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仮名手本忠臣蔵 八段目 道行旅路の花嫁

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856213

 

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第八 道行旅路の嫁入

浮世とは 誰(たが)いひそめて あす
か川 扶持も知行も瀬とかはり
よるべも浪の下人(したひと)に 結ぶ塩冶
のあやまりは 恋のかせ杭(ぐい)加古

 

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3
川の むすめ小浪が云号(いひなづけ)結納(たのみ)
も とらず其の儘にふり捨てられし
物思い 母のおもいは山科の
聟の力弥をちからにて住家へ
おして嫁入りも 世にありなしの

義理遠慮こしもとつれず乗
物もやめて 親子のふたりづれ
都の空に 心ざす 雪のはだへ
も さむそらは 寒紅梅の色
そひて 手さき覚へずこゞへ坂

 

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4
さつたとうげに さしかかり見かへ
れば 富士のけふりの 空に消え
行方もしれぬ思ひをば はら
す嫁入りの 門火(かどび)ぞと 祝うて
三保の松ばらにつゞく なみ松

街道をせましとうったる行
列は たれとしらねどうらやまし
アヽ世が世ならあのごとく 一度
のはれと花かざり だてを駿
河の府中過ぎ 城下 すぐれば

 

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5
気さんじに 母のこころもいそ
/\と 二世のさかづきすんで後
閨(ねや)のむつごとささめごと 親しら
ず子しらずと つたのほそ道
もつれあひ 嬉しからふと手を

引けば アノ母さまのさし合いを脇へ
こかしてまり子川 宇都(うつ)の山
べのうつヽにも 殿御はじめの
新(にい)まくら 瀬戸の染飯(そめいい)こはい
やら はづかしいやら嬉しいやら

 

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6
案じてむねも大井川 水
のながれと人ごころ もしや心は
かはらぬか 日かげに花は咲かぬ
かと いふて島田のうさはらし
我が身のうへを かくとだに 人しら

すかの橋こへて行けば吉田や
赤阪の まねく女のこえそろへ
縁をむすばば清水寺へまい
らんせ 音羽の瀧にざんぶりざ
毎日そふいふて拝まんせそふ

 

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7
じゃいな ししきがんかうがかい
れいにうきう 神楽太鼓に
ヨイコノゑい こちの昼寝をさま
された 都殿御にあふてつらさ
がかたりたやそふとも/\ もしも

女夫とかか様 ならば伊勢様の
引合せ 鄙びたうたも 身に
とって よい吉左右(さう)に鳴る見がた
熱田のやしろあれかとよ 七里の
わたし帆をあげて櫓びやうし

 

 

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8
そろへてヤッシッシ 舵とる音は すゞ
むしかイヤ きり/\゛す 鳴るや霜夜
とよみたるは 小夜ふけてこそ
くれまでと かぎりあるふね
いそがんと母がはしれば 娘も

はしり空のあられに笠覆い
船路のともの 行くや先しやう野亀
山せきとむる いせとあづまの別れ
道 駅路のすゞの鈴鹿こへ あひ
の土山 雨がふるみなくちの葉に

 

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9
いひはやす いしべ石場で大いしや
小石拾ふて我が夫となで川 さすり
つ手にすへて やがて大津や
三井寺の ふもとを越えて山科へ
ほどなき さとへ いそぎゆく 

 

九段目につづく