NHKまる得マガジンで豆腐百珍を現代風にアレンジしているのを見たら、
文献に国会図書館とあったので読みたくなった次第。
読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536494
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凡例
一 凡て豆腐の料理百製を六品に分かち記す。尋常品、
通品、佳品、奇品、妙品 絶品なり。
一 尋常品は家々に常々もてあつかい料理(りょう)る所のものを
記し、そのうちにほぼ料理人の家の口伝あるを悉くしるす。
一 通品は料理かした(?)さして口伝にし、世の人皆よく知る所なれば、
仕様を記すに及ばず。その名ばかりを出だすものなり。
一 佳品は風味尋常品にやや優れ、又は形てぎれいなる
等というの類をしるす。
一 奇品はひときわことかわりて人々の気のつかぬ所を料理
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する者を記す
一 妙品は又やや奇品に勝るものなり。奇品は形模様は奇な
れども、美味いまだ全く妙に到らぬところあるなり。妙品には
形美味ふたつながら備わるものをしるす。
一 絶品はまた妙品より優れるものなり。奇品妙品は最も美味と
いえども膏梁(うますぎる)に嫌いなきにあらず。絶品は珍奇(めずらか)模様にかか
わらず、ひたすら豆腐の真味を知るべき絶妙の調味を
しるす。豆腐好きの人これを味わうべし
一 田楽の切りよう串にさしようの口伝は、木の芽田楽の條下(ところ)
にしるす。凡て田楽と名づくるものは皆この方を用ゆべし。
一 惣て豆腐細切の仕様は饂飩菽乳(とうふ)のところに記す。
一 ケンチェン醋(そ)、白醋(はくそ)、或いは山葵味噌、西洋噌(なんばんみそ)等の豆
腐 加減の料は一條に記して其他は略す。例えば引きずり
豆腐のところに山葵みそを用ゆるを「八十二」、茶とうふのところに見えた
りとことわるが如し。あちらを見てこちらを照しみあわすべし。
一 調和(かげん)烹調(りょうり)のほぼ同じく類ものは一條によせ記し、その名は
品を分かたんが為にそれぞれの科(しなわけ)に別に出だす。これ品類の紛らわしき
を分別なり。尤も一々その一條にことわる也。
一 生醤油とあるは水まはし加減せぬそのままの醤油なり。
一 百品のうち形のこしらえようあり。調理あり。煮加減あり。或いはまた
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味噌のもの、醤油のもの、油揚げもの、まちまちにして一々に
その部を区別がたし。見る人疎漏(そろ)をとがむることなかれ。
一 ▲このしるしあるは肉料理。なきは精進なり。
一 その製一家の秘にして世に伝えざるものは、名ばかりを
続編に出だし、百珍のかずを足し、且つ博物好事の一つに
備う。紅豆腐、或いは、御膳物の角おぼろの類いこれ也。
(目次省略)
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豆腐百珍
浪華 酔狂道人何必醇 輯(しゅう・あつめ)
尋常品
一 木の芽田楽 温湯を大盥に湛へ切るも串にさすも其
湯の中にてする也やはらかなる豆腐にても危くおつるなど
のうれへなし湯よりひきあげすぐに火にかくる也○味噌
に木の目勿論なり醴のかた入れを二分どほりみそに
すりまぜれば尤佳し多く入れば甘すぎて却てよろしからず
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近来田楽爐(ひばち)の新勢あり長さ二尺あまり濶(はゞ)二寸五七
分深さ二寸あまりの方の陶也表へくすり
かけやきたる也底は
(図)かくの如く大さ六七
分の孔を数多ほり
木の槽(?ふね)に入子にし槽の深さ四五寸趾(あし)はほか也
中にとまりありて爐は上壱寸ほどのところに
かゝりあり炭火にて灰をおかず槽に水を
入れて火気を助くる也尤も爐槽ともに二く
みこしらへをき水温れは冷水にとりかへべし
水あたゝかなれはかへつて火気を助けぬなり又爐槽
ともに銅(あかゝね)にてこしらへたるもあり田楽を座敷にてや
く客への馳走也其ときなどうちわにてあふぐことを
せず火気御りんにして灰だつなどゝいふさわりなし
○江州目川 京北今宮の沙(すな)田楽続編に出
二 雉子やき田楽 きつねいろにやき猪口に生の煮かへし
醤油にすり柚をそへ出す也
三 あらかね豆腐 よく水をしぼりつみくづし油気を用
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ひず 酒しほと醤油にて炒つけ すり山椒うちこむ也
四 むすびとうふ 細く切り醋(す)に浸ていかやうにもむすぶへし
よく結びて水へ入れ醋気をさる也調味このみしだひ
五 ハンペン豆腐 ながいもをよくすり豆腐水をしぼりて
等分によくすりまぜまろくとりみの紙に包みて
湯烹(に)す○白玉とうふともいふ
六 高津湯とうふ 絹ごしとうふを用ひ湯烹して 熱
葛あんかけ芥子おく○又南禅寺ともいふ
○大坂高津の庿(やしろ)の境内に湯とうふ家(や)三四軒あり
其料に用ゆる豆腐家 門前に一軒あり 和国第一
品の妙製なり○京師に南禅寺とうふあり
○江戸浅草に華蔵院(けぞういん)とうふあり
七 草の八杯とうふ 太饂飩にきり 醤油に酒しほ
の烹調(かげん)してかくし葛つかひおろし大根おく
○真の八杯とうふは妙品「八十一」に出でたり
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八 草のケンチエン 「七十七」真のケンチエンの下に出でたり
九 霰豆腐 よく水をおししぼり小体に切り笊籬(いかき)にて
ふりまはし角をとりて油にてさつと揚げる也 調味好み
しだひ○少し大きなるを松露とうふといふ
十 雷とうふ 香油(ごまのあぶら)をいりて豆腐をつかみ崩して打ち
入れ直きに醤油をさし調和(かげん)し○葱白(ひともししろね)のざく/\゛
おろし大根おろし山葵うちこむ○又はすり山椒も
よし○南京とうふともいふ○又水気をよくしぼりて
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右の如くするを黄檗(わうばく)とうふともケンポロ豆腐とも
いふ「四十」に出たる黄檗豆腐と製少しちがふなり
一説なり又隠元とうふともいふ
▲豆腐水をしぼりよくつかみくづし青菜を微塵に
刻み とうふと等分にして油をよく煮たゝせ先ずとうふ
を入れよくかきまわし次に青菜を入れ又よく攪し
醤油にて味つくる也 十挺に油二合あまりの分量也
是を砕きとうふといふ
十一 再炙(ふたゝび)田楽 「七十九」阿漕でんがくの下(ところ)に出でたり
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十二 凍(こゞり)とうふ 壱挺を八つほどに切り籠にならべ沸(にえ)
湯をかけそとへ出し極寒天に一夜さらし翌日また
ゆにて烹やはらげ浮あがるときとりあげ少し
壓(おし)をかけおきまたかごにならべ幾日も太陽にさら
す也○茹湯に山梔子(くちなし)をわりて入るゝがよし後に蟲(むし)は
むをふせぐため也 ○夜半よりのちにさらすがよし
よひはよろしからず○又高野とうふともいふ
▲右の如くして寒天に一夜さらす而巳(ばかり)にて翌日に
直きに用るを速成凍(はやこゞり)といふ
十三 速成凍 右に出たり
十四 すり流し豆腐 よくすりて葛粉を混ぜてよくすり
味噌汁へすりながす也
十五 おし豆腐 布に包み板を斜めにして並べのせつぶれぬ
ほどの重石をかけよく水気をしぼり生醤油酒しほ
等分にて煮染め小口切にす
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十六 金砂(すなご)とうふ よく水をしぼりよくすり鶏卵のしろみ
をつなぎに入れ板にのばし上へ煮ぬき鶏卵の黄身をはら
りとまきて砂子の如くよくおさへ蒸す小色帋(こしきし)に切る也
十七 ぷつかけ饂飩とうふ 「百」真のうどん豆腐よりは太く
ひらめにきりてうどん豆腐の烹調(にかげん)にて湯をしぼりもり
生(き)の煮かへし醤油を直きにかけ花がつほおろし大根
葱白のざく/\゛辣茄(とうがらし)の末(こ)をく 是草(さう)のうどん豆腐也
▲真のうどん豆腐の如く切り奈良茶碗へ入れ茶わん
蒸にして葛あんにおろし山葵をくを縮緬とうふ
といふ
十八 しき味噌とうふ 茶わんよく温めをき山葵みその温か
なるを下へしき花かつほをおき烹調よき朧とうふを
あみ杓子にてすくひもる也○山葵みそは「八十二」茶とう
ふの下にみへたり
十九 ヒリヤウヅ 豆腐水をしぼりよくすり葛の粉つなぎに
入れ 加料(かやく)に皮牛蒡の針 銀杏 木耳 麻子(をこのみ) 又
小骰(さい)ものにはやき栗子か慈姑(くわい)か一品入るへし○加料を
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油にて炒つけ麻子は後に入れろうふに包み大小宜きに
随ひ又油にて煠(あぶる?)也 又麪粉(うとんのこ)ころもにかくる尤よし
○いり酒におろし山葵或は白醋に山葵の針をくり又
は田楽にして青味噌に芥子をふる○ヒレウヅ一名を
豆腐卷(けん)ともいふ
▲白醋は芥子をいりてよくすり豆腐を少しすり入れ
醋を入る也 甘きを好むときは大白の砂糖を入るべし
又豆腐のかわりに葛粉を入るゝもよし
▲青みそはみそをよくすり青粉をすり混る也
二十 濃醤(こくしやう) 壱挺四つ切ほどにして壱挺へ壱切入花がつほの
後入れなり初めより入れ烹るはよろしからず出しさま
にすり山椒をき其上へつんぼりと花かつほをくべし
廿一 ふは/\豆腐 鶏卵とうふ等分にまぜよくすり合せ
ふは/\烹にする也胡椒の末ふる○鶏卵のふは/\
と風味かわることなし 倹約を行ふ人専ら用ゆべし
廿二 松重ねとうふ 水前寺紫菜(のり)をしきすり豆腐を鶏卵
白つなぎに入れ紫菜(のり)のあつさ一倍にのべしき蒸してあぢ
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をつける也 切かた好みしだひ
廿三 梨子(なし)とうふ 青干菜を炙り細末(こ)にしてすり豆腐にか
きまぜよきほどにとり布に裏(つゝ)み茹でる也 調味好み随ひ也
▲昆布をよく炙り末にして右の製にするを墨染とうふと云
廿四 墨染とうふ 右に出たり
廿五 豆乳(よせとうふ) 軟(おぼろ)とうふよきほとにとりみの紙に包み湯煮する也
廿六 鶏卵様(たまごとうふ) とうふをよく水をしぼり葛粉をつなぎに入れ
よくすり少しかためにし胡羅匐(人参)しんのなきよろしき
をまるむきにしいかにもよく和らかに煮て右のすり豆腐
にてまき包み又竹のかわにてまきくゝり湯煮して小口切にす
○胡羅匐のかわりに甘藷を用ゆるもよし