出世景清 第四

 

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             イ14-00002-383  ニ10-02172 など    


21(左頁)
   第四
けにやまうしやうゆうもうんつきぬれば力なし ふびんやなか 
げきよかまくらよりのひやうぢやうにて 六はらのみなみおもてには
じめてろうを立させらる いちいしらかしくすの木とがの木 長さ
一丈にとらせ地へは七尺ほり入うへ三尺のつめろうに しとの木をもつて
くりでけうしにきりくんで 一尺二寸の大くぎのうらをかへさずうつたればつ
るぎをたへたるごとく也 七尺ゆたかのかげきよをふたへにとつてをし入がみ
を七はにたばねて七方にこそつつたりけれ あしをろうより引出し
ゆんでめてへ取ちがへ 山だし七十五人してひいたるくすの木にこそあげ
ほたしをうたせ しつりやうつめがね とう/\くるゝちびきの石ざいもく


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をつみかさね くびにはねほりの大づゝを三本迄かづかせたり 諸人に
みせてはぢかゝせよと ばんもけいごもつけざれどもなか/\五たいはた
らかず されば文王はゆうりにとらはれ公治長はけいりくにかられ
り 君がためのためなんそかつてうれへんこと くはんおんぎやうのど
くじゆの外 世玄(?)くちをとぢたればしやうもんみゝにとざせり は
たらくものは両がんのみ見るめもかなしくあはれ也 いたはしやをのゝ姫
ふしぎの命たすかり ろうやちかきにやどを取 さけくだものをとゝ
のへて ろうやのかうしに立よりいたはり給ふぞあはれなり やう/\とし
てかけきよこゝちよげにさけをのみ けふは一しほこつすいにとほつて
候 誠に御身の心ざしいつのよにかはわするべき扨かりそめながら某は

天下のてうてきさだめてさいこもとをからじ 今かけきよがいきたるが
ほをかたみにてとう/\御身はをはりへ下りごせをとふてたび給へ是
て付てもあこやめがしんていのうらめしさよ 二人の子共も今は
はやころしてやすれつらん 思へば/\かげきよがうんのつきこそ口
おしけれど yらみかこちてなき給ふ姫もなみだをながし御仰はさる
ことなれども とてもみづからは御さいごのせんとを見とゝけ とにもかく
にもなり参らせん 一日も一時も御命のあらんうちは わうしやうの
御いとなみを心にかけて何事も さだまることゝ思召人をなうらみ給ひ
そよいつまでも是に在たく候へども 人めしげう候へばあす又参り
申さんとなく/\帰り「給ひける 是は扨置あこやのまへいや石いや若


23
もろ共に 山ざき山のたにかげにふかくかくれておはせしが かげきよろう
しやと聞よりも我身も有にあらればこそ 六はらにはしえいつき
此ていをひとめ見て なふあさましの御ふぜいや やれあれこそちゝよ
我つまと ろうのかうしにすかりつきなくより ほかのことぞなき かげき
よ大のまなこにかどを立やれものしらずめ にんけんらしくことばを
かくるもむやくながらかほとのをんあいをふりすてをつとのそにんをし
ながら なんのなまづらさげて今此所へ来りしぞをのれゆひ一つかな
ひなば つかみひしいですてんものをとはがみをしてぞいられける けに(京?)
根(恨?)はことはりなれども わらはがことをも聞給へ あににて候十蔵そにんせんと
申せしを さいさんとゞめて候所に 大ぐじの娘をのゝ姫とやらんより した

しき御ふみ参りしゆへ女心のあさましさしつとのうらみに取みだれあ
とさきのふまへもなくだうぎのはら立やるかたなく ともかくもと申
つるこうくはいさきにたゝばこそ さは去なからしつとはとのごのいとしさ
ゆへ 女のならひたが身のうへにも候ぞや 申わけいたす程皆kひお
ちにて候へ共 今迄のよしみにはみにはだうり一つをきゝわけて たゞ何事も
御めん有こんしやうにて今一ど ことばをかけてたび給はゝそれを
力にじがひして 我身のいひわけ立申さんと地にひれふして
ぞなきいたり むざんやないや石父がすがたをつく/\゛見て なふちゝ
うへ程のかうのものがなぜやみ/\とはとられ給ふぞ いでをしやぶ
つてたすけ奉らんと はしらに手をかけえいや/\とをせども


24
引どもゆるがばこそふびんなりけるしよぞん也 をとゝのいや若
はほだしのあしにいだきつき いたいかやちゝうへ殿 なふいたむかと
なであげ なてさけさすりあげ 兄弟わつとさけびければ 思ひ
きつたるかげきよもふかくのなみだせきあへず やゝあつてなみだを
をさへやれ子共よ 父がかやうに成たるはな 皆あのはゝめかあく
しんにてなはをもはゝがかけさせ ろうにもはゝが入けるぞ しや
けんの女がたいないより出たるものと思へば汝ら迄がにくいぞえ
父共思ふな子共思はじ はや/\帰れとしかるにぞ 子共ははゝにす
がり付なふ父をかへじや父うへかへせと ねだれなげきし有様はめもあてら
れぬしだいなり あこやはあまりたへかねて よし此うへはみづからはとも

かくもがはいやな兄弟にやさしきことばをたゞ一こと さりとては
かけてたべなふ 子はかはゆうは覚さぬかと又せきあげてぞなげか
るゝ かげきよ重ねて おことがやう成悪人にへんたうもせじとは思へ
どもな 今のくやみをなどさいぜんには思はざりしぞ されば天ちく
にしゝといふけだもの有 身はちくしやうにて有ながらちえ人間
にこへたれば かりうどにもとられずかへつて人をとりくらふ され共
ふくちうにとゞくといふむし有て此むしどくをはくゆへにたいを
やぶつてじめつす也 されば女のしつとのあだ 人をうらむと思へ共夫
婦はおなじたいなれば 皆是我身をせむることはり わごぜがやう
成がまんぐちのさるぢえを しゝしんぢうのむしにたとへて仏もいましめ


25
給ふぞや 汝めが心一つにてほんまうとげずあまつさへ ちじよくのうへの
ちじよくをとり 今いひわけしてさいしかなげきをふびんよとて 日本
一のかげきよが二たび心をかへすべきか 何程いふても汝がはらより出た
る子なればかげきよが敵也 つま共子共思はぬと思ひきつてぞいたり
ける 扨はいか程に申ても御せういん有まじきか ヲゝくどい/\見ぐるしきに
はや/\帰れ思ひ切たぞ なふもはやながらへて何方へかへらふぞ やれ
子共に母があやまりたればこそかくわびこといたせ共 つれなきちゝご
之詞を聞いたか おやゝをつとにかたきと思はれおぬしらとてもいき
がひなし 此うへはてゝおやもつたと思ふな母斗か子成ぞや みづからもな
からへてひたうのうき名ながさんことみらいをかけてなさけなや いざもろ

共に四年の山にていひわけせよいかにかけきよ殿 わらはがしん
てい是迄也と いや若を引よせまもり刀をすはとぬき なむあみだ仏
とさしとほせはいや若おとろきこえを立いや/\われははゝさまの子
ではなし ちゝうへたすけ給へやと ろうのこうしへかほをさし入/\にげあるく
エゝひけうなりと引よすればわつといふて手を合せ ゆるしてたべこらえて
たべ あすからはおとなしうさかやきもそり申さんやいとをもすへませう
さてもしやけんのはゝうへさまやたすけてたべちゝうへ様といきをはかり
になきわめく ヲゝことはりよさりなから ころす母はころさいでたすくるちゝごのこ
ろさるゝぞ あれ見よ兄もおとなしうしたればおことやはゝもしなてはちゝ
へのいひわけなし いとしいものよやいきけと すゝめたまへばきゝいつてあ


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それならばしにませふ ちゝうへさらばといひすてゝ 兄がしがいいよりかゝ
りうちあをのきしかほを見ていづくに刀をたつべきぞと あこやはめ
もくれ手もなへてまろび ふしてなげきしが エゝいまはかなふましかなら
ずせんぜのやくそくとおもひ母ばしうらむるな おつつけゆくぞなむあ
みだと心もとをさしつほし さあ今うらみをはらし給へむかへ給へ御ほとけ
とかたなをのどにをしあて兄弟かしがいのうへにかつはとふし とも
にむなしくなり給ふさてもせひなきふせいなり かけきよは身を
もだへなけどさけべとかひそなき かみやほとけはなき世かのさりとて
はゆるしてくれよ やれ兄弟よわかつまよとおにをあざむくかげき
よも こえをあげてぞなきいたり ものゝあわれのがきりなり

かくとはしらでいばの十蔵 かぢはらが取なしにて せう/\くんかうにあつ
かり若たう小ものあまたつれ ゆさんより帰りしが此ていを見て
きもをつぶし 是は扨しなしたり/\ ふびんのことを見るものかな是
さふらひ共 我此ことく御をんしやうをうけえいようえいくはにさか
ゆるもさやつらを世にあらせんた、え 此頃方々尋しかどもゆき
がたのなかりしが 扨は何ものぞへんしうをおこしがいせしか たゞしは大
ぐじがはからひと覚えたり よし何にもせよなをかけきよにいひ
ぶん有 先々しかいを取をけとかたはらにはうふらせ ろうやにむか
つて立はたかり是さいもうとむこ殿 いつかにうらみあればとて げん
さいのつまこをもくせんにころさせ うでかなはずはなどいきほねて


27
もたてさるぞ ない/\は某ごへんが命を申うけ 出家せさせんと
思ひしがもはやほつてもならぬ/\ さふらひぢくしやう大だはけと
いかつはいて申ける かげきよくつ/\とふき出しこりやうろたへものあ
のもの共はをのれがとんよくしんをかなしみ じがいしたるかしらざるか
それさへ有にうぬめが口からさふらひぢくしやうとはたが事ぞ 命
をおしむ程ならばかゝる大事をたくむべきか まつたいけふと思ふほど
ならべる/\はしらの五十や百 此かげきよが物のかずと思はふか しん
ぢうにくはんおんぎゃうどくしゆするうれしさに なぐさみ半分にろう
しやして有ものをくはんたい過たるたはことをつき 二言とはかばつかみひ
しいですてんずとはつたとにらんで申さるれば 十蔵かんら/\とわらひ

其いましめにあひながら某をつかまんとは うでなしのふりずんばいかた
はらいたしことおかし 幸此頃けんびきいたきにちつとつかんでもらひ
たしとそらうそふいてそいたりけり かげきよはらにすへかねいで物
見せんといひもあへず なむ千手せんげん生々世々 一もんみやうがう
めつぢうざい大じ大ひくはんおんりきと こんがうりきを出しえいやつと
身ぶるひすれば 大くぎ大なははら/\ずんどきれてのいた くはんぬき取
てをしゆがめとびらをかつはとふみたをし大手をひろげてをどり出
八はうにおひまはすはあれたるやしやの「ごとく也 むらがりかる わか
たうちうげんはらり/\とけたをし 十蔵をかいつかみ取てをつふせ せぼねも
おれよとどうどまへ 何とかげきよをそにんして御ほうびにあづかりえい


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ぐはといふは此事かと 二つ三つふみ付れば なふかなしやほねもくだけて
いきもたへ入候 御じひに命をたすけ下されとこえをあげなげきける か
げきよ手をたゝき打わらひ ヲゝ某がほうびにひろい国をとらせんと
両足取てさかさまに引あげ かたをふまへてえいやつとさきければ どう
中よりまふたつにさつとさけてぞのきにける エゝ心ちよしきみよしと弓
手めてへからりとすて さあしすましたる此うへはくはんとうへいやおちゆかん いや
西国へやたちのかんと ゆきつもどりつ もどりつゆきつ一町斗 はしりか い
や/\此度おちうせなば又大ぐじやをのゝ姫うきめをみんはひつぢやうと
思ひさだめて立かへりもとのろうやにはしり入 内よりくはんぬきしとゝ
しめ ちすぢのなはを身にまとひさあらぬていにてふもんほん とく

じゆのこえはをのつから そくしんほさつのへんげならんと皆きいの 思ひをなしにける