仮想空間

趣味の変体仮名

戯場楽屋図会拾遺 下之巻 コマ53~66途中

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2554349

 

 戯場楽屋図会拾遺 下之巻   享和 2 年(1802)刊

 

53(絵図)
人形細工場

三番叟棚

立者部屋 となりのへや 吉田東作 

床山
此所はぶたい
うしろ西南
に当る心なり


54(51の続き)
と似たる様なれど素襖には腰板を付る 大紋はこし板なし 袴の
丈もはるかにみじかし ・柴革の付けたるを露かわといふなり
○龍頭巻 輝国あるひは源太などの役にてうしろより立たる(図)けんさきを云也
○長絹(ちやうけん)ぶつさき羽織のごとくにして広袖なり 薄雪の大膳あるひは親父がたきの用るところなり
○胴丸 手細のるいなり 国性爺にて和藤内のきる物なり しかれども和
 藤内にかぎることなし しんちうのびやうを沢山に打ちあり
○鎖胴丸 くさりにてつなぎし胴まる也
○鎧袖 いつれ軍立(いくさだて)の時鎧の下よりビント立たる袖也
○千早 かたち でんちう羽織のごとくにして 胴丸などの上に着する也
○鬘鉢巻 巴御前あるひは山姥 富士の方などのはちまき
○半? 錦にてつくる 軍立のきやうげんにて中通り小つめに着する半天のごとき物也
○唐衣(とうころも)国性爺の狂言に多くあり か?きなどのはいたつてよろしきなり ○襟
袈裟 同じきやうげんに多し よたれかけのごときものなり
   立役の用る所はびんと立たる故ピントコともいふなり
○仁王錦襷 信公記のぜさい(是斎・定斎)場などにて 加藤虎之介の背中に
      大きく結びたるたすき也 是も加藤に限らず
○絹省(きぬやつし) 一切絹にて仕立たる着物也 大官あるひは近習に着する
○木綿省 一切もめんにて仕立たるなり 百姓仕出しの旅人の着るなり
○黒頓(くろどん)とりてなどの着る黒き衣しやう也
○猿股 ふんどしなり いづれも前のさがりはまへ斗つけるなり
           しかれども団七などの役にてはつねの廻しなり
○下(さがり)とり廻しといふ 角力とりなどにて用る下りなり

○鎧○釼峰(けんさき)三番叟の着るえぼしなり 此外脇差のるい??は
小道具なれども衣裳やよりも出だす事なり
○此外数品(かず)ありといへともあらまし人の知る所なりゆへに三つ割二分をのする 操芝居
の衣しやう屋は○衣裳 人形の頭・足等をいたすなり しかれども上分(かみぶん)の役者は此人形
あしきとて用ゆる事なし

 ○衣裳屋長持印
(上段)
八百屋三右衛門 八まんすじ中はし南へ入東がは
播磨屋弥八 清水町なにははし少し東北がは
和泉屋吉兵衛 心斎ばし菊屋町東がは
京 大和屋四郎兵衛 けんにん寺町四條下ル丁
(下段)
池田屋源助 心さいはしすじ菊屋町ひがしがは
三雲屋幸助 嶋の内たゝみや町すじ岩田町南へ入東がは
播磨屋治兵衛 南ほりへ六丁目
京 若狭屋利兵衛 五幸町御池

 ○同操芝居之部
天王寺屋忠兵衛 天王寺しよまんにて
(下)
ぜにや佐吉 清水町すじどぶ池東へ入北かは
万屋住三郎 よどやばしすじ梶本町南へ入


55(絵図)

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立眉 眉毛金にて作る 但ししんも是におなし
 もとりのくじら
眼(まなこ)之働き  目の玉  口
開闔(あをち)眉 眉毛金しん同じ 
中に穴ありてせんのかねを通す○印の糸を引ばまゆげうごく也
口の働き 何れも戻りは鯨にて作る也
     下なる口は表なりと知るべし 裏は上にてみるごとし

頭後之図 両方の穴にせんを通すなり
同じく前後合たる図
○右最初四つの図は面(おもて)のうらにして かしらを前後二つに
分けたる心にて見るべし ●此印を目あてにして前後を
合すと知るべし
○眼にて△印の紐は目玉のひかへなり 是をうしろなる鯨
の張にむすびつける事両方にて四筋なり □印の
ひもはよこ目をつかふ時に引なり 是も両方にて四す
じにてさきにて一すじになる ◎此印の紐は両方
にて二すじなり 是を引ば目の玉一所による 但し
さきにて一すじになる
○口は◇印を引ばひらく 上にもどりの鯨あり


56(絵図)

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頭(かしら)の前後を合はせて内を見る図
引栓(ひきせん) 
咽首
釣片(つりかた)
○片にして胴の内つける ○黒き所は鯨にて作る也 からうすト云ふ

此所をうまと云 
小さな鯨にて作る 胴串

頭全体之図
○頭前後合見る図は立眉眼のはたらき口の働き右三つを一つの
かしらの内にこめてうしろより見る図なるべし 但し咽首を
頭にさし込み●印の所に角なる穴あり こゝに胴串のかまを
さしこみ仕懸けの紐は図のごとく胴串の穴に通し 小さるに
結び付け 用をたつする かしらのうなづきは咽首の鯨に付けたる
紐をかしらの内に結び付け又紐を
引きせんに付けて指にてそ
れをおさゆること也
いづれも図にて引き知るべし

足之図
○上に付たる紐は胴体
にくゝり付る 但しあし
くびにうごきあるは 狐足といふなり

此所紙にてつなぐ

あし金

女形にはあしを付す
○和藤内女房 小むつ
○白石噺 田うへ場 しのぶ
○なるかみにて 雲のたへま
○むかし噺 せんたくの段 ばゞ

此たぐひはあしをつけるなり


57(絵図)

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抓手(つかみで)
○図のごとし 委しくは文中に出だればこゝに出さず
 指先(木にて作る) 指金 指下 同正面
○差金(さしがね)
○堅木にて作る 好によりて黒ぬりに仕たるもあり
 右の方七寸余 左 壱尺四寸余
○差込手 又カセデとも云
 ・ちよつと持て袖口より出す 胴にはつけず此類多し
○革番(かはつがい)
 ・ゆびのはたらき中つがひと革にてつなぐゆへに名づく 表 裏

招手
○是は立役女かたにかぎらず

二の腕
○二のうではきぬのきれにて袋をぬい 中に綿を入る 片車につけて片口に付る

指革 いづれも右の方斗にあり

指手
○手首のみ木にて作り 腕の
所はきぬの裂なりはしに紐
をつけ是をつかふ人の手に結び
つける たとへば手おひのごとし

弓手(ゆんで)
弓手は二人かゝりの時か又は
碁盤人形などに用る所 なり

○図のごとくつがひにして腕の紐を二のうでの
穴に通し 下より是を引けば かゞむなり
紐をゆるめる時は もどりの鯨にて また
元のごろくのびるなり 考へしるべし


58
道具方 大工角兵衛をよしとする 図は初編にいてたり こゝにのするは先にも
    れたるをのする ○浪幕 面に波を染たるまくなり ○黒幕 ○浅
黄幕 △場引き割り 廿四孝四段目にあり 其外いろ/\引割あれども略す ○草井戸
まはりに草を植たる井戸かはにて在所ばにて用るなり △引〆(ひきぬき)襖 柳さくら茶
屋の段にあり 見附のふすま絵ばかり残して ふすまをひきぬきのこりたる絵
そのまゝ道具立てとなる △がんどう 舞台のうらに道具立をこしらへ 人の
乗りたるまゝにて舞台をかへすなり たとへば苧環をよこになし廻すに似たり
箱天神とも云 △廻り道具 くわしくは前編に出たり △引道具 人のよく
知る所なでば略す △せり出し 初めの道具立をひくか又は黒まく浅黄幕などを
落し奥より道具立をすき出だすなり △せりあげ 初編にのする いづれ両編を
もつてくわしく見るべし 操芝居の道具立をする人をへたりと呼ぶ

小道具方 狂げん立て遣のせつは上さんじきにてしゆ/\゛の細工をなす事なり
     盞(とさん) 盃 煙草盆 ほたるび 黒き長きしゆもくに両面にみ
かきたる鍮石(しんちう)を四角にきり是を角つなぎにやうらくのごとく幾すじもすけ少し
くらき所にてこれをつかふに真事の蛍のごとし △焼酎火 陰火なり 竹の先に
木綿の切をつけ焼酎にひたして火をつくれば青くもへること物すごし △かいる ちい
さきははりものにて是をつかふ 大いなるは人壱人中に入て此わざをなす 天竺徳兵衛
のきやうげんにあり なくこへを発するは赤貝をすり合すなり △鳥類 一さい張
物なり 空行く時は糸にてひくなり △むしるい はちへびのたぐひは正体を出だす

松むしなどのるいは笛にてこへのみなり △草はな △手水ばち △連ばん状
御袖判 △かんがうの印 △刀箱一切の着物等なり
右の外品多ければ略す 操芝居も是に同じ

床山 中通小詰此所にてかみ月代をする所なり あやつり芝居の床山
   は図のごとし くわしくは初編に出だす こゝにのするはかずらのあら
ましをしるす

  ○鬘品目
○燕手(えんで)両方に羽根のごとき物あり 小七(ころく)奥山(ためぢうろ)是をもちゆる
○半鬘 地がみのごとく見ゆる鬘なり 杜若(はんしらう)花友(ともきち)是を用 
○銀天窓(ぎんあたま)伊勢物語にやう八などのたぐひにて三光(さんぱち)などこれを用ゆる
○大吉髷(わげ)宝暦九年姉川大吉是を結び初める けいせいのかつらなり
○百日鬘 百日のびたる月代のごとし 俗に病かづらと云
茶筅 役者衆中銘々好みありて格好違ふ 訥子(そうじうろう)来芝(さんご郎)両人引て知るべし
○信夫(しのぶ)返し 勝山のごとくにして櫛の上におほひかゝる髷也 巴江(いろは)是を好む 
○嶋田 東海道嶋田の宿より初る 故に名とせり 人の知る所也
○張打(はりうち)四方かみにしてもつ立たる髷なり 市虹(たんぞう)など好む所也
○勝山 江戸吉原巴屋勝山といふ女郎これを結はじむ 今の世ことのほかおこなわるゝ也


59(絵図)

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○扇子手(あふきて) ・景事などに用ゆるなり 腕首はぬりものにして
           うては箱にこしらへ 三所にほそきみぞをほりて 引
栓あり ●印の一すじは小手をかへす糸なり △此ごときはおふぎをたゝ
む糸にして親指のあたりにあなあり 此所より箱のうちにとるなり □印は
あふぎを開く糸にて おの/\引栓にくゝり付ける

○さぶた ・手ぬぐひなどをつかみとるてなり 次に図するは二つに分けたる形なり
○扇は多く金銀にして 骨は鯨にて作るなり
○さふたはかくのごとく腕の中に みぞをほりて是をずらして 親指のはたらきあり 
  諸事 考え知るべし
(上)
○鼓手 ・つゞみでは小手さきに鉛を入ること也 下の(せんを指?押さゆ)

琴手 

○略扇子(りやくあふぎ)手
 ・あふぎの親骨に紐をつけはしりの鯨にくゝりてはたらきをなす

○三味線手
 是は左にしていとをおさゆる手なり 親指は絹にて作る也
 ・さしがねは手の横より打付る也

○三味手の右 ばちは手に打付けあり
・あこや・袖萩・三勝・四郎五郎
などに用ゆる所なり いづれ琴手 鼓
手 あふぎ手に 用ゆる事 狂言に寄りて知るべし

○琴手 ○略あふぎ手 ○三味手左右
・さぶたなどはゆびのはたらきのみにて小手先の
まねきなし ○此余たいこ手 ○杖手のたぐひ多しといへども爰に略す


60(絵図)

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女形頭面之働仕懸見図(おんながたのかしらおもてのはたらきをみるづ)
女形頭のはたらきは ○安達原老女 かさねのたぐひなり
面の作り美しにして にらむ時は至てものすごく髪さかだち
口をひらき ま事に生けるごとし
○図する所のかしらにて ●印は目の玉にして鍮石(しんちう)をはる □印の
糸を引ばまなこかへりてしんちうことなる ◎印の糸引ば
目口一時にはたらきあり △此印の所は絹にてはり 口あき
たる時のゆとりなり ●印はかみさか立つ時に引なり
○但し立役面(かほ)のはたらきは前に図するごとく 口は下の口
ばかり動く こゝに写す図は上下ともはたらくなり

(上)
○こゝに図するは「かさね」のかしらなり
安達原老婆のたぐひは面を縮緬
にてはる事多し
○目玉かへりて鍮石のときは目に人見(ひとみ)を
打たず 図はしんちうの所なれども
絵面にて見ぐるしきが故に人見を打つ 是
至て逆なり 黒人(くろうと)とがむる事なかれ

片板
裏を見る図なり
○丸胴に用ゆる 釣片同じ
中なる穴かしらを差込 前にあるくじらの栓にて是を留る

丸胴
○張り抜きものにして肩口に角
なる穴あり こゝにかた車をさし
こみ肩留めのせんにてとゝめる也
 ●印は衣裳留めの金物なり
○胴内に釣肩をひもにて中(ちう)に
つり用ゆる事肩板に同じ
○腹を切(きれ)にて作り いきづかひの
ことくうごくもあり


●印の紐は腕をくゝりつけるひもなり
△印は足をくゝり付る
□印は鯨にてつくりたる栓にして 頭を是にてとめる 図は少し抜かけたる心なり
○下に図する切胴(これどう)に用ゆる図なり 委しくは人形全体の図にて見るべし

切胴仕立図
●印は腰輪なり 竹にて作り もめんの切をまく也

持ちそへの竹也

肩車
かたくるまい二のうでを付る事 招き手の所にて見るべし

肩車の栓


61(絵図)

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人形全体之図
○切胴人形仕立上げなり 切胴の時は図のごとくなる
手をるける ○胸腹の切(きれ)なる所にあつき紙を角(かく)え
切て三所につける 但し後ろにはひと所なり

○衣裳をつける事常のごとし 衣裳の名目は歌舞伎同様
なれば衣裳方品目の所にて見るべし
狂言によりて人形衣裳を着かへる事あり 是は別に衣裳の
かわりたる胴をこしらへ 首(かしら)ばかり着くかへること人のよく知る所
なれば爰に略す
○衣裳は帯の下にて横に切あけ 爰より手をさし込みて頭をつかふ また
後ろを見する時は脇の明きより手をさし入れる 此時左の手をつかふ人は左右の(手をつかふなり)

○羽二重張(はぶたいはり)羽二重にてはり毛をうゆるかづらなり
伊賀越の狂言にて李冠(きらさぶらう)本田内記に用 
○皇后 山姥 いせの二段(じしう)などにて用るなり また白髪もあり
○天王 時代の宮などのたぐひに用る 一切天王のかづら
○悪王子 時平 もりやのたぐひにて登友(ともへもん)
十丸(てんごろう)など用るなり
○?甲(そうこう)公家大将の役にて用る たとへばいもこの大臣等なり
○冠下(かむりした)人のよく知る所なれば略してしるさず
○此外に 揉揚・袋付・ぼつとせ・矢筈・生〆・伊五・奴・尼・前髪
童子・親父・鎌髭・素戔嗚・竹の節・片笛・織田蔵
坊主・平九郎・雲額・天鵞織帳・悲死皮・累寸

鬘細工人 大長兵衛 小長兵衛  順慶町 此余所々に多し

囃子方 部屋の図臆病口にはやしの図は初編に出す こゝにのするは先にもれたる
    囃子をあつむる ○唐楽からめきたる場にあり ○捕物太鼓 人の
よく知る所なり ○真神楽 道具立鳥井 玉垣といふ所にて曲者宝納の太刀
などをうばい出で エゝ忝ひといふ場にあり ○忍び三重 かたきやくたから物を口に
くわへ樋などをくゞり出るうしろよりくせものといふやうなる場にありて
ものすこき三味せんなり ○江戸すかゞき 吉原すゞめ吉原細見の図など
江戸めきたる狂言にあり ○遠責め 「はかる/\と思ひしにはかられたかヤゝゝゝ


62
口おしやトンチヤンブウトンといふ囃子なり ○在郷歌 四つ目なとにて在所
場にあり ○踊り三味線 人の知る所なり ○なまめきたる その数多し ○管弦
御殿の段にあり ○半鐘 よなかのかねやうのはんせう ○下がり葉 ○雷声 ○
トヒロ ○引流し 「花にをく露小笹のあられ抔といふ哥にて役者衆中出はいりの時うた
ひ其まゝ三味せんばかりにてめりやすとなるゆへに引流しといふ ○琴歌 ○一つ声

渡り囃子 茶屋場にてたいこ持亭主など花道の中ほどまで行き太夫さんがみゆる
は/\といふ時のはやしなり ○所知入り 殿様の御立ち(引)と云と(三味)テンテンテン/\
チンツゝツンツンチリテツトンといふ三味せんにて囃子なり それより殿は本国へ帰るといふ
仕組にて向一入(はなみち)て為十郎(むほんにん)なとあとを見おくりおもいれあつてよろしく幕

立役・女形部屋 くわしきことは前編にて見るべし 操芝居にても立者の部屋はべつに
        屋きりあり 内の自由なる事我内同前なり ○顔のこしらへは町方(まち)の
けはいより少しこくして目尻ほうのあたりは猩園紙にてすこし赤みをさす 又人ご
ろし切腹などのせつに面(かほ)の色をかゆるは口紅粉をさゝず目尻に薄墨あるひはあいを
さし すこし身のこなしをもつて其わざに見する事なり 口紅粉は役がらによりて
大きくちいさく作る すじくまといふは矢の根五郎 さるくまは朝比奈などの作りなり
其数多し 引きまゆは墨の上に油を引くなり かづらの大小をもつて面を大きく小さく
見するなり 鬘のこしらへ顔の作り衣裳の好みにて当り多し 一切こしらへは妙を
得たるゆへあらまし?記す

○奥山○市紅○三朝○璃寛○其答○巴江○花友
○美男○芝翫○雷子○我童
此余の人あまたありといへども略す粋人(つうじん)のさとすべし

木地てさへ見ても吉野ゝ赤(?)かろしぬりてはなをも美しいはた 蕪坊

○東都(えど)芝居之楽屋 三階立にして(浪花中の芝居も三階立なり)其所に立役かたき役上下をたゞし
             まみいる事?(りう)王なり 此處に板の間といふ所あり 中(ちう)
通りあつまる所なり 中二階は女かた斗りにして上の分は部屋を仕切る事大坂の
ごとく下の楽屋を稲荷町と名付く 小詰衆中こゝにあつまる囃子町といふは一切の
はやし方の一むれなり 頭取部屋は一段高ふして諸事にさし図をなす事いづくも
同じ 楽屋口を出でて新道にいたる此地は芝居茶屋ありて賑はしき所なり

○千弥染 いにしへ中村千弥といふ役者あり 此染物を始めて着たりゆへに名と? 其
色紫にしていたつて大のしぼり形なり 時の人是をもつぱら好むといへり

○小太夫鹿の子 元禄のはじめにおこる 江戸役者伊藤小太夫此鹿の子を着たり それより
三ヶ津ともに此染鹿の子をこのむ 今江戸鹿の子といふ たゝしゆひ鹿の子にあらず 当時
路考茶のごとし

○吉弥結び 上村吉弥といふ役者結び始めたり 今に此風残りたり


63
人形役者部屋 上役者二三人は部屋をしきりて其余はみなひとつ處に
       居ならぶ事歌舞伎芝居惣部屋のごとし うしろの人形拵へを
見わたせば義経あり楠あり伊五(あほう)がこれにかたをならべおちよとはゝはいとむつまじく
けいせいには役行者がもたれかゝり非人大人(きにん)の高下なく五百年のむかし男一夜
付けのたおやめもうちまじりていとおもしろし

人形役者吉田を氏とする事 元操芝居は西の宮道薫坊より發(おこり)て
             神道をつかさどるゆへに洛東吉田の
流れをしたひて吉田氏と号する事道薫坊由来に見へたり 此道薫坊由来といふは
淡洲操家の秘書なり

三番叟棚 清らかなる所に棚をこしらへ注連縄引廻し内に翁・千載・三番叟
     をかざるなり 歌舞伎芝居にて顔見せのせつ三番叟の役をば
勤むる人いたつて大せつなり 湯場の風呂に入るとても此人の入らざる内は立もの
たりとも入る事ならず三番叟急用事あるせつは手のさきなりとも風呂に
つけ是より銘々此風呂に入る事なり ○或曰 翁は天照大神宮 千歳は八
幡大菩薩 三番叟は春日明神といへり いたひものは多羅尼に神道の言
葉をまじへたるなり 是仏者の作る所なりと云

○出づかひ 当時の出づかひとかはりいにしへは手すりをはなれ長上下を着し
人形をつかひ又手(た)づまなどせしといふ 是をなす人辰松八郎兵衛にはじまる 思ひ
はかるに近年伊藤弥八がなしたる手づま人形 水からくりのたぐひならんか 是に
ならひて今もなを出づかひをなせり ○おやま人形 此道に妙を得たり

はいにしへ小山次郎三郎といふもの女人形をよくつかひ ま事に生けるが
ごとし ことのはに けいせい遊女をさしておやまと呼ぶゆへに 一切女がたの人形を
おやま/\といゝなせり 中興吉田文三郎は一切の人形をつかふに妙を得たり
わけておやま人形には味はひ深しといふ ○野呂間故事 言の葉に人の
美目(みめ)いやしくあほうらしきをさしてのろまのやうなりといふ 此おこりはむかし
野呂松勘兵衛といふものあたまひらき色青黒く其容はなはだいやしき人形を
つかふ 是を野呂間人形と世の人いゝならはせり 故にならひてかくはいふとぞ

浄瑠理部屋 浄るり太夫三味線引は同じ部屋にしてうしとに棚おをこしらへこゝに
      三味せん箱本箱など置くなり 知らせの拍子木を相図としてかけ
橋を渡り浄るりの床にいたる

浄瑠理稽古本之藍觴 宇治嘉太夫は出生紀州和歌山宇治といふ
          所の人なり 元来謡曲に妙を得たり後浄るり
の道に入りて名人のきこへ高し 貞享の頃芝居を興行す 受領して宇治加
賀掾藤原好澄と号す 大字の正本に謡本のごときふしをくわへ はじめて是
を出だす それより九くだり八行六くだり今大字五行をもつてよしとする 中
興 住太夫 此太夫 浄るり節付の小本を出だす

人形細工場 楽屋の内にて人形のさいくをなし又はそんじたる人形をこゝに
てなをす所なり 一切図にて見るべし

○人形品目


64(絵図)

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劇場六好仙

○浄瑠理
家業に智ありて其余に発明なる人も
此道の好人となりては真に身を忘れ人の
そしりをかへり見ず曲語りに聞人の
膓をより三味線ひきに興をもよふさしむ
されども此芸喜怒哀楽の情深かふして
遠国の心なき人までもよろこばぬはなし
此ふし難波よにおこりて音曲の名を
はつす されは狂歌
 浄るりの節に名たかき難波潟
あしかりなんといふ人もなし

○三味線
はじめ蛇の皮をもつてはりしものなり
三すじの糸をかけて一切の音をはつす
当時この道にこゝろさす人爪に糸道の
切れたると傘をさす上の手にて糸おさゆる
まねを見得とする

○音近(ものまね)
發(はじめの)言葉にアゲマスが終りの言葉に???

とんと昔となり当時の音色
は呼出しの歌によりて当
世はつかうの役者衆の言ばを
つかふに裏表によしあしを
定むといへとも今巴江(はこう)璃寛に妙ある人をしらず

○内町女(こまちめ)
翌日は芝居を見んと宵より髪をかざり深夜に身
仕まひをなして其白粉(おしろい)のこきに心をくるしめ幕明けの
拍子木に食事をいそく化粧道具とかゞみ袋は懐に
入る間をおしみ狂言終りて惣身酔るがととく家にかへりて
三段目と五段目をとりまぜて語る役者のひいき口々にあらそひて
かしましく此女の主たる男は何になるものぞ

○連中
南邊(かうなん)に遊びてもつぱら粋を
つかひ衣裳煙草入れに一心を
なげ打時折々の衣裳に
縫もやうを着してさま/\の芸
づくしをなす事笑ふにたへたりとに
かく古格をとつてよしとする

○青田
初日をかゝさず裾をからげて土場向ふさん
じきに座し菓子すしみかんに身をうつ同じ
狂げん役者の評によしなきことを論ず 略す

(人物の絵に右頁左から)
浄瑠理 三味せん 内町女 ものまね あをた れんぢう

 


65(63の続き)
検非違使(けんひいし)いつれ実方の頭なり
○素戔嗚 素戔嗚尊の面をうつす所なり 面ゆうなる作にして実なる頭なり
○文七 かりかね文七の頭也 すすのをに似たり
○由良之助 是は由良之助斗りに限る也 
○樋口 せいすい記松太夫の頭なり ゆへに名に呼ぶ
○天神 菅原丞相のかしら也 又かんきなども用
○実盛 いつれ時代親父のかしらなり
○鬼一 鬼一法眼のかしら其所官兵衛 師直の類也
○陀羅助 えんの行者に用る いつれ白かたきのかしらにて番頭のるい
○団七 惣名丸目と云 いづれ加藤などの頭なり
○与勘平 あしや道満にて用ゆ 故に名とする 是にかぎらず
○一寸 徳兵衛のかしらなり いづれ此るいに用る所なり
○六部 すみ友のかしらなり 政右衛門などに用ゆる
○釣舟 ○白太夫 ○正宗 
○源太 時代やつしなり 其数多し
役行者 大峯ざくらに用ゆる
日蓮上人 日蓮記に用ゆ これらの頭は役者の好みにて仏師の作れることあり
女形頭 ○娘 ○女房 ○けいせい 
○かさね 図にくわしく出す
○御台
○老女 時代せうによりて実悪の好み多し
○おふく 内百番富士太鼓高こし元の役 妹背山とうふの御用其外いろ/\おもひ入ありて用ゆ

○かしらは狂言をもつて名とせり 其役にかゝわらず役割におうじて用
をたつする 立者の役者衆中新きやうげんの節 新造りの頭をこのみ泰村(やすむら)勘兵衛
などゝ名付るをもつて次の名目とすることなり 女形のかしらはいづれも同じ
やうなれども それ/\にひんのよろしきあしきをもつて其作りかた多し
此外かしらの数多しといへども略すかんがへ知るべし

 ○胴の部
○丸胴 はりものにて背腹ともに見する胴なり 肩をぬぐ時に用る也
○裂胴(きれどう)肩のあたり板なり 腰のあたり竹也 此間腹は木綿の切にてつなぐ
○片羽櫂(かたはがい)前斗り張りものゝ腹を見せ背の方はきれ也
○掛羽櫂 切とうにかける也

 ○手の部
○杜若 親ゆび残り 跡の四本一つにうごく也 
○袴手 まねく手なり 作りじんじやうにして上下の時用
○抓手(つかみて)ゆびさき五本とも人間のごとくはたらきあり
○革鋏(かわつがひ)屏風手とも云ふ 是は女がたの手なり ゆびさきのはたらき革にて作るなり

○頭(かしら)の仕かけ手のはたらき一切図にて見るべし 其所々委細にしるす


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○操人形細工人

 ○笹屋佐助 八まんすじさのや橋ひがしへ入北かわ
 ○冨田屋福蔵 新地黒門南へ入ひがしかわ