仮想空間

趣味の変体仮名

八重霞かしく仇討

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8929843
(30ページ以降 ARC古典籍ポータルデータベース 八重霞かしくの仇討)   
 
      

2
文化五

小曽野
禄三郎 八重霞かしく仇討 山東京伝作 豊国画 六冊


3(国会図書館の左頁)
  ○読則(どくそく)  江戸通油町鶴屋喜右衛門版行

予が著述の絵草紙すべてかならず読則あり本文画にへだてられて読がたきも
此則によりて読めば邪馬臺(やばたい)の詩に蜘の糸を得たるが如くなるべし


「よみはじめ」此しるしあるところより
       まづさきへよむべし   「 小がたのしるしなり本文をよみて
                     のち小がたをよむべし

「つぎへつゞく」文一ちやうにかきつくしがたくつぎへ文のつゞくしるしなり此しるしある
        ところはまづ本文をつぎまでよみつゞけてさてくりかへして小がたをよむべし

▲◆■●★文のつゞくしるしなり此しるしをよく見あはせて
     じゆんによまざれば文をなさず

○文のきれてべつにまた文のおこるしるしなりみわたし一ちやうのうちに文のニだんに
 わかるところから?????一あり唐山(もろこし)の小説に却説(きやくせつ)の両字を用る所に此印をおく

  以上読則終
文化四年丁卯秋七月稿成
同 五年戊辰春正月発兌(はつだ) 山東京伝


4(挿絵)
大絃は
さらず
元結に
おつる雁

神埼遊君(かんざきのゆうくん)
小曽野

芝越多門(しばこしたもん)
一子禄三郎(ろくさぶろう)

辻風
駄平太(だへいだ)
三栗(みつくり)の
うはなり
うちや角被(つのかくし)


5(挿絵)
鵜の羽(は)の
怨霊

吐(はか)ぬ鵜の
ほむらにもゆる篝(かゞり)かな

摂州神埼図(せつしうかんざきのづ)
傘(からかさ)にねぐら
かさふる
ぬれ燕
以上四句
皆其角


6
むかし/\東山
よし政公の
時代のこととかや
かまくら
星月判官
たいらの
くにとも
といふひと
おはしけり
そのけらい
のちちに
芝越
多門
はまおぎ
鱗えもんとて
忠心むにのさむらひ
二人ありけり
いうれもかう
ろくを給りて
なにふそくなく
くらしけるが
りんえもん
のつまの
なをうの
はといひ
ひさしく
つれ
そふと
いへ共
子なき
ゆへ

よつぎ
をもふ
けん
かため
つまと
さう
だんの
うへ
なにはといふ
てかけを
めし
つ か ひ▲

(右頁下)
▲ひとりのむすめをまうけてその
名を小そのとなつけことしニさい
になりぬ又たもんには
一人のなんしあり
なみ松と
いひてことし
五さいなり
さて
りんへもん
とたもんは
つね/\
したしく
まじはり
おなじ
ほう
ばいの
うち
にても
しんるい
どうぜんに
ゆきかよひ
けるにつきりやうにんさうだんのうへ
なみ松と小そのとせいちやうの
のちはふうふになすべしと
いひなづけしけるがちかしき
なかにもしなるしなくては
たしかならずとて
たもんがかたよりはげんむの
かゞみとてうらにかめと
へび とを

いつけ
たる
かゞ
みを

そのが
かたへ
おくりて
ゆひ
のうの
心 を▲

▲ひやうし
りんへもんが
かた
よりは
うん
くわく
のかうがいを
なみ松
かたへ
おくりて
まご(?)ひきで
の心をひやうし
ける○けんむの
かゞみうんくわくの
かうがい
その図
うぎにあら
はす

(右頁中)
「りんえ
もん
てかけ
なに

(背後の暖簾の柄がハイカラだな)

(左頁中)
「おまへの
おかちと
みへます

「どふ して /\


7
さてはまおぎりんえもんはほんさいとてかけとわけへだてなくあつかひほんさいとてかけ
のなかもむつまじくみへければ心をやすんじてうちすぎけるがあるときしよもうをよみいて
たれぞいぬかとよびければをりしもつまうのはつぎのまにいてきゝつけこなたにきて
「雲鶴笄(うんくわくのかうがい)」
なにの御用の候といふりんえもんいはくしよさいへゆき此しよもつと
なに/\のしよもつととりかへきたるべしといひければかしこまり
候とこたへてこなたのしよもつをもちたちたるとき
ぐところよりんいやらん一つうのかきものをとりおとしたる
をしらずしてゆきぬりんへもん
なにのこゝろもなく
(図)
これをひろひとりてみるにてかけなにはをじゆそするぐわんもんにておそろしき
ことゞもをかきのせちいさきわらにんぎやうにはりをあまたさしてかのくわん
しよのなかにまきこみておきぬさて/\女といふものは
こゝろのおそろしきものなりと思ふ所へ
うのはいひつけられたるしよもつを
とりきたるゆへりんえもんかの一つうを
ふところにかくしてそしらぬふりにて
いたるにうのはゝおとしたることをいまだ 「玄武鏡(げんむのかゞみ)」(図)
しらざるにやもはや御ようなくばとて
此ざしきをしりぞきいでぬさてりんえもん
つら/\思ひけるはげめんによぼさつないしん
によやしやとてむかしより女のこゝろ
おそれたるもうべなりこれまでてかけと
なかむつまじきようにみへたるはみな
いつはりにてありけるよ宇治の川なみきぶねの釘
りんきしつとのあくねんをこれまでつゝみかくせしこといま此一つうにてあらはれぬ
此ぐわんしよをもつてはぢしめきやうくんしてかゝるあくねんをやめごにちをきつと

つゝしむやうに申つくべしと思ひて
たちあがりけるがいや/\女はりやう
けんのあさきものなればいたくはぢ
しめるはめんぼくなく思ひて
万一身をあやまることなどの
あるまじきとも思はれず
もしもさやうなる
ことありては
われてかけを
のみあひして
ほんさいの身を
あい(?)また
せしと
たにんの
ひやうすることも
あるべければこれは
まづおん
びんにして
べつに又
ぶじを
はかる
しあんを
めぐら
すに
しかべしと
かのぐわん
しよと▲

▲わらにん
ぎやうを
くわちうしてぞ
うしなひ

「はてかういふ心で
あらふとはつゆ???
そはなんだおんなの
心といふものは
はかられぬ
ものじやナア


8
かくてりんへもんつら/\思ひめくらしけるにわれ
てかけをめしつかふはよつぎをまうけん
ためのみにてすこしもいろをむさぼるに
あらずしかりといへどもひつきやう
てかけあるゆへにわざわひをひき
いだしてせんぞのかめいを
けがしたるためしおほき
ことなればてかけなにはに
とがはなしといへども
かれにいとまを
つかはしつまが
りんきのねを
たちてのちゆるやかに
きやうくんをもちひなば
ゆがめる心ざしもおのづから
なほすにかへるべしとりやうけんを
さだめそのよくじつなにはをよびて
いひけるはなんぢこれまでよくつかへてすこしの
あやまりなくことさら小そのもやう/\三さい
にてちばなれもせさればかた/\゛もつてたより
あしきことなれどもいふにいはれぬことありてこん日
いとまをつかはすあいだかならずわれをうらむべからず又小その
ことはきづかひすなうばをかゝへてずいぶんだいじによういく
すべしいまにはかにいとまをとりてはさぞなんぎとも思ふべ
けれどながくわれにつかへてはなんぢがみのためにもあらずこと
あればこれまでのえんとあきらめて小そのに心をのこすなよ
女(?)といふものはさかりすぎてはいつしやうをあやまるものなれば
はやくさうおうのところをみたてゝいづかたへもえんづくべしと
こま/\といひきかせかたつき金とて五十両あたへければなにはゝ
思ひがけざることなればこはいかなるゆへのいとまぞとうちおどろき
かほもあげずになきいたり

ほんさいうのはは
だいじのぐわんしよを
うしなひいづくへおと
せしかとあはて
まどひてたづね
まはりけるが
よく/\おもへは
おつとのいまへ
おとしたるに
ちがひなしこはおほいなる
わざわひをひきいだしぬ
おつとはかねてぶへんかたぎの
人なればあのぐわんしよを
見てはわらはをてうちにせんは
ひつぢやうなりとてもしぬる
いのちならじがいしてはてな
とまもりがたなをとりいだし
かくごをきはめていたりたるが
おつとのやうすをみるに
つねにかはりたる
けしきもなく
つぎの日になりても
なにのさたもなく
かへつてなにはに
きうにいとまを
いひつけしときゝて
まつすこしおちつき
けるが此すえ
いかゞと
あんじ
いたりぬ

(右頁下)
「てかけなにはがはらにしゆつしやうの女子
小そのことしわづかに三さいなるがはゝの
こゝろもしらずしてなきいるはゝに
はひよりつゝ
これみて
/\とて
まめだいこ
をはゝの
かほにさし
つけるよそ
のみるめも
あはれなり

(中)
「女なにかなしく思ふは
もつともなれども
これまでのえんと
あきらめて
もふ
なき
やめ /\

(下)
「はい/\
さだめて
ふかひ御
やうすの
ありそふな
ことなんの
おうらみ
申ましやう
はい/\もふ
なきはいたし
ませぬと
くちには
いへど
めもとより
なかるゝ
なみだ
とゞま
らず
たゞ
むせ
かへる
ばかり
なり

「あのぐわんしよを
りんえもんどのに
みつけられては
どうも
いきては
いら
れぬ

当年山東京山作えざうししな/\
出板仕候よろしく御ひやうばんこひ
ねがひ?奉り候


9
「おやこのわかれさぞあらん
さて/\ふびんや

○なにはゝ今
わかれて
いつあふことも
はかりがたし
せめてのかたみ
と小そのが
うぶけとほそのをゝ
まもりふくろに
いれてもち かへりぬ

「よみはじめ」なにはゝかしこきものなればりんえもんが

ことばのはし/\゛をよく/\すいりゃうしてみれば
これかならずほんさいうのはどのゝりんきしつとを
さとりてことをおんびんにせんがためになにごとなく
わらはにひまを給はると
みへたりうのはどの
これまでおもてむきでは
うつくしくみゆれどもないしんに
ねたみのある事かねておもひ
あられることおほかりきかなし
さにたへざれどもなきごとも
おんいへのためなればぜひもなし
とく/\やどへさがるべしと
いみもそこ/\にとりあげ
小そでなどきがへ手どうぐ
などとりおさめさて小そのに
わかれをせばやと人なきところ
にていだきあげちくびを口に
ぐくめつゝてかけのみなれば
わがうみなしたる子なれ
どもしゆうあしらいにことばを
あらためこれ申小そのさま
わづかに三つのおさなきおんみ
なればおんわきまへもあるまいが
わらはが申あぐることよく
きゝてたべふかきごえんのあれば
こそいやしきはらをおんかし
もうしほうそうはしかも
かるくしまひつゝがなく
そだてあげまいらせてやれ
うれしやとあんどせしかいも
なくわたくしはきうにおいとまが
でゝけふやどへさがりますあと
ではさぞやおたづねなされて
おむづがるであらふとおもへば▲

(右頁下)
▲いとしうて/\
どうもわかれてゆかれ
ませぬこれからはわた
くしをおしたひなされ
たやうにごしんぞさまを
おしたひなされてほんの
お子のやうになされませ
まゝはゝなどゝわけへだて
してにくまれてくだされ
ますなわたくしもこれ
からはさそふところが
かるくなつて思ひのたね
となりましやう
せめて十五におなり
なさるまでおそば
にいて御こんれいを
みんものとそれ
ばかりをたのしみに
しておりました
かひもござりませぬ

した/\゛の
みで申さば
これが
おやこの
いきわかれ
どふもかなしくて
なりませぬと
てぬぐひを口に
くはへてしのび
なきになくなみだ
ちぶさを???て
か???ければ

ぐわんぜなき
おさなごもその
ことばのつうじてや
なにはよどこへも
いくなこちやいやじや
/\となきわめく
なにはゝせなかを
たゝきつけもふ
おねふけのでる
じぶん?とのま
ねんねあそばせ
かしこひおこじや
よいおこじや
といひつゝ
たちて
ゆすりあげ
ねんねこせ/\
ねんねが
こもりは
どこへいた
あのやま
こへてさとこへいた
あすはと?か?
おひんなれあかも
まんまに??
そへてさんぶくとおまんましよ
とたゝきつくれば
すや/\とねる
をさいわい?
おろしてはぶ?ん
に?ひ?ね?
それは???
「つぎへつゞく」


10
ねがほをつく/\゛うち
ながめなんにもしらぬ
おいとしやとおもはず
わつとこえたつる
ふすまほそめにりんえもん
しゞうのやうすをたち
ぎゝてこれもおぼへす
あらふびんやとこえをたて
なにはとめほをみあはせて
ふすまばつたりこなたも
びつくりながりは
つきじと
思ひきり
ついにやどへぞ
さげりける
さてりんへもん
さつそく
うばをかゝへて
小そのを
よういくし
ものによそへ
ことになぞ
らへていま
うのはに
きやうくんを
もちひければ
うのはも
ねたましき
なにはいざれば
しぜんとりんき
の心うせて
はぢ入たる
やうすなれば
りんえもんあん
どしこれより

かない
ぶじに
うち
すぎ
けり

○さてその
あくるとし
のこと
なるが
芝越
多もんが
みのうへに
ゆゝしき
わざはひぞ
おこりける
これなにぞ
なればしゆくん
判官どのより
多門へあづけおかれたる
かしく丸といふめいけんを
あるよたもんがいへにぬす人
いりてうばひゆきぬこれより
多門しゆくんへ申しわけなく
とてせつぷくとかくごをきはめ
かねてひさしくまじはりしりん
えもんかたへかきおきをのこして
さいしのことをたのみおきかまかなて
一子なみ松にもいとまごひしひとまに入て
はらきらんと
するをつなで
そでにすがり
てとゞめ
まづ/\
りんへもん
さまな?
とも◆

(左下)
◆だんがう
してしあん
しかへてくだされ
となげゝはなみ松
もとりつきてなきかなしむにぞかくご
きはめし多もんもさいし
のなげきにきおくれして
とかくひまとりたるところに
りんえもんいそがはしくはせきたり
しばし/\とおしとゞめじがいの
子細をとへばくわしくこれにかき
のこし候とてかのかきおきを???
にぞりんへもんこれをよみ???
かしく丸のかなたをうしなひ???の
しやうがいなるかそはうべ??も
いまだとのへも申あげずわたくしに
しやうがいあるはいかゞなりまづ
いさいをとのへ申しあげそのうへにて
ともかくもし給へとて「つぎへつゞく」「▲」

(左頁中)
「まづ
りん
へもん
さまの
おつしやる
ことを
きか
しやんせ

「まづせつしやが
まうす
ことを
きゝ
めされ


11
「▲」むりにとゞめさてしゆくんのまへにいで
多門がじさつをとゞめおきたるよしを申上
たもんことかしく丸のおんかたなをうばゝれごんごに
たへたるあやまりに候へどもかれをつみし
給ふともおんかたなのいでくべきにも
候はねばかれにおんいとまをつかはされ
かしく丸のせんぎをおゝせ つけられ
なば御めいにかへても
さがしいだし申すべし
此こといかゞおぼしめし
候やらんと申し
ければはんぐわん
いかさまとその
ことばにしたがひ
給ひさりながら
かたなをうばゝれし
つみあるものその
まゝいとまつかはしがたし
とて?ざいをのこらず
とりあげ給ひさいし
ともpにあほうばらひ
にぞせられける多門
おもふは此うへは
かのつるぎをたづね
いだしてわがつみ
をつぐなふべしとて
つまつなで一子
なみ松をつれて
かまくらをたち
のかんとすりん
へもんは多門が
ふりよのなんぎを
かなしみろぎん
そのほかたび
ごろもなど

かうりよくし
けるにぞ多門
ふうふその
なさけを
かんじ
なみだ
をそゝ
ぎて
わかれ
けり

さてもくわういん
おさのごとく
はしりて
ゆめを見る
まに九ねん
をすぎて
小そのははや
十三さいとなり
みめかたちうつ
くしくたぐひ
まれなるきりやう
なればりんえもん
ふかくめでいつくしみ
けるがことしりんえ
もんがみのうへにもまた
おほいなるわざはひぞいで
きにけるこれな?ぞなれは
しゆくんはんぐわん
ちかごろ大しゆをこのみいろを
むさぼりはういつむざんの
ふるまひなるによつてりんへもん
ふかくこれをなげきたび/\
かんげんをもちいけるが▲

(右頁下)
▲かたはらにねいじんども
あつてりんへもんをざんし
けるによりはんふわんじやく
ねんなりければなにのふん
べつにもおよばずいち/\の
いかりによつてりんえもんか
いへをもつしゆしさいしともに
あほうばらひにぞせられける
さてりんへもんは
ふりよのなん
ぎにあひめし
つかひの男女
には其(ミ?)身いと
まをとらせ
つまうのは
むすめ小その
おやこ三人てを
ひきあひてすみ
なれしかまくら
をたちのきしなのゝ
くにちくま川の
ほとりにあれたる
小いへをもとめてすみ
なにのたつきもなけ
ればかねてならひ
おぼへたるけんじゆつ
がくもんをおしへてわび
くらし
にぞ
くらし
ける

(左頁中下)
「チエゝ
あさま
しい
おんこゝろ
こと人?
いの??
め????
こんはく
おんみに
つきそひ ても
ごかんげん
申さ
にや
なり
ま せ ぬ

(左中)
「??
かまし
たび/\
のかんげんいまいちごん
ぬかすと

てうちに
する ぞ

(右頁中)
○かねて御ひろう
仕おき候
骨董集これまで
出はんえんいん仕候
来年はさういなく
御らんに入
奉候


12
さてりんえもんしなのゝちくま川の
ほとりにすみけるいへはてせまにて
けんじゆつがくもんのけいこもいでき
ざれば此ほうよりでしのかたへかよひて
おしへけるにぞ三日四日もとうりう
することありてとかくいへには
いぬがちなりむすめ小そのは
ことし十三さいはなはだかう/\
なるものにてちゝりんえもんは
いふもさらなり
まゝはゝの
うのはをも
しんじつの
はゝのごとく
たいせつに
うやまひ
みづをくみ
めしを
たくこと
までもみな
わがて一つにて
これをなし
すこしも
はゝの
てに
かけず
とかく
あさ
ゆふ
こゝろ
かけて

ふたおやに
かう/\を
つくしぬ
さてうのはは
此せつおつとふりよ
にろうにんしたる
ことをうれふる心も
なくかへつてせけんに
えんりよのなき
みとなりしを
よろこびぐわん
らいのあくい又
さいほつして
きずい
きまゝに
あか

くら

まゝ


その

にくむ
こと
あだ
かたき
のごとく
おつとの
うちに
いる
うちは
いつくしむ
ていに
みせ▲

(右頁下)
▲そのみも
ぎやうぎを
みださず
るすになると
いちにち
あくせくして
くたびれはてたる
小そのにかたを
もませこしを
ひねらせ
ちやわんさけを
のみえひに
じやうじて
小そのにさま/\の
なんだいをいひつけ
しかりのゝしり?ち
たゝきよろづをむごく
するとはいへどもたゞ
わがみのいんぐわとあき
らめてちゝりんへもん
にはふかくかくして
いはざればうのはは
なほあんしんしてこれを
にくむこと日にいやましぬ

○小そのそのみはくめいにしてふかく
けいぼのにくみをうくるといへども
そのかうしんをいかでてんのうんほう
なからんやそのくどくこらへんと
????

(右頁中右)
「おかさんなにもかもわた
くしかみなわるうござり
ますどふぞごかん
にんなされてくだ
さりませ

(左頁右下)
「あんまりほへておくれでないよせけんの
人にわしをわるく思はせるよいおほしめし
おありがたふよホイまた
もとゆひがきれたエゝ
じれつてへ

(左下)
「うのは
まゝこを
にくむ
むくひ
た?りて
てんばつ
をかうむる
ことか?の
つぎに
かまひ??
なり


13
をりしもりんえもんがいへののきばに
??くらすをくひけるがめとりしらて
お??又べつのめとりをともなひて
き??にそのつ?とりすのうちに
ある??子のひなどりにうばら
のみをくわせてみなころしぬ
りんへもんそのしゞうを
みてたんそくして
おもひけるは
をよそけいぼの
まゝ子をにくむ
ことはちやうるい
さへもかくのごとく
わがいへにもまゝはゝ
まゝこありことさら
つまうのははせいしつ
よからぬものなれども
ふうふのえんをさるに
しのびずたび/\

きやうくん
してこれ
まではつれそひ
たれどもゆるしがたし
小そのはかう心ふかき
ものなればたとへうのはに
あくいありともわれにかくすは
ひつぢやうなりあなこゝろ
ならずよみづからためし
みるにしかじとて▲

(下右)
▲これよりとき/\゛
るすのていに
なしてものかげ
よりやうすを
うかゞひみるに
はたしてわが
いへにあるときと
るすとは


たがひ
みづ
からか
みもち
もあしく
小そのを
にく みて
せめ
さい
なむ
こと
たび/\
なれば
此ころは
かれを
りえん
すべしと
思ひ ぬ

(左頁上)
かくてりん
えもんうの
はがふかく
小そのをにく
むことをためし
みて此うへは
りえんするより
ほかなしと
おもひけるが
小そのはかうしん
ふかきものなれば
りえんときかば
とゞむるはひつ
ぢやうなりと
思ひある日小
そのをちんじゆのやしろへ
ものまいりさせそのるす
にうのはをちかづけことばを
あらためていひけるは
なんぢさきだつててかけ
なにはをのろふぐわんしよを
おとしわれそれをひろひ
とりてくはしくそのことを
しるといへどもかないのぶじを
思ひてなにはにいとまをつかはし
よそのがらなんぢにきやうくんを
もちひこれまでつれそひしはひつきやう
ふうふのじやうを思ふがゆへなりしかるに
まゝ子小そのをにくみわがるすとなれば
むごくあつかふ事たび/\ためしみたるなり
ごんごだうだんのふるまひもはやかんにん▲

▲しがたきによりいま
あらためてりべつするなら
もはやなさけを
かけんきやつ
ならねども
われ
ぶうん
にし て◆


ろう
/\
みと
なり
當る
?き
めとり?
ひ?
きう?
とき
りえん
すなれば
なんぢが
もちきたりしいふく
てだうぐももとの
ごとくにそろはねば
そのかたしろとして
われまさかのときの
用にとおもひ
たくはへおきたる
金をあたふるぞ
とてきんす十両
さいふにいれてつかはし
もちあはせたる
なつふゆのきるものを
ひとつゝみとなして
あたへりえんじやうを
したゝめてわたし「次へつゞく」

(右頁下)
「りん
えもん
わが
やへ
かへり
かゝりて
此ていを
みる

「ちやう
るいでさへ
まゝこを
にくむは
あのとをり
はてきづ
かはしひ


14
かくいひわたすうへは一日も此いへに
おきがたしとできうにたびの
よういをさせうのはがおやざとは
みなしにたへてみのゝくにゝすみしの
えんじやあればそのかたへべつに
しよじやうをかいてわたしさいわい
みのへかへるたび人きぬ平と
いふものきたりければその人を
たのみてにもつをもたせおくり
つかはしぬうのははいまさら
いちごんのいひわけもなく
すご/\といへをいでみのぢを
さしてのぼりけり

○さてうのはときぬ平
両人はみのゝくにをこゝろざし
二日めにやう/\なこひまで
きたり日くれてやたてさかを
すぎけるがあとよりせいたかく
さかやきのびてやまだちと
みへたる大男のさ/\と
きたりコレたびの女中
みちづれになり申さん
まち候へとよびかけて
ちか/\゛ときたる
うのはは此おとこの
すさまぢきていを
みてみうちぞつと
せしがさすが
きもふとき女なれば
わらひかけこれは/\
ごしんせつありがたふは

ぞんじまするがわたくしはさきを
いそぐもの御どう/\はしにくし
おさきへまいりますといひすてゝ
ゆかんとするをえりくびつかんでひきもどし
からだはさきへゆかばゆけあとのしゆくで
がんばつておいたさいづはこゝへおいてゆけと
いひつゝふところへてをさし入てさらふを
ひきいだせばうのははそのてにとりすがり
これはわらはがいのちがねやることならぬと
あらそふにぞエゝめんどうなとち
あまめといひつゝけとばしさいふの
ひもをひきちぎつてくわいちう
すればうのははがうきの女なれば
それやつてはとおきあがりて
むしやぶりつくを又けたふし
またおきあかればかたなを
すらりとぬきはなし
けさがけにきりけるにぞ
ちしほはさつとほとばしり
くろかみをふりみだしこりや
なんぢわらはをころすよなと
くるしきいきのしたよりいへば
おゝしれたこと此かねが」ほしさに
ころすのだうらみがあらばかねにいへとて
またきりつくればあつとさけびくるしさに
たへかねてひざかしらにくらひつくにぞ
ちからにまかせてひきはなせばyはば
したばそつくりと山だちのひざかしらに
のこりうのはがくちよりちをながしぬ
さてもしうねんふかき女めといひつゝずた/\に
きりけるにぞしちてんばつたふしてくるひじにゝぞししたりける▲

(右頁下)
▲きぬ平はさい
ぜんよりおそれ
おのゝきこし
ぬけてはしる
ことあたはず
たゞふるへいたり
けるがかの山だち
これをとらへて
たにそこへ
なげおとし
うのはが
しがいも
たにへ
けおとし
にもつを
のこらずうばひとり
くらひつかれしあしを
ひき/\もときし
みちへにけてゆく
さてたに
そこより
いちだんの
しんくわ
とびいで
そのあと
をしたひ
ゆきぬ

(右頁中)
「だまつてくたばれ
おしい
ものたが
なむあみだ
ぶつ/\

(左頁中)
○思ふに
うのは
しつとの
心ふかき
うへに
まゝこを
にくみて
せめさいなみ
たるむくひ
はもふきたりて
かゝるひどうに
みをうしなふ
おそるべし
つゝしむ
べし

「この
あたり
に 人
あらば
たすけて
くれよ
あゝ
くる


たへ
がたや


15
さてかの山だちは
辻風駄平太と
いふものなるが心
さしがらあくなる
によつてしだいに
おちぶれいまはこの
しんしうねざめの
さとにひとり
すみよな/\
いでゝゆきゝの
たび人を
おびやかして
その日/\を
おくりけるが
かのよ
うのは
をがい
して
さいふと
にもつを
うばひとり
いへに
かへりて
さいふの
うちを
あらため
みれば金子
十両あり
にもつを
きりときて
みれば小そで

そのほか
こま/\しき
ものあり又
一つうのかき
つけあるを
ひらきみれば
これりえん
じやうにして
べつに一つうの
しよじやうあり
星月はんぐわんの
かしんしんしう
ちくま川はまおぎ
りんえもんつま
うのはをりべつ
するといふ
ことをしるし
たりだ平太
これをみて大に
よろこび
さてはかの
おんなめは
はまおぎ
りんへもんが
つまにて
ありしか
日ころにくし
とおもひ
いつぞは
うらみを
かへすべしと
思ひし
りんけもんが
すみか▲

(右頁下)
▲思ひがけなくけふ
しれたるはわがうらみを
むくふときいたれり
かねをえたるうへに
ばくだいのさいわい
なりとます/\よろ
こびひざかしらの
きずにくすりつけ
などしさけうちのみ
てそのよはいねたりけり
此だ平太りんえもんに
いこんあるいはれをしらんと
なればこうへんをよらで
しるべし○さてうのはが
かへしたのはだ平太が
ひざがしらにのこりて
にくにくひ
いりたる
ところ
はれたゞれて
ついにあく
さうとなり
ていたみ
たへがたし
又かの
にもつの
うちの
小そで
をうり
しろ
なさんと

あぶれ
びやう
ぶに
かけおき
たるに
そでの
うち
より
しろき
いとの
やうに
やせ

そり






いだ


水(?)
かみを
ひく
こ?
??
た人
うのはが
ねんうらみ
をなすに
うたがひ
なし


16
かくてだ平太はうのはがおんねんのためにおかされけるが
大たんふてきのものなればおんりやうもしやうげとなし
がたくやりけんけいなることもやみあくそうもなほり
けるがひさしくやまひにふしたればいまはかの
うばひとりし十両のかねもつかひなくしけるにぞ
あるよれいのごとくわうらいにいでたび人を
おびやかしてものをうばゝんといわに
しりかけてまちいたるをりしも
むかふのかたよりはんがつはにさめざやの
わきざしをおび小ぢやうちんをさげ
さんどかさをめたぶけてあゆみくる
たび人ありふところ
おもげにみへけるゆへ
こいつよきとり
なりと思ひつゝ
さつといでゝ
たちふさがり
ものをもいはず
ふところに手を
さしいるれば
かのたび人
そのて

とりて
もぎはなし
かまはずむかふhr
ゆかんとすだ平太は
たび人の小じりを
つかんでひきもどせば
たび人は身を
ひるがへしたがひに
むんづとくみあいて

しばらく
もみあひ
けるがだ平太
めんどうとや
思ひけんかたなを
はなしけるが
あやしいかなかたな
よりひかりをはなし
あまたのからす
むらがりてかしらの
うへになきさはぐ
かのたび人これをみて
あやしむていにみへ
ければだ平太はかたなを
ちやんとおさむるにぞ
からすはきへうせ
もとのあんやと
なりに
けり
ときに
さいぜん
より
いな
はらの
かげに
かし


ゆきをみだしたる
ろうじよのろくぶ此ていを▲

(右頁下)
▲見いたり
けるがやがて
ひとりうな
づきてあんや
のうちをさぐり
いでだ平太が
ひとこしにめを
かくるやうすにて
あび人もまた
かのひとこしに
めをかけ三人
たがひにさぐりより
ろくぶとたび人と
はな
つき
あはせ
そう
ほう
さいうへ
とびすさり
ろくぶは
しやくしやうに
しこみのかたな
たび人はわき
ざしをぬき
はなして
てうど二人が
きりむすぶ
つるぎの
したを
だ平太が

きり
はらふ
そのひやうしに
た平太が
ふところより
とりおこしたる
からざいふ
たび人の
あしに
からまり
ければ
たび人は
わがくわい中の
さいふと
思ひしにや
ふと
ころ

おし
入て■

■なほ
たち
まはり
けるうちに
だ平太はかんだう
さしてにげさりぬ
此ときたがひに一ごん
をまじへざれば
おの/\そのしんてい
の思ふ所をしりがたし
かのたび人とろう
女のろくぶなきものと
いることをしらんと
ならばこうへん
をよみてしる
べしくわしく
しるゝ也

「ねさめの床」
「きぬたむら」


17
さてもりんへもんは
うのはをりべつ
してのちは小その
おやこたゞふたり
にてくらしけるが
いかなるすへせの
いんぐわにや
りんえもんがん
びやうをわづらひ
きぶんあしくして
うちにふしけるにぞ
日ごろのおんていども
いりかはりたちかはりて
せはやきけるがまこと
あるものはまれにて
ぢやうびやうにあきて
今はひとりとしてたちよる
ものなくしやう/\のたくはへの
かねいふくしよだうぐまで
みなやく
だいに
いれ
あげて

りやう

つく

け れ ど も▲

(左頁)
▲ぢせざりけり
小そのはすでに
此とき十四さいになりけるが
かねてからしんふかきものなれば
かたときもちゝのそばをはなれず
してかんびやうをなしあさゆふ
のくいものなにやかやわがて一つにて
とともこしらへめしをたき水をくみその
ひまにはちゝのあしこしをなでさすり
けがれたるものまでもあらひきよめ
かみにいのりほとけにたのみまいや水ごりを
とりてふわんかけしければじんたいをろうし
しんきをいためてはなのごときかんばせ
やせおとろへ玉のやうなるてあしもひゞ
あかぎれにちをいだしやむちゝよりも
やまぬ子のありさま目もあてられず
ふびんといふもおろかなりかくてなつの
ころにもなりけるがかちやうさへなければ
はだみをぬきてわがみをかにくはせちゝの
ほうへかのゆかぬやうになしよもすがら
かをあふきていねもせずまことにこれ
もろこしの廿四かうにもおとるべからず▲

(右頁下)
▲たぐひまれなる
孝子(かうし)なり○小そのは
ちゝをいだいてねせ
おこしまでせわを
やきせなかを
なでゝいひけるは
まうしとゝさま
だいぶんおやせが
みへま
する
おいや
でも
おまん


たんと
あがつ

一日も
はやく
よく
なつて
くださり
ませと
いひつゝ
なみだを
はら/\と
りんえもんが
ひざのうへにおとし
ければりんえもんは
むすめの
からだを

なで
まはし
むすめ
そちは
なくか
もつとも
じや
どうりじや
あゝおもひ
まはせば
おれほどいんふわなものはない
御しゆじんさまへごかんげんの
かいもなくおんいとまを
たまはりてちうぎも
たゝず二君につかへまいと
かくろう/\のみになり
てもものほたきはゝか(←?)
きじつ子にあはねば
びんぼうは日にまさり
つまのうのははこゝろだて
あkしくしてりべつをなし
又そのうへに此ごうびやう
いがみのくつうはぜひも
なけれどいんぐわなおやを
もつたゆへとしはも
ゆかぬそちがくろう
おれはふびんでならぬ
はいといひさしてむすめを
ひしといだきよせひたんの
なみだにむせびけり
「つぎへつゞく」


18
「▲」そのとき小そのいひけるはもつたいないことおつしやりますな子の身として
おやのためにくろうくげんをいたしますはそのみのやくめせめてすこしは
かう/\らしきことをしてごよういくの大おんをおくらんものと
ぞんじますれどとしはのゆかぬおんなのみしかたもやうも
ござりませぬとゝさまのごびやうきのなほりさんする
ことならばたとへこのみは八つさきになりさいの
めにきざまれてもいとひませぬといひさして
なみだをあめとおとしけりげにかしらより
つまさきまで孝にみちたるまれむすめ
つたへきくさへあはれなり

○このすへりんえもんだ平太にうたるゝと
小そのさま/\゛のなんぎにあひついに父の
あだをむくひ禄三郎とふうふになり
かう/\のくどくによつててんのあはれみを
かうぶり大ふつきのみとなることかうへん
三さつにしるしてうり出しおき申候

「読??(とくし?)」京伝 店
  一つゝみ一匁五分
○きこんをつ?かく
もの?をよくす
すべてきよしやう
の人に用てよし
○たばこ入
きせるるい
めづらしき
しんがた
しな/\゛
京伝自画
さん扇
たんざくあり

しかるに小そのが
こゝろをつくせし
かんびやうのかい
ありてりんえもんが
やまひだん/\
くわいきにおも
むきついにほんぶく
したりけるが
眼病にてついに
めくらくなり
ければ小そのが
なげきいふべくも
あらずことさら
なが/\のびやうき
やくだいにくわぶんの
きんすをつかひ久しく
なりはひをせず?ぐい
にせしことなれば今は
せんのたくはへもなく
あさゆふのけふりさへたてかねてたゞおやこ
うへしぬよりほかはなけれどめくらとなりたる
ことなればけんじゆつがくもんのしなんもならず
かねてのでしもんていもいまはうとみてよりつかねば
せんかたなくいまゝですみしところをたちのきて
たうごくぜんくわうじのほとりにうつりさと人の
なさけにてすみあらしたるちいさきふるいへを
もらひおやこふたりそのところにすみりんえもん
むすめをつえにしてかいどうにたち一せんニせんの
なさけをうけてわづかにろめいをつなぎけり
むかしはかうろくをとりしれき/\はぶしなるに
だん/\おちぶれてかくなりはつることすくせの
あくいんにや?あはれなり

「りんえもんいはくわれ/\おやこかくこつじきどうぜんの身に
 ならふとは思ひもよらずはほうばい芝越多門がせがれ▲

(下)
▲なみ松と
そらと
いひ
なづけ
をして
此げんむの
かゞみを
たもん
かたより
おくりこし
なみ松
かたへ
うんくわくの
かうがいを
つかはし候
さればこの
め???
はだみはな
さず??
  めて
?????
なみ松に
めぐりあふ
ことあれば
これを
しやうこに
??りを
???

(右頁下)
「とゝさま
けふは大ぶん
おまんまが
いけますの
それではだん/\と
御くわいきで
ござりましやう


19
「ばゝあのろくぶ
さんもんのうへに
みている

「そでごひににあはぬ
うつくしいむすめ
よし/\いまに
ばkとつて
大がねにして
くれべい

(下)
「さても/\いとしいこと
どりやてのうちを
しんぜましやう

りんえもん
ぜんくわうじの
もんぜんに
いでゝ
そでごひ
する

「なが/\のはづらひで
にはかめくらとなりました

ろうにんに
一せんニせんの
おなさけをねがひ上ます

(左頁)
信州
善光寺
山門の 体(てい)

「つまはづれのよいむすめ
おゝかたよくあるものゝ
おちぶれたであらふ

「午?亭」
「うらなひ」
「手の すぢ」

「みな
さまの
おなぐ
さみ?
???
???

 

20
さてもりんへもん
おやこはわづかの
そでごひにて
ろめいを
つなぐ


なれば
あさゆふの
しよくじも
こめの
あらば
くはれず
なまぐさき
ものなどは
かぐこと
さへもならず
たゞしほを
なめて
きらずめしを
くひゆをのみて
やう/\はらを
つくはふのみ
なれば
おやこ
ともに
だん/\
やせおとろへて
人らしきかたちもなし
さてある日れいのごとく
そでごひにいでけるに
わうらいのなさけある
人にちやうもく
二百もんもらひ
ければりんえもん

むかしのみならば
かぞうの百こくも
もらひたる
こゝちにて
大にうれしみ
けふこそ
まことの
こめのめしを
たきひさしく
くはであぢ
はひをわすれ
たるさかなを
くひおやこ
ふたりが
やせばらを
こやさんと
米みそ
小ざかな
などを
かつてもどり
小そのに
めしをたかせ
そのみは
てさぐりに
みそをすり
なべさへもなければ
かたくちになわの
つるをかけてなべの
かはりにつかひよにある
人の七五三のりやうり
をもくふこゝちして
めしのにゆるをまち
けるが小そのはのこりの
おあしにてさけかふてきて
あげましやうといひつゝ▲

(右頁下)
▲かけとくりもちてしを?
さかやへいそぎ??ぬこれが
おやこのわかれともしらざる
ことのふびんなり

○かくていりあひのかね
ひゞきねぐらのとり?
なきわたりければりん
えもんてさぐりに
あんどういだして
ひをともし
むすめがかへりを
まちいたる
をりしもえんの
したより
こほりのごとき
かたなのきつさき
ひらめきいでゝ
りんえもんが
ふともゝを
つらぬきければ
りんえもん
はらひかいなき
ふかでに
よはりて
たふれ
けり

(右頁中)
「まうし
とゝさん
むかしの
かたなは
いまのほう
ちやうはて
に小うをの
ためしぎり
かはりはてたる
みのうへで
ござんすのふ

(左頁下)

飄(つぢかぜ)
駄平太

えんの
したに
しのび
入る


21
さてえんの下よりつぢかぜだ平太ちがたなさげてぬつといで又りんえもんが
かたさきを四五すんばかりきりこみぬりんえもんそばにありあふひとこしを
ぬきはなしなにものにてなにいしゆあつてそれがしをだましうちにはするぞ
そのなをなのれとよばゝりけるがめくらのうへにふかでをおひあしこしたゝず
うでさへきかねばわづかに一こしをぬきたるばかりはたらかれずしてむねん/\と
はをかみならすばかりなりだ平太せゝらわらひわれをたれとか
思ふぞわれはこれつぢかぜだ平太がなれるはてなりわれせんねん
けんじゆつをいひたてにしてなんぢがしゆじん星月はんぐわんに
かゝへらるべきにこときはまりたるをしばこし多門となんぢと
しゆじんにつげてじやまをなしわがしゆつせをさまたげ
たるによりわれむねんこつずいにてつしなにとぞ
ふたりのものにそのあだをむくはんとおもひ
多門があづかりのかしく丸をうばひとり
かれをじめつさせんと思ひしにあほう
ばらひとなりまつたくうらみをはらさず
さてそのゝちなんぢにもあだをかへさんと
思ふうちなんぢもいとまいでゝゆくへしれず
なりしゆへむねんのつきひをおくりしが
いつぞやねざめのとこのきぬたむらにて
女をがいしにもつをうばひしそのうちに
りえんじやうと手がみありてなんぢが
しうしよしれたるゆへてんのあたへと
よろこぶうち長bにやうを
はづらひてえんいんし
やう/\くわいきなし
ちくま川のほとりを
たづねしに此所へ
うつりしときゝて
たづねきたりぬ
ねんらいのうらみ
いまぞ思ひ
しるべしとて
どろあし
にて▲

▲りんへもんがつらをふみ
たるが日ことけんじゆつの
たつじんなりしりんへもんも
目のみへぬうへふかでにて
はむかふことあたはず
しやうにのごとく
あつかはるゝ心のうち
さぞや
むねん

ある
べしと

ざん
なりける
あり
さまなり

「はらが
おゝきに
きた山だに
さいわい
たきたての
めしがある
さかなまで
にておくとは
いかいごちそう
はらいつぱいくつた
あとでとゞめのいんどう
わたしてくりやうめくらめ
くるしいかそふで
あん
めいあはゝ/\
/\/\/\/\/\

(右頁中)
「さてはかしく丸の
とうぞくはなんぢで
あつたかつまの
うのはもだうちう
にてなんぢがために
ころされてかあゝ
くちおしやざんねんや
めしいとなりぬ
さきならばなんぢが
ごときものいゝたり◆

◆きたるとも
やみ/\とは
うたれまい
ものあゝ
くるしや
たへがたや
と身をもだへ
むねんの
はがみをなし
くるしきいきをつく
たびに口よりほのほ
をはきいだしその
うちにあまたのねづみ
あらはれていづく
ともなくとびさりぬ


22
かくてだ平太えいんえもんにとゞめをさし
小けいでんとしたるをりしもむすめ小その
さけをかづいてもどり父の
しがいをみておどろく所を
やにはにおしふせてさる
くつはをはませこいつを
つれゆきうりわたさば
いつかどの
かね
ならんと
こゝろ
うなづき
そのまゝ
小わきに
かいこkみて
はしり
いでんとしたる
をりしも
たけやぶの
うちよりしらがばゝあの
六十六ぶぬつといでだ平太を
月かげにすかしみてなんぢは
いつぞやねさめのとこのきぬた
村でちよつとみたるやつではないかと
いへばだ平太も六ふの女ぼをうち
まもりさいふおんぢはそのときの
ばゝあなるかといふにぞ「いかにも/\
これその小めろはおれがとふにかんばつて
おいたしろものだはやくこつちへわたせ
「ヲゝわたさずば人ごろしのそにんしやうか
「さあるれば「まだそのうへにいつぞや
ちよつとみておいたからすのふるまひ
さつするところいまかまくら

(下)
「だ平太??
かひ??

▲ほし月のやかた
せんぎのあるかしく丸
のかたなをわりや
もつていよふかな
かしく丸のとうぞく?
そにんしやうか
「さあそれは
「むすめを
わたすか
「さあ
それは
「そにん
しやうか
むすめを
わた すか
さあ /\/\

へん とう
いかにといはれて
さすが大たんふてきの
だ平太もせんかたなく
むすめをばゝあにわたし
ければばゝあはうけとり
これさへわたせばみのがして
やりべいとうちわらひおけの
うちにおしいれて

そう
ほうへ
わかれ
ゆき ぬ

○りんえもんおやこたま/\米のめしをたき
さかなやさけをとゝのへてたゞひとくちも
くひのみせずだ平太がはらを
みてしてたることためしもなき
ふうんなり

○りんえもんがすかたみやうくわのうちに
あらはれてだ平太がうしろがみをひきもどし
めづみは小そのをおしいれたるおけのうちへ
とりつきてともにゆきぬ

○むかし三井の頼豪あじやり?
いかりのこんばくねずみとけして
?きやうくわんをくひ?き?し
ためしありいまりんえもんが
ごんはくねずみと?し??かば
子を思ふおやのこゝろ???ゆへ
と思へばいとゞあはれ?
まさる?


23
此ばゝあの六ふはなにものぞなればこれは
きその山中ゆうれい谷といふところの
がんくつにかくれすむはまかぜばゝあといふ
ものなりかしくのじやうるりにゆうれいの
はまかぜにあふたやうなといふことばの
あるはすなはちこれなり此ばゞあ
つねに六十六ぶにみをやつししよ/\
ほう/\゛をはいくわいしてみめよき娘を
うばひとりとほきくにゝうりわたして
あまたのかねをためたゞどんよくを
このみけり ○さるほどにこの
ばゞあがかくれがにかへりおいの
うちより小そのをひきいだし
ねこなでごえしてさま/\゛にすかしなだめ
しばらくこのがんくちにかくしおきぬ

「これさなにもそのやうにふるへることはない
ぞやこれのふ此ばゞはかほつきはこわい
やうにみへやうがこゝろはずんど
やさしいこしやう心の
あるばゝじやぞや
そなたはすでのこと
人にかどわかされる
ところをわしが
よしところへ
ゆきあはせて
たすけて
きたのじや▲

(下)
???
??
おく?
と??
や?
?やう
かな??
あんじ
まい
ぞや

あゝ
なん

みだ
/\

「りんへもん
がこんぱくの
けしたる
ねずみ
小そのが
あと

したひ
きた る

(左頁上)
かくて小そのは此がんくつにありて山おくとは
思へどもいづくの山といふ事だにしらずかくて
いかなるうきめにあふことやととらのあな
すむこゝちしてやすき心もせず
また父りんえもん
ひとに
うたれたるていはみとゞけ
たれどもすぐにとらはれで
こゝにきつればちゝをころせしものゝかほも
見おぼへずさだめてしがいはそのまゝにて
たれほうむりくれる人もあらじとてんにあふぎちにふしてなげきかなしみ
けるがじがいしてしでさんづに
おもむきちゝのあとをしたひゆき
めいどゝやらでおやこ
いつしよにくらすに
しかじとかくごをきはめ
しばかりかまをとりてすでに
のんどをかききらんとしたるが
いや/\われ女にこそうまれたれぶしのむすめ也
今しぬいのちをながらへてなにとぞ此ところを
のがれ出かたきをたづねてちゝのあだをむくふべしと
思ひなをしてじがいをとゞまり此ところを
のがれいでんと思へどもはまかぜばゞあつねに
きをゆるさずたま/\さとへいづるときは小そのを
しんざんにてさとへいづるみちあんないを
しらねばにげいづることもならず心ならずも
此がんくつにしばらく月日をおくりけり

○ばゞあ小そのによきあいてのつくまでと▲

(下)
▲やしないおきあさゆふひどくおひつかひ
けるにぞあしたにははるかのみねにのぼりて
しばをかりゆうべにはふかきたにゝくだりて
水をくみそのかんなん
しんくことばにのべ
つくしがたしすこしも
きにそむくこと
あれば
つよく
うち
たゝかれて

みに
なま
きづは
たへ
ざり
けり

「おばゞ さん
あやまり
ました
かんにん
して
くだ さん せ


24
さても辻風
だ平太は
りんへもんを
ころしてのち
とかくまづし
かりければ
せんかたなく
かしく丸の
かたなを
しち入して
かねをかり
かたなを
しちやへ
わたし
けるが
そのよの
ゆめに
あまたの
ねづみ
いでゝ
わが

うちを
くらふと
ゆめみて
さめけるがあくる日
そうみにかさいできて
しだいにいたみ
きへがたくのちには
かほもてあしも
すべてくさりたゞれて

うみしるいでゝわがみながら
しうきたへがたくねづみ又
うつゝにいでゝかさぶたを
くらひうてどもおへども
にげさらず思ふに
これりんへもんが
しよいに
うたがひなし
さてまた
さきたつて
うのはが
おんれう
かしく丸の
かたなの
いとくにや
おそれけん
いるたん
たちさりしが
いまそのかたなを
しち入して身をはなし
ことにちんえもんが
えんこんになやまさるゝ
そのよはみにつけいり
けるにやうのはか
おんりやうもふたゝび
又きたりてさま/\゛なる
あやしみをみせちうや
せめさいなみて
くるしめけり

(下)
○うのはの
怨霊
ふたゝび又
来りて
駄平太を
くるし 
むる


25(左頁)
うのはが
おんりやう
さま/\゛の
かた
ちを
あらはす
てんじやう
より大きなる
かほをいだして
おはぐろを
ふきかけあるいは
かゞみをさしいだし
かのなかいのやたてさかにて
うのはをころしたるときの
ありさまあり/\とうつりてみゆ
これによりてだいたんふてきのだ平太も
だん/\きりよくおとろへけるが
つら/\
思へば
これ
まつたく
かしく丸の刀を
しち入し
みをはなし
たるゆへに
おんりやう
どもになやま
さるゝいかにも
してかの刀を
うけいださ
ばやと思ひ
けり

「おはくろつけたる
くちをひらきて
げた/\と
わらふさま
おそろしく
なをも
おろか
なり


26
山中には暦日(れきじつ)なくたゞ梅のひらくをみて
はるをしるとかやさても小そのはたる
みやまに月日をおくりければいく?と
いふことだにしらずくらせしが
ゆびをおつてかぞふればおよそ
百日ばかりもすぎつらんと
思ひけるがちゝうへひごうの
?をなし給ふといへども
たれあつてついぜんくやうを
するひともあるまじせめて
こゝろばかりも百か日の
ついぜんをいとなむまねびを
すべしと思ひつゝさいはひ
むかふのがんへきにほとけの
かたちをほりつけたる
ところあればそこにいたり
おほく小いしをひろひて
いくごとにねんぶつ十へん
つゝとなへていくばくの
とうをつみなみだながらに
しばらくねんじて
いたりけるが心なき
とりけものもその
かうしんをめんじ
かゝるにやあまたの
さるいで手?とに
このみをもちきたり
かのほとけにたむ
くればあまたの
山はらすくさ花を

くはへきたりて
これもほとけの
まへにたむけ
さるもからすも
さもかなしげに
なきさけべば
小そのはとり
けものゝ心を
かんじていとゞなほ
なみだにむせぶ
ばかりなりかくて
思ひかけずも
ときをうつし
此日かるべき
しばのかづを
ふそくして
かへりければ
大にいかりごにちの
ためなりとて
あかはだかにして
つよくうちたゝき
そのうへたかて小てに
しばりあげてはしらに
くゝししきどめをして
おきけるがそも/\
このきそあたりはかんき
他こくにまさりてとかく
ゆきふることもはやくいまだ
九月のなかばなりけるが
をりしも大ゆきふりいだし◆

(右頁中)
◆みね
ごしの
北風はげしく ふきて小そのが
うたれたるきづぐちにしみとほり
めもとよりながるゝなみだはたちまち
つらゝとなりてむねにつるぎをさすが
ごとくあなくるしやたへがたや

ゆるしてたべとなきさけぶ
こえはきやうくわん
だいきやうくわん●

(右頁下)
●こほり
のぢごく
はつ
かんの
かしやくに
くるしむ
ざいにんも
かくやと
おもふ
ばかりにて

なさ?
?く?
ありさ
なり


27
(右下)
「よみはじめ」はま風ばゞあはいろりのうちにみだをおりくべしと
たきびしてあたりつゝにごりざけをかたぶけて小そのが
くるしむていをしり目にかけてみやりつゝあざわらひ
あゝよいざま/\なんとさむいかつめたいかそふで
あんべいちつとでもおれがきにそむくといつでも
そふだほねみにこたへておぼへていよなんぼほへ
てもわめいてもめつたにはゆるしはせぬいつたい
おれはごしやうごゝろのおほひものだが?は
さからふておれにしゆらをもやさするお??し
の子ども心やせわのあるよのなかやあゝ
なんまみだ/\とそらねんぶつをとなへつゝ
ちやわんざけをあたむくるげにきゃうあく
のろうぢよなり

○かくてばゝあおゝいにえひをはつしおぼへず
すのこのうへにうちたふれたかいびきして
じゆくすいしたりけるがゆきはます/\
つよくふりて小そのがみをなかばゆきに
うづめたればいきもたへ/\゛になりて
すでにたへいりけるがたちまち
ねづみ三びきはしり出ニひきおは
いましめのなわをくいきり
一ひきはゆきをふくみて
小そのがくちにそゝぎけるにぞ
小そのはやがてよみがへり
かなたを??れば??もは
うまく??るていこれ
てんのたすけと思ひつゝ
たとへあないはしらず
とものがるゝたけは
のかれば??ゆきを
ふみいりけちらして

いのちかぎりと
はしりけるが
あやしいかな
かのねづみ
さきへ
たちて
はしり
ければ
これ も
天の
みちびき
給ふかと
思ひつゝ
そのあとに
つきて
はしりけり
かのねづみは
ちゝりんへもんか
こんばくに
うたがひなし
さてしばし
ありて
はまかぜ
ばゝあ
目をさまし
小そのが
にげたる
ようすに
おどろき◆

(右頁左上)
◆すそ
ひきあげて
とびくだり
ゆきのうちの
あしあとをしたひて
おつかけゝるがついに
おひつきてとらへつゝ
なんぢはおれか大かねに
するだいじのしろもの
にぐるとてあらさふると
いひつゝみどりのくろかみを
てにからみゆきのうちを
ひきずりてぞかへりける

こゝに又せつしうかんざきの
さとの長にふくしま屋
清兵衛といふものあり
あまたのあそびめを
かゝへ
おき
けるが
さある
かぎやう
ににあ
はず
なさけ
ぶかく
義気

つよき
ものゆへ
おのづから
人も
そんきゃうし
ふく徳/\と
よびて
そのなたかくきこへぬ
あそびのたねをかひ
いだすためにじしん
しよこくのたびをしけるが
此とき此山中をとふりかゝり
小そのがていをみてふびんに
思ひかのばゞあが大がねにする
しろものといひたることばをきゝ
もしうるならばかいとりて
なさけをかけてやらんものと思ひて
あとについてぞゆきにける

(右頁中)
「やれ
まつた
/\/\

「これ
てを
あはせて
おがみ
ます
どうぞ
かんにん
して
くださんせ

(左頁左下)
「うぬ
どふ
するか
みや

がれ


28
はまかぜばゞあ小そのをひきずりかへりて又もうち
さいなまばやとしたるところにかのふく清あないして
うちにいりそつじながらおたづね申すせんこくかしこにて
うけたまはればどふやら此おなごのみをうりたまふ
やうにうけたまはりぬもしさもあらば
それがしにうりたまへわれらは
せつしうかんざきのくるわの
ものなりといふにぞ
ばゞあはかねてよき
かいてをまつところなれば
おゝいによろこびついに
大?百両にてうるに
きはまりけるにぞ
ふく清はやがて証書を
かきばゝあがてがたを
おさせてかねを
わたしければ
ばゞあは
ます/\
よろこびて
わらひを
もよほし
ついしゃう
して
もてなしぬ
小そのは
ふく清が
なさけある
しんていをしらず
うき川たけにしづみて
身をけがさんより▲

(左下)
▲いつそ
したを
くひきりて
しなんと思ひけるが
いや/\これまでさへくるしみを
たへしのびていのちをながらへ
たるにたとへいかなるみになるとも
いのちさへあらばちゝのあだをむくふ
じせつもきたるべしもし心ざしを
とげぬときしぬともなにのおそ
かるべきと思ひなをしてとくしんのよし
をいひふく清につれられていでゆきぬ

(中)
「これおふくろ
そふよくを
かはかずとも
十両ばかりに
まけて
おきやれな

「どふして
/\
百両には
やすひ
ものだ
おほゝ
ゝゝゝゝ ゝゝゝゝ

(右下)
「この
すへは
どふいふ
うきめに
あふ
こと
じや
やれ
かなしや
/\

(以下落丁)

 

https://www.dh-jac.net/db1/books/results1024.php?f1=hayBK03-0218&f12=1&enter=portal&lang=ja&max=1&skip=29&enter=portal&lang=ja

30(左頁)
○???きふくせいはまかぜばゝアのかほをつく/\゛みてどこでやら
みたよふなと思ひけれどもこゝろつかずわかれけり ○こゝにまた
た平太はしち入したかしく丸のかたなをうけもどしけるにぞ
そのいとくによつてりんへもんうのはがおんりやう
しぜんとたちさりてびやうきくわいきし
ある日きその山中をよぎりはま風ばゝあを
みつけきやつはいつぞやりんえもんが
むすめおうばひしときなかとりせられし
六十六ぶのばゝあなりにくさも
にくしと思ひつゝ

あばらやを
のぞきみれば
をりふしはまかぜばゝあ
小そのをうつたるかねを
おごけのうちより
とりいだしてかぞへ
いたるゆへこいつうまい
ところへきたりしと
ほくそつき
だましうちにきりつくれば
かれもしたゝかものなるにぞ
でばぼうちやうをおつとつて
しばしたちまはりけりがついに
しよたちのてきづにひるみ
よろめくところをふみたふし
くびをちうにうちおとしければ
そのくびはとぐるまにくらひつき
とびあがりはつたとにらみし
めんていはおそろしなども
いふねからずさてその
かねをのこらず
うばひゆくへも
しらず
なりにけり


31
おもふく清は小そのをかひとりて
かんざきにかへりにようぼうおかぢに
ひきあはせてしさいをかたりふうふ心をつけ
いたはりておきけるがほどなく十七さいに
なりくるわの水にてみがきあげたれば
かくべつにうつくしくたぐひまれなる
きりやうなりこれまではつとめも
させずおきたりしがはやきやくをむかへ
さすべしとてつきだしのよういして
ねだうぐたんすてだうぐまで
とりそろへけるが小そのはかせの
みちよりぶら/\とわづらひ
いだし日々にやせほそり
けるにぞほどちかき
べつそうにつかはし
しんぞうかむろを
つけおきてねんごろ
にかんびやうさせ
ふく清ふうふ
かはる/\゛にみまひ
けりふく清が
にようぼうおかぢは
きりゃうといひ心だてと
いひなさけふかきものなりしが
ある日此ところに見まひて小そのが
やせほそりたるていをみてかはひそうにと
思ひつゝ「けふのやうすはどふじやのふくすりを
せいだしてのむがよいぞやけふはいつより
まゝもすゝまずこゝろもちがわるいかやと
いへば小そのはなみだくみ「イゝエほんに
なにからなにまでおきをつけての御かいほう
あんまりみやうがゝおそろしいしんでも
わすれはいたしませぬ「アコレ/\/\
わつけもないそのよふななきのはいこと

いはふより
せいだしてくすりをのみ
はやうほんふくやいのふ
そしてまあそのように
かみがはらついては目のうへが
おもふてうつろしかろドレ/\
わしがなでつけてやりましよと
たちよればしんぞうかむろが
てん/\゛にくしげきやうだい
はこぶにぞこゝろのもつれ
ときぐしにあぶらとく/\
たちまはり「コレ小その
そうじてびやうきからおこる
ものじやぞやだんな
どのゝはなしでもきゝや
ろうがふうふのなかの
ひとりむすめをさきだてゝ
ことしがちやうど七年き
むすめにそなたがいきうつし
そこでふうふともそなたは
しんだむすめのよみがへつて
きたのじやと思ひふびんさが
いやませばつとめをさする
心はなけれどそなたの
いやるにはみやうがのためじや
きやくしゆをとりましやうと
いやるゆへいかさまほうばいの
てまへもあればまづいつたん
つきだしにしてそれから
ともかくもとそのしおたらは
したものゝいつまでつとめを
しやらいでもだいじないきを
ひろふもつてようじやうしや
きな/\ときをくさらし◆

(下)
◆万一のことなど
あつてはだんな
どのゝしんせつが
むだになる
ぞやと
ちからを
つくる
ひとことは
へたな
くすしの
くすりより
きくに
まことぞ
あら
はれぬ

「小そのは
しゞう
目に
なみだ
おやの
じつ
みやう
みはね
がひ
あけて
いはれぬ
むね
のうちもし
なきみともなるならば
たれかはあだをむくふ
べきとおつるなみだに
ひざからのかゞみもくもる
ばかりなり

○りんへもんがこんはくのねずみ
小そのがびやうしやうを
まもる


32
ふくせいふうふがたんせいにて小そのは
だん/\びやうきくわいきせしがきをなぐ
さめにはしいしてはぎのさかりをながめ
いたるをりしも五十ばかりのこじきばゝ
もんぐちにこしをかゞめて「モウシおけいせい
さまなになりとおあまり あらばとらせて
やつてくださりませどふも
ひだるくてなりませぬ
おじひおなさけねがひ
ますといふにぞ
小そのはのび上り
「あゝわがみとても
ちゝうへとそでごひ
したることもあり
みればやせおとろへたる
こじきばゞあきかぜ
たつにひとへのつゞれ
さぞなんぎにて
あるべしとみに
つまされて思ひやり
かふろにいひつけ
にはにいれさいわい
ありあふさけさかなを
ほどこせばおありがたふ
ござりますとめんつに
かけてのみくだす
小そのはばゞをつら/\
みて「これそなたの
ようす目はな
だちからつまはづれ
ものゝいひやうとりなりまでもとからのこじき
とはおもはれずさだめてわかいときはよい
きりやうにてありつらめいづくのものいかなる
ことでそのやうにおちぶれしぞと
たづぬれば「よふおやさしうおたづね

なされてくださりますごすい
りやうのとほりもとはさうおうに
いたしたものふしあはせで此やうな
あさましいみとなりました
こつじきのみのかなしさは
じやけんのかどにたゝずめは
くちぎたなくのゝしられ
のきしたにねますればいぬの
ようにうちたゝかれなつは
かぜめふゆはゆきぜめあけても
くれてもひだるいがちこのよ
からなるがきだおうにて
いきたるかいはなけれども
まだごうがつきぬやら
しなれませぬわかいときは
かまくらにをりました
トきいて小そのは「ヲゝかまくら
わしもこきやうそんなら
といましよほし月さまの
おやかたをしつてかや「ずいぶん
ぞんじております「ほしづきさまの
おやかたにはまおぎりんえもんどのといふ
おさむらいをしらぬかや「よくぞんじて
おります「そのえんえもんどのゝてかけに
なにはといふをしらぬかや「はいその
おかたはわたくしにお目かけられてくださつた
お女ちうでござりますさやうならわたくしも
おたづね申ましやうそのおかたに小その
さまと申すお子がござりましたが
ごぞんじはござりませぬかトいへは
小そのはふしんがり「その小そのと
いひしはわしがことゆへあつてこの
やうなところにいるわいのふトきいて
こなたはびつくりしさてはわがうみ
なした小そのさまか◆

(右頁下)
◆おまへをうんだ
じつのはゝなにはと
いふは
われ
なりと
いはんと
せしが
「アゝイヤ/\
けいせいは
おもてをかざるものときく
こじきばゞあの子じやといふ
うはさがあつてはみのふため
又なのるべきじせつもあらんと
とびたつ心をおししづめ
はをくひしめてこらむ(?)が
「あゝなさけなや
はゝはこつじき
子はけいせい にしきと
つゞれとかはれども
みの
おち
ぶれは
おなじ
こと
いか
なる
すく
せの■

(左頁下)
■いんぐわ
ぞと
おつるなみ
だはめん
つうに
つゆおきそゆる
ばかり
なり

「せつきやうぶし」
「さいのかはらの由来」
トアあはれな本
おしつけ出板仕し


33
かゝるをりしももんぐちに山ふしの
うたさいもんいともあはれにきこへ
けり「さいもん」あらいたはしやいしとうはかゝる
なんじよをたどちるゝこゝろもそらにうき
くさのねざしのちゝはかほしらずなのみ
しるべにたづねつゝとへといわねの松かげに
しばしやすらひ給ひけり「百年のえいようは
かぜのまへのともしびさとればわれもほとけ
なりぼんのうぼだいとあきらめてかとう
しげうじにうだうはぶつほうしゆぎやうの
山さかを二世のためとてたどらるゝ「さては
わがこのいしどうかとニあし三あしたち
かへりなのらんとしたまひしが
「なには」をりもをりときも
ときとてかるかやの
山のたんみにつま
つまされてかなしさよ
いきわかれた小その
さまどこにどふした
ござるやらとかたとき
わすれたことはない
もふいきがいには
あはれまいと思ふに
ふしぎな此たいめん
とふなのらずにかへら
れういつそうちあげ
なのらふか「さいもん」いや
まてしばしわが心
ほとけにちかひし
おんあひいもせ
なのせばかいを
やぶるなりあすの
ぼだいがたいせつと
又もはなおけ
たづさへて

おくのいんへととほりけるあはれと
いはぬ人はなし」「なには」どふ思ひまはしても
なのらでかへるがみのためとこゝろ一つに
おさむれば「小そのはそれときもつかず
わしがじつのはゝさまの目をかけられし
そなたならわしもむげにはかへされぬと
さいわひありあふおかぢがくれし小づかひがね
四五両ありしをとりいだし
これできものをあたゝかに
きてくだされとあたふれば
「なにはゝこれをうけずしてこつじきの
みで此やうなだいまいのかねもちましては
人にあやしく思はれますおこゝろざしは
ありがたけれどトさしもどせば「イエ/\
わしがこゝろざしぜひうけてくださんせと
又あたふるにぞ「なにはゝこゝろ
思ふやうわれをはゝとは
しらねどもむしがしらす
かう/\かそれならは此かねで
みなりをつくり又あひにくるため
にもとおしいたゞきてくわいちうし
まもりぶくろをとりいだし
「このうちにはけんなんよけのおまもりが
ござりますおけいせいのみのうへは
かんねんがだいじとやら心ばかりのおれいに
とてえんのうへにさしおきてごえんも
あらばかさねてとなみだをそでにかくして
心のこしていでゝゆく○いれちがひてふくせいは
おもてのかたよりきかゝりてさいもんの山ぶしと
かほみあはせ「ヤアおまへはしばこし多もん
さまの御しそくなみ松さまではござらぬか
おさながほにみおぼへありトいへば山ぶし
かほうちまもりさいふおんみはかまくら
あふぎかやりの谷助どのかこれは/\
思ひがけないたいめんと■

(右頁下)
■たがひに
おどろき
ふくせいは
まかり
こなた
へと
いざ
なひて
山ぶじを
ひと まへ
とほし
「さてまづ
おたづね
まうさふは
おいんちゝ
たもんさま
かしく丸と
やらの
かたな
ふんじつ
ゆへらう/\の
みとなり
たまふとは
きいた
ばかり▲

(左頁下)
▲おゆくへ
しらず
それに
おまへの
此すがた
いぶかし
さよと
いひければ
「なるほど
ふしんは
ごもつとも
おやことも
あふみの
くにゝ
候ひ
しが
ちゝ
はゝ
ともにうち
つゞきてはか
なくなりあとに
のこるはわしひとり
いまは六三郎となを
あらためかたなの
せんぎのため「次につゞく」「▲」


34
「▲」さま/\゛にみをやつしてあるきます
「ふくせい」シテ又そのかたなにつきなにぞてかゝりでも
ござりますか「てがゝりとてもほかになしそのとう
ぞくはつぢかぜだ平太となはしれたれどもかほは
えしらずその/\そのかたなといふは小がらす
丸のかげのたちにてむかしきよもりくまのへ
ほうなふありしをりう女かしくといふ女にけして
ほし月のごせんぞへさづけたるゆへかしくまると
なづけたりかのかたなをみにつくればようぐわい
へんげもちうす又一つのきどくといふはくまのゝ
おふだかからすでわりにたいしてかのつるぎを
ぬくときはたちまちからすぐんをなす
これせんぎのてがゝりにて候なり「それなら
此ほうにすこし心あたりがござります
まづ/\ゆるりとなされませとふたりが
はなしをふすまごしに小そのはしゞう
きゝとりてこゝにきたり六三郎にうち
むかひて「さてはおまへはたもんさまの
ごしそくなみ松さまにて候かわたくしは
かねておまへのいひなづけのりんへもんが
むすめ小そのでござりますとて
これまでのうきかんなんけいぼの

りえんちゝがうたれししさいまで
くわしくかたり此げんむのかゞみは
はだみをはなさずだいじにかけ
きその山中でなんぎの
ときさへ土中にかくして
これまでもうしなはざるは
ごえんのつながるしるし也
これがしやうことさい
いだせは「六三郎も
くわいちうよりうん
くわくのかすがいを
とりいだし

思ひがけなき
たいめんをよろこぶこと
かぎりなし「ふくせいは
これをきゝさても/\
ふしぎなごえんそん
ならおまへはりんへもん
さまの御そく女かそふ
とはしらぬぶれいさよ
さりながあらごびやうきゆへにいまだつとめを
させませずみをけかし
なされぬはせつしやが
まことのとゞきしところ
せつしやあまくらにありし
ときむじつのつみにて
命にもおよぶべきを
此六三郎さまのおや
だんなのおかげで命
たすかりこゝへいりむこ
にまいりました命の
おやのわかだんなそれと
いひなづけのおまへ
ならばお二人ながら
おんあるおかたに候
とてにようぼうを
よびよせて六三郎に
ひきかはせてまた
いひけるはそれがし
さきだつてしんしや
きぬたむらにて
山だちにいであひ
その山だちがぬき
かけたるかたなより
ひかりをはつし◆

(右頁中)
◆あまたのからすむらがりぬそのとき
せうちやがくわいちうにくまのさんの
おふだありいまのおはなしを
うけたまはればまさしくかしく丸
その山だちは今おはなしの
だ平太めでござり
ましやうそのとき
かれが
くわい
ちうより
おち
ちつたる
からざいふ
そのうちに
あるりえん状
あてなはうのはどの
はまおぎりん
えもんとござり
ましたとて
それを
とり
よせて
小そのに
みすれば
ちゝの
じひつ
さいふにはちの
あとありさてはけいぼ
とのはさまもその
だ平太とやらにころされ
給ひしかと小そのはそでを
しぼり
けり「六三郎も
おどろきてさてはりんへもん
とのをころしたるもだ平太に
うたがひなしとぞいひける

(右下)
○さて
小その
かの
こるじき
ばゝの
ことを
かたり
まもり
ふくろを
ひらき
みれば
かみ
づゝみに
へその
をと
かき

長ろく
三年
三月
たん生
はま
おぎ
りんへもん
むすめ
小そのと
かき
たるは
ちゝが
じひつに
うたがひ
なし●

●さては
あのこつ
じきは
わたしが
じつのはゝさま

あつ

かと




たるばかり
なり


35
さて
ふく
せい

よう


きゝ
それ

これより
十四五丁
さきの
はかはらに
小やをつくりて
すむ老女に
うたがひなし
モウシ六三郎
さまむかしの
ごおんをかへすは
このとき小そのさまを
おまへにあげます
ほどにかくれがへ
つれましてほんまう
たつせしそのうへでふうふに
なつてくださりませさりながら
ほかの女郎のてまへもあれば
おもてむきはかけおちぶn
にそのさまをつれてのいてくださり
ませとまことをつくす
しんていをふたりのものはかんじ入
しからばさやういたさんかなにかのおれいは
おつてのことゝすでにふたりはたちいつればふくせいは
おかぢとともにおくりいでさいぜんのからさいふに
かねを入これもかたみじやもつてゆけとてなげやれば◆

(右下)
◆小そのは
てうにとり
エゝかたじけないと
おしいたゞき
てをとり
あひて
はしり
ゆきぬ

「だんなさん
ごおんはわすれぬ
かたじけない

(左頁)
「摂州 神埼 曲中 之図」(せっしゅうかんざきくるわのづ)

(下)
○さて辻風駄平太ははまかせばゞをがいして
小そのをうりたるかね共しらずうばひ
とりそのゝち四こくのへんにしばらく
かくれすみけるがこのごろ
せつしうに
きたり
ほん
みやう

かくし
たいらと
かへたして
かんざき?
く?
わ?
かう?
か?

(中)
▲大かたにつかひつくしけるにぞとかく
あくいをおこしいかにもしてかねをえん
ことをはからばやと思ひめぐらしぬ
○さて又なにはばゝあは思ひがけなく
わがこ小そのにめぐりあひ
もらひたるかねを米ふくろに入て
はかはらのねどころに
かへりあまりのうれしさ
にいねもせずあすは
此かねにてみなりを
つくりふたゝびかしこに
ゆき小そのにあひて
おやこのなのりを
せばやとたのしみ
「次へつゞく」


36
「かん ざき の つゝみ の け し き」

かのかねをいだしてながめいたるをりしもつぢかぜだ平太
ふかあみがさをまぶかにきてかんざきのくるわより
かへりかけ此ところをとほりけりてふとなにはが
かねをもちいるをみつけこいつこつじきに
にあはぬ小ばんをもつているは
ふしぎなりなにゝもせよ
よいところへきかゝりしと
ぬきあしして
うかゞひより一こしを
ぬきはなし
かたさきを
すばと
きれば
あつと
さけびて
たふれふす
だ平太は
ふくろの
まゝにかの
かねをうばひとつてくわいちう
すればなにはゝやう/\おきあがり
くるしきいきのしたよりも「コレ申し
そのかねはいのちにもかへられぬ
だいじのかねでござりますその
かねでわたくしが心のねがひが
かなひましたらずいぶん
おまへにころされましやう
どふぞそのかねをかへして
いま二三日いのちをのべて
くだされませこれてを
あはせておがみます
おじひ/\といひければ
だ平太はあとさきを
みまはしつゝ「これ大きな

こへをしやアがるな
どふでいちどは
のたれじにする
のぶせりめみれんな
ことをぬかさず
ともけふぎりの
いのちとあき
らめてくた
ばつてしまへ此よで
おあまりもらはふより
しやうづかのばゝあが
てしたとなりさんづの
川できやうかたびらの
せんたくでもするが
おにのふんどし
でもこそくつて
六たうせん
でももらふが
まし
だは◆

(右頁下)
◆なむあみ三?
きらず?
めんつに?
たむけの?
こものうんで?
ひろげ

又??り
つくれば
「だァゝゝゝあな
くるしやたへ
がたやこりやア
どふあつても
ころすのか
「しれたことだは
「九つのかね」
ぼをん
/\
「また
ひと
うちに


くる
「をり
しも
どうと
かぜ
???

(左頁下)
かほあらはるゝを
「なにはゝくるしさ
こらへつゝ月かげに
すかしみて「なんぢは
たしかにつちかぜ
だ平太「ナント
ぬかすおれがほん
みやうしつたる
うへはなほ
いかしては
おかれぬと

「次へ
つゞく」
「▲」


37
「▲」とゞめのかたなをさゝんとする
おりしもきたる人かけ
あしおと見つけ
られてはいちだいじととゞめもさゝで
にけゆきぬ小その六三郎両人はかくとも
しらず此所へたづねきたりなにはがしがいに
つまついて小そのはひつくり月かげにかほ
みればこれはたしかになにはさまコレはまあ
だれがころしたなにものゝしはざぞと
きちがひのようになりコレ申小そので
ござりますなにはさまおきをたしかに
申/\とよはゝればなにはゝやう/\めを
ひらきてくるしきいきをほつとつき
「小そのさまでござりますかよひ所へ
きてくださつたト
わが子なからも
てかけとてしゆうあしらひに
ことばをあらためもはやこのよでは
あはれまいと思ひしにいきのある
うちお目にかゝるはまだしも
えんのつきさるところ
此ふかでゝはとてもいのちは
たすかりませぬひる
ほとおやこのなのり
をと思ひましたが
こじきのおやをもつたと
うはさあつてはおまへの
はぢと思ひなほしわざと
なのらずかへりましてとふそ
みなりをこしらへて又あひにゆき
ましやうとたのしんでいた所に
人にきられてそのかねをとられ
ましたときいてふたりは又ひつくり
みぎとひたりにつきそひて
かいほうすれどもたすかりかたき

ふかでのやうす小そのはいきのふで
あるうちにとこれまでのことを
みじかくかたりけれは六三郎もわが
みのことをかたるにぞなきはゝきいて
さてはしばこし多門さまのごしそく
なみ松さまかとおどろきてわかみ
ちふれたるいはれをもかたりけれは
小そのはなみだせきあへず
三つのときにおわかれまうし
せめて一日かう/\らしき
こともせずひさしぶりにて
おめにかゝりなのるとそのまゝ
しにわかれとはよく/\
うすきおやこのえんと
くやみなげゝは「あゝいや/\
みなこれえんぜのやくそくごと
まつごにおよびはゞかりながら
むことむすめのかいほうにて
いきひきとるはみのほんまう
かならずなげいてくださるな
コレ六三郎さま小そのさまに
ふびんをかけてくださりませ
小そのさまふうふなかようつれ
そふてはやくやゝをうんでくだ
さりませそれをくさばの
かけでみてよろこびましやうと
いふもはや四くはつくねぶつの
こえもかすかになりよはり/\て
あはれむべしくさばのつゆとぞきへ
はてぬ ○かゝるをりしふくせいはむなさわぎ
しけるにぞふたりのみのうへあんじつゝあとを
したひてこゝにきたりふくせいなにはがていを
みてきもをつふし六三郎小そのにしさいを
きいてさてはそのだ平太とうこくにはいくわいするに
ちがひなしといふをりから「つぎへつゞく」

(右頁下)
「さてはおまへをてかけしも
だ平太めがしわざ
なるかかさねかさなる
あたがたきたとへ
てんにのほるとも
たづねいたさて
おくべきか

「わしにてを
おはせてかねを
うばひしも
だ平太めが
しわざ
とうごくに
かくれ
すむに
うたがひ
なし
かならず
ゆたんな
さるな

「わたくしか
かねを
あけずは
こんなことも
ごさんす
まい
かなしや
/\

(左頁中)
「はて
がてんの
ゆかぬ


38
くさむらのうちよりいつひきの
ねずみちのつきたるふみを
くはへていでけるにぞこれは
ふしぎととりあがてよみ
くだせば小そのがつきだしの
うはさをきゝはつきやくに
なりたきよしふくせいがかたの
ひきふねのもとへたのみの
ふみにてたいらよりと
かいてあるこれはたしかに
だ平太がかいてくわい
ちうしたるをとりおとし
たるにうたがひなし
さすればこのごろくるはへ
入こむたいらといふ
きやくはだ平太に
うたがひなしそんなら
コレかう/\とふたりに
さゝやきなにはが
からははかはらを
うがちてかりにうづめ
おきふたりをつれて
ふたゝび又くるはへ
かへりぬ ○かくて
ふくせいっはつまの
おかぢとしめし
あはせ六三郎を
かくしおき
小そのが
つきだしの
うはさをさせ
ひきふねにふきこんで
かのたいらといふきやくを
おびきよせて小そのにあはせ
けるにいつぞやちゝをうたれし

ときはあんやにてたがひにそれと
かほ見しらずこゝろしづかにためし
みんとひたすらかれにさけをすゝめ
十ぶんにえひたるところを
みすましばつきゃくにするからは
まことの心をみぬかざれば
あひがたしとうぶんの
なぐさみならかへつて
わたしがはぢかくたね
もしもまことが
あるならば此きしゃうに
ちをけがし
わたしが▲

▲うた
がひを
はらさせて
くださんせとくまの
さんのからすごわうを
さしいだせばた平太
こひに心をうはゝれし
ゆへにや又はうんめいの
つきたるゆへにやなにの
ふんべつもなくそれは
なによりやすきことゝ
いひつゝ小ゆびをいだし
かたなをすこしぬきかけ
たるにあらふしきやこいぐち
よりひかりをはなしあまたの
からすむらかりとんでがは/\となきさはぐ小そのはこれをきつとみて■

(下)
■さてこそ
/\
かしく丸の
とうぞく
だ平太に
うたがひなしと
よははれば
だ平太は
びつtくりし
かたなを
そでに
おしかくせば
からすは
きへうせ
こなたの
ニかいに
ひそみ
かくれて
きゝいたる
六三郎
はせよつて
きりつけんと
したるか
だ平太は
れんじを
けやぶり
やねづたいに
いづく
ともなく
にげさりぬ

(中)
「だ平太」
「べら
ぼうめ
ありやア
つきよ
がらす
だは

「小その」
「さてこそ
/\


39
だ平太はちうをとふがことくに
にげゆきけるがたちまちくうちうに
りんへもんうのははまかぜばゝ
三人のれいしんあらはれいでゝ
うしろがみをひきもどし
けるにぞた平太は
ゆめぢをたとることく
にてはしりかねたる
ところに
六三郎
小その
ふくせいら
三人
おごそかに
いでたち
いだてん
ばしりに
おひかけ
きたりて
だ平太を
おつとりまき
「小その」めづ
らしや
つちがぜ
だ平太
わらはゝ
なんぢにうたれたる
はまおぎりんえもんがむすめ小そのといふもの也
しなのゝちにきぬたむらににてけいぼうのはもなんぢに
うたれこのころかしこのはかはらにてなんぢか
ためにがいせられたるそでごひのろうぢよは
わらはがしつのはゝなるぞかれといひこれといひ
つもりかさなる父母のあたかくごせよとぞ
よはゝりぬ六三郎いひけるはわれはこれしばこし

多門がいつしなみ松いまは名をあらためて
六三郎といふなんぢかしく丸のかたなをうばひ
父をろう/\のみとなしたるあたかたき
しかのみならずわれ小そのといひなづけ
あればしやうとしやうとめのかたきなりと
なのればだ平太くつ/\とわらひだし
うぬらがいまのたなおろしニ口メて
そんなおれが
したことだ
うぬらも
みんな
かへりうち
おねんぶつ
でも
だいもくでも
ぬかしてかゝれと
あざけりて
すでに
そうほう
たゝかひけるが
てんばつ
悪夫を
ほろぼし給ふ
ときなるか
両人がちうこうの??き
はがねにきりたて??てついに
だ平太うちとられけるにぞ
かしく丸のかたなもとりもどして
よろこぶことかぎりなし

○かくて六三郎小そのをともなひて
かまくらにくだりほし月のやかたにかの
かたなをさし上ければはんぐわんことの
よしをくわしくきゝたまひて小そのが大孝
六三郎がちうぎをかんじたまひけり▲

(右頁下)
▲さて六三郎に小そのを
めあはせてしばこしのいへを
つがせはまおきのいへも
おつてとりたてつかはす
べしとのたまひかんざきの
ふくせいふうふたもんが
おんをわすれず
ふたりを
たすけて
あたを
むくは
しめ
たる
こと
ばつ
くんの
てがら
なり とて
あまた
ほうびを
たまはり
けるにぞ
みな/\
その
仁えを
かんじ
けり

○さて
六三郎
小その
しな
のへ
ゆきて
父の
なき
からも

かいそうしふくせいに
たのみてなにはが
なきからも
ねんごろに
ほうむり
うのはと
ともに
三人の
あとを
とむらひ
てい
ねいを
つくして
ぶつじをぞ
いとなみける

○此とき小その
うすでを
おひけるに
くうちうより
ねずみ
とびくだつて
その
きづを
なめ
ける

たち
まち
いたみさつていへたりけり
小その思ふにちゝ
りんへもんは子のとし子の月子の
日のうまれなりそのこんぱく
ねすみとけしたひ/\われを
すくひ給ふありがたきと思ふも
なみだのたねなりけり

(右頁上中)
「だ
平太め
思ひ
しつ
たか

(左頁上)
「いん
ぐわはめぐる
いとぐるまともに
めいどへきたれや
/\

「かしく丸のいとくに
よつてたちよりこと
かなはざりしが
じせついたつて
うらみをむくふ
うれしや/\


40
さて大吉日を
えらみて六三郎
小そのとこん
いんをなし
ふうふとなりて
むつまじくつれそひ
ついに三男ニ女をうみ
次男をもつてはまおぎの
いへをつがせ寿命長久
子そん
ははん
じやうし
けるとかや
まことに
これ小そのが
こう/\
六三郎か
ちうぎ
たぐひ
まれ
なるゆへに
てんのあはれを
うけてかくの
ごとくと
しられたり人として
はげみおこなふべきは
忠孝の道ぞかし
めてたし/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\

「京伝店」かみたばこ入きれたばこ入
きせるるいしんがためづらしき品いろ/\
出来仕候

「読書丸(どくしよぐわん)」
一つゝみ壱匁五分
第一きくんをつよくしものをぼへをよくす
老若男女にかぎらすすべてよわき
うまれつきの人に用ひて大しんやくなり

山東京山
 玉石朝印
 てんこく取次

豊国画「山東京伝作」

「小その」
「六三郎」

「ほし月
はん
ぐわんも
むかしの
ほうらつを
こうくわいし
いまは
おこなひ
正しく
なりて
いへとみ
さかへ
けると
なん

「読本「」頼豪阿闍梨怪鼠伝(らいがうあじやりくわいそでん)全部六冊
    曲亭馬琴作 葛飾北斎画」

「文化戊辰新絵草紙」
桜姫後日之仇討(さくらひめごにちのあだうち)
山東京伝
歌川豊国画 全部七冊

小鍋丸手石入船(こなべまるていしのいりふね)
曲亭馬琴
歌川豊国画 全部六冊

敵討身代利名号(かたきうちみがはりみゃうごう)
曲亭馬琴
葛飾北斎画 全部六冊

越中立山 幽霊村仇討(ゆうれいむらのあだうち)
十返舎一九
歌川豊広画 全部六冊

各のこらず出板うり出し申候よろしく御評判
取遊御もとめ御覧??下?様奉希上?
 江戸通油町 博鶴堂 鶴屋喜右衛門版