仮想空間

趣味の変体仮名

加ゞ見山旧錦絵 第一

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html

      浄瑠璃本データベース  ニ10-01093

 

2

浄瑠理役割

初段 豊竹富太夫 野沢八百八

 

第弐

 口 豊竹峯太夫 野沢富次郎

 中 豊竹紀志太夫 野沢東五郎

ヲク 豊竹新太夫 野沢佐野八

 

第三

 口 豊竹浅太夫 野沢藤吉

 中 豊竹百合太夫 野沢太八

ヲク 豊竹伊勢太夫 野沢市次郎

 

第四

 口 豊竹秀太夫 野沢政五郎

 ヲク 豊竹百合太夫 野沢富八

 

第五

 口 豊竹音太夫 野沢小三太

 ヲク 豊竹住太夫 野沢富八

 

第六

 口 豊竹町太夫 野沢長次郎

 ヲク 豊竹伊勢太夫 野沢富八

 

第七

 口 豊竹真志太夫 野沢太八

 ヲク 豊竹住大夫 野沢八兵衛

 

第八 道行

  豊竹百合太夫 豊竹音太夫 野沢富八 野沢太八

 

第九

 口 豊竹湊太夫 野沢太八

 中 豊竹八重太夫 野沢八兵衛

 ヲク 豊竹時太夫 野沢富八

 

第十

 口 豊竹伊勢太夫 野沢太八

切かけ合 豊竹住大夫 豊竹八重太夫 野沢八兵衛 野沢富八

 

第十一

      豊竹峯太夫 野沢さめ八

 

 局岩藤

  中老尾上 かゞ見山旧錦絵 座元豊竹新太夫

頃は延文夏の空 鎌倉の官領(かんれい)足利持氏

六浦(むつら)金沢山々の 獣狩(けものがり)有べし迚 今日思し立朝霧 召しも

定めぬ玉ぼこのくさ踏わける武者わらぢ出立が君臣

別ちなく皆一やうにあやしの姿 並行跡にせこの者あら

ゆる獣荷連(にないつれ) 兼て構への御休所しばしと腰をかけらるゝ

和田左衛門謹で頭(かしら)を下 今日の狩倉は近頃に覚へぬ

 

 

3

得物 君にも嘸御満悦と 申上れば持氏卿いよ/\御機嫌うる

わしく いざ降りよしと紙崎主膳 御小筒(さゝえ)盃を取あへず捧(さゝぐ)れば

和田左衛門供々に打こんじたる主従が賎しき業を興とする貴人ぞ

いつれ貴人なり 遥向ふの山合より せこに追れし子鹿一疋狩出さる

れば持氏卿 ソレ打留よの御諚の下 紙崎はつつ立上り アレ打留よ源蔵

と あせれどハツト平伏し 猶予なす内一さんに子鹿は遁れ走り行 持氏卿御き

げんそんじイヤコリヤ/\主膳 きやるいか成所存有て我詞を用ず 子鹿を逃せし其子

 

細具(つぶさ)に尋問べしと 御気色あしくの給へば紙崎も不審をなし 末々の御奉

公とは云ながら 君恩に二つはなしヤア/\下郎め 御意を背き子鹿を射ざりし申訳仕れと

席を打て尋ぬればハツト斗に恐れ入て居たりしが やゝ有て顔を上 私事元は猟人(かりうど)

鉄砲達者と御聞に達し御足軽組へ召抱られ 則今日もせこの其中へお

雇に撰れ 只今の子鹿見遁せし御咎 恐ながら一通り申上ん 私義幼少ゟ

殺生を好み候へ共 親たる者申置しは 畜類ながらも生(しやう)有物 親を打は子を助け

子を打ば親を助く 親子共打時は根を断てはを枯(からす)不仁の至りと 亡き親めが常々

 

 

4

戒め 只今迄助け来りし所 今日只今恐多き君命とは申せ共 止(やむ)事を得ず

御諚を背きし身の罪科 遁るゝに所なし御咎は覚悟の上 イサ御政方御行い下さる

べしとわるびれす恐れ入て申にぞ 持氏卿感心まし/\ 下郎には似合ぬ心

てい おくゆかしたのもしし鳥類畜類も恩愛の至情の心は同じ 父が詞の節を守

て命(めい)を背き身の咎を かへりみさる仁義の一言 感(かんずる)に猶余り有 イヤ何紙崎 帰館なさば

源蔵に 早くほうひ得させよ紙崎と 仰にハツト主従がお情 面目余る源蔵が悦び

いはん方もなし 折もこそ有遠見の侍御前に頭を下 京都将軍家の御執事細

 

川殿 伊豆箱根二所権現へ御代参の帰りがけ 君の御遊を聞し召れ 此狩場へ御

入有て 御内談の趣有由 早速に御注進と言上申立帰る 和田左衛門取あへず

細川殿には御一門同然なれど 御遊の装束礼服に改め御対面有べしと 申

上れば持氏卿実尤と諸士引連 イヤナニ源蔵には休息と仰も重くまん幕を

しぼらせてこそ入給ふ 程も有せずこなたゟ 行烈美々敷出来るは 京都の執事

細川頼之(よりゆき)御入なりと道芝に各(おの/\)足を止(とゞ)むれば まん幕の内ゟ持氏卿を初とし 続て

出る和田左衛門紙崎主膳威儀を正して出向へば ゆう/\として細川頼之 狩屋の床

 

 

5

をもふけの座互の礼儀事終り 此度義詮(よしのり)公御代参として 伊豆箱根に幣(ぬさ)を納め

其道々噂を聞に 先達て亡びたる赤松満入が残党辺鄙の在郷に隠住 兼て事を

計ふ由 下々の沙汰大方ならず正敷(まさしく)君は義詮公の御連枝(れんし) 鎌倉の柱石たれば此こと

申上ん為 道をよぎつて此狩場へわざ/\参上致せしと 申上れば持氏卿先達て貴所の

御息女 操(みさほ)姫を我弟縫之介に娶せよと 則養子と定られとくゟ我方へ引取しが

内縁有此持氏 外ならず思し召御内意の深切辱しと述給へば こなたも夫と打くつろぎ

我姫操こと貴君へ差上し事なれば 御心任せたるべけれど 諚意の上は遠からぬ中婚姻の儀

 

式御調給はるべしと 親子の道の慈しみいづれ劣りはなけりけり ヲゝ御尤なる御仰 近々に日柄を

えらみ 弟がコニン調へ申さん御安心下されよと ことを分けたる御詞 頼之も笑を開き

此上は赤松が残党の其逆徒を治め給ふが肝要たり アゝイヤ其義は兼て持氏思

慮を廻らし置し所 斯申和田左衛門紙崎主膳控へ有ば日を待ず切鎮ん御心安かれと

申上れば頼之卿 ヲゝ各の忠勤もこと/\゛く言上申べし イヤサ帰館と立給ふかほりも深

武門の袖 花をくらぶる礼儀の形 大将初め並居る諸士 見送る行烈小松原

緑栄ゆる君が代の 遊の御(み)狩いさましく 八十氏川の 末広き誉ぞ高き〽久かたの