読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2533379
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鼻唄 こし屋高蔵 穴掘溜太郎 焼場粉無太郎 医寺坊三
三ザン 跡野妻子 折レ口五九郎 肴屋文三
作者 しね屋徳三郎
右より
太鼓 門前子蔵
日々に
笛 無駄奈祈祷太
つゝみ 強飯万十
ふり付 屋美月間内
「しに行 三日転愛哀死々(しにゆき みっかころりあい/\しゝ)」「上下」
正進所 寺町 八百屋物蔵飯
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「神奈川 百姓甚助」
「いかでかはみもすみ川の流れくむ 人にあたるなえきれいの神」
「蘇民将来子孫家門」
「奉読大般若 金龍山 六百巻 浅草寺」
「三峯山」
「乾??」
「祈祷寶牘」
「正一位鴎稲荷大明神守護祇 向柳原 能勢氏」
「佐原十左衛門」
三日ころり愛哀死々 しね屋徳三郎述
「芋の葉におく露ならではかなさは
あしたの風にさそわれてころりと
消(きゆ)る玉の緒のきれてあの世へ旅
立(だつ)はあわれ無常の夢ごゝろゆ
めかうつゝかわく方も泣より外(ほか)
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のすべもなや「始はそれとしら布(ぬの)
のさらす武さしの玉川の水に流
せし毒ゆへと一人が言(いへ)ばいえばえに
それから夫(それ)へつたわりて水道を
呑ば死るぞと身振ひなして茶ものまず
「あわれや茲(こゝ)に水屋てふ唱ふる物の
今日よりは何を活業(たつき)に世渡りの
煙り立んととつおいつ想ひ沈(しづめ)ば
秋雨に濡(ぬる)る袖さへ袂さへ泣の泪
の玉川や神田上水汲とても誰か
買ふべきいざやいざ同じ因(ちなみ)の
水なればちぎりも深き堀抜(ほりぬき)の
5
井戸に命をつながばや「聞ば魚(いを)に
も毒がある海にも毒をいれ
たるや「初夜の鐘をばつくまでは
酒(さゝ)をすごしていた物が今朝はこ
ろりと跡にかえる花の姿も散り
て行(ゆく)諸行無常の風まかせ鰯
の毒と言つとふ「日々に死人の数
おえばことあたらしや人々の昨日
の花はけふの夢今は我身か翌日(あす)
は亦(また)妻子(つまこ)の死ることやぞと気
をもみぢ傘しら張の提灯てら
す死出の山「かゝる折しを時得顔(ときえがほ)
6
すこしぼんとしたぼん助にお先(さき)狐の
とりついて口に任せた出放題こ
れは怪しと加持祈祷せめ立ら
れて落(おち)しぞと狐の噂に驚きて
家並毎(ごと)の軒の端は八つ手にん
にく寄字(よせじ)の守りみもすそ川や
黒札に狐は恐れをなすとても
乗越て来る疫病がほんに油
断もなら坂やこの手柏(がしわ)の裏表(うらおもて)
返す間もなくしするとは頓死
とん死じやないかいな「それおぼえて
か死ときの其くるしさに引替
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て喉をうるほす末期の水も泡
と消行(きえゆく)身は誰も経帷子のか
たおもひさしで行れぬ事ぬれ
ばその手替りも有物(あるもの)歟死で行
身の身替りはよもや世界にあり
やせまい其仏をば沢山そふに
千も二千も積あげて早いをそ
いも金次第些(ちつと)も余計に鳥辺
野の焼場に燃(もゆ)るほのふの煙り
欲に眼のなきおん坊も臭ひ中
とて諸共にころちと死すもあり
とかや「げにやせ間(けん)で死人(しぬひと)の数
8
も限りもなき程に死人(しびと)の山を
つく鐘と弔ふ法(のり)の声はがり
ことに数珠(すせう)に聞えしは難有(ありがた)ら
しき引導にも亡者は浮(うか)まで和
尚がうかむ浮世なりけり弔ひ
の出会がしらの行違ひ四軒(しけん)五
軒を掛持の迎ひ僧やら葬式を
見送る人の一日に三つ四つ五つ重り
て実(じつ)に噺の如くなり「こゝに恵の
とふときは天よりふりし芳香散(ほうかうさん)
其お薬を呑時は死(しゝ)たるものもよ
みがへる君の情(なさけ)の賜(たまもの)に目出度(たき)
9
御代(みよ)とあほぎけるめでたき御代ぞ
あほぎける
安政五戊午年7月下旬より
地獄の三丁目
さいの 河原先にて貞行
千死万死
大死叶う
「是迄こがれ幾度か焼直したる
この骨(こつ)をてう度三十五日め
にて拾ひとらるゝ悲しさはほ
んに込(こむ)とて余(あんま)りなおん坊さんと
歎きける亡者のくりことあわれな
り
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安政五戊午年七月廿八日より九月十五日迄
御府内中流行病(りうかうぴやう)にて死人男女とも
凡拾六万八千七百九十三人
内諸宗
寺方(てらかた) 九万五千三百五十?人 葬(ほふむり)候よし
内焼場(やきば) 七万三千四百四十壱人 火葬のよし
但一日に積(つも)り 四千九百余人