひきいて

さるべきかぎりまいりたれば。大将などは六条院

 

にさふらひ給ふときこしめしてなりけり。

 (冷泉院)雲のうへをかげはなれたるすみかにも物忘れ

せぬ秋の夜の月おなじくはと聞え給へれば。な

にばかりところせき身のほどにもあらずながら。

今はのとやかにおはしますに。参りなるゝ事も

おさ/\なきを。ほいなきことにおぼしあまり

て。おどろかさせ給へるかたじけなしとて。にはか

なるやうなれど参り給はんとす

 (源氏)月影はおなじくもいにみえながらわがやど

からの秋ぞかはれることなる事なかめれど。たゞ

むかしいまの御ありさまのおぼしつゞけられ

 

 

12

けるまゝなめり。御つかひにさかづき給ひて。ろく(禄)

いとに(二)なし。人々の御車しだいのまゝにひき

なをし御ぜんの人々たちこみて。しづかなり

つる御あそびまぎれいで給ぬ。院の御くるま

にみこたてまつり。大将。左衛門督。藤宰相など

おはしけるかぎりみなまいり給。なをしにて

かろゝかなる御よそひどもなれば。したがつねばか

り奉りくはへて。月やゝさしあがりふけぬるそら

おもしろきに。わかき人々ふえなどわざとなく

ふかせ給などして。しのびたる御まいりのさま

なり。うるはしかるべきおりふしは。所せ(狭)くよだ

 

けききしき(儀式)をつくして。かたみに御覧ぜられ給。

又いにしへのたゝ人さまにおぼしかへりて。こよひ

は。かる/\゛しきやうにふとかく参り給へれば。い

たうおどろきまちよろこび聞え給。ねびとゝ

のひ給へる御かたちいよ/\ことものならず。いみじ

き御さかりの世を御こゝろとおぼしすてゝ。しづか

なる御有さまにあはれすくなからず。そのよの

歌ども。から(唐)のもやまと(大和)のも心ばへのふかうおもし

ろくのみなんれいの事たらぬかたはしは。まね

ぶもかたはらいたくてなん。あけがたにふみなど

かう(講)じて。とく人々まかで給。六条院は中宮

 

 

13

の御かたにわたり給て。御物語など聞え給。い

まはかうしづかなる御すまいに。しば/\も

参りぬべく。なにとはなけれど。すぐるよはひに

そへて。忘れぬむかしの御ものがたりなどう

け給り聞えまほしう思ひ給へるに。なにゝ

もつかぬ身のありさまにて。さすがにうい/\

しく所せくも侍るてなん。われより後の人々に。

かた/\゛につけてをくれゆく心ざし侍るるも。いと

つねなき世の心ぼそさのとめがたうおぼえ

侍れば。世なれたるすまいにもやとやう/\

思ひたちぬるを。のこりの人々の物はかな

 

からんたゞよはし給など。さき/\も聞えつ

け心たがげず。おぼしとゞめてものせさせ給へ。

などまめやかなるさまに聞えさせ給ふ。れい

のいとわかうおほとかなる御けはひにて。こゝ

のへ(九重)のへだてふかう侍るし年ごろよりも。おぼつか

なさのまさるやうに思給へらるゝ有さまを。いと

思ひのほかにむつかしうて。みな人のそむきゆ

く世を。いとはしう思ひなることもはべ(侍)ながら。

その心ちのうちを聞えさせうけたまはらねば。

なにごともまづたのもしきかけ(蔭)には聞えさ

せならひて。いぶせく侍ると聞え給。げにおほ

 

 

14

やけざまにては。かぎりあるおりふしの御さと(里)

い(居)も。いとようまちつけ聞えさせしを。今は

なにごとにつけてかは御心にまかせさせ給。

御うつろひも侍らん。さだめのなき世といひながら

も。さしていとはしきことなき人の。さはやかに

そむきはなるゝもありかたう。心やすかるべき

ほどにつけてだに。をのづから思ひかゝづらふ

ほだしのみ侍るを。などかその人なめにきほふ(競う)

御だうしん(道心:出家?)は。かへりてひが/\しうを(推)しはかり

聞えさする人もこそ侍れ。うけてもいとある

まじき御ことになんと聞え給を。ふかうも

 

くみはかり給はぬなめりかしとつらう思ひき

こえ給ふ。宮す所の御身のくるしうなり給らん

ありさま。いかなる煙のなかにまどひ給らん。な(亡)

きかげにても人にうとまれたてまつり給。御名

のりなどのいできたりけることゝ。かの院にいみ

じうかくし給けるを。をのづから人のくちさがな

くて。つたへきこしめしけるのち。いとかなしうい

みじくて。なべての世のいとはしくおぼしなり

て。かりにてもかの。ゝ給ひけなりさまのくは

しうきかまほしきを。まほにはえうちいでき

こえ給はで。たゞなき人の御有さまのつみかろ

 

 

15

からぬさまに。ほのきく事の侍りしを。さるし

るしあらはならでも。をしはかりつべきことに

侍るけれど。をくれし程の哀ばかりを忘れぬことに

て。物のあなた思ふ給へやらざりけるが。物はか

なさうぇお。いかでよういひきかせん人のすゝめをば

きゝ侍りて。みづからだにかのほのほをもさまし

侍りにしがなど。やう/\つもるになん思ひしら

るゝこともありけるなど。かすめつゝぞの給。げに

さもおぼえぬべきことゝあはれに見たてあmつ

り給て。そのほのほなんだれものがるまじき

事としりながら。あさ露のかゝれるほどは

 

思ひ捨侍らぬになん目連が仏にちかきひじり

の身にて。たちまちにすくひけんためしにも。

えつがせ給はざらん物から。玉のかんざしすてさせ

たまはんも。この世にはうらみのこるやうなるわざ

なり。やう/\さる御心ざしをしめ給て。かの御

けふりはるくべきことをさせ給へ。しか思ひ

給ふる事侍りながら。物さはがしきやうにし

づかなるほい(本意)もなきやうなる様にあけくらし侍

つゝ。みづからのつとめにそへて今しづかにと思ひ

給ふるも。げにこそ心おさなき事なれなど。世

中なべてはかなく。いとひすてゝまほしき

 

 

16

ことを聞えかはし給へど。なをやつしにくき御み

ありさまどもなり。よべ(昨夜)はうち忍びてかやすか

りし御あり(歩)き。けさはあらはれ給て。かんだちめ

なども参り給へるかぎりはみな御をくりつかう

まつり給ふ。春宮の女御の御ありさまならび

なく。いつきたて給へる(丹精してお育てした)かひ/\゛しさも。大将の

又いと人にことなる御さまをもいづれとなくめや

すしとおぼすに。猶この冷泉院を思ひ聞え給

御心さしはすぐれてふかくあはれにぞおぼえ給。院

もつねにいぶかしう思ひ聞え給しに。御たい

めんのまれにいぶせうのみおぼされけるにいそ

 

がされ給て。かく心やすきさまにとおぼしなり

けるになん。中宮ぞ中々かかで給ふ事も

いとかたうなりて。たゞ人のなかのやうにならひ

おはしますに。いまめかしうなか/\むかしよ

りもはなやかに御あそびをもし給ふ。なに

事も御心やれる有さまながら。たゞかの宮す

所の御ことをぼしやりつゝ。聞え給ふまじき事

なれば。くどくの事をたてゝおぼしいとなみ。い

とゞこゝろふかう世の中をおぼしとれるさまに

なりまさり給。