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仮名手本忠臣蔵 七段目 祇園一力茶屋の段

床本 仮名手本忠臣蔵

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856602

 

 

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仮名手本忠臣蔵 七つ目 (一力茶屋

花に遊ばば祇園あたりの
色揃え 東方南方北方西
方 みだの浄土の塗りにぬり
立てぴっかりぴか/\ 光かがやく

 

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はくや芸子にいかな粋
めも 現(うつつ)ぬかして ぐどんどろつく
どろつくや ワイワイワイトサ 誰ぞ頼もう
亭主は居ぬか 亭主/\
是はいそがしいはどいつ様じゃ

どなた様じゃ エ斧九太夫様 御案
内とはきょうとい/\ イヤ初めての
お方を同道申した きつう取り
込みそうに見えるが 一つ上げます
座敷が有るか ござります共

 

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今晩は彼の由良大尽の御趣
向で 名有る色達をつかみ廻す
下ざしきはふさがってござり
ますれど 亭(ちん)座敷があいて
ござります そりゃ又蜘の

巣だらけで有ろう 又悪口を
イヤサよい年をして 女郎の
蜘の巣にからまい用心
コリャきついわ 下に置かれぬ二階
座敷 ソレ灯を燈せ仲居共

 

(以下画像略)

 

お盃おたばこ盆と高い
調子にのけかけて奥は強(さわぎ)の
太鼓三昧 ナント伴内殿 由良助
が体御ろうじたか 九太夫様
ありゃいっそ気違いでござる

段々貴様より御内通有りても
あれ程に有ろうとは 主人師直
も存ぜず 拙者に罷り登って
見届け 心得ぬ事有らば さっ
そくに知らせよと申し付けましたが

扨/\/\ 我(が)もへんしも打ちまし
たでござる 倅力弥めは何と致し
たな こいつも折節この所へ参り
供に放埓 指し合いくらぬがふし
ぎの一つ 今晩は底の底を捜し

見んと 心巧みを残して参った
密々にお咄し申そう いざ二階へ
先ず〃 然らばこうお出でじつは
心に 思いはせいで あだなほれ
た/\の口先はいかい つやでは

有るわいな 弥五郎様 喜多八
様 これが由良助様の詫び
茶や 一力と申すのでござる コレサ
平右衛門 よい時分に呼び出そう
勝手に控えておいやれ 畏まり

ました 宜しう願い上げます 誰
ぞちょと顔みたい アイ/\どな様(さん)
じゃえ イヤ我々は由良殿に
用事有って参った 奥へいて
云うには 矢間十太郎 千崎

弥五郎 竹森喜多八でご
ざる この間より節々迎いの人を
遣わしますれ共 お帰りのない
故 三人連れで参りました ちと
御相談申さねばならぬ義が

ござる程に お逢いなされて下
されと屹度申してくれ それは何ん共
気の毒でござんす 由良様へ
三日以来(このかた)呑みつづけ お逢いな
されてからたわいはあるまい

本性はないぞえ ハテ扨まあ
そういうておくりゃれ アイアイ
弥五郎殿お聞きなされたか
承って驚き入りました 初めの
程は敵へ聞かする計略と存じ

ましたが いかふ遊びに実が
入り過ぎまして 合点がまいらぬ
何とこの喜多八が申した通り
魂が入れかわってござろうがの
いっそ一間へ踏ん込み イヤイヤとくと

面談いたした上 成程 然らば
これに待ちましょう 手のなる
方へ/\/\ とらまよ/\ 由良
鬼またい/\ とらまえて酒
呑まそ/\ コリャとらまえたわ サア酒〃

銚子持て/\ イヤコレ由良助殿
矢間十太郎でござる こりゃ
何となさるる なむ三ぼう
仕舞うた ヲヲ気の毒 何と
栄様 ふしくた様子お侍さん方

お連れ様かいな さあれば お三
人共こわい顔して イヤコレ女郎達
我々は大星殿に用事有って
参った 暫く座を立って貰い
たい そんな事で有りそな

物 由良様奥へ行くぞえ お前
も早うお出で 皆さんこれにへ
由良助殿 矢間十太郎でご
ざる 竹森喜多八でござる
千崎弥五郎御意得に

参った お目さまされましょう
これは打ち揃うてようお出でな
された 何と思うて 鎌倉へ打ち
立つ時効はいつ頃でござるな
さればこそ 大事の事をお尋ね

なれ 丹波与作が哥に 江戸
三界へいかんして ハハ・・御免候え
たわい/\ ヤア酒の酔い本性違(たが)
わず 性根が付かずば三人が 酒
の酔いを醒まさしましょうかな

ヤレ聊爾(りゃうじ)なされまするな 憚り
ながら平右衛門めが 一言(いちごん)申し上げ
たい義がござります 暫くお控え
下されましょう 由良助様 寺岡
平右衛門でござります 御機

嫌の体を拝しまして いかばかり
大悦に存じ奉ります フウ寺
岡平右とは エエ何でえすか まへ
かど北国(ほっこく)へお飛脚にいかれた
足のかるい足軽殿か 左様で

ござります 殿さまの御切腹
北国にて承りまして なむ三
宝と宙を飛んで帰りまする
道にて お家も召し上げられ 一家
中散り散りと 承った時の無

念さ 奉公こそ足軽なれ
御恩はかわらぬお主の怨(あだ) 師
直めを一討ちと 鎌倉へ立ち越え
三ヶ月が間非人と成ってつけ
狙いましたれ共 敵は用心

厳しく 近寄る事も叶いませ
ず 所詮腹かっさばかんと存じ
ましたが 国元の親の事を
思い出しまして すご/\帰り
ました所に 天道様のお知らせ

にや いずれも様方の一味連判
の様子承りますると ヤレ嬉しや
有りがたやと 取る物も取りあえず
あなた方の旅宿を尋ねひた
すらお願い申し上げましたれば 出かした

うい奴じゃ お頭へ願うてやろと
お詞に縋り これまで推参仕り
ました 師直屋敷の アアコレ/\/\
ア其の元は足軽ではのうて 大きな
口軽(くちがる)じゃの 何とたいこもちな

されぬか 尤もみたくしも 蚤の
顔を斧(よき)で割った程 無念な
共存じて 四五十人一味こしらえて
見たが アあぢな事の よう思う
て見れば 仕損じたり此方の

首がころり 仕負うせたら後で
切腹 どちらでも死なねばならぬ
というは 人参呑んで首くくる
様な物 殊に其の元は 五両に
三人扶持の足軽 お腹はたて

られな はっち坊主の報謝
米程取って居て 命を捨てて敵討ち
しょうとは そりゃ青海苔貰うた
礼に 太々神楽を打つ様な物 我?
知行千五百石 貴様とくらべると

敵の首を斗舛(とます)ではかる程取っ
ても釣り合わぬ/\ 所でやめた ヲ
聞えたか とかく浮世はこうした
物じゃつつてん/\/\なぞと引き
かけた所はたまらぬ/\ これは

由良助様のお詞共覚えませぬ
わづか三人扶持取る拙者めでも
千五百石の御自分様でも 繋ぎ
ました命は一つ 御恩に高下は
ござりませぬ 押すに押されぬお家

の筋目 殿の御名代もなされ
まする 歴々様方の中へ 見る
かげもない私めが さし加えてと
お願い申すは 憚り共慮外共 ほんの
猿が人真似 お草履を掴んで

成り共 お荷物をかついで成りとも
さんじましょう お供に召し連れて ヲ
申し コレ 申し これはしたり 寝てござる
そうな コレサ平右衛門 あったら口
に風ひかすまい 由良助は死人も

同然 矢間殿 千崎殿 モウ本心は
見えましたか 申し合わせた通りはからい
ましょうか いか様 一味連判の者
共の見せしめ いざいあづれもと立ち
寄るを ヤレ暫くと平右衛門 押し

なだめ傍に寄り つくづく思い廻し
ますれば 主君にお別れなされ
てより 怨(あだ)を報わんと様々の艱難
木にも萱にも心を置き 人の
謗り(そしり)無念をば じっとこたえて

ござるからは 酒でもむりにまいら
すば 是迄命も 続きますまい
醒めての上の御分別と 無理に押さえ
て三人を 伴う一間は善悪の 明かり
を照らす障子の内影を照らすや

月の入 山科よりは一里半息を
切ったる嫡子力弥 内をすかして
正体なき父が寝姿 起こすも
人の耳近しと枕元に立ちよって
轡にかわる刀の鍔音 こい口

ちゃんと打ちならせば むっくと
起きて ヤア力弥か こい口の音
ひびかせしは 急用有りてか密か
に/\ 只今御台かほよ様より
急のお飛脚密事の御状

ほかに御口上はなかったか 敵
高の師直帰国の頼み叶い 近々
本国へ罷り帰る 委細の義は
お文との御口上 よし/\ 其の方は
宿へ帰り 夜の内に迎いの駕(かご)

いけ/\ はったとためらう隙(ひも)も
なく 山科さして引きかえす 先ず
様子気遣いと状の封じを
切る所へ 大星殿 由良殿 斧
九太夫でござる 御意得ましょう

と声かけられ これは久しや
/\ 一年も逢わぬ内 よった
ぞや/\ 額にその皺のばしに
お出でか アノ爰な筵被りめが
イヤ由良殿 大功は細瑾(さいきん)を

かえり見ずと申すが 人の謗りも
構わず遊里の遊び 大切を
立つる基(もとい) 連れの大丈夫 末頼
もしう存ずる ホヲこれはかたいわ
/\ 石火矢と出かけた 去り迚は

おかれい イヤア由良助殿とぼけ
まい 誠貴殿の放埓は 敵を
討つ術と見えるか おんでもない
事 忝い 四十に余って色狂い
馬鹿者よ気ちがいよと

笑われふかと思うたに 敵を討つ
術(てだて)とは九太夫殿 ホウ嬉しい/\
スリャ其の元は 主人塩冶の怨(あだ)を
報ずる所存はないか けもない
事/\ 家国を渡す折から 誠

を枕に討死と言うたのは 御台
さまへの追従 内に其の様な上(かみ)へ
対して朝敵同然とその場を
ついと立った 我抔(我等)は後に トしゃち
ばって居た いかいたわけの 所で

仕舞いは付かず 御墓へ参って切
腹と 裏門からこそ/\/\ 今この
安楽な楽しみするも貴殿の
おかげ 昔のよしみは忘れぬ/\
堅(かたみ)をやめて砕けおれ/\ いか様

この九太夫も 昔思えば信太の
狐 ばけ現わして一献くもうか サア
由良殿 サ久しぶりだお盃
又頂戴と会所めくのか 
さしをれ呑むは 呑みおれさすは

ちょうど請けおれ肴をするわと
傍に有りあう蛸肴(ざかな) はさんで
ずっと指し出だせば 手を出して
足を戴く蛸肴 忝いといただい
て喰わんとする 手をじっと

とらえ コレ由良助殿 明日は主君
塩冶判官の御命日 取りわけ
逮夜(たいや)が大切と申すが 見事その
肴貴殿は喰うの たべる/\ 但し
主君塩冶殿が 蛸になられ

たという便宜(びんぎ)が有るか エぐちな
人では有る こなたやおれが浪人
したは 判官殿が無分別から
スリャ恨みこそ有れ 精進する気
微塵もござらぬか 志の肴

賞翫(しょうかん)いたすと何気もなく
只一口にあじわう風情 邪智
深き九太夫も呆れて 詞も
なかりける 扨この肴では呑め
ぬ/\ 鶏(にわとり)しめさせ鍋焼きさせん

其の元も奥へお出で 女郎共うたえ
/\ と足元もしどろもどろ
の浮き拍子 テレツク/\ツツテン/\ おのれ末社
共 めれんになさで置くべきかと
騒ぎにまぎれ入りにける 始終

を見届け鷺坂伴内 二階に
おり立ち 九太夫殿 子細とっくと
見届け申した 主の命日に精進
さえせぬ根性で 敵討ち存じも
よらず この通り主人師直へ申し聞け

用心の門をひらかせましょう
成程 最早御用心に及ばぬ
事 これさ まだ爰に刀を忘れ
て置きました ほんに誠に 大馬
鹿者の証拠 嗜みの魂見ま

しょ 扨錆びたかな赤鰯 ハハ・・ハハ・・
弥(いよいよ)本心顕れ御安堵/\
ソレ九太夫が家来迎いの籠
はっと答えて待ちい出る サア
伴内殿お召しなされ 先ず御自

分は御老体 ひらに/\ 然らば
御免と乗り移る イヤ九太殿
承ればこの所に 勘平が女房が
働いていると聞きました 貴殿
には御存じないか 九太夫殿/\

といえどこたえずコハふしぎと 籠の
簾を引き明くれば 内には手ごろ
の庭の飛び石 コリャどうじゃ
九太夫は松浦(まつら)さよ姫をやら
れたと 見廻すこなたの縁の

下より コレコレ伴内殿 九太夫が
籠抜けの計略は 最前力弥が
持参せし書簡が心もとなし
様子見届け後より知らさん やはり
我抔(等)が帰る体にて 貴殿はその

籠に引き添うて 合点/\と頷
き合い 籠には人の有る体に見せ
てしずしず立ち帰る 後に二階へ
勘平が妻のおかるは酔(えい)ざまし
早や里なれて順風に うさを

晴らして居る所へ ちょといて
くる 由良助共有ろう侍が
大事の刀を忘れて置いた つい
取ってくるその間(あいだ)に 掛け物もかけ
直し 炉の炭もついでおきや

アアそれ/\/\ こちらの三味線踏み
おるまいぞ これはしたり 九太は
逝かれたそうな 父よ母よと泣き
声聞けば 妻に鸚鵡の うつ
せし言(こと)の葉 エエ何じゃいなおか

しゃんせ あたり見廻し 由良助
釣り灯籠のあかりをてらし 読む
長文(ながぶみ)は御台より敵の様子
こまごまと 女の文の後やさき
参らせ候ではかどらず よその恋

よと羨ましくおかるは上より見おろせ
ど 夜目遠目なり字性(じしょう)も
おぼろ 思い付いたるのべ鏡
出でて写して読み取る文章
下家よりは九太夫が くりおろす

文月かげにすかし読むとは 神
ならずほどけかりしおかるが
玉笄(かんざし) はったり落つれば 下には
はっと見上げて後ろへ隠す文
縁の下には猶えつぼ うえ

には鏡のかげ隠し 由良さんか
おかるか そもじはそこに何し
てぞ わたしゃおまえにもり
つぶされ あんまりつらさに
えいさまし 風に吹かれて居る

わいな ムウハテのう よう風に吹かれ
てじゃの イヤかる ちと咄し
たい事が有る 屋根越しの天の
川で爰からは云われぬ ちょっと
おりてたもらぬか 咄したいとは

頼みたい事かえ まあそんな物
廻ってきやんしょ いやいや
段梯子へおりたらば 中居が
見付けて酒にしょう アアどうしょう
な ムムコレ/\ 幸い爰に九つ梯子

是をふまえておりてたもと 小
やねにかければ この梯子は
勝手が違うて ヲヲこはどうやら
是はあぶない物 大事ない
/\ あぶないこわいは昔の事

三間ずつまたげても 赤がう
やくもいらぬ年ばい あほう
云わんすな 船に乗ったようで
こわいわいナ 道理で船玉様
が見える ヲヲのぞかんすないナ

洞底(どうてい)の秋の月様をおがみ
奉るじゃ イヤモウそんなら下りや
せぬぞ おりざおろしてやろ
アレ又悪い事を やかましい
生娘かなんぞの様に 逆縁な

がらと後ろよりじっとだきしめ抱き
おろし 何と そもじは御ろうじたか
アイいいえ 見たで有ろ/\ 何ん
じゃやら面白そうな文
あの上から皆よんだか ヲヲくど

アア身の上の大事とこそは成り
にけり 何の事じゃぞいな
何の事とはおかる 古いが惚れた
女房に成ってたもらぬか おかん
せ嘘じゃ サア嘘から出た真で

なければ根がとげぬ おうといや
/\ イヤいうまい なぜ お前
のはうそから出た真じゃない
真から出た嘘じゃ おかる
請け出そう エエ うそでない

証拠に 今宵の内に身請け
しょう ムウいやわしには 間夫(まぶ)が
有るなら添わしてやろ そりゃマア
ほんかえ 侍冥利 三日なり共
囲うたら それからは勝手次第

ハアア嬉しうござんす といわして
置いて わらをでの いや直ぐに
亭主に金子渡し 今の間に
埒さそう 気遣いせずと待っ
て居や そんなら必ず待って

居るぞえ 金渡してくる間
どっちへもいきやるな 女房じゃ
ぞ それもたった三日 それ
合点 忝うござんす 世にも
因果な者ならわしが身じゃ

かわい男にいくせの思い エエ何じゃい
なおかしゃんせ 忍びねになく
さよちどり 奥で諷うも身の
上とおかるは 思案取り〃の 後に
出合う平右衛門 妹でないか

兄様か 恥ずかしい所で逢いました
と顔をかくせば 苦しうない
関東よりの戻りがけ 母人に逢う
てくわしく聞いた 夫の為お主の
為 よく売られた出かした/\

そう思うて下さんすりゃわしゃ
嬉しい したがまあ悦んでくだ
さんせ 思いがけのう今宵請け
出さるる筈 それは重畳(ちょうじょう)
何人のお世話で おまえも

御存じの大星由良助様の
御世話で 何じゃ 由良助様に
請け出される それは下地からの馴染み
か 何のいな この中より二三度酒(ささ)の
相手 夫が有らば添わしてやろ 隙(ひま)が

ほしくば隙やろと 結構過ぎた身
請け 扨はその方を 早野勘平が
女房と イエしらずじゃぞえ 親
夫の恥なれば 明して何の云いま
しょう ムウすりゃ本心放埓者

お主の仇を報ずる所存は
ないに極まったな イヤイヤこれ兄様
あるぞえ/\ 高うは云われぬコレ つらつらと
囁けば ムウすりゃその文を慥(たしか)
に見たな 残らず読んだ其の

後で 互いに見合わす顔と顔 それ
からじゃら突き出して つい身請けの
相談 アノその文残らずよんだ
後で アイナ それで聞こえた 妹
迚も遁れぬ命 身共にくれ

よと抜き打ちにはっしと切れば ちゃっ
と飛び退き コレ兄様わしには何の誤り
勘平という夫もあり きっと
ニた親有るからは こなさんの儘にも
成るまい 請け出されて親夫(おっと)に

逢おうと思うがわしゃ楽しみ
どんな事でも謝ろう 赦して
下さんせ赦してと 手を合わす
れば 平右衛門 抜身を捨て
どうど伏しひたんの涙にくれけるが

可愛や妹何にも知らぬな 親
与市兵衛殿は 六月廿九日の
夜 人に切られてお果てなされた
マアそれはまあ コリャまだびっくり
すな 請け出され添うと思う

勘平も 腹を切って死んだわやい ヤア/\/\
それはまあほんかいの コレのう/\
と取り付いてわっとばかりに泣き沈む
ヲヲ道理/\ 様子は話せば長い
事 おいたわしいは母者人 云い出し

ては泣き、思い出しては泣き、娘かるに
聞かしたら 泣き死にするで有ろ 必ず
いうてくれるなとのお頼み いう
まいと思え共 迚も遁れぬそち
が命 その訳は忠義一途に凝り

かたまった由良助殿 勘平が
女房と 知らねば請け出す義理
もなし 元来(もとより)色には猶ふけらず
見られた状が一大事 請け出し
差し殺す 思案の底と慥に

見えた よしそうなうても壁に
耳 外より漏れても其の方が科
密書を覗き見たるが誤り
殺さにゃならぬ 人手にかきよ
より我が手にかけ 大事を知ったる女

妹迚赦されずと それを功に
連判の 数に入ってお供に立たん
少身者の悲しさは人に勝れた
心底を 見せねば数には入ら
れぬ 聞き分けて命をくれ 死んで

くれ妹と 事を分けたる兄の詞
おかるは始終せき上げ/\ 便りの
ないは身の代を役に立てての
旅立ちの 暇乞にも見えそな
物と 恨んでばかりおりました 勿体

ないがとと様は非業の死でも
お年の上 勘平殿は三十に成るや
ならずに死ぬるのは嘸 悲しかろ
口惜しかろ 逢いたかったであろう
のになぜ 逢わせては下さん

せぬ 親夫(おっと)の精進さえしら
ぬはわたしが身の因果 何の
生きておりましょう お手にかからば
かかさんがおまえをおうらみな
されましょ 自害した其の

後で首なりと死骸なりと
功に立つなら功にさんせ さらば
でござる兄様といいつつ刀取り
上げる ヤレ待て暫しととどむる
人は由良助 はっと驚く

平右衛門 おかるははなして
殺してと あせるを押さえて ホウ
兄弟共見上げた 疑い晴れた
兄はあづまの供を赦す 妹は
ながらえて 未来への追善

サアその追善は冥途の供と
もぎ取る刀をしっかと持ち添え
夫勘平連判には加えしかど
敵一人(いちにん)も討ち取らず 未来で主
君に言い訳有るまじ その言い訳は

コレ爰にと ぐっと突っ込む畳
の隙間 下には九太夫肩
先ぬわれて七転八倒 それ
引き出せの 下知より早く
縁先飛びおり平右衛門 朱(あけ)に

染(そん)だ躰をば無二無三に引き
ずり出し ヤア九太夫め ハテよい
気味と引っ立て 目通りへ投げ
付ければ 起き立たせもせず由良
之助 髷(たぶさ)つかんでぐっと引寄せ

獅子しんちゅうの虫とは己が事
我が君より高知を戴き 莫太(ばくたい)の
御恩を着ながら 敵師直が犬と
成って有る事ない事 よう内通ひろい
だな 早や余人の者共は 親に別れ

子に放れ 一生連れ添う女房を 君
傾城の勤めをさするも 亡君の
仇を報じたさ 寝ざめにも現(うつつ)
にも 御切腹の折からを思い出し
ては無念の涙 五臓六腑を

しぼりしぞや 取り分け今宵は殿
の逮夜(たいや) 口にもろ/\の不浄を
云うても 慎みに慎みを重ねる由良助
に よう魚肉を突き付けたなァ いやと
云われず おうと云われぬ胸の苦しさ

三代御恩のお主の逮夜に 咽
を通したその時の心 どの様に有ろう
と思う 五体も一度に悩乱 四十
四の骨々も 砕くる様にあったわやい
エエ獄卒め魔王めと 土に摺り

 

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付け捻じ付けて無念 涙にくれけるが
コリャ平右衛門 最前錆刀を忘れ
置いたは こいつをばなぶり殺しという
知らせ 命取るぞと苦痛させよ
畏まったと抜くより早く 踊り上がり起き上がり

切るともわずか二三寸 明き所もなしに
疵だらけ のた打ち廻って 平右殿
おかる殿 詫びしてたべと手を合せ 以前は
足軽づれなりと 目にもかけざる
寺岡に三拝するぞ見ぐるしき

 

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此の場で殺さば言い訳むつかし
くらい酔(え)うた体(てい)にして 館へつれ
よと羽織打ち着せ疵の口
隠れ聞いたる矢間千崎
竹森が 障子がらりと

引き明ける 由良助殿 段々誤り入り
ましてござります それ平右衛門
くらい酔うたその客に加茂
川で ナ 水雑炊をくらわせい ハア イケ

 

 八段目 道行旅路の花嫁につづく