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浄瑠璃本データベース ニ10-02245
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第八 八幡の親里に血筋の引まど
出入るや月弓の 八幡(やはた)山崎南(なん)与兵衛のお祖母(ばゝ) 我子可愛かナなけを
出せさと諷ひしを 思ひ合せば其昔 八幡近在隠れなき郷代官の家筋
も 今は妻のみ生残り 神と仏を友にして秋の半ばの放生会 よみや
祭りと待つ宵とかけ荷(にな)ふたる備へ物 母は神棚しつらへば嫁は小芋を
月代へ 子種頼のよねだんご 月の数程持出る コレ嫁女 月見の芋は
あすの晩けふは待宵 殊に日の内からははやい/\ 是はしたり おまへがあす
の放生会を けづからお備遊ばす故 何にもかも宵日からする事と ヲゝ笑止 コレ
其ヲゝ笑止はやつぱり廓の詞 大坂の新町で都といふた時とは違づ 今では南
与兵衛が女房のおはや 近所の人がきたと たばこ吸付て出しやんなや 今でこそ零(おち)
落(ぶれ)たれ まへは南方十次兵衛といふて 人もうらやむ身体 連合いがお果なさ
れてから与兵衛が放埒 郷代官の役目もあがり内証も仕もつれ こなたの手
前もはつかしい事だらけ去ながら 此所の殿様もおかはりなされ 新代官は皆あがり
古代友の筋目をお尋にて与兵衛も俄のお召 昔にかへるは此時と 雑行なれ
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共神いさめの供物 祭の息が天とやら お上の首尾が聞たいの イヤモそれはお気
遣ひ遊ばすな おまへの其お心が通して 御出世でこざりましよ 早ふ吉左右聞けましたや
と待兼見やる 表の方編笠にて顔かくし 世を忍ぶ見の跡やさき 見廻し立寄る門
の口 嬉しや爰じやとづつと入る 母は見るよりヤア長五郎か 母者人 濡髪様か 都殿是
はしたり 扨は願ひの通り与兵衛殿と夫婦に成てか マア悦んで下さんせ わしを請出した
権九郎は 根が贋銀(にせがね)仕で牢へ入る 殺されたたいこ持は 盗人の上まへ取で追剥に成
て殺し徳 何の気がうなう済tげ居やんす ハテ仕合な事 同じ人を殺しても 運のよい
のと悪いのと ハテ仕合なk遠じやの イヤコレおはや しみ/\とした咄しじやが そなた衆が近
付か アイ曲輪でのお近付 あの与兵衛もか イヤ是はつい一目知る人じやが又長五郎様が
おまへを 母様とおつしやる訳はへ ヲゝふしぎなは道理/\ どふで一度はいはねばならぬ 此長五郎
は 五つの時養子にやつて わしらは此家へ嫁入 与兵衛は先妻の子で わしとはなさぬ中故に
其訳しつてもしらぬ顔あそこや爰の手前を思ひ かつふつ音信(おとづれ)もせなんだ 去年開帳
参りにふと大坂で見付け 年たけてもてゝごの譲りの高頬の黒痣(ほくろ) 若そなたは長右衛門
殿へやつた 長五郎ではないかと 問つとはれつ昔語り 養子の親達も死失せ相談取りに
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成た咄し 帰つて与兵衛に咄そふかと思ふだれど 以前を慕ひ尋てもいたかと 思はれるが
恥しさに隠してはいたが かうしらけてきたからは 戻られたら引合し兄弟の盃 おはずからずに嫁
共に子三人わし程果報な身の上はまたと世界に有まい 悦ぶ親の心根を思ひや
る程長五郎 あすをも知れぬ我命としられぬ母のいたはしやと 思へばせきくる涙を隠し イヤ申
母者人 与兵衛殿がお返り有ふと 拙者が事お咄し御無用 なぜ/\ イヤ相撲取と申者は
人を投たりほつたり喧嘩同前 勝ち負けの遺恨によつて 侍でも町人でも 切て/\切ま
くり ぶち放してマアそんな事私は致しませねど男を達(たて)過ごして 一家一門へなんきのかゝる
事も有物 まあ此商売仕廻迄は おまへ共あかの他人 躮持たと思召て下さるな
何時しれぬ身の上 是がお別れにならふもしれず おはや殿 与兵衛殿へも母の事頼ま
するといふて下され 長崎の相撲に下りますれば ながうお目にかゝりますまい 随分
御息災でお暮らしと 打しほるればヤレそんな商売でいで叶はぬか 長崎へもとつこいもいかず
と此内にいて 与兵衛と供に問談合 其恰朴(かつぽく)では何さした迚 仕兼はせまい ノウおは
や そふでござります共 兄弟といふ事ぬしも聞れましたら悦ばれましよ マアお茶漬で
もナお袋様 イヤ/\ 初めて来た物鱠でもしませう あのからだへは斗房(ごぼう)の太煑(ふとに) 蛸
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の料理が好であろ 気が晴てよい二階座敷 淀川を見て肴にして一つのみや うぢ/\
せずといきやいの どりや拵よとまな板や薄刃の錆は身より出 死出の出立の料理
ぞと思へばいとゞ胸ふさがり 申何にもお構なく共 かけ椀の一盃切 つい給(たべ)て帰りましよ
と 母の手盛を牢扶持と思ひあきらめたばこ盆 さけて二階へしほれ行 人の出世は時
しれず見出しに預り南与兵衛 衣類大小申請 伴ふ武士は何者か 所目なれぬ血気の両
人 家来も其身も立とゞまり 是が貴公の宿所とな イサ御案内お先へと互に
辞儀合い南与兵衛 いそ/\として内へ入 母者人女房 只今帰つた ヤアお帰りか 戻りや
つたかお上の首尾はどふじや/\ お悦びなされ極上々 マア嬉しい 則ち此ごとく衣類大小下し置
れ 名も十次兵衛と親の名に改下され 昔の通り庄屋代官を仰付られ 七ヶ村の支
配 ヤレ/\夫はめでたい事 見れば表にお歴々が見へるがありやどなたぞ あれは西国方のお侍
密々に仰合たる事有て御同道 さして隠す程の事ではなけれど 暫く母人も御遠慮
女房も用事有迄指しひかへよと云渡し 表へ出れば嫁姑 今からは武士付合遠慮が
多いと物馴し 母と嫁とは立別れ奥と口とへ入にけり イサお通りと両人の武士を上座
へ押直し 今日殿の御前にて仰付られし密かの御用 子細は各方に承はれとの義 先づ
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其お尋者の科の様子 お物語と尋れば 年かさ成侍取あへず 拙者は平岡丹平 是成は
三原伝蔵と申て 主人の名はお上には御存知 等春大坂表にて両人の同名共を殺され
方々と詮議致せど 討たる相手行衛知れず 此間(あいだ)承はれば此八幡近在に 由縁(ゆかり)有て立
越たと申 去によつて当役所へお頼申せしに 兄弟の敵随分見付召捕れよ 併夜に入
ては当地不案内 所に馴たる物に申付 縄かけ渡さんと有て貴殿へ仰付られた 子細
と申は斯くの通りと語るを一間に母親が 耳そばだてればこなたには 女房おはやが立聞の
虫がしらすか胸騒ぎ 与兵衛は何の心も付ず然らば敵討同前隠密/\ 若し左様の義も
有ふかと 母女房迄退け御内意を承はる 何と其討れさつしやつた御同名のお名はな 身
が弟は郷左衛門 手前が兄は有右衛門 アノ平岡郷左衛門三原有右衛門 いかにも フムウ御存知から イヤ
承はつた様にも ムウ して其殺したる者は何者 サア其相手は相撲仲間で隠れもなき 濡髪
の長五郎と聞て母親障子をぴつしやり おはやははこぶ茶碗をぐはつたり ハテ不調法なと叱る夫(おっと)
の傍に座し 猶も様子を聞いたる シテ御両所は何国(いづく)を目当 先ず此丹平は当初を家捜しがい
たした 御尤/\ 伝蔵殿には思召寄は何と 手前が存るには 最前其元へお頼申た絵姿を村
々へ賦置(くばりおき) 油断の体に見せどか/\と踏込(ふんごみ) 牛部や 或は二階などを吟味致したい
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それも尤 アゝ大きな體 下家にはおりますまい 兎角二階が心元ない 先御両所は楠葉
橋本邊を御詮議なされ 夜にいらば拙者が受取 譬相撲取でござらふが やはら取
でござらふが 見付次第に縄ぶつてお渡し申さん 其段そつ共 ヤレ其詞を聞て安堵/\ イサ丹
平殿 楠葉邊へ参らふか いか様日の内は随分我々働 夜に入てお頼申が肝心早お暇 然らば
又晩程役所にて御意得ませう 左様/\ともクレイし二人の武士は立帰る おはやは始終物案じ
指うつむいて居たりしが 申与兵衛様 あぢな事を頼まれなされ 長五郎とやらを捕て出そと
の請合は そりやマアおまへほんの気かへ ハテけふとい物の云やう あの侍に由縁もなく 元
より長五郎に意趣もなけれど 今の両人が願ひによつて お上ゟ此の世兵衛に仰付られた其
子細は 関口流の一手も 覚居る事お聞及び有て 役人共に申付る筈なれ共 当所へき
て間もなく不案内 住馴た其方に申付る 日の内はあの方ゟ詮議せん 夜に入て此方
ゟすみ/\゛迄詮議し 何とぞ搦捕て渡せ 国の誉と有てのお頼 一生の外聞 召捕て
手柄の程を見せたらば 母人にも嘸お悦び イヤ/\/\何の夫がお嬉しからふぞ なぜ ハテ昔はとも
あれ きのふけふ迄八幡の町の町人 なま兵法大疵の基と ひよつとお怪家でもなされ
た時は お袋様の悲しみ なんのお悦びでござんせう イヤいらざる女の指し出 わりや手柄の
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さきをおるか ハテ折も一つはおまへの為ヤアこいつが 何で濡髪をかばひ立て 但しは儕が一もんか
何にもせよ御前で請合 見出しにあふた此与兵衛今迄とは違ふ 詞かへさば手は見せぬと
きつぱ廻せば ヤレ夫婦の諍(あらそ)ひ必無用と 母は一間を立出 最前からの様子残らずあれに
て聞ました 何と其濡髪長五郎といふ者 そなたよう見知てか 一度堀江の相撲で見
請け 其後色里にてちよつとの出合 隠れもない大前髪 慥右の高頬に黒痣 見知ぬ
者も有ふと有て 村々へ賦る人相書 コレ御覧なされと懐中ゟ 出して見せたる姿絵を どれと
見る母二階より 覗く長五郎手水鉢御簾に姿が写るとしらず 目早き与兵衛が水鏡
きつと見付て見上るを さときおはやが引窓ぴつしやり 内は真夜(しんや)と成にける こりや何
とする女房 ハテ扨もぼろつくものはや日の暮 灯をともして上ませう ムウはてなあ 面
白い/\ 日が暮たれば此与兵衛が役 忍びおるお尋者 イテ召捕んとすつくと立つ それ まだ
日が高いと引窓ぐはらり 明けていはれぬ女房の心遣ひぞせつなけれ 母は手箱に嗜し
銀(かね)一包取出し 是はコレ御坊へ指上 永代経を読で貰ひ 未来を助からふと思ふ大切な
銀なれ共 手放す心を推量して 何と其絵姿 わしに売てたもらぬか ムウ母者人 廿年
以前に御実子を 大坂へ養子に遣はされたと聞たが 何と其御子息は堅固でござるか
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与兵衛 村々へ渡す其絵姿 どふぞ買たい ハアゝ鳥の粟をひらふ様に溜置れた其銀
仏へ上る布施物(もつ)をついやしても 此絵姿がお買なされたいか 未来はならくへ沈む共 今の
思ひいはかへられぬわいの ヘツエ是非もなやと大小投出し 両腰させば十次兵衛 丸腰なれば
今迄の通りの与兵衛 相かはらず八幡の町人 商人(あきんど)の代物 お望ならば上ませう あの売
て下さるか それてはこなたの ハイヤ日の内は私が役目ではござりませぬ アゝ忝なやといたゞ
く母 袖はかはかぬ涙の海 嫁は見るめを押ぬぐひ イヤ申与兵衛様 あんまり母御様の
お心根がいたはしさに 大事の手柄を支へました 嘸憎いやつ不届者と お叱りも有ふが 産み
の子よりも大切に かはいがつて下さる御恩 せめてはおはにと供々に隠しました 常々から
も万事の品つゝむと思ふて下さんすなと 中に立身のせつなさを云訳涙に時移り
哀数そふ暮の鐘 くまなき月も待宵の光り移れば イヤ夜に入ば村々を詮
義する我役目 河内へ越ゆる抜道は 狐皮を左に取り 右へ渡つて山越に よもや夫
へは行まいと それとしらしてかけ出る情も 厚き藪だゝみ 折から月の雲隠れ忍びて
様子を窺ひいる こたへ兼たる長五郎二階ゟ飛でおり 表をさしてかけ出すを母は抱
とめ コリヤうろたへ者どこへ行 イヤ最前より尋常に縄かゝらふと存たれ共 あまりと
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申せばお志の有がたさ 眼前嘆きを見せませふよりは 此家を離てと こたへにこたへてお
りましたが 与兵衛殿の手前も有 跡ゟぼつ付捕れる覚悟 御赦されてとかけ出すを
取て引すへ ヤイ爰な物しらずめ おれ斗か嫁の志 与兵衛の情迄無にしおるか罰当
りめ なさぬ中の心を疑ひ 絵姿買ふといひかけたは 見逃してたもるか たもらぬか
と 胸の内を聞ふ為 売てくれた其時の嬉しさ おりや後かげ拝だはいやい/\ まだ其
上に河内へ越るぬけ道迄教てくれた大恩を 何と報じやうと思ひおるぞ コリヤヤイ死る斗
が男ではないぞよ 七十ちかい親持て喧嘩口論 人を殺すといふやうな不孝な
子が世に有ふが 来ると其儘かけ腕に 一膳盛と望んだは おのりや牢へ入覚悟じや
な それがどふ見て居られぞせめて親への孝行に遁れるたけは遁れてくれ 生きられ
るだけは生きてたも 何の因果で科人に 成た事じやどうど伏前後ふかくに泣さけぶ
おはやも供にせきのぼず涙おさへて 申/\ 泣てござる所じやないぞへ 夜が明れば放生
会で人立が多い 今宵の内に落す思案 どふぞ姿をかへる仕様は有まいかな ヲゝそれ
も心付て置ました まあ目に立此大前髪 剃落しましよドレ剃刀 イヤ申母人 姿を
かへて縄かゝらば よく/\命が惜さにといはれるも無念な 侍を殺した場で すぐに相果ふ
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と存ましたが 死れぬ義理にて生ながらへ 一日/\と親の事が身にしみ ま一度お顔が拝
たさに お暇乞に参つて 返つて思ひをかけまする やはり此儘で与兵衛殿へ お渡しなされて
下さりませ スリヤどふいふても縄かゝる気じやな 覚悟致しておりまする よい勝手にし
おれ われより先にと剃刀をアゝ 誤りました/\ サアそんなら剃て落ちてくれと 母が手づ
からあはあせ砥(と)にかゝる思ひが有ふとは 神ならぬ身の しらがの此身 剃るべき髪は剃もせで
祝ふて落す前髪を 涙でも??(んで 剃落 イ14-00002-708参照)す 老の拳の定らず わな/\震て刃先
がきつくり ア申二所迄お顔に疵が ハアひよんな事しました 幸血とめと硯の墨 べつ
たり付けて顔打ながめ 大かた是で人相がかはつたか 肝心の見しりは高頬の黒痣 剃落
さんと剃刀を当て事は当てながら 是こしゃてゝごの譲り 筐と思へば嫁女 わしはどうも
剃にくい こなた頼む剃落して下され さたしじや迚むごたらしう それがとふそらるゝ物
お赦しなされて下さりませ アゝ思へば/\ 親の筐迄剃落す様に成たか エゝ心からとはいひ
ながら かはいの者やと取付てわつと斗に泣沈む 折もこそあれ門口ゟ 濡髪取たと打
付ける かねの手裏剣高頬にぴつしやりぱつと身構へ母は楯 おはやはともしび立覆ひ 今
のは慥連合の声 長五郎さん 顔の黒痣がつぶれたぞへ ヒヤアほんに真(まこと)に 是も情と母
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親は 表を拝居たりしが 兼て覚悟の長五郎 思ひもふけてとつかと座し サア母者人 おまへの
お手で縄をかけ 与兵衛殿へお渡しなされて下さりませ コレ長五郎様 おまへは気がのぼつた
か とつたと顔へ打付て黒痣を消た連合いの心 又コレ此打付た銀の包に 路銀と
と書た一筆 そこにお心付かぬかへ イヤ其書付も 黒痣を消た心も 骨にこたへ肝
に通り あんまり過分忝なさに 母の嘆きも御異見も 不孝の罪も思はれず 畸人(かたは)な
子が可愛と義理も法も弁へなく 助たい/\と母人の御慈悲心 暫くはお心休め
と詞に随ひ 元服迄致したれ共 一人ならず二人ならず 四人迄殺した科人 助かる筋は
ござりませぬ なまなかな者の手にかゝらふより 筐と思ひ母者人 泣ず共縄をかけ
与兵衛殿へ手渡しして ようお礼をおつしやれや ヤヤ コレこれ そふなうてはこなた 未来の
十次兵衛殿へ立ますまいがの ヲゝ誤つた長五郎 よういふてくれたな いか様思へばわしは
大きな義理しらず 真(まこと)をいはゞ我子を捨ても継子に手柄さするが人間 畜生の
皮かぶり 猫が子をくはへあるく様に 隠しとげふとしたは何事 迚も遁れぬ天の網 一世の
縁のしばり縄 おはや其ほそ引でも取て下され イヤそれでは連合いの心を無にな
さるゝと申物 唐天竺へござるても 此世にさへござればどふして成共又あはれる 何かはなしに
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落しまして下さんせ イヤのふ一旦かばふたは恩愛 今又縄かけ渡すのはなさぬ中の
義理 昼はかばひ夜は縄かけ 昼夜とわける継子本の子 慈悲も立義理も立
くさばのかげの親々への言訳 覚悟はよいか待兼ておりますると おはやを取て突退け
/\ 手を廻すれば母親は 幸有あふ窓の縄追取て小手縛り 突放せば引縄
に 窓はふさがれ心も闇 くらき思ひの声はり上 濡髪長五郎を召捕たぞ 十次兵衛
は居やらぬか 請取て手柄にめされと 呼声に与兵衛はかけ入 お手がら/\ 左様なうてはかな
はぬ所 とても遁れぬ科人 請取て御前へひく 女房共もふ何時 されば夜半(よなか)
になりましよか たわけ者めが 七つ半を最前聞た 時刻がのいbると役目が
あがる 縄さきしれぬ窓の引縄 三尺残して切が古例 目ぶんりやうに
是からとすらりとぬいて縛り縄 ずつかり切ばぐはら/\/\ さしこむ月に南無
三宝夜が明けた 身共が約は夜の内ばかり 明ればすなはち放生会 生けるを
はなす所の法 恩にきず共勝手においきやれ はつと悦ぶ嫁しうとめ
あはす両手の数よりも 九つの鐘六つ聞て 残る三つは母への進上 拙者命
も御時分へ それもいはずとさらば/\ さらば/\の暇乞別れてこそは〽落て行