仮想空間

趣味の変体仮名

大塔宮曦鎧 第五

 

読んだ本 http://archive.waseda.jp/archive/index.html
     イ14-00002-111

 


88(右頁6行目)
   第五               かゝやけり
日西天に没すること三百七十余ヶ日 大凶変じて一元に帰すといふ 聖者(じやうじや)の末
来記当たれるかな 西国の官軍等天皇をうばひかへし はりまの国迄還幸と告げ
来れば 大塔宮護良親王急ぎ六はらを攻め亡ぼし 君を迎ひ奉れと五畿内の
勢くまの勢 八庄司の勢はせくはゝり六はらの屋かた 十重廿重に追取まき
錦の御はたひえの根おろしに吹そらさせ 互に合する鯨波 勝負を龍虎と
争ふたり 時に城中より太山のごとくよろふたる武者三人 得物引さげおどり出音
にも聞らん我々は 六はら殿の御内にさる者有としられたる 御着所(きそ)七郎怒借屋(めかりや)
軍次毎田(まいでん)太郎と云者也 宮の御内に村上赤松平賀と云 一騎当千の侍有と


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聞 出よ/\はれわざの太刀討せんとよばゝつたり 平賀の三郎つゝと出 先武者ぶりよち
口上見ごと赤松村上が手迄なく 三人ながら平賀が片腕 サアこい/\とあざむ
けば 詞にも似ず三人一所ぬきつれ/\うつてかゝる 平賀こと共せり立なぎたてし
ばしさゝふて戦ひける なんのくもなく三人ながら けさ切たてわり腰車切りふせ/\
大音上 こと初めよしヤレかゝれと 一度にどつと備へをみだし火水に なれと 「攻めくづす運
に乗たる 宮の御勢一勝が十勝に渡り合 百術千慮の手をくだけば 城中残らず切
つくされ有はかひなきかり武者共 降参/\とよばゝつて 城中を乗ぬけ/\官軍に

馳せ加はれば みかたは弥かつに乗範貞飛鳥のつはさを失ひ 親王も只泣顔に涙こぼさ
ぬ斗也 斉藤太郎左衛門利行 櫨(はじ)匂ひの鎧さはやかに出立一陣にすゝみ大音上声 六はら殿
の御勢こと/\゛く命を落し 残るは親王主君範貞 かく云利行三人斗 他年の高恩此
一せんに報ぜん願ひ 心有人々おり合ひ恥有打物して目を覚せよ サアこい/\と力士のごとく
つゝ立たり 是こそ望む太郎左衛門我討とらんろよせ手の勢 一二を争ひ討てける 村上赤松
ヤア暫くと陣頭にかけふさがり 弥々太郎左衛門 八さいの宮の御身がはり孫を殺せし忠義の心
底 大塔の宮御かんの余り 所望あらば望をかなへみかたに招け 大国をあたへ其恩に報ぜんとの


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御諚 我々迎ひに向ふたりといんぎんに相述ぶる 利行から/\と笑ひ 扨々頼もしう思ひし大塔
の宮あいそつきた 天下に人らしい人はないな身不祥ながら六はら殿 無二の忠臣と頼まれし
斉藤太郎左衛門利行官軍に降参する程ならば 聟や娘をやみ/\と殺そふか いや共
おゝ共返答ない立され/\ 但し首にあいたらばさらへ落してとらせふか いや/\太郎左りつは
過る 六はらのせんど見届けて 朝敵の方人(かたうど)末代貴殿が悪名ははげず 唐土の官仲が
古主を捨桓公をたすけしこと 唐日本にも誰か笑ふと いはせも立ずアゝ毛唐人
のまねなんのこと 物数いふな聞みゝないと たてぬく忠義にたてづかん詞なく/\ため

らふ所へ駿河守範貞逆仁親王を高手小手にいましめ 自身なは取ひつ
立出アゝ太郎左衛門わるいがてん そなたの望ならばかなへてみかたにせんとの 宮様の口上皆
聞た コレ駿河の命助けて下さらば みかたに参らふとなぜいふてたもらぬ 此たゝ
かひのもとは此親王が有からのこと なはかけたはみやげにする心ちよつと一口駿
河守が 命助けて下されといふてたもいの それが今生後生の忠義頼上ます
太郎左衛門 様/\/\じやとひれふしておがまぬ斗のふぜい也 太郎左衛門きばをかみエゝ
ふがいない是 蠅虎(はひとりぐも)はな ちいさけれ共はね有はひをとらんとするゆう


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気あり 蝱(あぶ)はひにおとつた範貞殿 村上赤松が聞前恥しうはないか サア
物いはすと切腹/\ ヤア腹きれか くどい/\ なふ此腹がきられふかと うつむく
所をぬき打に首討おとし めいどの案内者利行待給へ我君と 太刀
取なをし我と我首えい/\とかきおとし 立すくばつてしゝてけり むねん
/\と逆仁親王 みづからかゝるいましめは 明王諸天のばくのなは 神と君
との道明らかに 朝敵滅亡御代万歳 二度てらす日の本の つゞいて天下太平記
四海におほふ網のめに もるゝ民なき君子の徳百万 歳とぞいはひける(完)

七行大写直々正本とあさむく類板世に有と
いへ共又うつし成故節章の長短墨?(墨蹟?はくせ)の甲乙(かんおつ)
上下あやまり甚だすくなからす三写鳥焉馬(うえんは)なれは?(文字?)
にも又遺失多かるへし全く予が直々正本にあらず
故に今此本は山本九兵衛治重新たに七行大字の板
を彫りて直々正本のしるしを糺せよとの求めにした
かひ予が印判を加ふる所左のことし
         竹本筑後掾  
二条通寺町西入町 正本屋 山本九兵衛板       

 

 

 

 
大雨による水害。今週に入りやっとニュースになり始める。
被害状況は3.11と変わらない。酷いひどいひどい
政府もひどい。最早人に非ず。