仮想空間

趣味の変体仮名

火水風災雑輯(一)65コマ

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592140?tocOpened=1

 

 

65

「近郷 近在 江戸大風雨出水場所分」

日本橋ゟ南の方」

頃は安政三年八月廿五日の夜五つ半時頃ゟ大風大あめにて追々はげしく

震どうらいめいし社どうをはじめ家くら橋/\にいたるまでそんずること

おひたゞしくまつ南の方は通りすじ京ばししんばしおもてうら丁一えんにそんじ

芝口ゟ東の方は汐どめわきざか様仙だい様御やしき大そんじ御濱ごてんは

少々にて大浪打上る諸々同断芝うら御やしき右同断りやうし丁芝濱辺は

大小の舩数しれず打くだきうちあげる芝田丁通り一えんくつれさつま様

はまやしき其外諸やしき濱つき一えん大浪にて取かけくつれ高なは辺

まへぢや屋吹とび海上へ流さるいたくのすず大半くつれ御だい

ばは五ヶ所とも少しづゝのいたみ其外万丁へんは一たいに大そんじ

又芝うら沖にかゝりいるさつま様あかゞねづくりし大せん全損はまへ

吹上る其外品川沖にかゝり候大ふね数た吹流され八口山御てん山

はことの外にて大木を吹おり吹たおすことかづしれず品川しゆくはたごや

大半そんじ海がはは大くづれ東かいじは門たおれへいのこらすくづる山うち

木々は大半吹おる此へんうみべの方は大もり辺までかい上ゟ津なみのごと

く大なみをうち上け人家をながし又はくつるゝいへおゝしまた日本ばしゟ

右のかた御ほりどをりかじばしすきやがし辺八くわん丁通とばし辺おはり丁

竹川丁辺家根一えん吹めくるかし通りはなをつよしあらごの下は一えんに

御やしき諸々打くづす火の見やぐら吹おれる芝口すじゟ一たいに

大そんじ神明御社は少々社内は大そんじ芝御山内は御れいやつゝがなし地中

其外大そんじ大木数しれずおれ又は打たをす同所片門前ゟ出火にて此辺一えん

神宮すどをり両かはみしま丁角までおもては宇田川丁にて焼どまる又西のくぼ辺

飯くら通赤ばねへんやしき丁家とも大半くづれ三田辺有馬様は大変そんじる

小山もりもと辺寺丁伊皿子だい丁二本えのき辺一えん細川様大そんじ寺丁

へんのてら/\゛御下やしき又は丁家とも大半くづれ此へん山はやし多くして

大木を吹おり又は根こぎにし其数しれず其外田池田はたにいたる迄

大そんじ南の方は先あらましをかきしるす

「日本ばしゟ東の方」

さて日本ばしゟ東のかたは青もの丁辺材木町四日市しんばとおもへん

かいぞくばし牧さま御やしきことの外そんじかやば町八丁ほりへん御くみやしき

一えんそんじ亀じま辺大どをりつまじうらとをり辺ことの外大そんじ木ひき丁

へんより門ぜきどをりは大半いたみ西本くわんじ本堂はおしつぶれしほうけが

人あまたなり地中は大そんじきんぺん御やしきは一えんおしつぶれあき様御やしき

大なみにて石がけくづれ御やしき内なみうちあぐるつきじ濱べどをりのこらず

うちたをれ家々くづれながさるさむさばしゟ十けん丁みなと丁辺是又大浪

大風にて家々なやにいたる迄大浪にて石がきくづれ流れ又はくづる

いなりばし社は少々此へん御やしき一たいに大そんじむかふつく田れいしまちは

大なみにてうちつぶれ又はながさるよせば石川しまは右どうだんしん川

ばしは大ふね流れきたり右はしぐいへうちあて中ばよりはしぐいうちおれ

中ほどくづれおうらいとまるむかふふか川さが丁辺諸蔵数しれずいた

む蛤町仲町へん大半くづれ大水にて大いたみ仮たく遊じよやはさのづち

そうくづれ大こくや大の屋久森まんじは大半いたみにてすむ八まん御やしろは

つゝがなく此せつ江の島弁天かいてうにてばしよのこらずうちくづれ大なみにて

行がたしれず其外社内は大半いたみまへぼりにてけが人多し三十三間堂

九分どをりそんじ木ばへんは一えんにざいもくをながし人家大そんじ又すさき

弁天は大そんじ其辺ゟ木ば大じんち辺一えん大浪にていへ/\をながすこと

かづしれず御やしき方うみ辺は右どうだん又きたの方はてら丁どをりれいがんし

しやうしんじ其外てら/\゛人かにいたる迄大半いたみ大出水にて家くづるゝ本石へんは

ときは町森下町辺高ばし扇ばし通り大水にて人家大そんじくづれ家あまた

小名木川通砂むら中川へん右おなじあたけ六へんぼりへんおたび松井町辺仮たく大半

いたみみのかめやは大くづれ立川どをり林丁みどり丁辺同断五百らかんじ大いたみわりけすい辺

つがる様其外近辺やしき一えん大出水にて大いたみ亀井戸柳しま辺右同断大川ばた通り

一えん中の郷小うめ尾町辺みな一えん向じまは田ばた一えん本所ふか川はわけてつよし

日本橋ゟ北の方」

又日本ばしゟ北の方は本丁辺石町辺小田原丁辺御ほりどをりかまくらかしどをり

一えん大そんじ?ぢんばう小川町一えん大小のやしき長屋御てん又はとのみ大半くづれ

飯田丁辺一えんまた通り丁は今川ばしかじ町なべ丁内神田一えんやなぎ原辺其外

一えんに大半そんじすじかい御門正へいばし辺ともどうだん外かんださくま丁へんはら店

御なりみち御やしき方一えんにそんじ神田明じん社は少々そんじせいどうがくもん所

へんは大そんじゆしま天じん社は少々からかねの鳥いおれるつまごひへん高みゆへ大そんじ

ほんがうへん竹丁はる木丁辺一えんそんじかゞ様御やしきは御物みくつれ其外大そんじ

こまごめ辺すがも白さん辺大そんじ又本町ゟてんま丁ばくろ丁辺横山丁

はま丁辺丁家御やしき方は大そんじ安藤様御長屋打くつれ永代ばしへ

打あて候大せんほばしらは田安様御やしきへながれつくともの方は安藤様御や

しきへながれ付打くつる其辺両ぎしとも大みづにて大そんじ両ごくばしはつゝが無

其外小屋ちや屋一えん大くづれ浅くさ御門外かや丁平右衛門丁辺代ちへんはみな

一えんに大はそん御蔵まへどをりどうだん御くらは少々にて御馬やがし辺きし辺一えん

大はんいたむ駒かた辺二間町仲丁辺田原町辺右どうだん東ばし辺金竜山

雷じん門仁王門とうの大でうちん行方しれず地主にしの宮社のかねの鳥居

中ゟ打おれる御山内本堂はつゝがなくしゆろうどうはやね打くづれ八方へとび

ちるちやみせ諸あきんどみせ小屋木までこと/\゛く大そんじ打くづれ大木打おれ

根こぎあまたなり地中人家は大はんなり矢大臣門家根そんし馬道とをり

大はんくづれいたむ松田矢と申仮宅惣くづれ其外中だ矢田長や花川ど山の宿

仮たく遊女屋は一えんに大そんじ芝居は三ざと?(も?)やね吹めくるちや屋一えん

大そんじ又はつぶれやむ また山谷田中辺鳥こへ辺大そんじはしはまつさき辺大くづれ千住

へん一えん大みづにて大そんじ新吉原元ち大くづれ其上京丁ゟ出火にてやけるみのは坂

もと金杉辺大そんじ坂本ゟ出火やけるなり下や通りは一えん御やしき一えん東門ぜきは

少々寺中そんじ其外近辺寺々大そんじ御くみやしき一えん山下通り一えん上の御山内は

一えん御れいやつゝがなく山内清水辺大木打おれ其数しれず天王寺日ぐらし根ぎし辺

三かわじま辺ことさらつよく田はた大あれなり其外山々の木々あまた打おる

日本橋ゟ西の方」

又日ほんばしゟ西の方は丸の内はかんだばし御門内さかい様御長や百間よおしつぶれ

小がさ原様長屋片かわつぶれ御さくじやしき大そんじときはばし内間なべ様のこらず

つぶれえちぜん様太田様其外大小名様方一えん大そんじ辰の口諸々御やしき一えん

大名かうじびぜんくら様御長屋つふれおた様同断小がさ原様つぶれ近辺御やしき

一えん大はんそんじかじはし内あは様御てん銅かわらおちる長井様つぶれとのも様半

つぶれまき様おもてもんくづれ長屋一えん土井様どうだんひゞや御門外毛利さま

半つぶれあべ様さつま様なんふ様此近辺大小名様方一えん大そんじ打くづれ亀

井様にしを様たおれ相馬様御げんくわくづれ上杉様長やたおれあき様

かすみが関うら長屋かたかわくづれ其外近へん御やしき一えん雲しう様御やしき

大そんじ三げんや小やしき一えん大そんじ右丸の内は一えんにさくら田門御門内ゟ

馬ば先わだぐら辺まで大木六七十ほん打たおれ西の御丸下はほつた様一えん

くづれあいづ様御やしきのこらず下サ様其外一えんなり又半蔵御門外大半

御ほり石がき諸々そんい大木打たおすかうじ町通り一えん平川天じん社は

少々うら町通は大半くつれ紀州様御やしき一えん大そんじ赤坂御門外通り

伝馬町一つ木辺一えんため池きは通り打くづれ又は吹つぶれくらた様其外

御やしき方一えんなり氷川社は大そんじ今井丁谷丁辺二本榎りうどへん

人家大半そんじる火けし屋しき火のみ大そんじ又麻布辺は十ばんぞうしき

一本松辺大木を吹おる善ふくじ大そんしさくら田一丁古川辺大水にてくづれ

ひろをしぶやへん一えんくづれ又小石川辺一えん江戸川すじ牛込辺かし

どをり一えん大みづにて木たいもくをなかす又丸山よりはく山御てん其外田丁

きくざか辺伝通院地内一えん大半そんじ根津辺其外右之近辺大木を吹

おることおひたゞし又けいせいがくぼすがも通りいたばし辺にいたるまで所々大そんじ

市ヶ谷辺は御やしき町家とも一えんなり四ツ谷御門外てんま町辺大通りうらじん道

其外御くらやしきにいたるまで大はんそんじなる二町内藤しんじくおいわけみち

近辺一えん大つぶれ大そんじ青山辺は六どう辺百人町其外御くみやしき一えんに

大そんじしぶや目ぐろ辺一えん山の手は木々多く大木を吹おり根こぎにしたる所おゝし

「近国近在」

東かいどうは大山辺ゟふじ沢宿戸つか程ヶやかな川かわ崎辺宿々在々にいたる迄大半そんじ又大くづれ

又かいがんはかたせ江のしま辺かまくら辺うらが辺惣一えん大なみにて人家くづれ流す山々大木を打おる

北国かいどうは千じゆさうかこしがへかすかべさつてくりはし宿々ざい/\にいたる迄大そんじ大出水にて人馬共多く

けがあり中山道はわらび大みやおけ川かうのすくまがへ宿々在々殊の外つよし甲州かいどうは高井戸辺

八王子へんまで在々にいたるまでそんぼう多し東はほり江ねこざね行とくかさいりやう二合半領辺

舟ばし辺ことの外つよく大なみきたり人家とも大半そんじ上さみちおみかわまくわ千ば濱の村辺かい

がん通り是又大なみ打来り人家を流し人馬こと/\゛くそんす其外うみ山はもちろんひつしにつくしがたし

やう/\明七つ時頃に風しづまる今其こさいを書しるしえんごくたこくの人々へしらしめんためしるすのみ

(絵図内略)